パラオと日本

1-171 パラオと日本
人生は出会いから創られる。
もし心と心の琴線が触れ合えば、国をも変えることができるかもしれない。

その日は暑かった。

「たかが原住民の分際で生意気な口をきくな。思い上がるのもいい加減にしろ!!」するどい怒声がその建物から聞こえてきた。
熱い日差しが漏れる林の中に建てられているその日本軍の施設の周りにいた兵士たちは聞き耳を立てた。

「我々は誇り高き帝国軍人だ。貴様ら土人と一緒に戦えるか!!」と怒鳴りつけた。

まるで古武士の一喝のようでもあり、真剣そのものだった。
怒鳴りつけられた現地の住民たちは、中川陸軍大佐を睨み返した。
暗い空気が流れた。
しばらくしてパラオ、ベルルュー島の原住民たちは悔し涙を浮かべて去って行った。
中川大佐は見送らなかった。
パラオは日本から3000㎞ほと離れ、フィリピンにほど近くの小さな島である。
1885年にスペインの植民地になってしまった。
スペイン領東インド(Indias Orientales Espanolas)の一部になったが、パラオの原住民の多くが搾取されたり、反抗すれば殺された。
なんとパラオの90%ほどの人口減少になったというから、異常な殺人が日常的に行われたのではないかと推測される。
1899年にはドイツ帝国に売却されたが、その後もパラオの富は搾取され続け、社会的インフラはほとんど進まなかった。

1919年の第一次世界大戦の戦後処理をするパリ講和会議によって、パラオはドイツに代わって日本の委任統治領になった。

ところが日本人は、スペイン人やドイツ人と違って、現地の電気、水道、学校、病院、道路など社会的基盤の整備など生活に必要なシステムを作り上げていく。
日本人の特徴である極力、差別のない接し方をして、原住民と共に汗を流して街づくりや教育をしていったのである。

原住民は、スペイン人やドイツ人のような搾取が再び始まるかと思って警戒していたのだが、日本人は原住民に対して優しく接して一緒に働こうとしてくるので驚きだっだ。

日本兵と原住民は酒を飲みかわしたり一緒に歌も歌うようになった。
「さらばラバウルよ、また来る日まで、しばし別れの涙がにじむ。恋し懐かしあの島見ればヤシの木陰に十字星、、、、」

しかし、、、。

1941年12月8日、大東亜戦争(太平洋戦争)が勃発。
1943年6月当時のパラオには日本軍人を除く居住者25026人、朝鮮人2460人、パラオ先住民6474人、他にスペイン人、ドイツ人宣教師18人がいた。
このように当時のパラオには日本人や朝鮮人や現地人たちが共に仲良く生活していたのである。

ところが、大東亜戦争の戦況はパラオにも近づいてきた。
その情報を知ったペルルュー島住民は集会を開き、全員賛成の意を決め、日本軍に申し入れをすることになった。

日本軍の中川州男大佐に対して「アメリカ軍が上陸してきたら、われわれも日本兵と一緒に戦いたい。みんなで決めたことです」と申し入れをしてきたのだった。
それを聞いた中川大佐はしばらく沈黙していた。
そして突然、その申し入れをしてきたペルルュー島の原住民たちに向かって怒鳴り始めたのである。

「我々は誇り高き帝国軍人だ。貴様ら土人と一緒に戦えるか!!」

その中川大佐の怒鳴り声を聞いた原住民たちは

{ 日本人はわれわれと共に汗を流して働き、平等で優しく接してくれていた。しかしあれは嘘だったのだ。本当は侮蔑の心を隠していたのだ } と悟ったのである。

日本兵を仲間と思っていた原住民たちは悔しくて悔しくて、涙を流した。
そしてすべてのペルルュー島の原住民はパラオ本島に移ることになった。
その数日後、熱い日差しの中、日本兵に裏切られた思いの原住民はパラオ本島に向かう船に乗った。
船はペルルュー島の岸を離れていく。
しばらくすると何か波のまにまに聞こえてくる。
見えてくるものがあった。
船の中は、ざわめきが生じていた。
ペルルュー島の白い岸辺に大勢の日本兵が走りながら、遠ざかっている船に向かって手を振っているのが見えた。

日本兵が大声を出して原住民に向かって

「達者でな、さようなら、、、さようなら、、」と言っている。
中川大佐もその中に見えた。
日本兵たちはみんな、船に向かって、ちぎれんばかりに手を振っている。
そして日本兵は涙を流しながら大声で歌を唄い出した。
「さらばラバウルよ、また来る日まで、しばし別れの涙がにじむ。恋し懐かしあの島見ればヤシの木陰に十字星、、、、」

しだいに遠ざかっていく互いが互いをじっと見つめていた。
ペルルュー島に降り注ぐ太陽の日差しは熱かった。

{ あぁ、、、あのときの中川大佐の一喝はこのことだったのだ。我々を戦局から逃がすためだったのだ }

ペルルュー島の原住民は悟った。

あのとき怒鳴った中川大佐やまわりの兵隊さんたちは、我々の申し出に感動し心の中でうれし涙を流していたのだ。

しかし私たちを戦争に巻き込まないために、私たちの怒りをかうように仕向けたのだった。まわりの兵隊さんたちも、そ知らぬ顔をしていた、、、 }

その日、船に乗っている原住民たちと日本兵の心はつながっていた。

互いは見えなくなるまで別れを惜しんだのだった。
1944年9月15日、ペルルュー島をめぐって日米の戦闘が始まった。
大量の兵器を持ち十分な兵力のアメリカ軍は2〜3日もすればペルルュー島の日本軍を陥落できると考えていた。

ところが予想と違うことになる。
アメリカ軍が島の上陸前に森を焼け野原にして十分な爆撃をしたあと、岸辺に上陸するや否や日本兵との戦いが始まった。

日本兵は地下壕を使いゲリラ戦を繰り返し攻撃してきた。
日本兵はおよそ10500人。圧倒的な火力兵器力を持つアメリカ軍はおおよそ48740人。
ビーチは後にオレンジビーチといわれるほど互いの血で染まった。
一週間持たないと思われていたペルルュー島の闘いは数カ月続いたのである。
しかし、とうとう日本軍の玉砕の日が決まった。
中川陸軍中将は割腹自決。
11月27日に日本軍は玉砕を遂行し陥落した。
10500人いた日本軍の生き残りは34人だった。
アメリカ軍の死亡者は約3000人、負傷者は約7000人ほどだった。
ペルルュー島に上陸したアメリカ兵はアメリカ軍人の死体のみを片づけた。
島に戻って来た原住民は、異臭を放っている日本兵の死体を片づけてくれた。
そればかりでなく墓も建ててくれたのである。
今もパラオの人たちの手厚い管理のもとに日本軍人たちの墓は保たれている。
アメリカはパラオを支配することになり宣伝と教育が始まった。

それまでの日本の統治がどれほどのひどい統治の仕方だったかを原住民に伝えようとしたが、無駄だった。

それどころかパラオは国を変えていく。

独立の機運が高まったのである。
1981年ようやくパラオはアメリカから独立を果たし「パラオ共和国」になった。
生きること、死ぬことを互いの肌で同じように感じていた日本人とパラオ人。

互いが命をかけて互いを助けようとした。
あのとき、互いの心と心の火花は絆となった。
その心の絆は切れることは、、ない。

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日本人

1-170 日本人

その日、優子は娘のうむいを連れて近くのコンビニエンスで買い物をしていた。
「どうしたの、うむいの大好きなあのお菓子はいらないの?」
うむいはもじもじしている。
いつもは真っ先に大好きなお菓子を買うはずなのに迷っている様子。
優子がいくら誘っても「うぅぅん、、今日はいい」とうむいは答える。
優子はレジに並んだ。
優子は買い物かごに入った品物の代金を支払った。
「さあ、帰ろう」
「ちょっと待ってお母さん、、、」
「どうしたの?」
「あのお菓子のお金を頂戴」とちっちゃな右手を差し出す。
「まぁ、うむい、、、やっぱりほしくなったのね。それなら、あそこの棚からお菓子を持ってきなさい。並びなおして払うから」

優子の後ろに並んでいた人を促して、再びレジの最後尾に並びなおした。
「違う、あのお菓子の分のお金を頂戴」
「えっ、、、なんで?」
すると、うむいはレジ横の箱を指さした。
そこには「東日本大震災募金」と書いてある。
「あぁ、そうか、、うむいは募金をしたかったのね」
「、、、、、、」
「わかった」
優子は財布からお金を取り出した。
「そしたら、うむいと私の分のお金を一緒に募金しようね」
「おかあさん、、、ありがとう」
優子は二人分のお金を募金箱に入れた。
レジで働いている若い男の子が、優子とうむいのそんな様子をじっと見つめていて、ひときわ大きな声で「ありがとうございます」と言って頭を下げた。
優子とうむいは手をつないで、コンビニエンスストアを後にした。
{ 着実にうむいは育っている }と優子は思った。
「お母さん、私ね、テレビで見たの」
「この間の東日本大震災の様子ね」
「うぅん、、、それもそうだけど、」
「他に何か見たの?」
「うん、私より、もっとお姉さんくらいの女の子のことが忘れられないの」
「えっ、、、どんな女の子?」
「丘の上から、ありったけの大きな声で海の方に向かって叫んでいたの」
「、、、ん、、叫んでいた?」
「おかぁさん、、おかあさん、、おかあさん、、何度も何度も、、、、、、灰色の海の方に向かって叫んでいたの、、、、、」

うむいの小っちゃな手が、母の手を握りしめた。
「、、、、、、」
2011年3月11日、日本の東北地方太平洋沖地震は国内観測史上最大のマグニチュード9.0の巨大さだった。
北は北海道から関東までの沿岸を津波が襲い、甚大な被害をもたらしていた。
毎日のようにぞくぞくと現地情報が寄せられる。
自衛隊、消防、警察、ボランティアなど日本国民はこぞって動き出していた。
世界の国々からは、援助隊やたくさんの援助物が届いていた。
助ける方も助けられるほうも本来の人間の心が現れる。
現地で行列に並んでいた幼い子供が援助物資を多く貰うことを遠慮して「私はこれで十分です。他の困っている人にあげてください」と申し出ている。
佐藤充さんは、雇っていた中国人を車いっぱいに乗せていち早く高台に逃れることができた。
しかしすぐに家族のことを心配して、一人、車に乗って町の方に戻って行った。
そして佐藤さんは帰ってこなかった。

うみちゃんという子は手紙を書いた。

「じえいたいさんへ。げん気ですか。つなみのせいで、大川小学校のわたしのおともだちがみんなしんでしまいました。でもじえいたいさんが、がんばってくれているので、わたしもがんばります。日本をたすけてください。いつもおうえんしています。

じえいたいさんありがとう。」

優子はふと思い出していた。
それは1945年8月15日、大東亜戦争の日本の敗戦日。

そして、その約3年後である1948年9月9日、午前5時45分、インドネシア、チモール島クーパンにてある男たちが死んでいった。
その中の一人の名は前田利貴。
加賀藩始祖である前田利家の末裔で、華族の長男だった。
学習院から法政大学に入り、学生時代には世界一周するなど裕福な家庭に育った。
馬術が得意で学生時代には大会で何度か優勝もし、オリンピック出場予定候補でもあった。卒業後は三井物産に勤務していた。
その前田が、仲間と後世の日本人にメッセージを残している。
「親愛なる皆様、先ほどは御親切な御激励の辞をいただき熱く感謝いたします。
今まで遺書の清書をしておりましたので御返事が遅れて申し訳ありません。
大変面倒見ていただいた同胞も金内さんも引き揚げられ、我々は兄弟以上の間柄でした。
一本の煙草も分けて喫い、助け合い激励し合ってきましたが、いよいよ私達二人先発することになり、今まで御厚情に対して深く感謝致します。

、、中略、、、
もし四人の中に一人でも無事ならば私たちの最後の状況をいつの日にか同胞に知らせていただきたい。
私の最後の申し出として、
●目隠しをせぬこと
●手を縛らぬこと
●国家奉唱、陛下の万歳三唱
●古武士の髪に香をたき込んだのに習い香水一びん
これは屍体を処理する者に対する私個人の心遣いであります。
●遺書遺品送付
当日私の決心は、自動車から降りたら裁判長並びに立会者に微笑とともに挙手の礼をし、最後の遺留品として眼鏡を渡し、それから日本の方に向かって脱帽最敬礼、国家奉唱、両陛下万歳三唱、合掌しつつ海ゆかばの上の句をとなえつつ下の句を奉唱し、この世をば銃声と共に、はいさよならという順序に行くつもりで、私のような凡人に死の直前に歌が唄えるかどうか、これが最後の難問題だと思います。
皆様に対し遺留品として、糸、針、古新聞、本(マレー語) アテコスリ(マッチ) その他手拭、歯ブラシ、衣類なんでも申し出に応じます。前田」
この本「南海の死刑囚独房」は、山口亘利氏が著した。
山口氏は愛知県豊川市出身、憲兵隊少尉候補二十一期生、憲兵大尉としてオランダ領スンバワ島にて終戦、1948年死刑求刑。1956年恩赦、帰国後、巣鴨拘置所の獄中にてこの本を出版した。

「南海の孤島蘭印チモール島クーパンに死刑囚として六人が残された。
誰か一人でも助かって、死刑囚の悲痛な最後を祖国の同胞に知らせてほしいとは、明日に銃殺を控えた死刑囚の血の叫びであった。幸い私が奇跡的に減刑の恩典に欲して祖国に帰った。
この手記は、戦犯死刑囚の諦めきれない死の呪いをありのままに概要を記したものである。なお、クーパンにおいて悲痛な最後を遂げられた方々は、次の通りである。
前田利貴、穴井秀夫、楠元信夫、西條文幸、笠間高雄。
最後に本書の出版にあたって、多大な厚意と御努力下された巣鴨同人矢島七三郎氏、および飛鳥書店時女郁男氏のご好意を感謝いたします。」
オランダの復讐裁判によるいわれなき罪により、獄につながれていたのでした。

収容所は珊瑚礁の上にありました。
「お前たちの墓場を掘れ」と云われて大きなつるはしで作業をさせられたが、太陽に照らされてフラフラになり、倒れそうになるといきなりボクシングと同じように殴打される。
失神するとテントまで引きずっていって水をかけ、気がつくとまた掘らされた。
一日に失神すること三回。

珊瑚礁の上を引きずられた時の背中の傷が痛み夜は眠ることが出来なかった。
大きい岩を意味もなく動かすように命じ、運んでいると蹴ったり足をかけたりして倒す。

一週間もすると皆、殴打の為に顔は膨れ身体は浮腫んで来た。

取調べを受けた者が部屋から出てきた時には死体になっていたこともあった。
身体には多数の皮下出血があり、明らかに虐待致死だったが、その取調官が裁かれることは無く、虐殺されている側の日本人捕虜たちは、身に覚えの無い「捕虜虐待」の容疑をかけられ次々と処刑されていった。

陸軍大尉前田利貴も全く身に覚えの無い「現地人拷問致死」の容疑で死刑判決を受けた。

裁判では、現地住民の多くが、前田に有利な証言をしているのにかかわらずである。
「刑務官は自動小銃を構え、もし若干でも抵抗の様子を見せたら射殺せんと眼を光らせている。
死刑は目前に迫っており、たとい銃口をつきつけられても少しもおそろしい気持ちは起きなかったが、もしこうしたところで射殺されたならば、逃亡しようしたから、射殺したと報告するのは明らかで、いまさら命を惜しんでの卑怯な逃亡の汚名をかぶせられることは自尊心が許さない。彼らのいうままに動くほか仕方がなかった。
これ以上の虐待は生きんが為と思ってじっと耐えてきたが、このように死刑囚として精神的にあえいでいる者を面白半分に虐待し凌虐する卑怯さに、いっそ兵器を奪って復讐をと幾度となく思い立った。
しかしそうした自分の行動が穴井西條両君をも虐死させることになるだけでなく、キャンプの日本人が復讐を受けることは必定で、血で血を洗う修羅場を引き起こす事になると思うと「今しばらくだから耐え忍ぼう」と逆流する血を抑えて眠られぬ夜々をすごした」
山口氏の著書には前田大尉は、一緒に処刑される穴井秀夫兵長に対しても細かい注意を与えていたことも記されている。
「穴井君、左のポケットの上に白布でマルク縫い付けましたか」
「はい、今日の明るい中につけて置きました」
「白い丸がちょうど心臓の上になるのだ。明日は早いから目標をつけて置かぬと弾が当たりそこなったら永く苦しむだけだからね。それから発つ時毛布を忘れないように持っていきましょう。死んだら毛布に包んでもらうのです。それでないと砂や石が直接顔に当たって、ちょっと考えると嫌な気がするからね。死んでからどうでもいいようなものもせっかく毛布があるんだから忘れずに持っていきましょう」
●中略●
オランダ軍に銃殺処刑される日は前田利貴大尉三十一歳、穴井秀夫兵長三十歳でした。
処刑終了した夜、衛兵所でその処刑の状況を現地兵が会話した。
「歌を唄った?」
「とても大きな声で唄った」
「大きな声で」と他の兵隊が聞き返した。
「そうだった大きな声だった」
「、、、、、、、」
「何で笑ったのか」
「判らない、、、、笑っていた」
「何が」おかしかったのか、、、、」
「死刑はこわくないのか」と剣をつきつけ、我々を揶揄し、馬鹿にし、軽蔑していた兵隊が、こうした言葉を使わなくなり、また従来意地の悪かった兵隊の態度もすっかり変わりました。

以下二つは前田利貴大尉が残された歌です。

国のため棄つる命は惜しまねど心に祈るはらからの幸

身はたとえ南の島に果つるとも留め置かまし大和魂

大東亜戦争は、日本の侵略戦争だったと言う人々や政治家がいます。また日本軍が大規模な虐殺をしたり、慰安婦問題を起こしていたと主張している人々がいます。

本当にそうだったのでしょうか?

どのような事実データーからそうだったと断言しているのでしょうか?

どこの国でもそうですが、戦時下では特殊な任務組織などが活動していました。当時は秘密だった組織などの情報でさえ、現代では次々と明らかになっているのです。

もし数十万人規模の大量虐殺や慰安婦問題があったとすれば、多くの客観的な信頼できる情報やデーターが出ていいはずです。

またあの時代は、日本だけでなく多くの国々では、貧しい農村の婦女子が都会や地方へ出稼ぎなどするのは、当たり前の時代でもあったのです。

日本の明治維新は、欧米諸国からの植民地化を防ぐために武士が中心になって行なった改革でした。

世界各国の植民地化を進めていた欧米諸国は、サムライの国、日本を植民地化できなかった。それどころか、この小さい国の日本は維新後、数十年しか経ってもいないにもかかわらず、日清、日露などの大国との戦いに勝利を続けていったことに脅威を感じていました。

それ以上に日本に大きな関心を寄せていたのは、すでに植民地化されていた世界の国々や地域でした。

日本の皇室は世界に類のない長い歴史があり、国民に愛着を持たれ続けています。

神々への祈りと国民の安泰と繁栄を願う皇室と国民は、心の絆で結ばれています。

そのような日本国民は東日本大震災のときにも普段と変わらず豊かな民度を示し行動しました。

世界の人々からすれば、被災地の人々だけでなく多くの日本人の道徳的な行動に目を見晴らせたものがあったかもしれません。

日本人からすれば、援助物資の受け取りや分配の行列に割り込みをせず、できるだけ礼儀を守ることなどは日常生活の一部です。

まわりの困っている人々や助けに来てくれている人々にも心配りをします。

このような日本人の優しい気質は、今に始まったことではなく古から培われ続けているものです。

遠く異国から助けに来てくれた心優しい人々と日本人の心が触れた瞬間に国や人種を超えた人間同士の熱いものが込み上げたことだろうと推察します。感謝しております。

大東亜戦争のときの天皇の「開戦の詔書」と「終戦の詔書」は読むべきです。

植民地支配を拡大しようとしていた欧米列国と同様に、日本も植民地を得たくて、アジア諸国に日本軍を派遣したのでしょうか?

当時の日本が自存自衛、かつ植民地の開放を望み、世界の平等と平和のために行動しようとしていたことがありえると思う人はいるでしょうか?

欧米列国に植民地化され搾取されていた国々の人々が、日本軍を見てどう感じていたのでしょうか?

大東亜戦争後にそれらの国々はどうなっていったでしょうか?

そして植民地支配から解放された国々の人々が、敗戦の日本を擁護してくれたのは何故でしょうか?

歴史の真実を判断するには、できるだけ当時の状況に分け入って、真摯に客観的に調べる必要があります。

現代の認識や思惑や嫌悪感などで過去を安易に判断してはいけない。

私たちはいつの時代も不条理の世界に棲んでいます。

いじめ、暴力、侵害、謀略、情報操作、プロパガンダなど。

これらは過度のエゴイズムからくるようです。

そのエゴイズムにより、金銭欲、支配欲、差別、傲慢、人権侵害などを増長させ世の中を不安にさせて争い事が増えていきます。

いじめっ子たちが、おとなしいクラスメイトたちを虐めていました。

小さな子は我慢を続けていましたけれど、とうとう、虐めっ子たちに歯向かったのでした。

それまで虐められていた他の子たちは、虐めっ子たちに戦いを挑んだその小さな子の様子をじっと見つめていました。

この小さな子は、クラスメイトを虐めませんでした。しかし虐めっ子たちに歯向かったので、余計に虐められ、苦しみもがき、裏切られ、汚名をかぶせられ傷つきました。

この世は汚れた池ような状態です。

しかし、この汚れた池に愛と正義と勇気と忍耐と志という美しい大和魂の花々を咲かせているのです。

戦争や戦いを評論したり批判するのは簡単です。

幕末維新や戦争などで、志や熱い想いを抱いて行動した人々や思い半ばで倒れた人たちは大勢います。すべての英霊たちは当時と将来の私たちのために汗と涙と血と命を捧げたのです。

英霊たちに対して感謝と祈りを続けることは、私たちの誇りであり責任だと思います。

どこの国の人でも互いの命を懸けた戦いで死ぬときに、心のどこかで叫んだかもしれません。

「おかあさん、おかあさん、おかあさん、、、」

殺すほうも殺されるほうも不幸になる戦争や紛争などしないで、世界が平和で心豊かであってほしいという祈りを秘めて。

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修業

1-169 修業
その瞬間、うむいは「あの人」のことを思い出した。
「あの人」、、、、、。
お母さんがときどき静かにして座っている姿と似ている。
「あの人」はあの世では想像もつかない高いところにおられた。
ところが理由があってこの世に降りてこられたのだ。
何故だろうと思う。
しかもこんなじめじめした暗いところに。
うむいにはわかっていることがある。
「あの人」がこの世に来られた理由はご本人はわかっていらっしゃるということだ。
うむいだって、あの世のことは覚えている。
そんなとき、うむいは「あの人」の様子を観たのだ。
はるかに高いところにおられたはずの「あの人」ならば、思い立ったら、何かしようとしたら何でもできると思う。
ところが、ただただ座っていることが多い。
ほんとにほんとに不思議だ。
時間を惜しむかのようにずっとお母さんと似たような坐り方で坐り続けている。
もしかすると坐りながら眠っていらっしゃるのかもしれないとさえ思う。
「あの人」はこの世の人に何かを伝えたくて、何かをしたくて来ていらっしゃるのだと思っている。
この世の人たちに何かを伝え、この世の何かを変えていくには、どうしたらいいかを考えていらっしゃるのではないかと思う。

でも何故、坐り続けなければならないのだろう?
もしかするとあの世で高いところにいらっしゃる方でもこの世のことを修業される必要があるのかもしれない。
さっきはあ母さんから教えられて「生きる」ということを勉強しようと決めたばかりのうむいだった。
お母さんも「あの人」も修業みたいなことをされているのだから、そのやり方を教えてもらおうかなと思う。
でもどうせ教えてもらうのなら、断然「あの人」からがいい。
だけど「あの人」の修業の様子はすごすぎる。
うむいには到底無理だろうと思えた。
厳しい修行のように観えた。
だから「あの人」のお邪魔になりたくないし、教えてほしいって申し出る勇気が出ないでいる。

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生きる

1-168 生きる
お母さんが何か変。
うむいがニコニコして朝食を食べていたのにお母さんは上の空のようにして向かいに座って食べていた。
けれどしばらくするとお母さんの眼が宙に浮いて見えたかと思うと目を閉じてしまった。
もしかすると眠ってしまったのかな?と思った。
いやそんなことはないと思う。
だってお母さんの口に中には少し食べ物があるはずだから、、。
まさか食べながら眠るなんて。
それにしばらくするとお母さんはむずむずしだした。
何か考えごとをしているのかな。
うむいはそんなお母さんの様子が心配。
お母さんはうむいの寝る前に眠りについたことがない。
いつも起きている感じがする。
それにしても今日のお母さんの様子はやっぱり変だ。
それでお母さんのすぐ近くでよく見てみようと思った。
母を下から見つめることにした。

ところが、しばらくするとお母さんの目じりから涙がこぼれ、うむいの顔に落ちた。

びっくりした。
じっとしていると、お母さんの泪でうむいの顔はずぶ濡れになっていったのだ。
やはりお母さんはうむいに言えない悲しいことがあって悩んでいるのだろうと思う。
お母さんはときどきヒステリックな声を出すことがあっても涙は見たことがなかったから心配になる。
どうも今日は様子がおかしい。
助けになるのならばお母さんの悩みを聞いてあげたい。
そうしているうちにお母さんの瞼が、突然、開いた?
でもお母さんの瞼は開いているのにまだ何かうつろに見える。
うむいは母の太ももを軽く叩いた。
「お母さん、、、、お母さん、、?」
母の優子はうつろな状態から我に返った。
うむいが膝のところにいて優子を見つめている。
優子は今でもまるで眠りと目覚めの間に彷徨っているかのような気がしている。
「あっ、、うむい、、、どうしたの?あれっ、泣いているの?」
「うぅん、、お母さんは眠っていたの?」
「うん、、疲れちゃっていたのかもしれないね。それにしても、あれっ、私、食べながら眠っていたのかしら。うむいはどうしたの、顔が濡れているわ」
「お母さんの泪だよ」
「えぇつ、、、、?」
「何か悲しいことがあったの?」
「まぁ、、、、、、大人みたいに口調で聞いてくるのね」
「うむいがお母さんの悩みを聞いてあげるね」
「ありがとう」
「、、、?」
「うむい、、、でも私は悲しくて涙を流したのではないのよ。

「、、、?」

「心配しないでね。あのね。

うむいも生きていると悲しいことや悩みはいろいろと経験するはずだけれど、でも悲しいことばかりでもないことがわかったの」
「、、、、、、」
「うむいは心配してくれたのよね」
「うん、、、」
「うむいは悩みはあるの?」
「う~ん、、、わからない、、、大人になると悩みは多くなるの?」
「そうね、、、生活しているといろいろなことが出てくるよね」
「じゃあ、哀しかったり苦しくなったりしたときはどうすればいいの?」
「むずかしい質問ね。
でもこれだけは言えるかもしれない。
その悲しかったり苦しかったり悔しかったりしたときは、苦しんでばかりいないで、その現実を見つめて、しっかりと考えることが大事だと思うわ」
「えっ、、」
「その困ったときの現実を、まずは受け入れてみることよね。
そこでそれをじっと考えてみる。」
「でも考えれば考えるほど苦しいんでしょ?」
「そうね、そういうときもあるよね」
「その時にはどうしたら、良くなるの?」
「うむい、、、悩みの中に答えはあると思うよ。

私には、いままでそのことが頭ではわかっているつもりがわかっていなかった。

きっと誠実さが足りなかったのだろうと思うの。
ちゃんと生きようとしていなかったように思う」
「ちゃんと生きていなかった?」
「私は。本当の意味の足りないことや知らないことが多いことがわかったのよ。いつのまにか、深い意味が、わからずにあっという間に大人になってしまっていたわ」
優子はもそう言いながら眼がしらが熱くなった。
「うむい、、、私はもっと大事に生きなければならないと気づいたのよ。
それに私は探し求めていることに気づいたの。

「探し求めてる❓」

「人生の悩みの中に自分の求めているものがあるとわかったの?

そのことが分かったので嬉しかったのよ」
「えっ、、、じゃあ、お母さんの涙がたくさん出たのは悲しくてじゃなくて嬉しかったから?」
「そう、、、」
「ふぅ~~ん、、、」
うむいの予想とはまったく違っていたのだ。
「うむいは、これからいろいろなことに気づくと思う。
でも考えてほしいの。それは人が生きている証拠なのよ。

経験することの中にとても重要なことが含まれているのよ。
「生きる」ということを大事に考えてほしいと思う。私ももっと考えるわ」
と優子はうむいをじっと見つめた。
うむいはお母さんにじっと見つめら続けていると体が熱くなってきた。
お母さんが自分の考えていることを打ち明けてくれた。
それにとても大事なことを教えてくれたように思う。
うむいにとって大きな出来事だった。
お母さんの言葉が心に沁みた。

だから、うむいは「生きる」ということを大事に考えてみようと決心したのだ。

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無敵の極処

1-167 無敵の極処
優子は、先ほど夢想していた強烈な印象を思い返していた。
すると密かに思い出すことがあった。
幕末明治に生きた山岡鉄舟という武士のことだった。
鉄舟の残している記述文書類は簡潔。
しかしその深みは海のようでも広がりは天空のようにも感じられる。
山岡鉄舟は武道を極めようとした求道者だった。
やることなすこと命がけ、真剣だった。
幼いころよりの武道、禅、書を死ぬまで続けた。

何かヒントを浮かべは必ずそれを形に現しながら工夫する。
晩年のある日、課題を抱えていた鉄舟はある心のヒントを得ていた。
それを胸にいつものように専念呼吸を凝らし座禅をしていた。
すると、、、、
「いつのまにか釈然として天地物なきの心境に至るの感あるを覚ゆ。
時すでに夜を徹して三十日払暁(ふつぎょう)とはなれり。
此時坐上にありて、浅利に対し玄身を見ず。
是(ここ)に於いてか、窃(ひそか)に喜ぶ、我れ無敵の極処を得たりと」

鉄舟は試しに弟子の籠手田を呼んで、試合をしてみたところ「先生の前に立っていられません。こんな不可思議なことは人間のなせることとは思えません」というような意味の言葉を発している。
「神道にあらず儒道にあらず仏道にあらず、神儒仏三道融和の道念にして、中古以降専ら武門に於て其著しきを見る。鉄太郎(鉄舟)これを名付けて武士道と云ふ」
「夫れ、剣法正伝の真の極意者、別に法なし、
敵の好む処に随いて勝を得るにあり。
敵の好む所とは何ぞや。
両刃相対すれば必ず敵を打たんと思う念あらざるはなし。
故に我体を総て敵に任せ、敵の好む処に来るに随ひ勝つを真正の勝といふ。
譬えば箱の中にある品を出すに、まずその蓋を去り、細かに其中を見て品を見るが如し、是則ち自然の勝ちにして別に法なき所以なり
然りと雖も此術や易きことは甚だ易し、難きことは甚だ難し。
学者容易のことに観ること勿れ。
即今諸流の剣法を学ぶものを見るに、是と異なり、
敵に対するや直ぐに勝気を先んじ、
妄りに力を以って進み勝たんと欲するが如し。
之を邪法と云ふ。
如上の修業は一旦血気盛んなる時は少く力を得たりと思えども、
中年すぎ、或いは病に罹りしときは身体自由ならず、
力衰え業にふれて剣法を学ばざるものにも及ばず、
無益の力を尽くせしものとなる。
是れ、邪法を不省所以と云ふべし。
学者深く此理を覚り修行鍛錬あるべし。
附して言ふ、此法は単に剣法の極意のみならず、
人間処世の万事一つも此規定に失すべからず。
此呼吸を得て以て軍陣に臨み、之を得て以て大政に参与し、
これを得て以って教育宗教に施し、これを以って商工農作に従事せば、往くとして善ならざるはなし。
是れ余が所謂、剣法の秘は、万物太極の理を究めると云う所以なり。」
明治十五年(1882年)一月十五日
山岡鉄太郎
鉄舟は晩年に武道を通じて無敵の極処を得た。
優子はこの「無敵の極処」とは「心の極処」と言ってもいいのではないかと思っている。
鉄舟は無敵の極処を掴むために武道や禅や書などを活用した。
世界にはさまざまな宗教家がたくさんいる。
宗教者はその宗教を学び行動する専門家である。
しかし宗教者は祈りなどは熱心にするが、心の極処を得た者は歴史上、数少ないのではないかと優子は思う。

しかし気づきや悟りを得ることは宗教家だけではない。

人は誰でも大なり小なり得ているはず。
私たちが生涯を通じても心の極所を得ることはできないかもしれない。
しかし学ぶことは可能なのだ。

優子は熱心にその記述を読み返していた。
その背中越しに声が聞こえた。
「お母さん、、、」

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生命の輝き

1-167 生命の輝き
外の暗闇から目を室内に移すと明るい足元が見えた。

傍にはうむいが眠っている。

再び暗闇を見つめ直すと遠く小さな星々だけが見えた。

まるで宇宙船に乗っているような感じがする。
窓から見える真空のはてしない漆黒の広がりには生命は存在しないように見受けられる。

見つめていると対処できない恐怖感が増してきて、じっとしていられなくなる。
もし暗闇に一歩でも踏み入れたとしたら、あっという間に奈落の底に落ちてしまうだろうと思えた。
人は孤独感を持ちながら本当に親身になってくれる人を探している。

悲しみや苦しみのときに助けになる人がいるだろうか。
弟の光男が高校までどういう気持ちで生活していたのか優子は多くを知らない。
鬱屈した自分から抜け出したい。

いじめや裏切りに耐えられなかったかもしれない。

自分を変えたいと望んでいたのかもしれない。
だが自分自身の不満の多くを解決できないままに、目の前にはさまざまな問題が持ち上がる。
自分がままならないのに問題が立ちはだかるのだから、立ち往生してしまう。

弱点と思われるところをつけ込まれることもある。

もう先がないように思えたかもしれない。
もし頼れる人がいないと感じていればどうすればいいのだろう。
籠りがちな人ほど誰にも相談したくないかもしれない。
それに誰かに相談しても苦しみを誰かが代わってくれることはない。

結局は自分で解決しなければならないのに解決の糸口さえも見つからないときは、再びその暗闇を見つめるしかなかった。

ただ苦しみが深ければ深いほどその暗闇の恐ろしく嫌な時間が永遠に続くものだと感じられる。

なぜこうなってしまったのだろうと悩み続ける。
たが、しばらく見つめているとある光があることに気づいた。
それは足元にあるわずかな灯りからのようだった。
それを見ると一時的にはホッとした。
そしてまた再び、あの恐ろしい外の暗闇に目を移す。
漆黒の無機質から、なぜこんなに恐怖を感じるものなのだろうかと考える。
長い時間が過ぎた。
すると暗闇の中に動きが感じられた。

目に入ってきたものがあった。
それは白と青色に彩られた丸い形の天体のようにみえた。
それは暗闇の中に光を帯びて燦然と輝き異彩を放っている。
{ なんと美しく輝かしいんだろう。これって、、}と優子は呟いた。
宇宙という暗闇の中にぽっかりと浮かんでゆったりと見えてきたのは地球のようだった。
その天体は、まるで自らの光を発しているように見えた。
宇宙という漆黒の暗闇の中で毅然と輝いている天体とのコントラストは美しかった。

その鮮やかさが、暗闇の中の唯一の生命体のように観えた。

人類が初めて宇宙旅行した際に地球を表現した言葉に嘘はなかったように思える。

{ あぁ、、生きている 〕

優子は心に灯火が灯ったように感じている。

山の中に迷って迷って、もうどうしようもなくなったとき、遠くに一軒の家の灯りを見つけたように。
しばらくすると、その巨大な天体には色の変化が現れてきた。
白と青の色彩に見えたものから、しだいにオレンジ色に変化していき、さらには真っ赤に彩られていく。
そして赤い彩りから炎が吹き出しているように見える。

優子は、その動きをじっと見つめていた。

まるで意味するかのように勢いのあるその炎は天体全体をたぎらせている。
その天体の燃え盛る炎の様子に優子のすべての意識は吸い込まれていった。

{ あぁ、、、 } と心が呟いた。
と、そのとき、、、

優子は我に返った。

優子は朝の食事をしたあと、後片付けをしないままに椅子の上で眠りこけていたのだった。

最近の眠れない日々が、まるで一気に昇華したようだった。

娘のうむいの両手は母の優子の太ももに置いており、じっと見上げている。
優子には不思議な感情が生まれていた。

あの燃えさかっていた天体の様子に優子が求めていたものがあったように感じていた。

優子の瞳は潤んでいた。

その涙が、優子を見上げているうむいの頬に落ちた。
太陽のように燃えさかっている天体の様子が何を意味していたのかは、よくはわからない。

ただわかったのは、初めて経験する感動が優子の身体を貫き充満させていることだった。
生命が感じられない漆黒の暗闇の宇宙に存在する美しく輝かしい天体。
あの天体は生命そのものだった。

しかも力強い生命力を内在させていた。

その生命のほとばしりが、天体の色彩の変化と燃えさかる炎のように観えたのだと感じた。

その炎の様子には意味があった。
メラメラと深紅に燃えさかる生命力は、優子に熱い眼差しを与えていた。

人生は無数の星々が存在する宇宙を旅しているようなものかもしれない。

その旅の途中、帰り道を見失って、いつまでも彷徨うことがあるかもしれない。

苦しみもがき、どうしようもないと思うときがあるかもしれない。

しかし、すべての悩みは解決できるようになっている。

確かに暗闇や陰影や病や死などは存在している。

しかし、あの燃え盛る生命の輝きは暗闇を照らし、陰影を無くし、生きることを明らかにしていると感じている。

まるで苦しみなどないかのように。

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本当の孤独

1-166 本当の孤独
優子の弟の光男がいなくなった。
光男はもう23才になっていた。
優子とは年が離れていて、父や母にすれば大事に育てすぎたのかもしれない。
その光男が、高校を卒業しても大学へ行こうともせず就職をしようともせず、かと言って父親の仕事を手伝おうともせず実家にこもりっきりになっていた。
母の君江から光男が実家から出て行ったことで何か思い当ることはないかという優子への電話だった。
しかし優子は知る由もない。
ただ光男のことは、以前から家族全員で気がかりではあった。
光男は高校を中退してからというものの社会生活ができないでいた。
家族がその理由を尋ねても答えようとしないし、外に出て何か行動しようとしていなかった。
親からさんざん言われてアルバイトに行こうとしたこともあったが、すぐに辞めてきた。
それ以降は、よっぽどの用事がないかぎり家から出ようとはしなかった。
優子にしてもいろいろと事情があった。
夫婦は別居状態になったし、生活費は貰っているが、離婚は覚悟している。
目の前にいる娘のうむいは、医者からは自閉症の可能性があると疑われている。
優子はよほどしっかりしないとと思っていた。
それに加えて実家の弟の光男までも行方がわからなくなったというのである。
優子は親友の早苗の行方がわからなくなった経験をしていて敏感になっていた。
早苗の行方ががわからなくなってのち殺人事件として発覚した。
早苗が白骨化した遺体でシンガポールの海で引き揚げられて、あの悲惨な殺され方をしていたことに優子は心を痛めていた。
毎日、眠ろうとしても熟睡できないし、うつらうつらとして夜中に目が覚めてしまう。
自分だけでなく早苗の家族にしたら、もっとそうだろうとは思って心配している。
そんな優子だった。
それにしてもいつになく目の前のうむいが変に思える。
先ほど気づいたが、うむいはいつもよりニコニコして食事をしている様子に見えた。
{ おいしかったのかしら?それとも何かいい事でもあったのかしら? } と思った。
子供って、その日の気まぐれで生きているようなものだから、そんなものだろうとは思う。
そんな矢先に「光男がメモを残して出て行ったの」という母からの電話だった。
早苗のように思いも知らぬ重大なことが起きることもありえる。
ただ実家にこもりっきりになっていたことも出て行ったことも光男の判断なのだろう。
だとしたら、大人としての責任と考えを持たなければならない。
長く実家に籠って世間から遠ざかっていた光男が、急に誰も知り合いのいない世間に一人、入って行った。
たいしたお金は持っていないだろうし、頼れる友達がいればいいけれどそうでもない様子なのである。

携帯電話は着信はしているはずである。

連絡がとれなければ、両親はいずれ警察には届けるつもりだという。
よほど困ったら帰ってくるとは思うけれど、世間に迷惑をかけたり事件を起こされても困る。
昔、周りの人間を殺傷して事件を起こした者もいる。
人は毎日に楽しみはあるものの何がしかの問題を抱えたり、すっきりしないままに生きているのかもしれない。
光男の様子を見ていると孤独感を感じる。
誰でも人々の中にいてもどこかに孤独感を持っているものなのかもしれない。
しかし人は本当の孤独では生きていけない。
孤独感では生きていける。
優子はsaveearthの仲間と共にハワイ旅行に行ったことがある。
オアフ島のホノルルから揺れる小型飛行機に乗り、ハワイ島に渡った。
ハワイ島ではレンタカーを借りて目的地の北部にあるホテルまでドライブをしてみた。
途中、黒々とした火山岩や瓦礫のはてしなく広がるところに入った。
数人の友達と乗っている車での移動だから、最初の頃は面白い風景だと思っておしゃべりに花が咲いていた。
しかし、しばらく続いていくと誰もが無口になっていった。
黒々とした火山瓦礫の岩だらけの生き物が見えない風景が広がっていつまでも続いている。
車がやっと通れる細い道。
植物の気配さえない。

空は青々としていた。

走れども走れども同じ黒々とした火山瓦礫の岩々が続いていくと怖さが増してきた。

誰もが口々に「怖いね」と言った。
はてしない無機質的な火山岩の瓦礫しか見えない広がりに囲まれていると生命を感じられない環境で「本当の孤独」を見たように感じていた。

車の中には友達がいてもである。
そのときに思った。
「孤独」という言葉は簡単に使えない。
私たちが、通常「一人っきり」と言っているのは甘い感覚だったと思った。
やはり人は一人では生きていけない。
もし人が食べ物や飲み物などを光のない洞窟に持ち込んだとしても、その暗闇の中では長く生きていけないだろう。
しばらくすると発狂するか、ついには死んでしまうことだろう。
そのときsaveearthのみんなで「孤独」と人生について語り合う機会になった。
「孤独」というのは、例外を除いてほとんどがありえない。
通常の生活の中での多くは「孤独」と思い込む「孤独感」だろう。
私たちが生きていられるのは「本当の孤独」でない証拠だろうという結論になった。
もし「本当の孤独」というのであればほどなくして死ぬしかないだろうから。

これが生物の生物たらしめている生命の共生の原則があるのだろうと話し合った。
だけど光男のように人とのかかわりが苦手だとか、虐めやごたごたがあって人とかかわりたくないとか、それぞれの孤独感を求めて一人になりたい人もいる。
それでも周りには家族や少なくとも他人が見えるか感じるはずである。
その中で孤独感が強くなっていけば孤立する。

その孤立を打破するために自分を傷つけたり、あるいは他人のせいにして問題や事件などを引き起こしてしまうかもしれない。
光男が実家にいるときは本当の孤独ではなかった。
光男はこもりっきりだった。
まわりには家族がいるから、生きていけたのである。
光男は、それを気づかずに放棄して外に出て行った。
何がきっかけでどうしたというのだろう。
これからどうやって生きていくのだろう。

人は孤独感を持って生きている。

人は一人で生まれて一人で死んでゆくものである。

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武士道の本質

1-165 武士道の本質
向かいに座っているうむいは、母の優子が自分のことをなかなか見てくれないので不思議に思いながら朝食を食べている。

優子は昨晩の思いついたことを夢中になって考えていた。
人はイメージしたことを動作で一致させ、さらにその動態に応じた必要性を叶えることができるようにすれば一流になれるだろうと思う。
心、頭脳、技、体のうち技や体は目に見えるものである。
心は頭脳や技や体に影響しているけれども形がない。
古の武士たちはいざとなったら生死をかける闘いをしなければならないから、幼いときから武道における教えや心構えなどを学んではいた。
しかし、それでも危急の際や戦いの場の心の不安定さが身体を支配して思うように動けなくなることを痛切に感じていた。
闘いの最悪の場合は死を意味する。

それだけではなくサムライたちは「死に様の美」もまた意識していたのである。

場合によっては切腹ということもありえる。

日本人は「恥」という言葉をよく使う。

独特の美学を持っている。
古の人たちは心を把握しようと努めると同時に技、体を通じて修業をしていたのである。
茶道や華道など「道」という言葉がつくものの多くは主体的に心をテーマにして善の極美を追求しているように思える。
ただ楽しもうとするだけならば「道」を学ぶ必要はない。
あるいは立派な神社や寺や教会で祈るだけで、ある意味での安心感は得られることだろう。
しかし高みを目指す人ほど、それだけでは心が満足しないものであるが、心を追おうとしても掴もうとしてもコントロールしようとしてもむずかしい。

優子は成功者を見つけなければならないと思った。

世界には少数ではあるが、過去からさかのぼればたくさんいることだろう。
優子たち五人で学生のときに作った「SAVEEARTH」の会は、日本の歴史や幕末明治時代の志士たちの武士道を学び、人のために活用しようとする会だった。
優子は山岡鉄舟や坂本龍馬が大好きだった。
その中でも武士道の提唱者であり体現者である山岡鉄舟は稀に見る人物に感じられた。
その鉄舟が会得していた武士道の本質に迫りたいと思っていた。

鉄舟は1888年7月19日、夏の早朝、身を清めた。

暑かった。

隣室では弟子たち、他にたくさんの人々がかけつけていた。

鉄舟はいつもの写経を終えた後、少し汗が滲んでいた。

皇居方面に深々と礼をしたあと結跏趺坐をした。

そしてその座禅のまま亡くなっている。

鉄舟の死を追うように悲しみのあまり殉死した人もいた。

山岡鉄舟は武士道を体得し生きぬいた人だった。

この真髄は偉大な宗教と同根のようである。

武士道は、私たちが気づいていない本来の心を体得し、その真髄によって心と身体にフィードバックさせることができるのではないかと思えた。

武士道は人類の大変な助けになるにかもしれない。

優子はこの人物の生き様を思い描いて小躍りした。

山岡鉄舟は武道者というよりも求道者であり、日本の歴史における精華だろうと思った。

生きる真実、誠実を観たように思った。

昔も今も人にはいろいろな生活の苦労がある。

健康に不安だったり、経済的に不安だったり、コンプレックスに悩んだり、いじめだったり、人間関係がうまくいかなかったり、恋人や夫婦や家族の間に問題があったり、孤独感に耐えられなかったり、老後や死ぬことまで考えて、イライラしたりふさぎ込んでしまうことがある。

人は不安や恐れや欲得や傲慢さなどをもって問題を起こしたりする。
しかし、もし本来の自分の人生の意味を知り、心について把握することができていれば全く違うことになる。

「生きる」ということ、「本来の心」に気づく必要があるのではないだろうか。

そして自分の人生を俯瞰することができれば、目の前に立ちはだかる生活の苦労や病や死などの意味に気づくことだろう。

そのことにより、目の前の課題は過去からさかのぼる因果応報の延長線上にあることに気づき、検証すれば課題の意味と解決方法がわかることだろう。

未来をも見渡せるかもしれないという壮大なイメージが湧いたのである。

それは魂や霊性の成長に関与する。

社会を構成しているのは人々の集合体であり、突き進めばそれぞれの心であると言えるだろう。

人は嫉妬したり、虐めたり、憎んだりすることなどに貴重な人生の時間を費やしやすいのではないだろうか。

疑問点さえ気づかずに省みない人生を終える人も多いかもしれないと思った。

だが人は心底では本当の自分を見つけ、幸せ喜びへ成長する道を歩みたいのだと思う。

けれどどうしたらいいのかわからない人も多いことだろう。

鉄舟は人生の根本問題を解いているばかりか、その活用は世事万端に及ぶとおっしゃっている。

であるならば一例として、誰もが経験する病についてはどうだろうと優子は考えてみた。

鉄舟自身は胃癌で亡くなっている。

このような偉人が自分で胃癌を治すことができなかったのは何故だろうかと疑問視する人が、たまにいるけれども答えは簡単である。

山岡鉄舟のことや社会状況などを調べれば納得できる。

若い頃からの生活状況の因果律によるものである。

現代医学はどんどん進歩していると言われている。

しかし癌は昔は三人に一人だったものが、現在では二人に一人の割合で増えているのである。

どこかに問題があるはずである。

他にもさまざまな病は現在の医学で事足りるのだろうか?

そうはいっても人は病との戦いに負けるわけにはいかない。

その病について古の知恵や武士道の本質を活用できないだろうかと優子から聞いたときの早苗の瞳は輝いていたのを思い出す。

そのとき、、、

「お母さん、、、お母さん、、、」

目の前のうむいが手を振っているのが優子の目に入った。
うむいが片手で母の優子に手を振り、もう片方の手で指さしている。
優子の携帯電話が振動している。
優子は電話をとった。
「はい、、、、、あ、お母さん、、、どうしたの、? えっ、、、

光男がいない?、、、、、」
{ 光男って、、おばあちゃんとおじいちゃんと一緒に生活しているあの人 }
うむいは思い出した。
おばあちゃんの息子であり、お母さんの弟だから、うむいにとってはおじさんになる。
「どういうことなの?、、、、いつから?、、、」

そばで聞いているうむいは思い出した。
あのとき、、、。

うむいが母の実家に預けられていたとき、、、

そのとき、うむいはダイニングテーブルで一人だった。

おじいちゃんとおばあちゃんはたまたまそばにいなかった。

するとその家にこもりっきりの光男おじさんは二階から降りてきた。

光男の行動は早かった。
冷蔵庫を開けて、ケーキを見つけて取り出すや否やフォークも何も使わずに手づかみで、むしゃむしゃと食べ始めたのだった。
光男おじさんが二つ目のケーキにとりかかろうとすると、うむいは「そのケーキは私のよ」と声をかけた。
光男おじさんはうむいの声が聞こえなかったのか、反応しないでそのまま食べ続けた。
うむいは何度か声をかけてみた。
しかし光男おじさんは、あっという間に手づかみでケーキを食べ終わったから、大人の男の食欲はすごい。
「それって私のおやつだったのよ、、、」とうむいは抗議した。
だが光男は、うむいに流し目をしたまま返答はせずに水をごくごく飲んだ。
そこでうむいは、光男おじさんを睨みつけた。
「私のケーキ返して」と怒鳴った。
ようやく光男は声を出した。
「なんだ!」
久しぶりに聴く光男の声だった。
日頃の光男は、二階にある自分の部屋にこもりっきりで用事がないと階下に降りてこない。
いつもはのろのろとした動きの光男だが、この日は違っていた。
おばあちゃんが光男おじさんとうむいのために用意してくれ冷蔵庫に置いてあった今日のおやつのケーキを二つとも食べてしまったのだ。
幼い女の子のうむいが、大人の大きな体の光男おじさんに向かって目をむいて怒った。
「早く、私のケーキ返して、、あれは私のためにおばあちゃんが用意してくれてたものよ」
「俺は、これが食べたかったのだ」
「あなたのは、一つだけでしょ」
「気が変わった」
「私のケーキを返して」
「食べちゃったんだから、もうないだろ」
「だから返してって言ってるでしょ!!」うむいは思わず大きな声を出したのだ。
それに呼応するように「もうない!」の一点張りの光男だった。
「それじゃあ、、買ってきて同じものを」
「そんなものはどこで売っているのか知らない」
「とにかく同じものを買ってきてよ」
「お金はない、、、」
「そんなことは私は知らない。とにかく人の物を食べたのだから返すべきよ」
「、、、、」光男はまたまたしゃべらなくなった。
「とにかく早く買ってきて、、、早く、、」とうむいは光男を睨みつけた。
「、、、、、、、」
「もうっ、、早く買ってきて、買って来るまで帰ってこないで、、出て行って、、、今すぐ買ってきて!!」と怒鳴ったのである。
光男は無視を続けていたものの目の前にいる幼いうむいの剣幕のすごさに驚いて、とうとう二階に上がってしまった。
それから、ごそごそしていたかと思うと二階から降りてきた。
その光男は背中には大きな黒っぽいリュックを担いで、右手には大きな紙袋を下げていた。
そして、うむいには何も言わずに玄関ドアを開けて出て行ったのである。
うむいは光男のその背中越しに怒鳴った。
「早くよ!」

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生命の謎

1-164 生命の謎
幕末、明治時代の任侠の世界にいた清水次郎長は、一死を許していた山岡鉄舟から尋ねられたことがある。
「次郎長、お前さんにはたくさん子分がいるけれどもあんたのために命を預けてくれる子分は何人ぐらいいるかい?」
「先生、残念ながら、あっしのために命をかけてくれる子分は一人もいないと思います。
ですが、あっしは子分のためにはいつでも命を預けることができます」と答えている。
大学時代に優子と早苗、織江、詩、龍の5人は、ある志をもって「saveearth」という会を結成した。
ところが、その親友の早苗が行方不明ののち、シンガポール近海から発見された。

若々しい肉体だった早苗が遺骨になって目の前にあることが信じられないでいた。
のちに早苗には、宿っていた生命があったことを知ったとき胸が痛んでたまらなかった。
早苗は幕末の志士を尊敬していた。
とくに吉田松陰のひたむきで真面目な勉学心と純粋性が大好きだった。
人想いで向上心が高く、正義一筋で生き抜いた人だった。
嘘が嫌いで正義のためになら命を懸けるとでもいう人だった。
だからその教えを乞う人たちもたくさん集まったのである。
その吉田松陰の松下村塾門下生たちから数多くの著名人が輩出した。

その中でも久坂玄瑞や高杉晋作は双璧かもしれないと早苗は言っていた。
この二人も若くして幕末に亡くなったが、日本の危急の際には大きな力を発揮した志士たちだった。
その幕末、明治の志士たちを尊敬する早苗が死を覚悟したときに自分のすべてを結集したはずだと優子は想った。

その心中を探っては想像し問う日々が続いている。

人がすべてをかけて結集したとき、、、。

もしものときには考えられないことが起きえるかもしれない。

そう思惟を進めていく、、、
ふとある瞬間に優子の息に震えが生じていた。
息が吸えず吐けない、、、、、。
息が立ち止まっていた。
もしかすると、、、、
もしかすると、、、、
その早苗の危急のときに、、、、。
もしかしたら、、、、、、、。
優子は瞼の奥に繰り広げられる情景に見入っていった。

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法話

1-162 法話
うむいは法話を聴くのか好きだ。
法話というより「お話」と言ったほうがわかりやすい。
いつものようにうむいの神様が、ときどき「お話」をしてくださる。
「お話」を聞いていると本当に勉強になるから大好きなのだ。
うむいに「お話」して下さる神様はきれいなお顔立ちで、白い長髪の人だった。

「お話」を聞いているとうむいは、

いつのまにか「お話」の中にいてとても気持ちがいい。

どんなテーマの「お話」でも幸せを感じるから、いつまでも聞いていたくなる。
でも神様がお手すきになったときに話をしてくださるのだから、うむいはひたすら神様が来てくださるのを待つことになる。
ときには神様からの言いつけで、うむいはお手伝いをすることがある。

そういうときは一生懸命にする。

うむいのいたあの世の生活の場は、とても美しく清らかな花々などに囲まれているところだった。
そこに住む人々は誰もが優しくて楽しく生活をしている。
悪いことを考えたり、邪魔したり憎んだり、嫉妬したりする人は一人もいないところだった。

あの世で人々の住むところは、心の程度や領域などが同じような人たちが集まっているらしい。

光り輝く領域から暗闇の蠢く領域まで、さまざまな心の高さなどに応じて生活のエリアや場が分かれているという。

しかし、この世に来てみたうむいは戸惑っている。
見るもの聞くもの初めてで、さまざまな制約が多いし、あの世でできることがこの世ではできない。
逆にこの世では風邪をひいたり、お腹が痛くなることがあったり、身体の調子が悪くなることもあるのだから驚く。
眠ったりトイレに行ったりしなければならない。
何もかも不自由なところでもあるけれど、食事は楽しいと思う。
「あの人」も「その人」も、あの世の輝かしいところから降りていらっしゃっていることぐらいは、うむいにはわかる。
うむいが「あの人」と「その人」のお姿を観たときの驚きは桁違いだった。
おそらくあの世では「あの人」や「その人」のことをうむいが知ることはなかったかもしれない。
この世では心の聡明な人々から暗闇に彷徨う人やいろいろなら人たちが一緒に生活しているようだ。
いろいろな人がごちゃごちゃ生活しているように思える。
見方を変えればこの世は、あの世とは違う体験ができるところなのかもしれないと感じてきた。
だから、この世の体験をするということの中に大事なことがあるのではないかと思うようになってきた。

テレビでは毎日、事件や事故や人の話などが報道されていて、大人たちが真剣になって話をしている。

誰かが誰かを殺したとか傷つけたとか、ニュースが流れていたけれど、うむいの住んでいたあの世ではありえない話だった。

あの世では暗闇の世界や領域があるらしいけれどもこの世はそこに似ている部分があるかもしれない。

うむいはあの世の生活のことは覚えている。
しかしお母さんやおばあちゃんたちはあの世のことは覚えていないらしい。
しかし「あの人」や「その人」は、あの世のことはよくご存じんのはずである。

というより想像もできないくらい偉大なことができる方たちのように思う。
だから、うむいは「あの人」や「その人」が、この世に降りてこられたわけがよくわからなかった。
でも様子を見ていると、あの世の高い輝かしい世界から、こんなじめじめした暗い世界に降りて来られたのは、何かの理由があるのではと考えるようになってきた。
うむいは、この世での体験をしているうちに「あの人」と「その人」は、何か目的があって行動されているように思えるのだ。

でも偉大な人でもこの世のごちゃごちゃしたところに住む人たちと接するのは大変なことになると心配している。

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心の計画

1-161 心の計画
「その人」を中心にしていた行列に変化が起きつつあった。
行列は少しずつ動いてはいる。
けれど「その人」のそばに居残りだした人たちがいた。
その人たちは行列している人たちの世話をしたり、話を聞いたり、並びの列が乱れて喧嘩しないようにしたりして「その人」がやりやすいように手伝いを始めた。
{ あぁ、、、、 } うむいは感心した。

人と人の繋がり。
うむいの場合には、このような関係を持つ者はいないけれど家族がいる。
{ うむいの世話をしてくれるのは、お母さんやおばあちゃんたち。
すぐに思い出したのは、つい最近のこと、、。
とても美味しいと感じて、思わずニコニコして食べていたら
「ずいぶん今日はおいしそうに食べてるわねぇ、うむい」って、お母さんは嬉しそうに笑いながら言っていたわ。
おばあちゃんが食事を作ってくれたときもそういうことがあった }
うむいは、心が揺さぶられた。
{ こんな大事なことが身近にあった。いままで気づかなかった、、、
「その人」はたくさんの病気の人たちを助けていた。
するとその人たちは、痛みや病気が良くなるのでとても喜んでいる。
それだけではなく「その人」のために手助けしたい人たちも出てきたのだ。
これだ、、!!}

うむいは大きな発見をしたと思った。
{ だとすれば、今日からでもお母さんやおばあちゃんの喜ぶことをしたら } と思う。
これからは、うむいが、ぐちゅぐちゅと食べていたのを止めることにする。
それにお母さんやおばあちゃんが作ってくれた食事に不満や愚痴を言うのを止めよう } と心に誓ったのである。
毎日のことだし。
なるべくおいしそうに食べたら、きっとお母さんやおばあちゃんは喜ぶことだろう。
{ 喜んでもらえれば、自分も嬉しいし。

、、、それに、、。
うむいは、まだ子供だから何かやりたいことがあっても簡単にはできないことが多い。
お金も力もない。
しかしお母さんやおばあちゃんが、うむいのことで喜んでもらっていたら、いろいろと協力してもらえるかもしれない。
もしかすると、うむいのほしいものが手に入るかも、、、 }
うむいは「くっっっ、、つ、」と思わず笑みがこぼれた。
しばらくその楽しい想いを巡らしていた。
ところが、、、、。

妙に不安が襲ってきた。
いや違うかもしれないという迷いが起きたのである。
「その人」の行動は、もしかしたら、うむいが思うことと少し違うかもしれないと思ったのだった。
それは何が違うのだろうかと、、。
またうむいは考えて考えて考え抜いてみた。
するとその答えはやはり違うように思う。
「その人」は治療をしている人々から、喜んでもらっていた。
でもお金やお礼を貰おうとしていなかった。
そうしているうちに「その人」にありがたいと思う人々が自然に手伝うようになったのだ。
あぁ、、「その人」も手伝う人も見返りを求めていなかった。

ここが大きな違いだったかも。
{ 純粋な気持ちが、つい自分のためという横道にそれた考えに行きそうになった。
うむいは「ふぅ、つ」と息をついた。
うむいは見返りを望む気持ちが起こりそうだったのを反省した。
{ もう少しで迷いの道に行くところだった }
そこで、うむいは決めたのだった。
{ 余計なことを考えすぎるな。
お腹が空いていたとしても騒がないようにしよう。
それで、とにかくお母さんやおぱあゃんの作ってくれた食事に不平不満を言わないで、おいしそうに食べることにしよう。
そうすることでお母さんやおばあちゃんに喜んでもらえるのだ。
あとのことは考えない。
見返りも考えない。
余計なことも考えすぎるな。
、、とにかく、おいしくいただこう。
、たまには美味しくないときもあるけれど、そのときはそのときだ。

目をつぶって美味しそうに食べよう }
そういうふうに考えていくうちに、うむいには新たな問題が持ち上がった。
確かに「その人」は、病気の人を治してあげたいという純粋な気持ちで人々を治療していた。
しかしその行列の中に、うむいとは違う意味の不純な人たちがいたのである。
その人が治療をしている行列に加わって、自分の番になってみると、痛みがなく病気でもないのに「治らない」と言って悪口を言っていた。
それだけでなく、その仲間たちが、よってたかって「その人」を非難したり罵っていた。
{ なんで?あんなことができるの❓ } とうむいは思う。
良いことをしている「その人」に向かって悪口だけでなく罵っているのだから、邪魔をしようとしているとしか考えられない。
お母さんだったら、恐ろしい声を出して怒鳴りつけるかもしれない。
うむいは、あんな高音のつんざくような大声は出ないけれど睨みつけることはよくある。
だけど「その人」は違った。
「その人」は、悪口を言ったり罵ったりしていた若い男女に向かって、睨みつけたり怒鳴ったりしなかった。
うむいには不思議でしょうがない。
もしそうだったら、相手にやられっばになしになるんじゃない❓

それに悔しいし許せないことだ。
たまたま周りの大勢の人たちがいて、騒ぎ出したからよかったと思う。

もしいなかったら「その人」は、いつまでも罵られ続けたり治療の邪魔をされたと思う。
{ そんなときどうするの? }
うむいはあのときのことを思い出して、そのときにズームをかけてみた。
すると「その人」の表情が見えてきた。

悪い人たちにもいい人にも同じように温和に接しているのが見えてきた。
{ 、、、これって? }
でもうむいは、さらに思い出した。
{「その人」の瞳でじっと見つめられたら、鈍感なうむいでも夢心地になる。
だから、あの悪い人たちもいつかはメロメロになるに違いない }
「そうか、そういうことだったのか」

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1-160 誓
その日、いつもより遅く、うむいは母のベッドで寝かされた。
母は後で来てくれて、手をつないで一緒に寝てくれた。
すぐにうむいは眠りが深くなっていった。
{ あぁ、、また「あの人」のことが観れるのかなぁ?}
うむいは「あの人」のことを想うたびに心が高鳴る。

今日も「あの人」のことを観たいと思っていたが少し違うようだった。
それは、、、。
しだいに古い古い昔の風景が開けてきた。
うむいの心に想っていた風景とは違う場所のようだった。
このあいだの「あの人」のところは緑のある風景が多い。
ここは緑はあるものの、どちらかというと茶色と黄色の空気が流れていて石造りの建物の多い乾いた感じのところだった。
それに「あの人」とは違う人だった。

「その人」は、薄汚れた白い布のようなものを巻き付けた衣服なのだから形は違えども少しは「あの人」と似ている。
だが「その人」を中心にして周りには、たくさんの人々が集まっていた。
大勢の人たちは、いろいろな古茶けて汚れた暗い色のさまざまな衣服を着ていて不規則に並んでいた。
「その人」は老人の身体に衣服の上から手を当てている。
しばらくすると手を当てられていた老人の顔に微笑みがおとずれる。
そして両手を組んで「ありがとう」という意味の言葉とともに頭を下げて、その場を離れた。
すると次の順番の老女は待てないかのように「その人」に向かってしゃべりだす。
「その人」はその老女の訴えを聴いているのかどうかわからないけれど、すぐにその老女のお腹に手を当てた。
しばらくするとその老女も微笑みがおとずれるのだった。

その人の手当てを待っている行列が少しずつ動いている。
まるで「その人」の周りを渦を巻くようにして列をなしている人々は、ひたすらその治療を待っているように見える。

年をとっている人ばかりでなく、子供を抱いた母親もいる。

何百人もいるように見える。
うむいは「その人」が何をしているのかと思い、すぐそばまで行ってみた。

それでもよくわからないので「その人」の脇近くまで行って「その人」の手の動きを見つめてみた。

不思議なことにうむいのことは誰も気づかない。
しかし「その人」は、うむいがすぐそばに来たのを知っている。
うむいもまた自分が「その人」に感じられているのがわかった。
それだけではなく「その人」に微笑みかけられたのである。
うむいは思わず「その人」の顔を見て驚いた。
{ なんて美しい表情なんだろう } と思った。

「その人」は長い髪をしたおじさんのようだった。
でもこんな優しい目をした人をうむいは見たことがなかった。
瞳の奥から得も言われぬ輝きと優しさが醸し出ているのがわかった。

表情だけでなく体全体から慈しみのある雰囲気が漂っている。
あの瞳に見つめられたら、くぎ付けになってしまう。
うむいは、このままいつまでもそばにいたいと思った。
もしかしたら「その人」の感じは「あの人」ぐらいかもしれない。
でも「あの人」はいつも厳しい目で修業をなさっている印象がある。
目の前の「その人」は人々に囲まれて誰にでもおだやかに優しく接している。
でも「その人」はお腹が空いているのをうむいは感じている。
それでも「その人」はニコニコして、順番を待っている人に接している。
うむいだったら「お腹が空いた」とお母さんやおばあちゃんに向かって言うか、騒ぐはずなのにと思った。
しばらくすると、うむいは背後側に突き刺すような視線を感じた。
それは最初、何かはわからなかった。
ただ突き刺すような視線が「その人」に向かっているのが不思議だった。
「その人」の治療はとても速いようだ。
うむいは、お腹が痛くなったときや風邪になったり病気をしたときには、おばあちゃんやお母さんに連れられてお医者様のところに行くことがある。

だけど待つ時間が長いし、体はいろいろと触られるし、ときには痛い注射をされることもあるから嫌いだ。
ああいうやり方は良くないと思う。

こちらは病気して苦しんでいるのに、あるお医者様は「うむいちゃんのお体を診たけど何でもないようだよ。きっとお母さんに甘えたくて痛いって言っているんだよねぇ?」といわれたことがある。

私の病気がわからないんだと思う。

あんなに調べたのに。

でもそう言っていながら、お医者様は私の嫌いなお薬を出したり、あの痛い注射をすることがあるのは、どこかおかしいと思う。

それでもお母さんやおばあちゃんは、そのお医者様にお礼を言ったりお金を払うのだから、もっとおかしい。

苦しんでいるのは私なのに。

でも「その人」は違う。

心から優しい。
「その人」のやり方を見ていると手を当てているだけで、しばらくすると苦しんでいる人が微笑みだして治るのだから、断然こっちのほうがいいと思う。
{ こういう方法なら、今度行く病院でもやってほしい }
と、うむいが思っていると、さっきのきつい視線を出していた若い男の順番になった。
その若い男は自分には痛みがあって苦しいということを「その人」に伝えてはいるけれど、うむいにはその若い男が病気でもなんでもなく、なんとなく悪巧みがあるように感じた。
「その人」はその若い男の気持ちがわかっているはずだけれど黙っている。

うむいにはそのことがわかった。
その若い男のそばには仲間の男女が何人かいた。
その仲間たちも意地悪そうな目つきで「その人」の様子を見ている。
彼らは「その人」が本当に病気を治せるかどうかを見定めようとしているし、なぜかしら嫌がらせをしようとしているのが、うむいにはわかった。
しかし「その人」は、疑いや悪意のあるこの人たちのことがわかっていながら拒否することもなく、その若い男のお腹に手を当てている。
しばらくするとその若い男は、騒ぎ出した。
「いったい、いつこの痛みは治るんだ」と言っている。
まわりにいる仲間たちも騒ぎ出し「すぐに治るという評判だから、このナザレの地まではるばる来てみたが、この野郎は嘘つきだ」と罵りだした。
「その人」に向かって、何人もの男女が悪い言葉を投げつけている。
しかし「その人」は、なにも応えずに黙って見つめているだけである。
しばらくすると順番を待っている後ろ側にいる他の人たちが、その悪口を言っている人たちに向かって文句を言い出した。
まだ順番を待っている人たちも早く治してもらいたいからだ。
その声が大きくなるにつれて、悪口を言っていた男女がようやく立ち去っていった。
うむいは、ほっとしたと同時に腹が立ってきた。
{ あの人たちは「その人」に悪口を言っていたが、病気でもないのに治せとはなんと悪い人たちなのだろう } とあきれた。
{ ひねくれた人たちというのは、いるんだなぁ }と思った。
しかし「その人」はそんなことがあっても怒らないで話を聞いていたのだから、どうしてなのだろうと思う。

それとも次の順番を待っている人のことを治療したいからなのかわからないけれど、うむいには不思議な気がした。
きっと怒ることをしない人なのだろうかと思った。
それに比べてお母さんはときどき鬼のような顔つきになって、うむいのことを怒ることがある。
ただお母さんが、うむいに向かって怒ることは「その人」に対して悪態をついたさっきの悪い男女とは、まるで違うことはわかる。

お母さんはうむいに意地悪をしない。
それにどうしても不思議に感じたことが、まだあった。
「その人」の治療をしてもらうために並んでいる大勢の人々の治療が終わるのには、とてもたくさんの時間がかかるはずだと思う。
{ いったい、いつまで「その人」は治療をするつもりなの?

あそこに並んでいる人たち一人残らず治療をするつもりなの? }と思う。

{ あんなに並んでいるのだから大変だよ。

休まないと疲れるだろうと思う。

だって、うむいはお手伝いをしたくてもできないし、、、}と思う。

それに「その人」は、誰からもお金も貰わずに治療をしているし、治療をしてもらった人は誰も「その人」にお礼をしようとはしない。
誰もが「ありがとう」と言って、とても感謝の顔をして立ち去って行く。
涙を流して感謝している人たちもたくさんいる。
もっと不思議なことに「その人」はお腹が空いているはずなのにいつまでたっても何も食べようとせず、人々の治療ばかりしている。
{ 少し食べて休んでから、また治療をしたらいいのに } と、うむいは提案したいと思った。
「その人」のお腹はペコペコのはずなのは、うむいにはわかるので心配している。
でもよく見ていると治療をされている人たちもお腹が空いている人たちが多いことがわかった。
{ きっとこの人たちは、食べ物があまりなくて貧乏なのかもしれない 。

もしかするとお金がなくて病院にも行けないのかもしれない }

うむいはこんなことは考えたことがなかった。
だから、うむいは {「その人」と列に並んでお腹が空いている人たちにも食べ物を届けたい } と思った。

{ きっとお母さんがうむいのための食べ物を冷蔵庫に入れてくれているはずだから、それを持って行ってあげられるかも } と思った。

それでどうしたものかと考えてみた。

だけど見ることはできるけれど何もできないことに気づいた。
それでまた、うむいは考え込んでしまった。

そして考えて考えて考え込んだ末に結論が出た。

「そうだ!! おかあさんが作ってくれた食べ物に愚痴を言ったり、不平を言うのを止めよう」とうむいは心に誓ったのである。

こんどはその「誓い」のことで、うむいの頭はいっぱいになった。

だからそのあとのことは、あらためて考えることにしたのだ。

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断定懐疑

1-159 断定懐疑
ミセスジュリアは優子と同様に夫の浮気調査で証拠が撮れ、相手の女の素性も判明させていたことだろう。
シンガポール警察では、早苗の事件はミセスジュリアの夫の王紅東と早苗の不倫関係が原因だったと判断し、早苗はミセスジュリアと李ガンスによって殺されたとの見解を発表している。
その根拠としてミセスジュリアの自宅金庫に保管されていたビデオなど証拠物から判断できたのだという。
だがミセスジュリアの夫の王紅東は、早苗よりも前に数々の女性との浮気が暴かれていたという。
ミセスジュリアの夫と数々の不倫女性たちにはどう対処したというのだろうか。
その辺の醜聞は聞いていないが、なぜ早苗だけが殺されたのだろうか?
李ガンスのほうは王紅東とミセスジュリアとの関係性や仕事での関係性があるとしても所詮、他人事のはずである。
しかし考えてみれば早苗が優子に送付してくれたジャニーズの嵐の台湾公演のときの宿泊ホテルから出てくるときの動画を撮っていたのは、李ガンスに間違いないと探偵社のチエさんは言っている。
シンガポールにいた李ガンスは早苗のために嵐が宿泊した台北の◎〇ホテルまでわざわざ行って早苗のために嵐の出入りを撮っていたのである。
その証拠もチエさんが発見した。
李ガンスがホテルから出てくる嵐の様子をビデオカメラで撮っていた時に、嵐の乗った車のボディにまさか自分の姿が反射して映っていたとは思いもしなかったのだ。
もしかすると李ガンスは、嵐のチケットや嵐の宿泊先の情報を入手していたのかもしれない。

確か早苗は「嵐のコンサートでは、次のソウルも上海もいい席が、なんとかとれそうなの」という意味の手紙を優子に送っている。
それほどまでにする何かが早苗と李の間にあったのであろうか?
それとも誰かの指示によるものだろうか。
もしかすると早苗は王紅東だけでなく、李とも関係があったとでもいうのだろうか?
早苗は、シンガポールの豪華客船のスィートルームを日本から予約していた。
それは誰かと落ち合うためだったのだろうか?
その客船が寄港した最初の観光地、マレーシアのペナン島で早苗は李ガンスと会っている。
早苗の予定では、その数日後に李ガンスとは仕事をする予定になってたはずである。

その数日前のペナン島で会う必要性があったのだろうか❓
早苗は予約していたスィートルームには、王紅東と落ち合うことにしていたのだろうか❓
王紅東は早苗と落ち合うために早苗に日本からフライトと客船や観光の予約を入れさせたというのだろうか?

しかし、この客船の大株主はミセスジュリアなのである。
しかも王紅東は早苗が観光したこの客船には立ち寄っていないことを考えれば、おかしい。
ミセスジュリアにとっては早苗は夫の浮気相手であるが、ひょっとすると李ガンスにとっては王紅東は恋敵だった可能性もある。
とすればミセスジュリアも李ガンスも同じように早苗を拘束しようとする気持ちも動くかもしれない。
事件は早苗が身ごもっていたということが大きなウエイトを持っていたのかもしれない。
シンガポール警察はミセスジュリアの方ばかり見ているが、もしかすると李ガンスも動機があったかもしれないのだ。
あのビデオの終わりの方に李ガンスが「何カ月になるんだ!」と早苗の方に向かって叫んでいた。
もし優子のこの仮説が正しいとすれば、シンガポール警察は、早苗の事件のすべてをまだ解明していないのかもしれない。
しかしすでにミセスジュリアは死んだ。
いまだその真相は発表されていない。

新型インフルエンザやウイルスだけでなく薬物使用した結果だと言われている。
謎の男、李ガンスは失踪したままである。
探偵社のチエさんが言うようにこの事件の鍵は李ガンスかもしれない。
もしかすると李ガンスが早苗をターゲットとして計略をしたとでもいうのだろうか?

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動機の意図

1-158 動機の意図
ミセスジュリアと李ガンスとの表情の違いを優子は思い出している。

ミセスジュリアは優子と織江と会った瞬間、何でもない初対面の表情をした。

しかし優子が早苗のことを耳打ちすると驚きの表情を見せ、ゼスチャアを交えながら関係を否定した。

一方、李ガンスは優子を見た途端、驚きの表情を見せた。

それどころか優子がミセスジュリアに耳打ちしただけでさらに嫌な表情を見せた。

ミセスジュリアも李ガンスも優子の隣にいた織江については何の感情も表さなかった。

ミセスジュリアが夫の浮気調査を日本で行ったときの映像に早苗と優子が映っていたとしても優子の印象は残っていなかったことになる。

あくまでもターゲットは夫と浮気相手を調査することだから、ミセスジュリアにとっては早苗の様子が気になるところである。

ところが李ガンスは違う。

優子の顔を覚えていたことになる。

{ なぜ、他人で会ったこともない人間のことを覚えていたのだろうか? }と優子は考えている。

{ なぜ自分の時だけ李ガンスは、見ただけで驚きの表情を見せたのか? }

しかも優子がミセスジュリアに耳打ちしたときの彼女の驚きようと否定の仕方には、明らかに早苗の事は十分に知っていたことがわかる。

それを横で見ていた李ガンスのいぶかしげな嫌な表情を考えれば、早苗と優子の関連を知っていたのだろう。

もし、ミセスジュリアが浮気調査での映像を見ていたとしてもこのミセスジュリアと李ガンスの見方は違うことだろう。

ミセスジュリアにとって、早苗は夫の浮気相手。

李ガンスにとっては所詮、他人事に違いない。

しかし今思えば、あの時点ではミセスジュリアと李ガンスはすでに早苗を殺していたのだ。

殺人するほどの動機は、二人にあるのだろうか?

早苗の妊娠に気づいたとして、早苗が王紅東とのその妊娠の関連を否定したとしたら、どうだろうか?

少なくとも李ガンスには殺人の動機がない。

するとミセスジュリアの強い殺人動機は、夫の浮気相手と早苗の妊娠にあるのだろうか?

もし優子だったら、浮気している夫を問い詰めるだろうし、離婚をせずのままにする。

その浮気相手が子を産んだとしてもある意味で知らぬ顔をする。

その場合、その子は私生児になるだろう。

つまり、夫が浮気をして浮気相手が妊娠していたとしてもさまざな対処方法があるはずだ。

危ない橋を渡って殺人までするほどのことだったのだろうか?

もしそういう状況にミセスジュリアがなりつつあったとしたら李ガンスは止めたことだろう。

それでも早苗を殺すほど憎い気持ちが高まったということだろうか。

どうも早苗の事件を考えれば考えるほど疑問の気持ちが沸いてくる。

{ もしかしたら、私も警察も気づいていないことがあるのかもしれない }
優子はそんな思惟を進めていた、、、。

うむいの小さな人差しの指先が正面から優子に向いているのが見えてきた。
その指先が、しだいに大きく迫ってきて何かを感じられるのが不思議だった。
ふと自分自身のことを思い浮かべた。
優子は夫の純一に離婚を申し込まれていた。
優子は大学卒業後、就職したがその美貌に惚れ込んだ今の夫の泉純一と結婚した。
結婚当初の夫は会社勤めをしていた。
住まいは大阪の実家だったが、夫は勤めていた会社を退職し、仲間と共に東京で空気清浄機の製造販売するエアプリティという会社を興した。
独立し将来の夢に燃えていたものの、なかなか芽が出ない日々が続いていた。
ところが純一は空気清浄機の特許技術を持っていて、それが市場に認められたことからクリーンシェア社と提携することとなった。
夫と仲間はこの商機を逃すまいと必死で、そのクリーンシェアとの提携に力を注いでいたのである。
そのことで純一のエアプリティ社はクリーンシェア社との新しい空気清浄機の共同開発することになった。

それからは軌道に乗っていったというより純一のエアプリティ社は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しているのである。
そのことで夫の純一の全国への出張は多いものの、家庭を守る優子はそれなりの幸せを感じていた。
うむいの子育ても自分の実家のある東京だから、何かあると実母が手伝ってくれる。
ところが夫が仕事で日本各地に出張しているうちにどうも様子がおかしいと感じ始めた。

優子は夫の浮気を感じたのである。
ミセスジュリアと同じ立場になる。

夫、純一は仕事柄、お付き合いで水商売の店に出入りするのはよくあったが、それほど優子は気にしてはいなかった。
しかし特定の女性と付き合いをしていると感じてからは、いままでの夫への信頼性が崩れていった。
それを親友の早苗に相談したところ、早苗の勤めていた会社と提携している探偵社を紹介してくれたのである。
優子の夫の調査をしてみると、やはり特定の女性と浮気をしていた。
その証拠もとれ、相手の女の素性も判明した。
そのころから夫は離婚を言い出したので、夫婦での話し合いは持たれはしたが、優子は相手にしなかった。
優子は夫や背後にいる女の言いなりになるつもりはなかった。
夫の不貞なのに条件を提示され離婚したいという夫の要求通りにはいくはずがない。
こちらは浮気の証拠を撮ってあるから、裁判しても何にしても勝つに決まっている。
話し合いの決着がつかないまま夫は、しだいに家に寄り付かなくなり、とうとう家に帰ってこなくなった。
そんな状況に優子としては夫の首に縄をかけて連れてくるような策は考えることはできる。
夫や相手の女のことを社会的に抹殺するようなことも考えられる。
女は怖い生きものである。
だが優子はその気になれなかった。
優子の性格が熱情的で間違ったことが嫌いという一面があるものの、ある意味、淡泊な性格だったからかもしれない。
ある期限内であれば慰謝料とか、さまさまな対処方法をとることができるはずだ。

優子は気持ちの悪さを感じている。

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推考

1-157 推考
優子とうむいの遅い夕食の場だった。
うむいのゆったりとした食事の様子に いらいらしてきた優子だったのだ。
うむいが持っているスプーンを取り上げた優子は、おかゆをすくい、うむいの口の中に差し込んだ。
そして間をおいた二度目には、強引に口に押し込まれることを予想したうむいは「やめて」と抵抗するような手の仕草をしているように見えた。

しかし何かしら優子は意味の違う感覚があった。
眼前にうむいが立てた右手のひらを見つめているうちに優子は思わず息をのんだ。
それは、、、
うむいの片手から醸しで出たものだった。

その隻手の延長線上に優子の脳裏に浮上してきたものがあった。

それは早苗はお腹の子に対しての愛情の向け方と優子がうむいに向けている感情の違いだった。
優子は先ほど泣いていたときは落ち込んではいた。
それがさらに深みに落ち込んでいくような感覚になってしまった。
自分のいたらなさを感じていた。
ところが優子の愛情といらいらしたその感情がぶつかり合う中で、うむいの片手を見つめているうちに何かが浮上してくるものがあったのである。
しかもその刹那、優子には疑問が沸き起こった。
ミセスジュリアと夫の王紅東は結婚後、まだ子供がなかったという。
ミセスジュリアは、いつしか夫の浮気相手としての早苗が妊娠していることに気づいた。

しかしそれでも早苗を殺すようなこができるものだろうかという疑問だった。
激情することは誰しもある。

それは人それぞれだろうし民族性や考え方からのも違いもあるだろう。
ミセスジュリアが毎日のようにお酒を豪放に飲み、客船で見せていたような明るく気安く人と接することができるのは、本人の性格もあることだろうが家庭環境などのなせることかもしれない。
環境的な慣習的な穏やかさと明るさが、逆に怒りとして激して作用するときには、人は思いもしない行動をすることがあるのかもしれない。

しかし夫の浮気相手を拉致、監禁、さては殺人まで行うだろうか❓
ミセスジュリアの夫はちょくちょく浮気をしていたと聞く。

その浮気相手たちに対して、ミセスジュリアはどうしていたのだろうか❓
その新たな浮気相手が日本人女性の早苗だった。
その早苗がシンガポールに仕事で来るときに罠を仕掛けていたのだろう。
ミセスジュリアは会う前から罠を仕掛けていたとも言える。
なぜだろうか、、、、。
ミセスジュリアは早苗が宿泊していたシンガポールのホテルに会いに行ってもよかったはずである。
しかし早苗の観光の途中に李ガンスと共謀して、自分のクルーザーにおびき寄せている。
それは手の込んだことでもあるし、手間もかかることだった。
そこに優子は早苗の事件の計画性と違和感を感じていた。
ミセスジュリアと李ガンスは早苗をクルーザーにおびき寄せて、拉致し監禁している間に早苗の替え玉を用意して客船に侵入させた。

それは早苗の持ち物をすべて持ち去ることと、早苗が行方不明になっていないという状況を作っていることになる。
さらに日本にある早苗のマンションにまで誰かを行かせて、そこでも早苗の物を窃盗していたのだ。
早苗に対してのミセスジュリアの怒りは推察できるのだが、その先の行動には何か不自然さが感じられた。
確かにミセスジュリアはいしつか早苗の妊娠を知ったのかもしれない。
それでも殺人という行為まで及ぶというのはやはり尋常なことではない。

人は危ない橋を渡りたくないものである。
しかしミセスジュリアと李ガンスの二人はやり遂げたのである。
早苗の殺人事件はどうしてもミセスジュリアだけの策略には感じられない。
{ そうだ!あのとき、、、}
それは、客船ピュアプリンセス号のパーティでのひとときだった。
あのパーティのとき、船の大株主であるミセスジュリアの誕生日を祝うこととなった。
そのミセスジュリアと船のお客たちが次々に挨拶をしている場面だった。
あのときにミセスジュリアとその隣に立っている李ガンスが優子と織江の順番になり、挨拶を交わした時の二人の顔の表情を思い出していた。
あのとき、、、、、
優子の顔を見て握手をした時に驚きの表情を見せたのは、ミセスジュリアではなく李ガンスだけだった。
もしミセスジュリアが夫の浮気調査をしたのであれば、依頼された探偵社か、あるいはどこかが早苗の行動調査をしたことだろう。
早苗の行動調査をし、たまたま優子と会っていたときの行動も撮影されていた可能性が高い。
しかし、もし写された二人の映像をミセスジュリアが見たとしても優子のことはさほど印象には残らないだろう。
なぜならばターゲットは早苗だろうし、友達らしい女性の優子を見てもそれほど関心がないはず。
さらに李ガンスにとってもさらに関心はないはずなのだ。
そのことはあの客船のパーティのときのミセスジュリアが優子の顔をみたときの表情に現れていた。
ミセスジュリアは優子と織江には初めて対面するような表情であり、にこやかに接していた。

自然だった。
そこでミセスジュリアは優子たちのことは知らなかったことがわかった。
しかし優子が一言、早苗のことを耳打ちするとミセスジュリアは先ほどとは違い、一変して驚きの表情を見せた。
ミセスジュリアは本来、早苗のことを知らない他人事のはずなのにである。
優子の続けての二度目の耳打ちにはミセスジュリアはジェスチャアまでして早苗のことを否定したのだ。
そのことでミセスジュリアは早苗のことをよほど知っているばかりでなく、明らかに何かがあったことを示唆させたのだった。
最初、優子を見て驚いた様子を見せたのは李ガンスのほうだった。
隣にいた織江に対してはそのような表情は見せなかった。
優子を見た瞬間、驚きの表情を見せ、優子を見つめていたかと思うとそれをさとられたくないかのように下を向いていた。
自分が見られたくなかったからかもしれない。
しかし優子がミセスジュリアに耳打ちした途端の李ガンスとミセスジュリアの驚きと訝し気な表情は忘れられないほどだった。
そのことは優子の隣にいた織江の話でも合致するのだ。

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ふと目の前のうむいは食事が終わっていた。
すでにゆったりとしていて、お気に入りのおもちゃに触っている。
そんなうむいを見て優子は我に返ったような気がした。
日常の何気ないこの静けさが、こんどは幸せのひとときに感じられてきた。
先ほどまでのいらいらした感情が嘘のように消え失せていた。
{ 先ほどの興奮した感情はいったい何だったのだろう。
早苗のことを考えるあまり、感情が高ぶったのだろう } と優子は思った。
どっと疲れが出たのか、へたへたとダイニングの椅子に座った。
するとうむいは立ち上がり、右手人差し指を優子に突き出した。
「なに、、?」

隻手の音

1-156 隻手の音
思いもかけぬことだった。
早苗は妊娠していたことを優子は予想もしていなかった。
早苗はクルーザーの中で何日も異国人に詰問されていたことだろう。
罵倒され、侮辱されたことだろう。
、、手錠をかけられ、、、孤独の中にいたはずである、、、、
早苗の行動が筒抜だったはず、、、
しかも罠をかけられていたとは、、知る由もない。
誰も助けに来てくれないただなかにいた、、、
暗闇の中には風と波音だけが聞こえていたかもしれない。
不安と恐怖が早苗を襲っていたのだ、、、、
恐怖は目に映るものだけではない、、、、
目に映らない恐怖もある、、、、
それとは別の恐怖もある。
人に対する不信、人への恐怖、、、
それらが恐ろしいまでの憎しみに昇華する、、、

互いの憎しみが交錯する。
人が人ではなくなっていく、、、
しかし早苗は守っていたものがあった。

だがすべてが殺されるかもしれないと感じたとき、早苗は、、、
、、、、、、、
優子は自分の身体を支えていた両手のひらを硬く握りしめた。
流れ落ちる涙が、目の前のまな板にある切り刻んだ野菜の上に落ちていく。
、、、、、、、
、、、、、、、、、、
優子は、ふと我に返った。
、、、、、、涙をぬぐう、、、
うむいは、まだダイニングテーブルでスプーンを使っておかゆを食べている。
「うむい、まだ食べてるの?」

優子は少し苛立った様子で声をかけた。
うむいは、いつものようにぐちゃぐちゃと口を尖らせたりしながらゆっくりと食べている。
「早く食べなさい、、、」

語気を強める。
「、、、、、」
「返事は?」

と優子は怒気を強める。
「、、、、、」
「うむい、いつまでぐずぐずしているの、早く食べなさい!」
いつもとは違って優子はいきり立って近づいった。
優子は座って食べているうむいの向かいに立って、うむいの持っているスプーンを取り上げた。
うむいはきょとんとした顔で母の優子を見上げる。
優子はうむいを睨みつけた。
優子はうむいの御飯茶碗に残っているおかゆをスプーンですくい、やおら、うむいの口にねじ込もうとする。
うむいは変な顔をしながらもおかゆを呑み込む。
それを見た優子はスプーンでおかゆをすくって、もう一度うむいの顔に近づける。
うむいの顔にスプーンを近づけようとしたその刹那、、、、
うむいは右手のひらを優子の顔前に縦に突き向けた。
{、、、うっ、、、} 

一瞬のうちに優子の身体が固まる。

その眼前に迫ってくるその手を優子は見つめている。

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焦燥

1-155 焦燥
優子は実家で預かってくれていた娘のうむいを連れて自宅に戻った。
今日は何やかや忙しくて夕食が遅くなってしまった。
うむいはダイニングのテーブルでおとなしく食べている。
優子は台所で自分の食べるものを作りながら考え事をしている。

ミセスジュリアの自宅金庫からビデオが発見されたという報道がなされるとシンガポールから日本へもすぐに伝わっていた。
しかしビデオの存在が報道されたものの詳しい内容は報道関係者に知らされていない。
シンガポール警察側によると、ビデオを見る限り、愛早苗という日本人女性の殺害事件の真相は「不倫関係のもつれ」との判断を発表している。
その犯人は香港からきていたミセスジュリアと李ガンスの共謀で行われたという。
そしてこの事件にはその他に協力者が存在していると発表された。
ミセスジュリアは客船で新型インフルエンザウイルスの陽性が発覚した。

ところが、その深夜から翌日の朝早くの間に部屋のベランダから飛び降りて死亡したというショッキングな事件だった。
そのミセスジュリアの遺体からは新型インフルエンザのウイルスの陽性だけでなく薬物反応まで出たというのだから、シンガポールでは大騒ぎになった。

シンガポールは薬物や武器に関しては非常に厳しい捜査をしたり措置をとる。
しかし警察がミセスジュリアと王紅東の自宅の捜索をしてみると薬物は発見されなかったが、ミセスジュリアの部屋の金庫から愛早苗とミセスジュリアと李ガンスとのやり取りの映像ビデオが発見されたのである。
そのビデオには約一年前に起きた愛早苗という日本人女性の殺害事件の概要が映っていた。

はからずも早苗の事件が再浮上したのだ。
急遽、この事件のミセスジュリアの共犯者とされた李ガンスを探したが行方が皆目わからない。

李ガンスは、ミセスジュリアの死亡事件の重要な参考人とされていたはずである。

その二つの事件に関わる人物が行方不明になったということに、警察側の管理体制の甘さを指摘されている。
これではシンガポール警察の面目がつぶれそうになっている。
そこで被害者が日本人女性ということもあり、シンガポール警察は日本の警察に情報を提供しつつ協力を求めた。
当時のシンガポールは他国地域まで捜査の手を伸ばすことのできるインターポールという組織を持っておらず、自国他国を問わず犯罪捜査をすることは容易ではなかった。
しかし日本はアジアの中ではいち早くそのインターポールの組織を創立させていたのである。

国際刑事警察機構 (英:International Criminal Police Organization略称:ICPO)は、国際犯罪の防止を目的として世界各国の警察機関により組織された国際組織である。
日本国内では頭文字「ICPO(アイシーピーオー)」の略称で呼ばれることが多いが、海外ではインターポール(INTERPOLの名称で呼ばれることが多い。
日本は1952年(昭和27年)の第21回総会で加盟し、国家中央事務局は警察庁である。
なお国際指名手配はあくまで捜査への協力要請にすぎないため、国際指名手配を受けたからといって日本の警察がそれだけで逮捕することができない。
相手国と犯罪人引渡し条約を結んでいたり、国内法に違反していない限り、普通に生活している者もいる。
そんななかで安心安全な国づくりを目指しているシンガポールの地で、うら若き日本人女性が拉致され監禁された上に殺害されたというショッキングな事件が起きたのだ。
シンガポールでは日本人女性に対するこの事件の非情な殺し方に恐れと怒りの声が上がっている。
そしてこの早苗の殺害事件の原因が国を超えた不倫だったと警察が発表したものだから、シンガポール中がてんやわんやの騒ぎになった。
しかもそれを実行した人たちが、もともとのシンガポール人ではなく、香港から進出してきた者たちの仕業らしいことがわかるとシンガポール人たちは彼らへの不審さが増していた。
シンガポールの報道関係者からは、李ガンスなど犯罪者の一味の失踪をなぜ防げなかったのかという批判が持ち上がっている。
政府としてもさまざまな批判を避けるためにもインターポール組織がないことを逆手にとって日本の警察側に協力を求めた。
やむを得ず日本のインターポールの組織に協力してもらうことで、シンガポールは国を超えた犯罪に対処しようとしている姿勢を見せているわけである。

一方、日本でも不倫のもつれが原因で海外で殺人事件が起きたということが大きな話題になっていた。

インターネットなどでは香港人やシンガポール人や日本人などの国民性や民族性の相違まで話題が進展している始末だった。
それでもある意味ではシンガポール警察側の口は堅い部分があった。

ビデオの詳細な内容を知らせることはなかったからである。

あくまでも「不倫関係のもつれ」という認識を持っているという言葉だけであり、ビデオの内容を知らせることはなかったのである。

この事件は個人的事情と捜査を続けているという理由から、その詳細は知らせないということだった。

それにつれられるように協力の要請を受けた日本の警察もさすがに報道陣に流すことはなかった。
しかし状況次第では明らかにされる恐れはあった。
失踪している李ガンスなどが捕まえられたあかつきには、ミセスジュリアの死亡事件と愛早苗の殺害事件が明らかにされるなかにその詳細が発表されることはありえる。
しかし現時点からすればシンガポール警察側は事件とは言え、非常にタイトな個人的事情が含まれているという認識があった。
早苗の両親には秘密裏にシンガポール警察から正式ルートを通じて、ミセスジュリアの自宅金庫に保管されていたビデオと警察からの文書が届いていたのである。
その文書には殺された早苗は妊娠していたとシンガポール警察では判断しているが、その個人的事情ゆえに報道関係者には発表していない旨が記されていた。
それはシンガポール警察及び日本の警察は、現時点では両国の報道関係者には知らせていないという姿勢の意味になる。
そのことは早苗の両親にも親友の優子たちにとっても人情的に思えていた。

優子は後ろ姿で台所に立ち、まな板で野菜を切っていた、、が、、、

今、手を止め、そして両手をついて声もなく泣き出した。
その後ろ側のダイニングテーブルでは、うむいが静かに食事をしている。

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深刻な現実

1-154 深刻な現実
早苗は死の寸前に真実の「愛」を悟っていたに違いないと優子は想像していた。
それは優子の親友の早苗への想いを重ねた甘い考えだったのではないだろうか。
だがこのビデオ映像を見て推察していくと、早苗の身に迫っていた深刻な現実があったのだと思い至った。
お母さんがおっしゃるように早苗を拘束した犯人は当初、早苗の妊娠に気づいていなかったのではないだろうか。
おそらく早苗は身の危険を感じながらも気づかれないようにしていたはず。
早苗としては、ここをやり通せば解放されるかあるいは逃れられると思っていたに違いない。
早苗は犯人たちに対して特別に悪いことはしていないはずなのだから。
確かにミセスジュリアにとっては、早苗は憎い夫の浮気相手だったから、とっちめてやろうとしていたのかもしれない。

だが何かの事情が変わったのかもしれない。
早苗のほうは、まさか自分が拘束されたり殺されるなんて考えもしていなかったはずなのだ。
李ガンスが早苗に向かって「何カ月になるんだ!」と怒鳴っていて、その声に早苗は思わず自分のお腹を守ろうとするような仕草をしていた。
その前後に早苗を拘束した犯人たちは早苗の所持品や鍵やパスポートまで手中にした。

この前後からは計画的な動きをしている。
早苗になりすました替え玉は客船に入って何食わぬ顔をして早苗のスィートルームに入ったのだ。
そしてその部屋に置いてあったすべての荷物も盗んで最終地のシンガポールの港で降りた。
挙句の果てに日本にある早苗の大塚のマンションまで誰かを行かせて様々な物を盗んでいる。
そして早苗は殺されてしまった。
ミセスジュリアにとって、早苗は夫の浮気相手だったというだけのことではないのか❓
犯人たちは早苗が妊娠していたことをいつ知ったのかが疑問に残るにしても早苗を殺すに至る理由がわからない。
その妊娠を知ったとしても、いたいけな日本の女性を拘束、監禁、殺害する理由がまったくわからない。
こんなことまでされる早苗と犯人たちとの間に何があったというのだ?
ミセスジュリアと李ガンスは異常者だとしかいいようがない。
親友の優子も母親の恵子も早苗が身重だったことは知らなかった。
実際の早苗は、拘束されている初めの頃はさほど深刻には思っていなかったであろうが、拘束されていくうちに不安が増していったに違いない。
自分の不安と危険性が増していくにつれ、自分と自分が宿している子をどうすれば守れるかを必死で模索していたはず。
「あのう、、優子さん、、、」
「はい、、」
「共犯者の李ガンスという男はまだ捜索中なのでしょう?
それで、ミセスジュリアの夫はどうなっているのでしょうか?」
「はい、李ガンスも夫の王紅東とも警察からの取り調べは受けました。
王紅東とミセスジュリアのシンガポールの自宅なども相当厳しく捜索を受けたはずです。
それでこのビデオはミセスジュリアの自宅金庫の中から発見されたのです。
このビデオで早苗さんの事件の概要がわかったのです」
「でもミセスジュリアという女性が死んだ今、共謀者の李ガンスの行方がわからないままですよね」
「えぇ、失踪しているとのことです」
「私ね、、王紅東から直接、話を聞きたいのです。

早苗をどう思っていたのかを」
「私もミセスジュリアが船で死亡した際にシンガポール警察を通じて、ミセスジュリアの両親と王紅東に会えるように要請しました。
しかし私は彼らにとって会いたくない人物の一人でしょうから、いまだにどちらからも連絡はありません」
「とすれば、警察が李ガンスを捕まえるしかないということですね」
「そうだと思います」
二人は考え込んでいた。


その頃、、、、。
このコンビニエンスストアの周辺で変な噂が広まっていた。
「ねえ、さっき、、、女の人、あの家に入って行ったわよね」
「見た見た、きれいな女の人だったわよね」
「ねぇ、あそこのうち、コンビニやってるし、お金あるんだろうけどさ、、
娘さんが殺されちゃったんだよ、ねえ」
「そうよ、、その話で大変よねぇ」
「そうそう、息子が跡をとるらしいけど、、でもあそこの息子の嫁のこと知ってる?」
「何?」
「あのお嫁さん、由美さんていうのよ、その由美さんが、おかしいのよ」
「何が?」
「私、見たのよ。

この間、変な男とパチンコ店で話し込んでいたのを」
「誰?どんな人?」
「どこでどう知り合ったのか知らないけれど、パチンコ店でよく見かけるわね、、
年の頃は40前後かしら、少し目つきのきつそうな男よ。
着ているものもそうだけど何か崩れた感じの男に見えるわ」
「へぇ、、、?」

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錯綜する意図

1-153 錯綜する意図 
私もお母さんと同じ意見です。
早苗さんは男性が既婚者とわかっていたら、関係を持つことはなかったと思うのです。
王紅東は過去にいろいろな女と浮名を流しています。
しかし早苗さんは王紅東のことはよく知らなかった。
それを考えれば王紅東は「自分は独身だ」という嘘をついていた可能性があります。
だとすれば早苗さんが王紅東との関係を認めたとしても不倫のつもりではなかったし、もしそのことを知っていれば関係を持たなかったと主張したはずです。
でもミセスジュリアからすれば、それは夫と早苗さんは不倫関係だと断定したに違いありません。
ミセスジュリアは資金に余裕がありますから、夫の浮気調査として日本の早苗さんのことまで調べていた形跡があるのです。
そして浮気の証拠を撮ったのか、それとも確信めいたことを知っていたのではないかと思います。
早苗さんはマレーシアのペナン島で客船から降りて観光した際に犯人たちに拘束されてしまいました。
しかし早苗さんはその日の夕方までには客船に戻らなければならないはずです。
微妙なところですか、その日、犯人たちは早苗さんを客船に返すつもりだったのか、それとも引き続き拘束するつもりだったのかはわからないところがあります。
ただ早苗さんの替え玉を用意していたことを考えれば、場合によっては引き続き拘束することも考えていたのではないかと思います。
犯人たちは早苗さんが王紅東との関係を証言をする映像記録を残したかったことがわかります。
何かあったときには夫や誰かに見せることもできるし裁判になったとしても申し分ない。
それにもしかすると早苗さんを社会的にも追い込む事さえ可能でしょうから。
しかもこの時点では早苗さんを拘束はしたものの殺害することまでは考えていなかったと思うのです。
殺害しようとする人間の記録を残そうなんて普通は考えないでしょう。もし殺害してしまったら、むしろ証拠に残るようなことはしたくないでしょうから。
しかし結果的にはこのビデオはミセスジュリアの自宅の自分の金庫に保管されていた。
ここには何か意味があるように感じるのです」
「むつかしいことはわかりませんが、優子さんは現地に行かれましたから、よくお考えのことがあると思います。
私の娘が拘束されて苦しんでいる様子を見て悔しくてしようがありません。
犯人が娘に無理に証言させて記録に残そうとするなんて、なんて卑怯なことでしょう。
そんなことをする人間が、記録した後に娘を殺すのですか?
娘がいったい何をしたというのでしょうか?」
「早苗さんが妊娠していることをいつの時点で知ったのかは重要かもしれません」
「娘と関係とあった王とかいう人間の子供だと断定したのでしょうか」
「そうでしょうね。
早苗さんの替え玉の女性を用意して船に戻らせています。
そして客船の早苗さんの部屋に入ってすべてのものを持ち去っただけでなく、誰かを日本に行かせ、早苗さんのマンションまで侵入して盗んでいのです」
「私どもとしましては、犯人を早く捕まえてほしいと願うだけです。

本当のことを知りたい。
そして、、、、、それに、、、、」
「、、、、、」優子は恵子の話の続きを知りたかった。
「それに、、あまりにも娘が不憫でなりません」と恵子は言いながら、言葉が続かない。
優子はじっとしている。
「娘は身ごもっていることをきっと隠そうとしていたのだと思うのです。
きっと犯人たちは娘が妊娠していることは知っていないと思っていたでしょうから」
やっと絞り出すようなか細い声で言った後、母は再び泣き崩れたのだった。

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事実の発覚

1-152 事実の発覚
「実は、、、これを見ていただきたいのです」と言いながら、

恵子はハンカチを握りしめながら、リモコンのスイッチを押した。
しばらくするとテレビに画面が現れる。
「、、、、、、、、、」
「あっ、、、、これは!!!」
「これはシンガポール側から公式ルートを通じて私どもに渡されたものです。
ミセスジュリアという女性の自宅の金庫にあったビデオをシンガポール警察が見つけたということでした。
シンガポールと日本ではビデオの規格が同じとのことで手を加えていないというお話でした。
ここに映っている女と男については優子さんはご存じのはずです。
女性はミセスジュリアという人で、亡くなったということでしたね。
もう一人の男性は李ガンスという人で、ミセスジュリアとともに娘を殺害した犯人になります。
この二人によって娘は監禁されていたのです」
二人は無言のまま、じっとその動画を見つめていた。
「、、、、、、、、、、、、」
20分ほどするとビデオは終わった。
「お母さん、、もう一度、見ていいですか?」
「もちろんです」と恵子は再び、プレイのスイッチを押した。
優子にとって衝撃的な画面だった。
短い時間だったが、早苗と犯人のミセスジュリアとの会話が映っていたのである。
これは早苗がミセスジュリアの夫である王紅東との浮気の証言証拠としての映像を残そうとしているように見受けられた。
どうも早苗のよそよそしい態度が画像には感じられた。
早苗は王紅東との関係についてミセスジュリアと認めるとか認めないとか説明するような部分や言い争う言葉が一つもなかった。
英語と日本語の通訳を李ガンスが行っていた。
しかし、、、、、
そのビデオの終わり方のほうに衝撃的な場面があった。
李ガンスがビデオカメラを設置したまま早苗に近づこうとした場面だった。
その場面になると早苗が相手に対して身構えようとしているように見えた。
早苗は男が近づいてくるほどに、やおら両手を自分のお腹付近に持ってきている瞬間が映っているのだ。
そのときに「何カ月になるんだ」と李が怒鳴っているのだ。
しばらくするとこの動画は終了している。
優子は言葉が詰まった。
「このビデオであの子の身に危険性が迫っていたことを感じることができました。
でもあまりにも私たちにとっては衝撃が大きすぎます」
しばらく言葉が出ない恵子だった。
しばらくすると
「まだこのビデオのことは私たち夫婦しか知りません。
まだ息子夫婦にも見せていないのです。
それにこのことを話していいのかさえも踏み切れないでいます。
ただ娘の親友である優子さんにだけはお見せしておいた方がいいと主人が、何度か申しましたので、私も踏ん切りをつけました。
それで優子さんにここまでご足労いただいたのです」
「、、、そうでしたか、、こういうことだったのですね」
「この画面の終わり前までは、犯人たちは早苗さんに直接的な危害を与えていないように思います」
「そうですよね。
もしかするとこの時点では娘は助かるはずだったと私も思うのです。
娘とこの女の夫の王紅東という男と浮気したと証言すれば解放してやるとでも言われていたのだと思います。
それでそのことを信じて娘は自分の証言を映像に残すことに同意した。
この動画で娘は冷静に受け答えをしているように見えます。
このミセスジュリアのような高圧的で神経質な態度の人と言い争っても一つもいいことはないでしょうから。
しかし、、、拘束されたまま、、、、」と恵子は言葉に詰まった。
「そうですね。
お母さんのおっしゃりたいことはお察しします。
問題は、この動画で早苗さんがその浮気を認める証言をしたあとのことですね。
早苗に李ガンスが近づこうとしているときに早苗さんは身の危険性を感じたのか、自分のお腹の方を守るような仕草をしているところですよね。
女ならわかります。」
「はい、、、」
「おそらく早苗さんは、そのことを絶対に相手に感じられないようにしていたのだと思います。
しかし女ですから、身の危険を感じる時や何気ないところでつい、お腹を守ろうとすることを無意識にすることがあります。
どこかの時点で早苗さんが妊娠していることを見破られたということなのでしょう。
この画像には李ガンスは「もう何カ月になるんだ?」と怒鳴っている部分がありますから」
「そういうことだと思います。
娘は既婚者と浮気をするような子ではありません。
きっと男に騙されていたのだと思います」
「それで犯人はその証拠を調べるために日本にある早苗さんの大塚のマンションの部屋から、書類やパソコンなどを盗んだということでしょうか?
もしそうだとすれば早苗さんは、王紅東との浮気は認めたが妊娠は認めなかったとでもいうのでしょうか?
その証拠をとりたかった」
「、、、しかし、人はなんとむごいことができるものなのでしょうか、、、、」

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親の苦悩

1-151 親の苦悩
亡くなった早苗の父の愛啓介、母の恵子は長男夫婦とともに埼玉県でコンビニエンスストアを経営している。
コンビニエンスストアの経営はやはり人が重要なのだが、若い人は埼玉より、どうせ働くなら隣にある大都市の東京という意識があるのか、正社員として雇ってみたもののしっかりした人は定着できないでいる。
なのでアルバイト数人をシフトして家族経営をしているのである。
はた目から見るとコンビニエンスストアのフランチャイジーは苦労なく儲けているように思われがちだが、そういう面はあるもののそれなりの苦労はある。
息子の良太は親の心、子知らずというのか、学校を卒業してもこの店を積極的に手伝おうとはせず、かといってよその仕事に就こうともせず遊びばかりで頼りにならなかった。
むしろ年下の娘の早苗の方がしっかりしていて、暇を見つけては店を手伝ってくれてはいた。
そうこうしているうちに良太は何度か職を変え、親を心配をさせたが、自分より年上の由美を連れてきて数年前に結婚した。
できちゃった婚で、しばらくすると男の子が生まれた。
子供が授かれば、いままでのようにふらふらと遊びほうけていることはできない。
そんなことで結局は良太と妻の由美は実家のコンビニを手伝うことになったのである。
啓介と恵子にとって家を継ぐ男の孫ができたことで喜んだ。
それに嫁の由美は子供の世話をするにしても店を手伝うことができるので少しは助かる。
長女の早苗は大学を卒業後し、順調に東京の会社に就職をした。
親としては早苗が就職したとしてもいつかは退職してくれるものと思っていた。
そして、ゆくゆくは息子と娘にコンビニエンスストアの跡継ぎやら、二店目を開業してもらいたいがために、早苗にいい縁談があれば勧めていたのである。
しかし早苗の方は仕事が忙しいと言って、なかなか話にのらなかった。
早苗は兄に男の子が生まれると「都心に一人で住みたい」と言い出した。
親としては娘の早苗が都心での女の一人暮らしをすることを心配し「埼玉から東京までは、それほど時間はかからないのだから、実家から通う方が何かと便利だろう」と言って引きとめてはみた。
それに仕事で遅くなっても誰かが実家の最寄の駅まで迎えに行けるのだからと説得してもみたが、早苗の気持ちを変えることができなかった。
早苗は「やっぱり足の便が悪いし、夜遅いと疲れるから」と言って、一人住まいのマンションを勤務先近くに見つけたのである。
それでも心配だから週に一度くらいは実家に来るようにと言って、しぶしぶ承諾したのだった。
もともと早苗のほうでは母は体が丈夫なほうではないので心配していて、本当は実家から東京の職場に通う心づもりでいたのである。
しかし兄の嫁になった由美とあまり気が合わなかったのが本当の理由だった。
嫁の由美は長年、水商売をしていたという。
由美は一見、しまりやで主婦らしく立ち振る舞うかと思えるときもあるにはあるが早苗には雑な女に見えた。
パチンコが好きらしく、空き時間があると軽自動車を運転していそいそと出かけていく。
早苗はあんな人では先が思いやられると両親に意見を言ってはみた。
親もそのことはわかっていてもすでに子供もできたのだし、将来はこの店を本格的に手伝ってもらわなければと思っている手前、強くは言い出せないのだった。
そんな家族の様子を見て早苗は一度、実家を出て、一人暮らしを決心したのだった。
その日、優子が早苗の実家に到着したときには、母親の恵子が応対してくれた。
実家の隣にある店では、父親の啓介と息子の良太はアルバイトと共にこれから夕方の忙しい時間帯に備えながら仕事をしている。
由美は男の子の世話をするというので、実家の別室にいる。
優子と恵子は互いに簡単に挨拶を済ませた。
しかし今日の恵子を見て優子は内心びっくりしていた。
恵子の髪はあまり手入れをしていないように見えたし、頬はこけて憔悴している様子がうかがえた。
それにどこかにおどおどしている感じもする。
こんな様子ではコンビニのような仕事はできないかもしれないと思えた。
「優子さんには娘のことでたいへんお骨折りしていただいてありがたいといつも家族で話をしております。
それに娘は優子さんをとても頼りにしておりましたし、感謝しておりました。
私どもにとって娘が亡くなったことが、まだ昨日の事のように思えています。
人間って、たとえ何かが起きてもしばらくすると立ち直るものだと言います。
しかし私の場合はそう簡単にはいかないでいます。
毎日がつらく、試練にしてもあまりにも過酷なのではないかと考え込んでしまうのです」
そう言いながら恵子は頭を垂れた。
「おかあさん。確かに早苗さんの事件はたいへん悲しい出来事でした。
私も娘がいますので、お母さんのお気持ちは察しております。
私だけでなく友達もですが、いまだ早苗の死を信じられないでいるのです。
この間、私たちはご家族のご了解をいただいてシンガポールに行ってきました。

早苗が乗った客船にも乗ってきました。
いろいろなところで考えてみました。
人は誰しも何がしかのお付き合いをして生きています。
楽しくお付き合いをする人ばかりでなく、表面上のお付き合いも多いものです。

嫌いな人も出てくることでしょう。

それらは自分にとって知っている人のことです。

しかしまさか知らない人から恨みをかっていることを予想できる人はおりません。
そういう予想もできないことの中で私たちは生活をしていることを知りました。

それに一番怖いのはやはり人だということがよくわかりました」
「そうなんですよね」と応えながら、さらに肩を落とした恵子は話しを続けようとした。

しかしなかなか言葉が出ない様子に見える。
恵子はハンカチをじっと握りしめたままだった。
優子は、目の前にいるのは{やっぱり早苗のお母さんなんだなぁ}と思いながら見つめていた。
「それで、、、優子さん。
、、あなただけにはお話をしておいたほうがいいと思いました。
娘が本当に親友だと思っていたのは優子さんたちだけでしたから」
「それで何度も夫とは相談したのです。
私と夫だけで、誰にも話さないでいようと思っていました。

実は、、、、」と深いため息を吐いた。
声にならない嗚咽が漏れた。

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恋と不倫

1-150 恋と不倫 
喫茶店ウファの店長、宇多田は何かせわしい気持ちがしていた。
学生たちに囲まれて話をしている優子はときに笑顔を見せながら会話を楽しんでいるように見えた。
しかし学生たちの人数が多いために宇多田は優子に声をかける機会がなかった。
恋い焦がれていた優子が、いつのまにか結婚して、手の届かない遠い存在になっていた。
恋い焦がれている人のことは、頭から離れないものである。
若々しい学生のときの姿が、美しい女になり、いつのまにか豊かさが加わった優子の姿が眩しく見えた。

あの日、優子と早苗がこの店に来たかと思いきや優子だけが用事ができたと見え、店を出て行った。

店に居残った早苗に宇多田は声をかけたのだった。

それは、優子への想いをなんとか早苗を通じて伝えてほしいという、いわば消極的ではあるが願うような気持ちで近づいたのだった。
そんな宇多田の恋の悩みを早苗のほうは相談を受けるというより、優子が結婚をしていたということの説明役に徹しようと思っていた。
しかし酒の勢いもあったが、そんな宇多田と早苗は関係を持った。
宇多田は早苗と話をしてみると彼女なりに仕事や恋の悩みを持っていたことを知った。
そうしているうちにお互いの関係が続いていたのだった。
すると思いもしなかった感情が変化していき、互いに心を寄せ合うようになっていったのだった。
そんな早苗がシンガポールで事件に巻き込まれて殺されたことに宇多田は心を痛めていた。
{もう少し時間があれば彼女が悩んでいたことの相談にもっとのれたかもしれない。もしかすると事件を防げたかもしれない}と悔やむようになった。
早苗がシンガポールへと旅立つ数日前にも宇多田は会っていたのである。
そのときに早苗は使っていたパソコン用のメモリーをベッドの脇に置き忘れたのだった。
そのメモリーは先日、優子たち数人と共に喫茶店ウファに訪れた際に手渡した。

これは愛早苗さんが、この店にきた際に忘れたものという嘘をついたのだった。
宇多田は早苗との関係を優子には感じられたくなかったが、シンガポールへと旅立つ前の早苗の様子を優子たちに話をした方がいいのではないかと悩んでいたのである。
しかし、もし優子たちにそのような話をしたとしたら、
{そのようなことを早苗が他人に話すことかしらと宇多田との関係に疑問を持たれるに違いない}
優子にそんな疑問を持たれるのが嫌で、いままで宇多田は優子に連絡することができずにいたのだった。
そんなとき、今日、優子が大勢の学生たちと一緒にウファに訪れた。

昔の学生時代の優子の姿を彷彿とさせていた。
そんなうつろな宇多田は優子と話す機会が持てなかった。
優子が勘定を済ませ、店を出た時にようやく宇多田は声をかけた。

「今度、お話したいことがあるので、お時間をとっていただけますか?」というのがやっとだった。
優子は一瞬、意外な顔をしたが「はい」と答えて急いで去って行ったのだった。
というのは優子は学生たちと話をしているときに愛早苗の母親から電話を貰っていたのだった。
「遅くなってもいいので、こちらに来ていただけないでしょうか」というのだった。
幸い、埼玉にある早苗の実家は池袋からそう遠くはない。
「わかりました」と一つ返事で、早々に学生たちと話を終えて喫茶店ウファを出たのだった。
優子は何となく、もやもやとした気分でいた。
久しぶりの早苗の母親である愛恵子からの電話であったが、その声に何か不安げでせわしいような感じがしていたのである。
{何かあったのかしら?、、、}
シンガポールでの報道では早苗の事件の原因は早苗とミセスジュリアの夫である王紅東との不倫のもつれということだった。
早苗を殺害した犯人の一人であるミセスジュリアは豪華客船ピュアプリンセス号の大株主であり、その船の中で新型インフルエンザウイルスの陽性反応が出た。
その日の深夜、彼女は自分の部屋のベランダから落ちて死んだというショッキング出来事だったのである。
その死亡したミセスジュリアがウイルスの陽性だっただけでなく、薬物反応まで出たというのだからシンガポールでは大騒ぎになった。
その後、愛早苗を殺害した共謀者と断定された李ガンスは行方をくらましてしまった。
捜査は難航していたのである。
そのニュースの話題性に日本のマスコミも飛びついた。
さまざまな媒体やインターネットなどで、それらの事件の憶測と噂が流れているのだ。
マスコミが騒げばさまざまな人々が動き出す。
となれば遅きに失してはいたが日本の警察も動き出していたのである。

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緊張とリラックスの差

1-149 緊張とリラックスの差
「真剣勝負の場合は基本的にルールがないのです。
勝った方が生き残ります。
動物でもそうでしょう。
負けた方は大けがをするか、人生は終わりになるかもしれません。
人間ではそれを防ぐためにルールを設けてスポーツという形になっているのです。
社会では法律や社会通念などの中で生活しています。
しかしそれを乗り越える者たちが出てくる。
いわゆる異常者や犯罪者あるいは悪の存在です。
あるいは人生に立ちはだかる病気や事件など予想がつかないこともあります。
皆さんは、日頃、スポーツで鍛えていると思うのですが、こと試合となると緊張してしまいますよね。
勝とうとする意識がそうさせるのでしょう。
では自分が相手より力量があると思えればどういうふうになるでしょうか?
相手が小さな子供だったら、どうでしょうか?
緊張などをあまりしないことでしょう。
自由自在に相手に対して自分の力を発揮できるかもしれません。
あるいは相手を力任せにねじ伏せることができるかもしれません。
しかし逆に相手より自分の力量が劣ると思えたときにはどうでしょうか?
私たちが竹刀を使っているときと同じように心と身体の動きは自由にできるとは思えません。
緊張もすると思います。
ところが真剣になるといままでのその考え方が、もっと通用しなくなることもありえます。
それに相手との力量差がわからないとか、その差があまりないと思われるときには緊張の度合いがさらに高くなります。
技や体力などより、緊張の度合いの強いほうが負ける可能性が高くなるのではないでしょうか?
まして自分が相手との力量に劣るかもしれないと思ったときには最高潮の緊張をすることでしょう。
そもそも力量に差がありすぎると思っていたら、真剣勝負をしないかあるいは避けるでしょうね。
これは個人間でも組織間でも国と国の間でもそうでしょう。
でもここで考えてほしいのです。
では昔のサムライたちはどういう風にして日頃、訓練をしていたのでしょうか?
先ほど「納得いくまでの練習をすればいい」というようなお話が出ましたけれど、本当にそれは納得のいく練習なのでしょうか?
本当に安心できる練習なのでしょうか?
なぜかと言いますと、真剣勝負だったら負けたら死を意味するからです。
侍は、サムライ同士だと喧嘩をしたり刀を抜いて戦う場面は避けたいのが人情だと思います。
もし刀を抜くような状況になったら意地もあるでしょうから、なにがしか納得のいく決着をつけないことには収まらない。
とすれば喧嘩するにも戦うにも事前の心構えとか、闘うときの備えとか、さらにその先のことまで考えておくことが必要になるでしょう。
つまり日頃から緊張をしない自分をつくる必要性があることになります。
となると心のバランスをどういうふうにとっていくかを考えることになるのです。
余計なことになるかもしれませんし、こんな話をすれば何時間も何日もかかるかもしれませんのではしょって話を進めます。
要は私が学生から社会人になって、社会の通念やルールがあるにせよ、予想もしないことが次々に出てきたのです。
そんな経験をしていくうちに、何事か起きても少しでも安定した心で対処できるような人間になりたいと思ったわけです。
例えば、あなた方は十分に若さと健康と勢いがあります。
しかし今後は予想もしていない病気とか事件事故にあったりと、いろいろなことが起きると思います。
もしかすると絶望するような落ち込むようなことが起こるかもしれません。
年もとっていきますと大きな病気になるかもしれません。
極端に神経質になったり、気弱になったりするかもしれません。
でも考えてみたのです。
日頃から心の問題を考えたり訓練しておくのとしていないのとでは、まったく違う人生になると思ったわけです。
皆さんには、そのためにもスポーツを利用してほしいと思います。
つまり心のバランスをどういうふうにして保つかの鍛錬を技や体の訓練とともにしてほしいのです。
ところが、スポーツでの剣道では真剣ではないので、その実践感覚での心のバランスの訓練がおろそかになっているのではないかと思います。
どうしても技とか体のことを優先してしまいます。
それで私は、それらのことを自分の心技体について検証するために木刀で練習をしてみたいと思ったわけです」
学生たちは、うんうんうなずいたり、考え込んだりしている。
はてはつまらなさそうにそっぽを向いている人もいる。

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勝負のときの緊張

1-148 勝負のときの緊張
どう説明をしたらいいのかむずかしいですね。
スポーツでもなんでも試合というものは勝ち負けを競うものです。
皆さんも日頃の練習をしているときは、相手を打ち負かそうと互いに打ち合うでしょう。
ところが、大事な試合のときには緊張しませんか?」
「、、、、、」
「試合の時には練習の時のような思うような力が出るでしょうか?」と優子は学生たちを見渡す。
「やはり緊張はします」
「緊張すると自分の力が十分に発揮できるでしょうか?」
「できないと思います」
「それは誰でもそう思いますが、ではどうしたらいいでしょうか?
これは試合だけでなく、何でもそうだと思うのです。
例えば仕事や生活でも、特別なときには緊張して自分の力が出せないというようなことが、、皆さん、、、ありませんか?
どんなことでもいいですから、一人一人、言っていただけますか?」
「おっしゃる通り、僕は練習では強いと思うのですが、試合にはからっきし弱いです。悩んでました」
「僕は人前に出るとおしゃべりができないんです。どうしたらいいでしょうか?」

「私、恋い焦がれている異性の前では一言もおしゃべりができないし、、」
「私はね、カラオケで歌うのもあがり症です。普段は上手だと思うのですが、、」
何人かが言い出すと、どんどん発言してくる者が出てきた。
わいわい、数人が顔を見合わせながらおしゃべりも始めている。
「で、皆さんもそういうことあるでしょう。
でね、私はその勝負事や苦手な時の緊張はどうしたらいいのだろうかと興味を持ったのです」
「でも木刀での練習とどんな関係があるのですか?」
「ばかだなぁ、先輩のおっしゃるのは防具を着けて竹刀で打ち合うのと防具をつけないで木刀で打ち合うのとは違うだろう?、わかんねぇのか?」
「わかるよ、、でもその違いだけでしょ、、」
「何、言ってるんだよ。痛さが違うんだよ。それに危険だろ」
「まあ、それもありますけれど、皆さんが教えてくれた緊張とか苦手の話ですけれど、その場合、日頃の十分な力が出せないときに、どうすればいいかということですが、どうすればいいと思いますか、皆さん」
「、、、、」
「練習するしかないと思います。納得いくまで」
「そうですよね。納得するまで。その通りだと思います。
では仮に納得のいくほど練習したとします。
そしてそののちに今度は真剣で勝負するときになったとしましょう。
その場合はどうでしょうか?」
「、、、、、、」
「、、、、、」

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真剣と一生懸命

1-147 真剣と一生懸命
「泉先生、、教えてください」
「私?、、何を、、それに先生って言われたことがないし、

そんなふうに言われても、、、とにかく先生というのはやめて、、、」と優子は戸惑っている。
ここは池袋にある喫茶店ウファである。
優子は大学の剣道室の片隅を借りて、内田先生に相手をしてもらって稽古を続けていた。
数日、稽古で借りるつもりだったのだが、優子の想定していたことと実際は違っていたこともあり、日にちがついつい長引いているのである。
剣道室のメインの場所では剣道着と道具を身に着けた剣道部員の男女が「やー!」「面~ン!」「小手っ!」「胴~っ!」と相手に打ち込んで練習している音がそこかしこに聞こえている。
優子は木刀で稽古している真意を内田先生に話していない。
木刀同士で試合をするとなると本気なら大きな怪我することがある。
しかし内田先生は、優子は木刀での型の練習でもしたいのだろうと高をくくっているのである。
一見、ただの剣道の型の練習か何かに見えるのであるが、優子の想いはそうではない。
木刀を真剣に見立てて相手に向かっている。
そんな優子の稽古の様子を見ていた部員たちが、帰り支度をしていた優子に声をかけてきたのだった。
どうしても話を聞かせてほしいというのである。
剣道室でそのまま場所と時間を借りるわけにはいかないという理由で何度か断っていた。
ところが今日は部員たちが、優子の帰りの道すがらも追いかけてきて執拗に話を聞かせてほしい言ってきた。
そこで、優子は近くの喫茶店ウファに入って話を聞くことにしたのである。
ところが学生たちは数人かと思いきや、結局は20人以上の男女の剣道部員たちが、ウファに入店してきたのだった。
喫茶店ウファの店長の宇多田はびっくりした。
久しぶりにあこがれの優子が入店してきてどぎまぎしていると、そのあとに次々と若い男女が入店してきたのだ。
しかも優子を囲むようにして複数の席に座ったのである。
まだ夕方になっていなくて店は空いてはいたものの、こんな時間にいっぺんにたくさんのお客が入って来たのには驚いた。
驚いている間もなく優子たちが飲み物を頼んできたので、ウェイトレス二人と共に宇多田は注文された飲み物の支度に大わらわとなった。
「先輩、いくつか質問をさせていただきたいとみんなは思っていたのです。
あまり、お時間をいただくことはしないようにしますのでどうかよろしくお願いします」と言って、男子学生が頭を下げて話を切り出した。
要は剣道部の先輩の優子が、剣道具も付けず剣道着だけで木刀での練習を始めたのはどうしてなのかということだった。
「懐かしくなって内田先生と話をするうちに稽古をつけてもらおうと思ったのよ。

私もあなたたちの頃があったものだから、後輩の様子も気にはなっていたけれどね」
「はあ、ありがとうございます。
で、先輩、単刀直入にお尋ねしますが、なぜ木刀で練習をされているのですか?」
「そうねぇ、道具をつけるとわずらわしいこともあるし、そういう練習は考えていなかったのよ」
「でも練習は道具をつけないと思う存分、打ち合えないですよね」
「はい、打ち合おうとは思っていないのです」
「、、?、、それはどうして、、ですか?」
「剣道の型を練習しようとしたのもあるわね。それと、、、」
「、、、、」
「それと思うようにできないのよね」
「思うようにできないとは、、型ができないということですか?
それはどんな型なのですか、、、?」
「わからないわ」
「はぁ?、、」
「昔は剣術にいろいろな流派があったのは、みなさんご存じですか?」
「流派ってなんですか?」
「昔のサムライたちにはいろいろな剣術の流派があったのよね、それです」
「私たちは剣道の流派とかはここにいる誰も知らないと思います。
誰か知っているか?」その男子学生はまわりを見渡すが誰も手を上げない。
「漫画か雑誌で書いてあったのを見たことはあります。五輪書とか」と言いながら一人、手を上げた。
「そうよね、それは宮本武蔵の書のことね。
説明しようにも私にもできないけれど、昔はサムライたちは真剣勝負のところがあったのよ。
その本当の真剣勝負の時には切りあうのだから命を懸けることになるでしょう。
そこでどうするかをサムライたちは日々、考えていたわけね。
そこでたくさんの流派ができたというわけ」
「私たちにはよくわかりませんけれど、テレビとか映画ではサムライたちの切りあうシーンぐらいは見たことがあります」
「でしょう。だから説明しても無駄になりますし、私も実はよくわかっていないのです」
「わかりました。それではなぜ、先輩がこの数日間その型というものを練習される必要があるのですか?」
「そうね、真剣とは何かを自分自身に問おうとしているのかもしれないわね」
「僕たちも真剣に練習しているつもりではいますけれど、、もっとも木刀でなく竹刀ですけど、」
「そうですね、皆さんは一生懸命というか真剣に練習をされていると思います。
私もみなさんのそんな練習風景を拝見させていただいて微笑ましく思っていました」
「ありがとうございます。ですが、先輩は私たちと練習や試合をして下さらない。
それは練習や試合の意味合いが違うと思ってらっしゃるのでしょうか?」
「意味合いというか真剣とか一生懸命とかの中身が違うような気がするのです。
私たち現代人と昔のサムライとを比較すること自体は、ある意味で間違ってはいると思います。

それでみなさんと練習したり、勝った負けたの試合をしてみても意味がないと思っているのです」
「えっ、、、どういうことですか?」優子に20人の熱い視線が集まった。

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龍の泪

1-146 龍の泪
うむいは犬や猫が怖い。
幸いにおばあちゃんちには動物はいない。
この前、街中を母に連れられて歩いていると犬を連れた親子がこちらに歩いているのにびっくりした。
急いで母を引っ張って道をそれたのだ。
それにこの世にはあの世にない天気の変化がある。
今日は天気がいいと思っていたのに曇り空になったり、ときに雨になったことがある。
そんなとき、遠くから大きな音がしたのにはもっとびっくりした。
思わず体が縮こまったら、母が「あれは雷といってね、心配はしなくていいんだよ」と言ってくれた。
あとで、おばあちゃんに聞いてみると
「雷というのは怖いもんなんだよ。
雷の音が聞こえたらすぐに家に帰りなさい。

家から出てはだめよ。
雷に当たったら死んでしまうからね」と教えてくれたのだ。
母とおばあちゃんの話のどちらを信じるかは決まっている。
それに雷に当たったら死ぬ前にとても痛いはずだから。
そんな日は絶対外に出るものかと決めていた、うむいだった。
それに犬猫のこともおばあちゃんに尋ねたら、
「ペットはおとなしいと思うけど、やっぱり獣は獣だからねぇ。
急に噛みついたりすることもあるから気をつけなければならないよ。
それにお腹がすいていたり、怒ったりして急に噛みついてくるかもしれないからねぇ。
うむいはまだ小さいのだからそんなときは危ないんだよ。
噛まれたら病気になって死んでしまうんだからね」と教えてくれた。
やつぱりおばあちゃんの話が本当だと思う。
動物は確かに何をするかわからないような顔をしている。
それに四つ足なのだ。

人間は二つの足しかないのだから、うむいは逃げようとしても逃げられるものでないぐらいのことはわかる。
だから動物たちがいるようなところには絶対行かないことだし、見かけたらすぐに逃げることだと決めていた。
、、、ところが、、、
その人は、、、

この森のところで、昼夜を徹して修行しているのが見える。
それに何日も続けていることが、うむいにはわかる。
しかし昼間はいいとしても夜の暗闇は恐ろしいはずなのに何故そんなことができるのだろうかと、うむいは思っていた。
それに森の中には、いろいろな獣がうろうろとしているのだ。
深夜になるとさまざまな空腹を抱えた恐ろしい獣たちが、森の中で蠢いているのが見える。
{危ない、あの人の近くにいろいろな獣たちが動いている}

しばらくすると獣たちが動き出した。
低い姿勢になって、そろそろとその人のほうに近づいていく。
その獣のまわりにいる他の獣たちもぞろぞろと近づいていく。
{あぁ、、このままだとあの人は獣たちに食い殺されてしまう。早く逃げて!!}

うむいは恐怖心でいっぱいになった。
だがその人はまったく気づいていない。
だから逃げようとはせず、そのまま座したままなのだ。
{あぁ、、もう、逃げられない}うむいは見たくなかった。
獣たちはとうとうその人のすぐ近くまで来てしまった。
{もう終わりだ。誰か助けて、、}苦しくなったうむいは、その人を見つめることしかできなかった。

恐くて助けることができないのだ。
、、、、
しかしその人はそれでもそのままの姿勢でいる。

目をつぶっているから気づかないのかもしれない。
すると獣たちはその人を見つめながらその周りをぐるぐるとゆっくり回り始めたのだ。
{一斉にとびかかろうとしている!!!、もう逃げられない}その様子にうむいは怖さが最高潮になり思わず目をつぶった。
、、、しかし、、、
いつまでたっても獣たちはとびかかろうとしなかった。
何故なのかわからない。
{どうしてなのだろう❓、、}
獣たちはその人に近づいてクンクンと匂いを嗅ぐしぐさをしていたが、噛みつこうとはしなかった。
そうこうしているうちに獣たちがその場から立ち去って行ったのには、さらに驚いた。
{理由はわからないけれど助かった!}とうむいは思わず胸をなでおろした。
ところが今度は急に強い風が吹き、雨が降ってきたのだ。
獣たちはこの雨を予感して、この場を立ち去ったのだろうかとも思った。
ビュン、ビュンと風がさらに強く吹き始めている様子である。
夜空に暗雲が立ち込めてきて、とうとうものすごく強い雨が降り出してきた。
しばらくすると「ガガ~~ン、、」と大きな雷音が遠くから響いてきた。
{あっ、、雷だ}
雨足が強くなり、雷の音もさらに大きくなり数も増えている。
ガガ~ン、ガガ~ン、、ガガ~~ン、ガガ~~ン、雷が近づいているのがわかる。
{あの人のところに雷が落ちたら、今度は完全に死んでしまう}
ところがその人は雨が降っても風が強くても座していることを止めようとしない。
{いつまであんなことをされているのだろう?
早く立ち去らないと本当に雷が落ちてしまう}
うむいは気が気でない。
ガガ~~ン、するとすぐそばで大きな雷が落ちてきた。
今度は間違いなくその人のところに落ちてしまう。
その雷の音と雨と風の強さが恐ろしかった。

うむいはベッドの中で自分にかけてある掛け布団をじっと強く握りしめた。
とうとう、その時がきた。

あぁ、、雷が落ちてきた。

ガガ~~ン!!!
その人の頭のところに雷光が落ちていくさまがスローモーションのように見えた。
{あっっっっ、危ない!、死ぬ!!}、、、、、
、、、、とその時。

その人の周りを巨大な恐ろしい鬼のような顔と兜のような頭をした大きな長い尾ひれのある龍が激しいうねりを見せながら現れ、その人のまわりを動き回っているのがスローモーションのように見えた。
龍は一匹だけではない。
一匹はその人の周りをぐるぐると激しくまわっている。

もう一匹はうねるように上下にも斜めにも激しく動き回っている。
うむいはその様子をじっと見つめていた。
{あの人をこの龍たちが守っている}のが感じられた。

あんな怖そうな大きな龍が、あの人のまわりをぐるぐると泳ぐように動いている。
それを見つめていると、うむいは震えが止まらなくなった。
暗闇の中、激しい雨風と稲光の中で、その人のまわりを恐ろしい顔をして動き回っている龍たちの姿だった。

しかしそのうちに、うむいに向かっているかのように見えてきたから一瞬、目をつぶった。

再び、目を開けるとさらに巨大に見えてきたから、うむいの身体は縮こまった。

「あっ、、」と、うむいの時が止まっていた。

あぁっ、、、、、、

その龍の瞳から涙のひとしずくが落ちたのを観た。

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輝かしい瞳

1-145 輝かしい瞳 
うむいは母に連れられておうちに帰って来た。

母の使っているベッドに眠る支度をしてもらって眠ろうとしていた。
最近、毎日のようにいつも母に連れられて行くおばあちゃんちにはだいぶ慣れてきた。
おばあちゃんは優しいし、おじいちゃんとは最初の頃は話しずらかったけれど少しずつ慣れてきた。
というより、おじいちゃんはうむいに興味を持ったらしく、いちいち「うむいはこれは好きか?」とか尋ねてくる。
おじいちゃんの不愛想だった顔が、このごろ笑顔を見せてくれるようになったのは嬉しい。
しかし息子の光男という人は、少し変わっている。
うむいがおばあちゃんとおじいちゃんと一緒に食事をしていると大きい体の光男が二階から降りてくることがある。
一緒に食べるのかなと思っていると、こちらをじろじろと気にする様子でいながら冷蔵庫から飲み物を取り出してはまた二階に上がっていく。
{光男という人、変わっている}とうむいは思った。
それにしてもここも変わっている。
ここというのはこの世のことである。
昼とか夜などがあって、食事をしたりトイレに行ったり、眠ったりするのである。

あの世ではそんな経験はしたことがなかった。
うむいは夜の時間になると自然と眠くなるのだから不思議に思っていたのだった。
それらもずいぶん慣れてはきたけれど、あの世とは全く雰囲気が違っていた。
あの世では、いろいろな階層や領域があって人々の意識の高さなどにより、似通う人たちの集まっている場がそれぞれにある。

そこではいろんなことが自由にできる。
うむいのいたところの人々はいつも幸せそうな顔で生活している。
ところがこの世は違うようだ。
苦しそうだとか悲しそうだとか不満を持つ人たちがいっぱいいるらしい。
今日はなんとなく疲れた。

うむいは、母がいつも使っているベッドの中に寝かされて、うとうとと眠りに誘われていた。
しばらくすると、はるか遠くに浮かぶ美しい星雲に乗っている人が、見えないくらい小さい点からこちらに向かって次第に姿を現してきた。
うむいは、ときどきその人のことを観ることがあった。
その人は背後からあの輝かしい光のようなものに包まれており、そのまぶしい光は永遠へとつながっているように観える。
うむいは{なんて美しいんだろう}とくぎづけになった。

観るだけで幸せな気分になる。
その光の集まりの広さにも深みにもその輝きにも、えも言われぬさまざまな温かみのある命が感じられるから。
突然、その人は小さな森の片隅で足を組み座っている姿に変わっていた。
まるでときどき座る母の姿に似ている。
この人が修業をしていることは、うむいにはわかった。
しかしなぜこの人が遠い昔にこのようなことをしているのかが、わからなかった。
なぜならばこの人は神々の一人であり、何不自由なく過ごせることは、うむいにはわかるのである。

いろいろなことをされているらしく、どんなことでもできるのだ。

しかしこの人はそこでは自分の本当の力をほとんど使われていないようなのだ。
何故だろうかと思った。

それに何かしら苦慮されている。

よく観ているとその時代だけではなく未来の人たちだけでもなく過去の人々に対しても苦慮されているように観えてきた。
志というよりも使命感というものが伝わってくる。
その使命を達成するにはこの世との原理を会得する必要性を感じているようだ。
あの世とこの世には共通の原理と違う原理があるらしい。
下界であるこの世には肉体をはじめ、自然界の仕組みなどがある。

あの世とは霊界のことに他ならない。

霊界の原理はわかっていてもこの世のことはまだおわかりにならないとでもいうのだろうか?
しかしその不思議より、うむいにとって驚きが生じている。
その驚きはその人の志であり使命感だった。
その人の志は「すべてのものを永遠に救う」ことのように観えたのである。
永遠の命と命のつながりに生ずるこの世での苦しみを持つ過去現在未来の人々が、自らが解脱するにはどうすればいいかという志であった。
苦しんでいる人たちをただ単に救うということだけでは足りない。
苦しんでいる人たちがどうすれば本当の意味で救われるようになるのか、自分たち自身に会得させていくにはどうすればいいかに苦慮されているように観えた。
そのためにこの世での人々の苦しみの根源を知る必要があった。
この世での原理も会得する必要もある。
根源と原理と解決する方法を会得し、連綿として過去、現在、未来に生き続ける人々自身によって永遠に引き継がれていかなければならない。
しかもこの世あの世の人々だけではなく、生きとし生けるものすべてが会得できるようにするには自分はどうすればいいのかを苦慮されているように思えた。
この世では王に生まれ育ったが、もうその身分も志のために捨てた。
その人は、一介の青年になった。
自らのすべてをかけて人々と共に永遠に修行をされる覚悟に観えた。

王子のふくよかな面影はすでにない。
その白衣は薄汚れ、姿はやつれ果てて座していた。
しかしその瞳には輝かしい光を伴っている。

霊界からすれば、はるかに暗い下界のすべてのために、その瞳に宿る光にはあらん限りの力を希求する永遠の姿が観えた。

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心のありよう

1-144 心のありよう
優子は寝室で瞑想をしている。
夫婦のベッドには娘のうむいを一人寝かせている。
「出張だ」と言っては夫の純一はほとんど家に帰って来ず、まるで別居生活をしている感じがする。
夫と結婚して数年の間、これはあやういかなと思っていた時期もあったけれど、数年たつうちに急にお金まわりがよくなっていった。
聞いてみると扱っている仕事のプロジェクトが順調に軌道に乗り始めたというのである。
それも中堅の会社と純一の会社との契約ができて日本全国に支店を設けようとしているというのである。
もっとも純一の会社の支店網というのではなく、そのパートナー会社の支店の一部のスペースに純一の会社業務のメンテナンス部門を兼ねた取次所を設けたようなことだという。
相手の会社の売り上げも順調に伸びているらしく、パートナーとなった純一の会社もそれに応じて忙しくしているようなのである。
「出張」と言ってはほとんど家にいたことがない。
そんな純一をはたから見ると幸せそうに見えているかもしれないが、実情は違う。
お金は入れてくれるからその苦労はなくなってはいるが、夫婦の別居状態が続いているのである。
昔は毎日、家に帰ってきていた。

ときには夫婦は喧嘩もしていた。
しかし夫が浮気をしていたという事実が発覚したときは大騒ぎになった。
しかしその騒ぎが一段落し、離婚の話も続いてはいたが、妻の優子が離婚のハンコを押さないということがわかると夫は用事がない限り帰宅することがなくなっていった。
幸いにも住んでいるところがマンションなので隣近所とはお付き合いがほとんどない。
こんな状態が長く続いているとそれも慣れてくるものである。
純一が家に居れば、それなりにごたごたになりやすいし、幼いうむいにいい影響は与えない。
優子は時間が空くとその日の気分で座禅か、瞑想をする習慣を続けている。
今晩もうむいの寝姿を見届けた後、そばで瞑想をしているのである。
昼間は木刀を構えて相手に立ち向かった。
相手の木刀の切っ先のかすかな動きが真剣の刃を見立てているために優子は身動きできずにいた。
相手の真剣のかすかな切っ先の動きが、次の瞬間に自分に降りかかってくると思うと緊張の連続になる。
常に防御の体制をしていなければ、それは次の瞬間に死を意味することになる。
いや防御の体制をしていても防ぎきれないかもしれない。
しかも相手がどう動くか、まったくわからない。
これが面や小手をつけて竹刀で互いに「メーン」「コテー」「ドー」と打ち合っているのなら、相手がどう動くかくらいは予想ができるものである。
こちらも相手の動きの隙を見つけて、そこに打ち込むことは簡単である。
あるいはこちらから打ち込む様子を見せて、それに対応していく相手の動きに隙を作らせることもできる。
しかしこれが真剣で構えている相手だとそうはいかない。

相手も自分も互いに切ろうとしている。
一瞬の動きで死命が決することになる。
優子は昼間の剣道室でのことを思い出している。
相手の剣先の動きに目を集中させる。
その動きを目に焼き付けるようにして次の瞬間に相手に切り込むか、切られるかその一瞬にして判断し身体が動けるのかどうかが疑問に思えてきたのである。
人は目をつぶって身体を動かしてみたり、腕や手を思うようなところに停止させてみると思っていたような動きの軌跡をとらないし、思っている位置に停止したつもりが違った位置に停止していることが多い。
これはプロアマ問わずスポーツ選手や芸事でも同じようなものだと思う。
その誤差は身体と頭脳の認識が一致していないことからくるのだろう。
とすれば頭脳は心に直結しているがために心という軸をまず安定させなければならないことになる。
心の軸がずれてしまえば頭脳と身体に伝わってずれてしまう。
もともとの心が安定していなければならない。

頭脳と体の動きの認識のずれ以前の問題を解決しておく必要がある。
しかも相手との距離感の認識と切り込む間合いと動きが瞬時に連続的に認識できなければ切られることになるかもしれない。
それも相手の動きに合わせてこちらに優位に持ち込まなければ相手はそれを隙と見て切り込んでくるかもしれない。
その自分の心と頭脳と体のイメージと実際が一致することさえできれば、相手の様子を観ることがてきるようになるだろうと思う。
しかしここに問題が持ち上がった。
内実を探っていくと心と心の問題だと気づいた。
自分の心の問題と相手の心の問題である。
自分にとっては恐怖心だった。
死や傷つくことを予感する恐怖心を克服できるのかどうかが、まず前提にあった。
人が生活するうえではさまざまな不満や恐怖心やコンプレックスが生じている。
それが嫌なら逃げたりする引き籠ったりする生活を甘んじればそれもできるかもしれない。
優子は自分だけでなく人の心のありようを会得すれば多くの不満や困難や病などが克服できるだろうと考えていた。

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両刃鉾を交えて避くる用いず、好手還って火裡の蓮に同じ、 宛然自ずから 衝天の気あり

1-143 両刃鉾を交えて避くる用いず、

好手還って火裡の蓮に同じ、
宛然自ずから 衝天の気あり
「やゃ~~つ、いぇつっ、、!!」
優子は木刀を正眼に構え相手に対して気合を発している。
対する相手の男性も木刀を正眼に構え、じりじりと前に動いている。
「いゃあぁ!!、、」とその相手は鋭い気合を張った。
まわりにはたくさんの剣道部員たちが剣道着を身に着け、互いに竹刀で撃ち合っている。
その喧騒に武道室の隅でひときわ鋭い気合を発している二人だった。
優子は10年近く前に卒業したこの大学で所属していた剣道部を訪ねていた、
優子は大学生になって初めて剣道を学んでみたいと思ったのだった。
剣道部に入部してみると部員は男女がいたが、女性は少なかった。
女性部員は高校あるいは中学校で経験者した者が多く、優子のように初心者はほかには一人だった。
女性部員の着替え室に入るとその汗臭さに辟易したが、それもすぐに慣れた。
剣道着の匂いも当たり前のようになったころには面白みも見出した。
というのは卒業近くになると男女ともに辞める人たちも出てくる。
そんな中で地道に力をつけて初段までになり、「先輩、先輩」という下級生から頼りにされる存在になるとまんざらでもない笑顔を見せた。
その頃は鋭い勢いある気合の声が出たものだった。
優子は、思い出して久しぶりに卒業した大学の剣道部を尋ねたのだった。
昔の剣道部を世話をしていた内田先生が今は剣道部の顧問であり部長にもなっていて、優子の訪れを歓迎してくれた。
若々しい後輩たちが目を見張らせて優子の剣道着姿を見つめている。
優子のここを訪れた目的は変わっているのかもしれない。
というのは福田稔医師から見せられた治療と講義が優子の頭から離れなかったのだ。
その施術を見るまでの優子は、癌や重篤な病を治す方法は東洋医学では難しいのではないかと思っていた。
漢方薬は多少の効果はあるかもしれないが、癌にかかった患者の「気」を流そうとしたり、あるいは瀉血の作用で本当に治すことができるかどうかに大きな疑問を持っていたのである。
ところが福田稔医師の様子を目の当たりにした優子はいままでの考えが一気に崩されてしまったのである。
その日から優子は福田ー安保理論の書を求めた。
読めば読むほど興味深くなっていく。
素人ながら病が理論的にここまで解明されていることに目を見張った。
福田稔医師が行っている瀉血の治療は、あるいは気を流すという効果が病を治していくという説明に頷くことはできる。
その成果は白血球の数字やバランスに表れるというのである。
しかしあのやり方は素人には無理だろうし、医師でも簡単に真似のできることではない。
福田医師のような治療をしている人は世界のどこかにいるかもしれないけれどあまり聞いたことはない。
福田医師は「病のほとんどの人は気が鬱屈している。それが私には見えてくるから、その鬱屈した気の滞りを流すようにしてやれば、癌でも治るんだよ」と言いながら、患者の全身を次々と注射針を刺していくのである。
福田医師の癌患者は瀉血の治療を受けて体全体が血だらけになるのであるから、現代の医師から見れば到底納得のいくの方法には見えないだろう。
昔ならばいざ知らず、現代の医術というのは検査と手術と投薬が主流の西洋医学であるから、形のない「気」や瀉血など邪道とみなし学ぶ気持ちなどは起きる医師などはないのではなかろうかと思う。
しかし優子はその福田医師の施術に医学の未来を感じたのだった。
本物は西洋医学だけではない。
胎動しひらめきに似た福田医師の施術に優子にはある言葉が浮かんだのである。
「両刃鉾を交えて避くる用いず(りょうばほこをまじえてさくるをもちいず) 
好手還って火裡の蓮に同じ(こうしゅかえりてかりのはすにおなじ)
宛然自ずから 衝天の気あり」(えんぜんおのずからしょうてんのきあり)という禅語だった。
これは中国唐王朝後半、洞山良价(とうざんりょうかい)(807年~869年)禅師の碧巌録の第四十三則にある言葉だった。
興味深い言葉であり公案に思えた。
そしてこの日も以前、在学していた大学の剣道部に頼んで場所を貸してもらっていたのだった。
優子は木刀を真剣になぞらえて相手に対して気合を発していた。
相手は木刀を正眼に構えていて、優子には真剣が迫ってくるように見えている。
相手の真剣が目前に少しずつ近づいてくる。

身動きできず、じりじりと後ずさりするのだった。

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生体反応を観る

1-142 生体反応を観る
福田医師は二人の患者に施術をしたあとに再び、話を続けた。
「すべての病気は意志とは無関係に内臓などの働きを調整している「自律神経」の乱れによって引き起こされているんですよ。
この自律神経の交感神経というものが優位になると心臓の拍動が高まったり、血管を収縮させて、筋肉が緊張したり体は活動的になります。
もう一つの副交感神経というものが優位になると、心臓の拍動が低くなり、血管が拡張して血液循環が良くなり心身がリラックスします。

この交感神経と副交感神経のバランスがよく働いているうちは安心なんです。

この辺まではわかっていたんです。
ところがねぇ、私のちょっとした疑問点から始まって安保先生と共同で研究をすることになったんです。
膨大な血液データもとりました。
するといろいろわかってきた。
それはね、自律神経は内臓の働きを調節するだけでなく、体を病気から守る白血球の働きも調節しているということがね。
その白血球の95%くらいを占めている顆粒球とかリンパ球の働きを解明できたんです。
つまり自律神経の乱れが白血球の顆粒球とかリンパ球と連動していて、それを見ていれば病気になりやすいのか、治りやすくなっているかがわかるようになったのです。
それらのバランスが大事だと、そういうことがわかってきた。
これは大きな発見だった。
私からすると病気の大半はストレスからですね。
交感神経の緊張が病気の引き金となっていることが多い。
ところが、臨床で使っている西洋薬はいずれも交感神経を緊張させる作用を持っているんです。
だから、もともと交感神経の緊張状態で不調になっている人が、その症状をとりたいために医者から勧められた西洋薬を飲めば、血流はいっそう悪くなり、顆粒球の増加、リンパ球の減少が促進されて体は病気を治そうとする力がどんどんなくなるわけです。
つまりね、病気が起こりやすく治りにくい体調へと導いてしまっている現代医療の現状に私は気づいたわけだ。
例えば、鎮痛剤のアスピリンとかインドメタシンとかケトプロフェンがある。
体内にはプロスタグランジンというのがあって、なにかあるとこれが知覚神経を過敏にして痛みを起こし血流を増進させる働きをします。
ところが痛みの症状を抑えるために鎮痛剤を飲むとせっかく血流を拡張し増進させようとする働きをしようとしていた体が鎮痛剤によって阻害される。

痛みそのものは治まります。
しかし血流障害は悪化するんです。
根本原因が治らないどころか体の作用は血流を良くしようとしているのに薬で痛みは治まるが血流が阻害されることになる。
すると体は薬の作用を乗り越えて体内のプロスタグランジンはさらに働こうとして再び、痛みを起こして血流を良くしようとする。
するとまた薬を飲む。
また痛みは治まるが血流が阻害される。
という具合で薬が手放せなくなり長期に飲んでしまう。
すると長期に悪化した血流障害によってめまい、耳鳴り、胃炎、高血圧、糖尿病などの新たな症状や病気が引き起こされていくんです。
それでも体は乗り越えようとするために新しい症状が出てくるんです。
さらにその新しい症状をおさえるための薬が加わって、一層の悪循環に陥るわけです。
体内にあるプロスタグランジンというのは痛みを出して血流をよくしようとするだけでなく、交感神経の緊張を抑える作用もあるんです。
このプロスタグランシンの産生ができないと交感神経にブレーキが掛けられなくなって顆粒球が増えて活性酸素が大量に発生することになります。
その活性酸素が組織破壊をしてくるわけです。
私はね、発がん原因の多くは薬物の連続使用による組織破壊にあると考えているんです。
医療の現場で間違った治療が行われている原因は人が不快だと感じる症状をすべて悪者扱いにしてしまっていることにあるんです。
インフルエンザに罹ったときには高熱が出て節々が痛むし体がとてもだるくなるでしょ。
食中毒でも発熱し、下痢や嘔吐という症状がおこりますよね。
ウイルスや毒物が侵入すると体は反射的に副交感神経を緊張させてリンパ球を増やして血流を促進させて排泄能力を高めようとします。
その結果、発熱や痛み、下痢、嘔吐などの症状が出るのです。
それらは病気を治そうする生体反応だと自覚するべきなんです。
それにね、これが精神的ストレスだったら、安易に薬に手を出すべきではありません。

薬が毒になります。
それで薬で症状を抑えるのではなく、体が治ろうとする力、免疫力を助け、増強する工夫をするべきなんです。
いろいろやっていくうちに患者さんが教えてくれてね、効果が出てきたんですよ。
と話が続いていた。

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瀉法と補法

1-141 瀉法と補法
優子の予想を超えるものでした。
東洋医学ではさまざまなバランスを重視します。
身体の調子が悪いときはわかりやすく言えば「実」であるという判断の時には邪気がたくさんある状態と考えます。
逆に「虚」であるという判断の時には正気の不足の状態と考えます。
そのどちらかにバランスが崩れている状態は健康を害している状態とみなしているわけです。
つまりそれらのバランスをとれれば健康になっていくという考え方です。
そのためには「実」の状態のところにある邪気を取り去るために「その邪気を瀉する必要がある」という判断になります。
一方、「虚」の正気の不足の状態の時には「正気の不足を補う必要がある」という判断になります。
つまり「瀉」(瀉法といいます)とは余分なものを捨てることです。
「補」(補法といいます)とは足りないものを補うことです。
気で言えば「実」の判断のところは気の滞りや邪気があると判断しているので「邪気を取り去る、瀉する方法をすることになり、「虚」の判断のところは気が足りないと判断し「気を補う、補する方法」をすることになります。
優子は癌患者には「補」の概念を治療に持ち込むべきだろうと考えていたのでした。
癌患者は体が弱っている状態だから補ってあげないと死んでしまうという考えが優子にはあったのです。
弱っている患者は可愛そうだという認識も心のどこかにあったのでしょう。
しかし福田医師の治療は優子にとって衝撃的なものでした。
目前でズバッと余分なものを切り捨てた武士を見るようでした。
{私の考え方は甘すぎていた}と思いました。
癌になったのにはそれなりの原因があり、その結果、東洋医学的には邪気が充満している状態にあることに気がついてはいたものの納得がいかなかったのです。
どうしても癌患者は体が弱っているという思い込みが優子にはありました。
そういう患者には「補」(補法といいます)をすべきなのではないかと考えていたのです。
食事で言えば、癌に栄養が取られているので体が弱っていて力がない。
だから不足している栄養をどんどん摂れるようにして力をつけてあげたいという気持ちが、不足分を補うという思い込みになり、癌患者には「補」(補法といいます)をすべきなのではないかと考えていたのです。
その優子の一方的な思い込みを福田医師は断ち切ってくれたように感じたのです。
{ここにきて福田医師の治療を見られて良かった}と優子は思いました。
しかしそれでもまだ疑問が優子には残っていたのです。
この福田医師の見事な瀉血という瀉法の治療を拝見することができた。
けれども、、、これにはやはり、どこかに補法もする必要があるのではないかとも感じていたのです。
邪気を取り去ろうとするだけではどうだろうかと。
もし例えば余命宣告を受けた非常に弱っている癌患者であれば、この治療に耐えられるだろうかとも考えていたのです。
やはり瀉法の中にこの補法の概念を取り入れたほうがいいのではないだろうかと考えていた優子でした。

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、、この時点で福田医師も分かっていなかったことが、、あとあとの優子には感じられたのです。

福田稔医師の針治療

1-140 福田稔医師の針治療
東京に帰った優子はうむいを実家に預け、その日、福田稔医師の研修に参加していた。
東京の豊島区のとある場所に人々が集まっていた。
「だからね、いままでの治療じゃあ、病気が治るものも治らないことが多くなっているって気づいたんですよ。
私はよく癌の手術もしていましたけれどね、おかしいことに気づいたんです。
手術したときにほぼ完璧に癌を取り除いたと思っていた患者がしばらくすると亡くなっている。
しかし取り残した部分があると思っていた患者がずっと生きている。
こんなことってあります?
でもそうなんてすよ、実際。
おかしいと思っていたんですよ。
だから我々が学校や病院で教わったり学んできたものが本当にいいものかどうかそりゃあ、疑問に思いますよね。

このままではだめだと、、、」
目の前で白衣姿の福田稔医師が熱弁をふるっている。
何かよもやま話でもするかのように淡々としゃべっている。
「それでね、患者は気というのがね、流れなくなっているんですよ。
いろいな要素があるが、多くの患者は気が滞っているから病気になるんです。
それを流してやれば病気が治ってくるんですよ、自然と。
私もいろいろやってみましたよ。
いろいろとやっていくうちに私は患者から教わりました。
教わっていくうちにだんだんと気の流れ道が見えてくるようになったんです。
そうするといままで治らなかった人もだんだん治るようになっていったんですよ。
それじゃあ、実際やってみましょうか、誰かやってもらいたい人はいますか?」
と集まっている人から、治療を望む人に声をかける。
すると手を上げた人たちがいる。
「それじゃあ、ここにきて、前に来て」
「病気は何?、、癌、、それで、、どんな、、、、わかった。、、、。
それじゃあ、ここにきて。
うん、ここに立って、そう、ここでいいよ。
これから、この針で治療をするからね、いいね?」
「はい」
薄着になった患者のそばで福田医師は右片手に注射針のようなものを持った。
患者の身体を触りながら見つめていた福田医師は、突然動き出す。
注射針を患者の頭のてっぺん付近から刺しては抜き始めたのである。
頭のてっぺん付近から次々と連続するように下方へと刺しては抜いていく。
上半身、下半身へと体全体に連続的にその注射針を刺しては抜いていく。
まるで電光石火の動きのように見えた。
まわりのスタッフ数人が脱脂綿を持ちながら、福田医師の注射針を刺しては抜いていったあとに滲んできた血を拭いていく。
あまりに福田医師の手際の速さにスタッフは追いついていくのがやっとのように見えた。
優子はこのような速さの治療は始めて見たのだった。
{これは、、、、、しかし、、、、}見入っていた。
優子は東洋医学を学んでいた。
優子は凝り性のたちで、東洋医学を書で学ぶだけでは物足りなくて実際にいくつかの国にも行ってみたし、現地の医者の治療も受けている。
東洋医学では「補」と「瀉」の概念がある。
福田医師のは、すばやい治療なのだった。
{これは、、、「瀉」だわ、、、
、、しかし、、、癌患者にこういう治療をするとは、、、}

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日本人女性との恋愛

1-139 日本人女性との恋愛
{あの~、なんかおかしいんですよ。
もしかすると早苗さんの事件についてシンガポール警察が日本の警察側に連絡しているような感じがするんです。
まるで歩調を合わせるように日本のマスコミは騒ぎだしていますしね。
ほんとに今頃になって一体、何なんですかねぇ。
警察は多くの市民の声に敏感でしょうが、警察とマスコミはお互いを利用したり、ときに庇いあったりするんでしょうね。
日本の警察はメンツがあって権威をかざそうとするほうだし、マスコミはそんな警察からの情報を入手したいと思っているしねぇ、それだから警察の意向で言いなりになったような情報をマスコミは世間に発表するのです。
一方、シンガポールのマスコミはミセス、ジュリアの衝撃的な客船での死を報道しました。
それが薬物との関連があったので、世間はびっくりしました。
とその後に調査してみると早苗さんが殺された事件との関連性がわかったのです。
そこからですよ、優子さん。
果然、日本でもクローズアップされるようになったというわけです。
しかしその機に李ガンスはいち早く姿をくらましてしまった。
何と言う奴!!
優子さんは以前、ミセス、ジュリアの親御さんと王紅東とお会いしたいとの申し出をされていましたよね}
「えぇ、警察を通じて申し込んではいますが、いまだに連絡はどちらからもありません」
{そうですねぇ、むずかしいでしょうね。ところがですよ、優子さん}
「はい、はい」
{もしもですよ、もしも王紅東から連絡があった場合は気をつけてほしいと思ったのです}
「はい、何か?」
{質問していいですか?}
「はい、何でしょう?」
{私、早苗さんが王紅東と不倫関係にあったということを考えてみたのです。いかがですか?}

「そうですね、、、、」
{私ね、聞いてください。

オフィサーソフト社の誰も早苗さんと王紅東との関係を知っていた人はいなかったのだろうかと思ったのです。
「ほう、、、」
{それに、、、ここが最大の問題なのですが、、、}
「最大の問題?」
{そうです。それとどういう経緯で早苗さんと王が恋愛関係になったのかということです。
つまりは早苗さんは王とお付き合いするときに彼が既婚者だと聞いていたのかどうかということです}
「そうですね、その疑問はありますね」
「私、早苗さんは今どきの人と違って簡単に肉体関係にならないタイプだと思うのです。
でもですよ、、これは憶測でしかありませんけれど、、
もしも王紅東が「自分は独身者だ」と言っていたとしたら、早苗さんは信じたかもしれないのです}
「それはありえるわね」
{あの女たらしがですよ、、それにあの程度の顔です。
早苗さんのような純な大和撫子は言葉巧みに牛耳られたのかもしれないと思ったのです。そうだとしたらほんとに悔しいのです。

しかも嵐ファンですよ!}
「日本人女性に限らず、男性も外国の人と結婚される方がいますよね。
恋愛している間はいいのでしょうが、いざ結婚をしてみると互いのメンタリティの違いというか考え方や生活感の違和感がしだいに大きくなってくる人が多いように感じますよね。でもとてもいいカップルになる人たちも当然いますけれどね。
ただその違和感が大きくなればなるほど不幸になることもありますよね。
恋愛中は互いの人間性や過去の恋愛のことはわからないことがありますものね。
私は人のことは言えませんけれど、、、」
{ごめんなさい、優子さんご夫婦のことを思い出させてしまって}
「いえ、いいんです。私にふりかかっていることですから。
私の経験で言えば、恋愛している間にその相手のことをどこまで知りえるかというのはやはりとても需要だと思います。
そういう意味では早苗もうっかりしていたところがあるかもしれないと思ったのです」
{ところがですよ、、優子さん。それがちょっと違うかもしれないんですよ}
「えっ、、、違う?」
{私ねぇ、これマスコミだけでなく嵐関係の私のチエネットワークからの情報ですが、、、
王紅東というのは癖があるらしいのです}
「癖?」
{癖というか性格というか。私から言わせれば女たらしの嫌な部分だと思うのですが、、、。
というのは、彼は日本人女性が大好きらしいんです。
それでこれはと思う日本人女性を見つけると陰に陽に優しい片言の日本語で近づいてくるそうです。
しかも相手を喜ばせるようなことをしきりにしてくるのだそうです}
「それは日本人男性でもそういう人はいますよね」
{ところが、最初は片言の日本語で話をしてくるのだそうです。そうするとちょっと女としては手助けをしてあげたくなる。というか変なところも大目に見てしまう。
ところがだんだん慣れてくると日本人と変わらないような流暢な日本語でおしゃべりをしてくるのだそうだす。
しかもそれが日本人にないような仕方で近づいてくるようなのです}

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1-138 替え玉

「勘違い?」
{私、考えてみたんです。
早苗さんは客船ピュアプリンセスの最初の寄港地のペナン島で降りています。
しかしもしかするとペナン島の観光を終えたとしても客船には戻っては来なかったのではないかと思ったのです}
「えぇっ、、、でも早苗は客船に戻ったという記録はありますよ。
客船の最初の寄港地のペナン島に行くときには、早苗はそれまで預けてあった自分のパスポートを客船から受け取って持っていきました。
観光を終えて客船に戻ったときには再び客船に預けたことになっていたはずです」
{それが勘違いというか盲点だったのではないかと、、、}
「どういうこと?、、、
まさか、早苗のなりすました人間がいたということ?」
{そう思います。
ペナン島から客船に戻ってきたのは早苗さんのなりすました人物だった。
いわば替え玉だったと思うのです。
その替え玉は何食わぬ顔をして早苗さんのパスポートを客船に預け、そのまま船旅を続けたのです。
帰港地のシンガポールでの替え玉は早苗さんになりすましたままチェックアウトをしたのです。
なんなく部屋の鍵を返し、早苗さんの荷物もパスポートも受け取って港を離れた。
早苗さんの客船にあった荷物の中に目的があったのではないかと思うのです。
替え玉を客船に侵入させる必要があったのではないかと思うのです}
「なるほど、すると客船にあった早苗の荷物を調べたが不足だった、ということ?」
{それはわかりませんが、その可能性があります。
そのとき早苗さんの大塚のマンションの鍵を手中にしているはずです。
その後、犯人側は大塚の早苗さんのマンションに侵入し、金銭以外の物を盗んだ可能性がある。
この行動をした人物はミセスジュリアと李ガンス以外だと想定されるのです。
先ほどの替え玉の女もそうですよね}
「となると、早苗の客船にあった荷物のだけでは不足を感じていた?
そのために大塚の早苗のマンションに入って探る必要性があったということね?」
{早苗さんのなりすましをしたり、その後、急いでシンガポールから旅費をかけて早苗さんの大塚マンションまで誰かを盗みに行かせたということになりますね。
ミセス、ジュリアと李ガンスの必要としたものが他にあったということになりますよね。
シンガポール警察側の発表だと愛早苗さんと王紅東とは不倫関係にあったとだけ発表しています。
それから想像するにしてもそのことが原因で妻のミセスジュリアと李ガンスとは結託して早苗さんをあのむごい殺し方をしたというのなら、異常性向のある二人だったのでしょうか?
もっとも殺人は異常なことですけど}
「夫が不倫をしたことが発覚していた。
しかし王紅東は女たらしだったということですよね。
つまりはミセスジュリアにとっては夫が複数の女性と不倫された経験をすでに持っていたことになります。
その経験をしていたミセスジュリアや李ガンスなりが、あのむごたらしい殺人をするものでしょうか?」
{そうですよね。
それと不倫とは別のことも少し気になります。
シンガポールのDragon社の王紅東社長の肝いりで、日本のオフィサーソフト社との共同プロジェクト進んでいてパンフレットも豪華に作られていました。
そのパンフレットに社長の王紅東と李ガンスの写真も掲載されていたのです。
そのように早苗が関係しているプロジェクトがDragon社にとって有望視されていたように思います。
早苗の大塚の部屋からはパソコンは盗まれてはいるらしいけれど、金銭は盗まれていないのですから、そこらへんにも匂う部分がありますよね}
「ん~、~、、、、」
{それでね、優子さん、、、}

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1-137 光り輝き

ふと、うむいはその白衣の王の頭の斜め後ろ側に白く輝くものが見えた。
その輝く塊は何だろうと見つめていると、その光り輝きはしだいに拡大されてきたように観えた。
しかも無数の黄金白色を織り交ぜたその輝きは、無数の粒子の光線のようでもあるし、その強さは無限へと続いているように感じられた。
その輝きの中に瞳が一瞬に観えたように感じられた。
その途端、その瞳から光の粒が飛び放たれ、うむいの瞳に飛び込んできたのである。
その瞬間、うむいは驚きとともに思考が停止し息が止まっていた。
するとすぐに感動が体中に沸き起こってきたのである。
「ぐっぐっくっ、っっっ、、、」とうむいの喉から嗚咽が発せられる。
しだいに体を折り曲げなければいられぬような感情が襲い掛かってきた。
いてもたってもいられぬ、言い知れぬ高ぶりが沸き起こり、涙が溢れだした。
あの瞳から放たれた不思議な光はうむいの瞳を通じて体中を駆け巡っている。
それから、、、どのくらい経ったというのだろうか。

「なんだ、こいつ」と声が聞こえてきた。
うむいがふと目を開けると何人かの子供たちが、のぞき込むようにして見つめている。
「泣いているみたいだぞ」
続けて「おいっ!泣き虫が目を覚ましたぞ」とうむいを指をさしながら、身体の大きい男の子が叫んだ。
その男の子のまわりの子供たちは誘われるようにせせら笑った。
そのざわめきに静けさを邪魔されたためか「ぅん、もうっ!!」とその男の子をうむいは睨みつけた。
するとうむいのその目に驚いた男の子は踵を返すと自分の母親が座っている方へと向かって一目散に走っていく。
ところが自分の母親の目前まで来た途端、けつまずいて頭から転んでしまったのである。
すぐにその男の子は泣き出してしまった。
優子はそんな騒ぎの様子に目を覚ましてしまっていた。
その男の子が走り去りながら転んだのも泣き出しているのも見た。
優子はうむいを向きながら「あなたね、」と呟いた。
うむいはプイッと横を向いて素知らぬ顔になった。
そのとき、る~、る~、る~、る~と優子の携帯電話が振動する。
チエからの電話だった。

車両外に出る。

「もしもし、、、、」
{優子さんですか、、、チエです}
「あっどうも、先日はありがとうございました」
{お世話様です。実は連絡したいことがありまして、、、}
「はい、何でしょう?」
{あの~、、早苗さんの件でシンガポール警察のその後の動きなのですが、、、
実はミセス、ジュリアと王紅東宅に調査に入った陳警部はですね、早苗さんの殺害犯人をミセスジュリアと李ガンスと断定したようです。
予想した通りです。
動機は王紅東と早苗さんの不倫関係のようです。
、、しかしどうもまだ解せないところがあるのです。
それはそれとして、実はこのことを日本のマスコミが嗅ぎつけておりまして、
今頃になってうるさいくらいなのです。
こういう事件の進展のようになると話題性があるのを感じたのでしょうか、
俄然、元気づくのが日本のマスコミのようで、どこでどう調べたのかわかりませんが、我々の会社まで動向を探りに来たんですよ。
ですので前もって優子さんにもお知らせしておいたほうがいいと思いまして、、}
「それはありがとうございます。気をつけます。
ということは、ミセスジュリアが亡くなった今では李ガンスを捕らえるしかありませんよね?」
{ところが優子さん。李は失踪しているらしいのです}
「えっ、失踪? でも李はシンガポール国外には出れないはずでしたよね?」
{そうです。
李は早苗さんの事件でもミセスジュリアの薬物の件でも重要参考人ですのでそのはずなのです。
ところが行方がわからないというよりも他国へと失踪したのではないかと、、、、}
「そんなことができるのですか?」
{シンガポールと周りの国々は陸続きでもあり、それに海を利用すればできないことはないとは思うのです}
「しかし国外に出るにしてもどこかの国に入国しなければならないはずですよね」
{そうなんです。
ですので李ガンスのパスポートでは国外には出られないと思いますし、他国の入出国の際に記録されるはずですが、ないのです}
「ということはもしかすると、、、、」
{残念ながらシンガポールにはインターポールの組織がないのです}
「インターポールって?」
{インターポールというのは国際刑事警察機構(ICPO)と言って、国境を越えた犯罪の捜査や捜査協力をする組織なんです。
日本はすでにあるのですが、シンガポールにはまだないのです。
優子さん、李はもうすでに国外に出ていると私は思うんです。
自分のパスポートを使わずに}
「えっ、どういうこと?」
{他人に成りすましてっていうことです}
「そんなことができるのですか?」
{優子さんはお聞きになったことがありませんか?
偽造パスポートのことを}
「はい、聞いたことはあります」
{あれですよ、あれ。私は思うんですよ。
この手口、、、どこかですでにしていたように思うんですよ}
「えっ、偽のパスポートで国外に出たということ?」
{この間、優子さんたちの会議でいろいろとお聞きしたことを思い出したのです。早苗さんが客船ピュアプリンセス号に乗って最初の寄港地であるペナン島で観光したことになっていましたよね?}
「そうです。ペナン島では、そこの現地の子供たちが早苗を見ています。
それにその地に車に乗った男が現れた。それが李ガンスなんですが、その人物が早苗をその車に乗せて行ったというのです」
{そこです。そこですよ、優子さん!}
「えっ、、、」
{そこなんです。いままで私たちは勘違いしていたのかもしれません}

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1-136 白衣の王

東京に向かう新幹線に乗っている。
母の優子は疲れたのか、隣でスヤスヤと眠っている。
近くでは数人の子供たちがはしゃいでいる声が聞こえている。
うむいは母と同じように目をつぶってみた。
しばらくすると暗闇の中に黄色や白い星たちが流れていくのが見えた。
いくつかの星々が点滅をしている。
その意味の一つ一つがうむいにはわかった。
少なくともうむいはそれらと意思の疎通をしようとすればできる。
しかしそれらはうむいの存在を無視しているかのような動きをしている。
すると遠い、遠い過去が浮かび上がってきた。
一人の若い男が立っている。
その人はお坊さんのようでもあり、王様のようでもあった。
よく見ているとその人は古めかしい白い衣装を着ているようだ。
建物の中にいて、その王の周りには多くのかしずく人々の姿が見える。
ところがその王様が建物から出てみると、その王に向かって民衆の苦しみが波のように打ち寄せているかのように見えた。
すると出家しようとしている王の姿に変わったのである。
王の慈悲は紫色から黄色、赤と目まぐるしく色を変え、その上昇する気流の勢いはすさまじかった。
王のまわりを龍が竜巻のように渦を巻きながら動いている。
それでもその王はどうしていいかわからずにいる。
王はあの世でも王の一人だった。
あの世では自由自在に意志一つで何でもできる。
そこは素晴らしい愛の光に満ち満ちていて、すべてに影がない。
しかしこの世での王は思うようにできないことを悟っていたのだ。
肉体という束縛から逃れることができないでいるのだ。
どうしたらいいのか悩みに悩んでいる王のさまが見えた。
うむいの瞳に泪が溜まっている。
どうしようもない自分を感じていた。

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1-135 意念 

坂東は優子からのアドバイスを得て最新式の携帯電話に買い替えた。
坂東はどちらかというと優子と同じく機械音痴だった。
だから最新式の携帯電話にすれば、これで優子との連絡がよりスムーズにいくと単純に考えたのである。
坂東の妻とは死別したことで、この田舎に移って気ままに研究を続けているのである。
坂東は優子と娘のうむいを車に乗せて駅まで送っていくことにした。
その途中の伊倉南北神社に三人は立ち寄っている。
この神社は少し昔より寂れた感じがするが、南北を道路を隔て繋げた歴史ある神社だった。
寒い季節ながら濃い緑に包まれている。
坂東は優子とゆむいを伴ってこの神社にお参りすることにしたのだ。
南神社で、ゆむいはお参りする作法を母のお祈りする姿を見ながら見様見真似をして見せた。
その様子に「よくできたわね」と優子はうむいに向かってほほ笑んだ。
「さあ、それでは北の方の神社にも行きましょう」と坂東は促した。
北の神社は少し重層な感じがする。
三人はお参りを済ませた。
うむいは優子たちから少し離れたところにいて、あるものに見入っていた。

「それであの薬(A)は使ってみたかい?」と坂東は優子に尋ねた。
「えぇ、」
「使ったのだろう?」
「はい、確かに効いたようです。
私自身も試してみましたよ」
「日本には昔から高度で多種多様な技術が多くの分野にある。
私は古の技術からヒントを得てそれに工夫を加えて新しいものを作っている。
以前、優子さんに渡したあの薬は時間の経過で変化するようにしたものだ。
大変な時間がかかったし失敗続きでもあったが、ようやく変化することをコントロールする道筋が見えたのだ。
不可能と思えたこともやればできるものなんだねぇ。
これは対象とする者に(A)を飲ませると、異常な苦しみが生じてくる。
すると不安が増してくるが、実際の結果はそうではない。
薬の量と相手の状況が関係するが、ある一定時間(例えば投薬から約24時間ほど)が過ぎると薬の成分が消えてなくなるというものだ。
それと同時にその人の抱えている病がおおかた治っているか治ろうとしているのだ。

ただ病のすべてではない。病によっては対応できないこともある。
こんなユニークな薬になるとは思わなかった。
投薬してから24時間過ぎるとその薬の痕跡が消滅してしまうというのが特徴だ。
どんな精密な検査をしても解剖して調べても(A)を薬の成分を発見することはできないだろう。
だから、いろいろな場面を想定できるのだ。
使い方によってはいろいろ考えられる」
「先生のおっしゃるように試しに(A)を飲んでみると { 大きな病になってしまったのではないか 、このままだと死んでしまうに違いない } と思うくらい体が辛くなります。不安でいっぱいになってしまいましたね。
本当にこんな状態から病気が治るのかしらと疑いました」
坂東にはまだ話さなかったが、実は優子は夫にもこの薬(A)を試してみたことがあった。
続けて坂東は言う。
「それと今回、その延長線上で開発した薬(B)がある。それがこれだ」と坂東は背広のポケットから小さな紙袋を取り出した。
紙袋を開けるとその中から無色透明に近い小さな玉を一つ取り出した。
「これは先ほどの薬を飲ませたあとに必要に応じて使えるものだ。
先ほどの薬(A)を飲むと次第に苦しみだすが、この薬(B)を飲むとすばやく、その苦しみがなくなってくるから不思議だ。
今後、何かのことがあればこれも使えるよ。これを持っていきなさい」
「ありがとうございます。それで先生、、、早苗のことなんですけど、、、」
と坂東と優子は北の神社の境内で話を続けている。

一方、うむいは、シーンと静まり返った境内の隅に置いてある石で作られたいくつかの坊主のような人形を見つめていた。
すると、、、、
「汝、わかってきましたか?」
どこからか感じる声がうむいの心に響いてくる。
姿形は見えない。
「いえ、まだです」とうむいは意念で応える。
「それがわからなければ、そちらに行っている意味がないのだ。
しっかり学びなさい」
「でもどうしてそのことが必要なのですか?」
「必要なのだ」
「わかりました」とうむいは答えた。
うむいにとって、生きていることにわずらわしさを感じていた。
この世の生活が面倒に感じているのである。
あの世での生活は自由気ままで好きなことがてきる楽しい世界だった。
この世に生まれてくるとは、、、思いもしなかった。
だが久しぶりに聞こえる懐かしい声に嬉しさが込み上げてきたのだった。

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1-134 本物の医者

「先生、病を治す方法についてアドバイスをいただきたいのですが」
「うむいちゃんは、病ではないと私は思う。
だからそれほど時間はかからずに普通になってくると思うね」
「それはありがとうございます。安心しました。
で一般的な病についてなのですが、最近の先生のご見解を願いたいのですが、、、」
「あなたには随分と病を治すことについては話をしてきたつもりですが、、、、」
「ありがとうございます。私は先生からいままで教えていただいたことをノートにまとめてきました。ですが先生には失礼になるかもしれないとは思いますが、
私はもっと根本的に病を治すことができないかと考えているのです」
「ほう、それはいいことだ。しかしそれはどの医者も知りたいところさ。
多くの医者は患者に対して横柄な縦度をとる人もいる。

検査と薬の知識を施しているのが実情なのだ。
そんなわけで対処治療法を患者に提供することになる。
まるでチャップリンの描いた映画にようにオートメーションの中に流れる患者の姿を浮かべてしまう。
しかし一方で自分の立場を考えて地域治療などに貢献している人や研究している人たちは少数ながら世界各地にいるからね、捨てたもんじゃない。
私もその一人になりたいと思ってやっているのだ。
私が注目したのは1994年頃から始まったという研究の結果が発表された。
それは医学者の福田稔さんと安保徹さんの福田安保理論というものだ。
世界に先駆けて日本で、この画期的な免疫学の新理論が出てきた。
私はこれを読んだときびっくりした。
病気になったり治るのかがわかる理論だからね。
「そんなに画期的なものですか?」
「書店で福田さんや安保さんの書いた免疫についての本は読んだことがないということだね?」
「はい」
「実は福田安保理論は医療に携わる者としては重大なことだった。
その理論は白血球と自律神経免疫の関係でね、ほとんどの病気に関係していることがわかったのだ。
要は自律神経のバランスは白血球と連動していて、それが乱れていれば免疫が低下して病気になり、整えれば免疫が高くなって病気を治すことができるという。
その病を左右する自律神経のバランスは白血球の数値バランスを示した新理論だった。
これは日本だけでなく世界の医学界とって重大なニュースだったね。
私から言わせればノーベル賞の一つや二つぐらいとれてもおかしくないほどのものだと思う。
ところがノーベル賞の声が聞こえなかった。
人のためにはなるが、お金にはなりにくい理論だったからね。
儲けにくいから医師会も会社も飛びつかない。
むしろ現在の医療関係者や製薬会社からは煙たがれる存在になる」
「そういえば免疫という言葉は聞いたことはあります」
確かにその後、日本の医学界もマスコミも比較的、静かだった。
日本自律神経病研究会はあるが、日本の医学会が力を入れている様子はない。
まるで無視しているかのように。
ローヤル・レイモンド・ライフ(Royal Raymond Rife 1888-1971)はたいへんな圧力を受け続けたが、現代でも福田さんや安保さんはいろいろな面で圧力を受けるか、無視されるかするだろう。

もっと危険なこともあり得ると思っている。
私たち市民の間では免疫という言葉は浸透してありきたりに使われている。
つまり人は免疫の重大さを心のどこかに認識している証拠なんだろう。
そこで、私の瞼に浮かんだのは優子さんのことさ」
「私ですか?」
「この新しい免疫学は病を解決する理論なのだが、それに不足することがあると私は考えたのさ」
「不足しているもの」
「それを探ってほしいのだ」
「探るって言われても、、、」
「君はここからは東京に戻るのでしょう?」
「はい」
「そうしたら福田稔医師を訪ねて行ってほしい。
たしか自律神経免疫治療の研修をしているからそれを見てきてほしいのだ」
「私がですか?」
「そうだ、君はうってつけだと私は考えている。
どういうことかというと私が教えた医学のことだけでなく、あなたは心と整体のことを研究しているからね。
それに禅や瞑想について一見識を持っていると私は判断しているのです。
そこがこの理論の不足分だと私は考えているのだ。
私も年をとっているが、まだまだその方面もあわせて研究をしたいのだ。
私はその分野にかけてはまったくの素人なのであなたが私の先生になってほしい。
私に教えてもらいたいのだ」
「弟子が先生にそんなことを言われるなんて思いもよりませんでした。
私には荷が大きすぎる課題ですが考えていたことがあるのです。
先ほどお話ししたように私の親友は病を治す方法として極小生命体の実践的な理論形成を試みていました。
しかしそれが事件に遭遇してしまって、その研究も頓挫したのです。
もともとその極小生命体のことは先生から私が教えていただいたもので、それを私の考えを加味して彼女に伝えていたのです。
ですので私としては彼女に対して責任を感じています。
それで私なりに病の根源を追求して、できるだけ誰もが自分で治す方法を開発したいと思ったのです。
失礼な言い方かもしれませんが、医者はあくまでもサブでしかありません。
本来の医者は聖職であり奉仕者の部分を持っていると考えています。
本物の医者があるとすれば、それは自分自身にあると私は思っています」
「ほう、おもしろい。わかった。一緒にやろう」
「お願いします」
「ところでこれから私と一緒に行ってもらいたいところがある」
「はい、どこへ?」
「、、携帯電話屋さんだ」
「はぁ、、、?」

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1-133 不思議な子

うむいは優子の隣りでちょこんと座り所在なさそうにしている。
しばらく沈黙が流れている。
「この子は、、、どうも普通の子とは違うようだ」とうむいを見つめながら坂東医師は優子に切り出した。
「えっ、、何とおっしゃったのですか?」
「この子はそうとう難しい子のように思う」
「どういうことですか?」
「なんというか、、、いままで見たことがないような子だね、、、」
「、、、、、」
「よくなれば素晴らしいことになるが、もし間違いでもしたらとんでもないことになる」
「そうですか、そんな感じがしますか、、、
この子、ずいぶん変わってるんですよ、先生」
「ん、、?」
「まあマイペースといえばそうなんでしょうけれど、この子一人でいてもあまり寂しがらないのです。

むしろ楽しんでいるような感じなんです。
普通は親に甘えるでしょう、ママ、ママって、、もちろん甘える時もありますよ。
だけどほとんど自分の世界にいるとでもいうか、私から見ると何を考えているのかわからないところがあるのです。

ところが突然、大きな声をだしたりすることもあるし、、」
「そうだろうね、、、」
「どういうことでしょうか?」
「私の診るかぎり、この子は自閉症ではなさそうだ。
というより精神的に子供ではないような、かといつて大人でもなさそうな。
不思議な感覚がある」
「そうですか。私としては子供らしく甘えたり、ときに騒いでほしいときもあります。
でも女の子ですから、おとなしいのはいいんですけどねぇ。
ところが先生、私が用事がある時にはこの子をよく実家に預けるんです。
それで最近、変わって来たんですよ実家が、、、」
「ん、、、?」
「実家には父と母、それに弟が棲んでいます。
母親はあまり変わりませんけれど、父親と弟が変わってきたように思うのです」
「、、、、」
「というのは、この子とても可愛い顔をしてるでしょ。
ですので、実家ではうむいは可愛いね、可愛いねってとは言っていたのです。
ところが、しばらく何度か実家に預けるようになってからは、私がうむいを引き取りに行ってみると、、、
何というか、父も母も弟もこの子に気を遣うようになっている気がするのです」
「この子に対して気を遣う?」
「何か意識するようになっているという感じです。
実家のみんながなんとなくこの子のことを気にしているようで、そんな気配が家族の間で生まれているのです」
「ほう、、面白いね」
「そうなんです。どちらかというとかわいがるのはそうなんですけど、大事にするとでもいうような、そんな気遣うような感じなんです。
うむいはまだ5才で私の子なのに、父母にしたら孫じゃないですか。
お客様でもないのにね」
「まあ、小さい子が身近にいると気は遣うけどね、それなりに。
でもなんとなく不思議な感じのする子だねぇ、、、」と坂東は見つめなおした。
うむいはそんな気配にぷいと横を向いた。

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1-132 医者と毒物

saveearthの打ち合わせの後はメンバーと久しぶりに居酒屋で痛飲した。
その翌々日、優子は5才になる娘の「ゆむい」を連れて九州に住む坂東医師のもとを訪れていた。
坂東医師と優子との縁はもうずいぶん昔のことだった。
女学生時代のとある日、優子が特に用事もなく歩いていると小さな医院の看板を見た。
別にその医院を誰かに教えられていたわけではない。
その頃の優子は、異様な苦しみを身体に感じることがあったが何が原因なのかわからないでいた。
体に力が入らず、不快な状態が続いていたのだ。
そのためにいくつかの病院を受診していた。
しかし医師の答えは優子の納得したものではなかった。
その証拠に処方された薬も治療も効果がなかったのだ。
それどころかさらに気分が悪くなったことがたびたびあった。
ある医者は「学校で何かあったのかな?」とまで優子の生活を尋ねようとするのだった。
そんな医者たちの診療を経験して、名声や建物の立派さはあてにはならないと優子は悟った。
この身体の苦しみを解き放ってくれる人がいるのなら誰でもいいと願うようになった。
そしてその日、偶然、通りかかった「坂東内科」の門をくぐってみたのだ。
一軒家風の門は古ぼけていて、受付に中年の看護婦さんが一人いるだけだった。
内装も古いのだが、小さなその待合室には何人かの患者がいたので少しは安心した。
案の定、長く待たされたあと、ようやく優子は診断を受けることになった。
小太りのいかつい顔をした中年の医者は優子の様子を診て尋常でないことを見抜いた。
すぐに検査をしようということになった。
「検査結果は翌々日には出ます」と言う。
「その時にお母さんと一緒にいらっしゃい。
すぐにどうこうじゃないけれど、このままほっておくと大変なことになるでしょうからね」と言うのだった。
さらに「内臓のどこか悪いところはあるようですが、まだ他にも問題の箇所があるかもしれないから、検査結果を待ちましょう」と言った。
翌々日、母とともにその医院に行ってみると果たして検査結果が出ていた。
ある臓器の状態が悪くなっているという。
これが優子と坂東医師との縁の始まりだった。
優子は坂東医師の指示するままに通院してみた。
そうしたところ疑心暗鬼だった優子の症状が薄皮を剥ぐように良くなっていった。
しかもこの医者の特徴は、「この症状はこうすれば何日で治ります」というのである。
言われるがままに治療を続けていると、前々日くらいまでは変わらない症状が、その指定した前日くらいから変化してくるのが不思議だった。
いかつい顔の坂東医師は意外にも丁寧だったし優しくしてくれた。
優子は毎日のように坂東医院に通ううちに坂東医師はいろいろな病気のことや自分が研究していることまで話をしてくれるまでなった。
それに食生活はずいぶん研究したようだった。
昔から伝わる食べ合わせの良くない例には科学的に根拠のあるものが多いという。
「○○の刺身と○○。◇□ と□◇。◇◇と☆☆など食べ合わせると体に良くないものや
調子が悪くなったり、癌を引き起こす可能性のあるものも結構あるんだよ」と教えてくれる。
世間一般に知っているものもあったが優子には初めて聞くような組み合わせもあった。
優子にしてみると坂東が何故、このような話をしたがるのかわからなかった。
教えられる優子自身も坂東の話を興味深く大学ノートに書き綴っていたのである。
坂東医師は「毒」について独自の研究もしていた。
ちまたに起きる毒殺事件では検体解剖など精密に検査をされるとさまざまなことがわかるという。
「優子ちゃん、機会があったら「X」を「Y」に入れてごらん、、それを飲んだら、人はどんなことになるか、死にはしないから、、大丈夫だから試してご覧、、、ふふふっっ、、」とそんなときはいたずらっぽく笑うのだった。
「私の研究は歴史と自然から学んだものだし、自分自身で実体験したものもある、、、
世に言う毒物研究家はたくさんいるけれど、ここまで研究した者はそういないだろう、、、」
と坂東は言っていた。
あれから、、、、、何年経ったというのだろう。
いつしか坂東医師は東京を離れ、九州に移っていた。
ここは熊本県玉名市のとある地、雲取川のほとり。
そこは草むしりをほとんどしていないような小さな畑とその隣にはたくさんの鉢植えで囲まれた何の造作もしていない古めかしい木造平屋建ての一軒家だった。
「坂東先生、娘のうむいのことなんですけど。お医者様からは自閉症ではないかと疑われておりまして、、、」と優子はいままでの経過を話していた。
ゆむいは優子の隣の椅子に座って静かにしている。
坂東は優子の隣にちょこんと座っているうむいをじっと見つめた。

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1-131 いつまでも

宇多田の優子への熱い想いは酒とともに体内を駆け巡っていた。
長い間の鬱屈した宇多田の感情を早苗の前にさらけ出していた。

大好きな気持ち ホントのこと 伝えきれずもうさよなら
元気で暮らしてと いつもの場所 ふたり無理に笑いながら
未知の上はしゃぐ 踊る未来の粒
真っ白な想い出を 胸にしまった日の約束
君と生きた毎日 ただ君だけを愛した日
たぶん僕のすべてが君のそばにあった
当たり前の毎日 二度と逢えぬこの日を
どんなときも忘れないように こうやって時を止めたい
こんなに辛くて忘れたいよ あなたの声 優しい手
諦めたくて逃げたいほど情けなくて いつも一人

たぶん君のすべては僕のためにあった
もう帰れない場所が こんな風に過ぎ去っていく
どんなときも忘れないよ こうやって時を止めたい
離れてくなんて 思わなかった ふたりのすべて いつまでも

その夜、宇多田は早苗の前であびるほど酒を飲んだ。
そしてその視界に女の身体が触れたとき、男としての本能が疼いた。
優子でないことはわかっている。
乱暴な本能ではなかった。
熱い酒に酔いつぶれそうな男の様子に女は純情を感じていた。
そんな男に女は素直になった。
ホテルの夜の静けさがシーツの音を滑らせていた。
そして二人は何度かの逢瀬を交わすことになる。
そのときのいつか、早苗はメモリーを置き忘れていたのだった。
最後に残した消えない記憶。
いつまでも

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1-130 10年越しの恋

「あのう、、、」と傍で座っている宇多田が心配そうに声を出した。
「すみません、そのニュースって、どこから来たのですか?」
「えぇ、、知り合いからですけど」
「お知り合い?現地のお知り合いということですか?」
「私たちもこれはどこからの情報なのかよくわかっていないんです。
だけど確かな情報だとは思っているのです」と優子は織江と龍の顔を見る。
詩はいまだに自分のノートパソコンを操作して早苗の収集していた情報を読んでいる。
「あのう、、できれば私も愛早苗さんを殺した犯人のことを知りたいんですが、どうしたらいいでしょうか?」
「そういえば早苗がシンガポールへ行く数カ月前に飲んだ仲ですものね。
それにありがたいことに早苗が忘れていったこのメモリーを保管していただいていたのですから、私どもとしても宇多田さんにご連絡したいと思います。みんないいよね?」
「もちろん、もちろん」
「ありがとうございます」と宇多田は言って、自分の名前と携帯電話のメールを優子に伝えた。
電話番号は以前すでに渡してあったが、念のためにそれも渡した。
宇多田は優子の名前と電話番号とメールを貰ったのである。
宇多田はほのかな嬉しさが込み上げた。
宇多田は愛早苗が2年前に殺されていたことを先ほど知らされてショックだった。
あれほど明るく気のいい女性の身にどんなことが起きていたのか呑み込めないでいた。
しかもその早苗を殺した犯人が2年越しにシンガポールでは明らかになったというのである。

それを恋い焦がれていた優子から聞かされたのである。
何が何やらわからない状態でいた。
先ほど優子から貰ったメモ用紙には携帯電話番号とメールとそれに泉優子と書いてあった。
とすれば学生の頃の名前の尾崎優子が今では泉優子に変わっているのであるから、早苗が優子は結婚していると言っていたのは本当だったのだ。
約10年以上前、喫茶店ウファでアルバイトしていた宇多田は、入店してきた優子に一目ぼれしたのだった。
その後も優子はときどき仲間と共にこの店に訪れ、半ば常連客のようになっていた。
しかしいつしか来なくなっていた。
その理由を知って宇多田は驚愕する。
優子は大学を卒業していたのだった。
当然、この店には顔を出さなくなっていた。
学生が卒業するなんてことは、当たり前のことを想像できていなかった宇多田だった。
それから10年もの間、苦しんだ。

しかし連絡先を知らない宇多田はいつかはこの店に優子が訪れるはずだという不確かなはずであるが、一縷の望みを抱いてこの店で働いていたのだった。
しかし確かにその日は来たのである。
その日、それは約2年前、早苗と優子はこの店で待ち合わせしていたのだった。
しかしあの日、早苗と待ち合わせしていた優子は来たかと思う矢先に「用事ができた」と言って、早苗を残してこの店から出ていった。
店に居残った早苗に宇多田はなんとかして優子のことを聞き出したいと思った。
そして早苗と話をしているうちに居酒屋に行くことになったのだった。
早苗は宇多田の優子への想いをはじめて知った。
早苗によって宇多田は優子が結婚していたことを知らされた。
そのことを知った宇多田の心情は酒で紛らわせるほど簡単ではなかった。
早苗にしては宇多田の相談にのるというよりも彼のほとばしる心情を聞かされるだけしかなかったのである。
遅くなるまで一緒に酒を飲んだ。
そして何とはなしに二人は近くのシティホテルに泊まることになったのだった。
あれから、、、

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1-129 緊急メール

それはチエから優子へのメール連絡だった。
「緊急連絡・シンガポール警察による張ジュリア、王紅東宅の家宅捜索をした結果が出ました。
王紅東は薬物反応なし。
自宅及び所有クルーザーにも薬物は発見されなかったそうです。
ところが愛早苗さんの事件の犯人がほぼ特定されたということでした。
ただ李ガンスの行方がわからなくなっていると報じています」
以上だった。
優子、織江、詩、龍の4人に激震が走った。
早苗を殺害した犯人がほぼ特定されたというのである。
「李ガンスの行方がわからないということは犯人だと判断しているということかしら?」
「そうよね」
「やはりシンガポール警察は薬物には相当厳しい対応をするのは本当ね。
たしか薬物を所有しているだけで極刑になるらしいじゃないの」
「薬物捜索をしていたら、薬物は出なかったけれど早苗の殺害犯人を特定したということね」
「もしかすると陳警部は、けっこうやり手の警部かも、、、、」


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1-128 秘密のデータ

詩のノートパソコンの画面から表示してきたもの。
それはsaveearth プロジェクト「病気を解明し活かす研究」と記されてあった。
ノートパソコンを操作する詩の背後から優子、織江、龍が、その画面をじっと見つめてる。
写しだされる項目をどんどん読んでは動かしていく。
「おもしろそうな内容ね。これだったら早苗の研究を知りたいという人物が現れても不思議ではないわね。
早苗の部屋からノートパソコンが盗まれたらしいけれども理由がありそうね」
「ただどうかしら、私たち素人目にはすごい研究に思えるけれど世界のその道の専門家からしたらそうでもないかもしれないしねぇ」
「見てみて、何このデーター、各病気の周波数帯域まで詳細に書いてあるわ」
「この周波数を使って病気が治せるということなの? これだけで?」
「薬を使わずにウイルスを破壊する、、、、」と書いてあるところもあるわ?

「その意味は私にはわかる、、、」と龍が呟く。
「その他にいろいろと書いているけど、読んでみると優子と話をしたことを考察していこうとしているのがなんとなくわかるわね」
「これ見て、音楽活用方法も書いてあるわね。
「宇多田さん、このメモリー、早苗はどこに忘れたのですか?」と詩がパソコンを操作しながら宇多田に尋ねる。
優子たち4人の様子を傍で見ていた宇多田は、詩から突然の質問が投げかけられたので戸惑ってしまった。
「いえ、、、あの、、、、愛早苗さんが帰られた後、テーブルに残っていたので忘れ物だとわかりました」と少し震える声で答えた。
「でもよかったわね、他の人に中身を見られたりでもしたら早苗は嫌でしょうから」
「それにしてもこんな大事なものを忘れるなんて、早苗がねぇ、、、」
「自分が研究している情報をノートパソコンに入れていたとして、念のためにその情報をメモリーにして持ち歩いていた。
私もそうしているわ。
そのメモリーをどこかに置き忘れていたとしたら、すぐに気づいて連絡するはずよね?」
「ここに連絡がなかったのですか?」
「あぁ、、僕にですか?、、、いえ、、、はい、

早苗さんから連絡はありました」しどろもどろに宇多田は答えた。
「えっ店じゃなくて、、直接、宇多田さんにですか?」

「あ、はい」

「それっていつのことですか?」
「たしか、、、数日してからだと思います」
「それから早苗はこれを受け取りにここに来てないのですか?」
「いえ、、、あ、はい」
「時間がなかったのかしら?」
「それっておかしいなぁ、、、こんな大事な物なのに早苗がすぐに引き取りに来ないなんて」と龍が小さく独り言を言う。
「はい、私には、よくわかりません。すみません」
その龍の独り言に宇多田は真面目に答えてしまって、もじもじしている。
「そうよねぇ、、、人に見られたくないものはすぐに引き取りに来るはずだと思うけどねぇ」
「宇多田さん、パソコンとかテレビとかあまり見ないとかおっしゃっていませんでした?」
「僕は、、、、、機械音痴なんです。せいぜい携帯電話でメールするぐらいで、、、」
「それって優子と同じゃない?」
「そういえば、宇多田さんの携帯電話番号を以前、いただいたような気がするけど、、」と優子は言い出した。
「はい、尾崎さんには私の携帯電話番号をお渡ししました。

お二人が来られた時に、、、懐かしかったもので、、、」

と言いながら宇多田は優子の顔を見れないでいる。

「優子は宇多田さんの携帯電話番号を早苗に教えたってことよね?」

「いや、私は早苗に宇多田さんの携帯電話番号は教えていないし、宇多田さんに連絡をしたこともないわね」

「ということは宇多田さんはご自分の携帯電話番号を早苗にも教えていたっていうことよね」と詩が宇多田の顔を覗きながら言った。

「あっ、いや、、はい、、、」宇多田は真っ赤な顔をしている。

しどろもどろである。

そこに優子の携帯電話にメールが届く。
それには「緊急の連絡、、、、」と記されていた。

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1-127 記憶 memory

「それに、、宇多田さん、、、どうして私と早苗の名前をご存じなんですか?」
「それは、、、愛さんとお話ししているうちに話の中に尾崎さんのお名前が出たので、、、、」
「そうですか?、、、」
「いえ、特別に尾崎さんのことを話していたわけではなくて、、最初は学生の頃によくこの店にいらしていた人たちのことをなつかしくお話しているうちにお名前が出たのです」
「この店の雰囲気は昔とあまり変わっていないから、店に入ると学生の頃と変わらない自分を感じたような不思議な感覚にもなりますものね」
「宇多田さんは早苗とその日、お酒を飲んだっておっしゃいましたが、早苗にしては行動的だと思いました。彼女そういう性格だったかしら?、、、ね」
「きっと宇多田さんとお話して気持ちがやわらいだのでしょうね」
「宇多田さんには失礼ないいかたかもしれないのですけど、私が早苗と会う約束をしていながら、私が急に予定が入ったので、変更してしまったのです」
「私は、愛さんが、あのテーブル席にお一人になられたので、私も懐かしくなって声をかけたのです。
お話ししているうちにこの近くの居酒屋に感じのいいところができたので、よかったらご案内しましょうかと軽い気持ちでお誘いしたのです」
「で、居酒屋で飲んでいるときにいかがでした?早苗の様子は?」
「とっても感じのいい女性だなと思いました。
初めてお話しするのに、私の愚痴話もよく聞いていただきました。
愛さんは愚痴っぽい話は一切されませんで、むしろ今の仕事がおもしろいとおっしゃってました。
そして仕事だけでなく、余った時間にいくつかのテーマを決めて研究していることがあるとおっしゃっていました。
それがやりがいのあることなので、毎日が楽しいと言って目が輝いていました」
「それはなによりです。
そうですか、、目が輝やいていましたか、、、」
「愛さんはとても親切な方のように見受けられましたし、人に恨みをかうようなことはないと思える人でした。
ですので誰かに殺されるなんて考えられません。
その事件はどのくらい解明されているのですか?」
「約2年前、早苗が行方不明ということで日本の警察に届けはしましたが、何か調査をしているというような感じがしませんでした。
それでご両親はシンガポールに行って現地の領事館や警察に申し入れをしたのです。
ただ現地の警察でも当初、積極的に動くことはなかったようです。
しかし早苗の遺体が海から引き揚げられたことで、ようやく現地でも日本でもニュースになったんです」
「宇多田さんは早苗と話をされていて、何か感じることはなかったですか?」
「いえ、特に、、、なかったように思います。
とにかく時間があるとご自分の小さいノートパソコンを出して何か打ち込んでいらっした印象があります。
私の愚痴話までもが参考になるとおっしゃって、そのノートパソコンに何か打ち込まれていました。

ほんとに仕事熱心なかただなぁという感じがしました」
「お差支えなければ具体的にどんなお話しされたのですか?」
「私の恋愛話というか、失恋の話が多かったです。

相談に乗ってもらったんです」
「早苗は宇多田さんのお話に興味をもったということですか?」
「はい、いや、、、私の場合は、ある人をもう長い間、好きだったのですが、会ったりお話しする機会がなかったものですから、なかなか感じてもらえずに片思いがずっと続いているのです。
その感情とか気持ちの起伏がとても参考になるとおっしゃっては書き入れておられました。それに、、、、、」
「それに、、、?」
「いままで愛さんと連絡がとれず困っていたのです」
「いつからですか?」
「私は愛さんと連絡を取ろうとしていたのですが、実は連絡先は聞いていなかったのです。

それでまさか愛さんがそのような状況になっていたとは思いもよりませんでした。
今、そのお話を聞いてびっくりしました。
実は早苗さんの忘れ物があるのです」
「えっ!!、、、忘れ物??」
宇多田は黒い財布出して、中から小さい物を取り出した。
「それって、、メモリー、、、じゃないの」
「そうだと思います。僕はパソコンは使いませんのでよくわからなかったのです。
これは愛さんが使われていたものでお忘れになったものですので、私は愛さんが、この店にいつ来られても渡せるように持っていたのです」
優子、織江、詩、龍はそのメモリーステックを見つめている。
「それは貴重なお話です。
よく持っていてくださいました。
私たちが受け取って早苗のご両親にお渡ししてもいいでしょうか?」
「もちろんです」と宇多田はそのメモリーステックをそばにいる優子に手渡した。
「誰かパソコン持ってる?」
「うん、持ってるよ」と詩と龍はノートパソコンをバッグの中から取り出そうとする。
「中身を見ていいかしら、ご両親にお渡しする前に、、、」
「優子は早苗のご両親に早苗の件は任せられているのだから当然のことだと思いますよ」
詩は優子からそのメモリーを預かり、自分の小さいノートパソコンを起動させ、USBに差し込んだ。
ツ、ッ、ツ、ッ、ッ、、、、

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1-126 縁

数限りない出会い。
無数の人たちが悠久の歴史の中で出会っている。
今現実に起きている出会いは奇跡と言える。
推測も憶測も届かない現実。
出会いばかりではなく私たちは奇跡の中で生活している。
新たな奇跡は出会いから始まる。
縁、enishi。
しかし出会いは奇跡ではなく必然だった。

「あのう、、、すみません」と店長の宇多田は4人に声をかけた。
「はい、、」優子、織江、詩、龍は宇多田を見上げた。
恐縮そうに立っている黒のズボンに白いシャツ、いかめしい体つきの男が立っている。
「覚えていらっしゃいますか?」とおどろおどろしくしている。
「あっ、、なんとなく」と詩が応えた。
「2年くらい前に愛早苗さんと一緒にいらした方ではないですか?」と言いながら店長の宇多田は優子に顔を向けた。
「はい、覚えています。、、、、この店に来たのはそういえば2008年の8月下旬、ジャニーズが「嵐」の海外公演を発表した直後でしたから、その時期のことを覚えています。
そのとき早苗と一緒にここでお茶をさせていただいたときのことをみんなに話したんですよ」
「10年以上前の学生だった頃のみなさんが、ここに来られているのを見で懐かしく思い出していたのです」
「そうですよねぇ、私たちあなたのことを{ あれっ、あの人だって } 思い出していたんですよ。
この付近も様変わりしたみたいですけど、この店の雰囲気は昔のままで懐かしんでいたんですよ4人で」と龍が宇多田に笑顔を向けた。
「ありがとうございます、、、」と宇多田はもじもじしている。
「もしかしてこの店のオーナーだったんですか?」
「とんでもないです、、雇われ店長です。
私、宇多田だと言います。
池袋とここの店の雰囲気が好きでいつのまにか10年以上も経ってしまいました。早いです」

宇多田は10年以上も前から優子に恋い焦がれていたことを言い出せないでもじもじしている。

「そうですか、、お変わりありませんか?」
「ありがとうございます。今日は以前は尾崎さんとご一緒に来られていた愛さんがおられないのでどうしたのかな?と思いまして、、、、」
「、、、、実は、愛は亡くなったのです、、、」
「えっ、、、何?、、、なんておっしゃったのですか?」
「実は、愛早苗はちょっとしたことで亡くなったのです」
それを聞いた宇多田の瞳は突然、宙に泳いで上を向いている。
しばらく沈黙が流れる。
そして突然、宇多田は崩れ落ちそうになったが、ようやく持ちこたえた。
「どうしたんですか?、、、、、」4人は宇多田に注目する。
、、、、、、、、、、
「2年前ここに愛さんと尾崎さんがいらっしゃったとき、尾崎さんだけが店を出て行かれたのです。
それでお一人になった愛早苗さんとお話しする機会があったのです」
「えっ、そうなんですか?、、、ここでですか?」
「はい、お時間があると言われたので外でもお話しすることになったのです」
「外で、と言うと?、、、」
「ちょっとお酒でも飲もうかということになって、、、」とさらにもじもじしている。
「へぇ、、私たち初めて聞くことです。
よかったら、詳しく聞かせてもらえませんか?」
4人はいっせいに宇多田に視線を向けている。
「はい、でも愛さんが亡くなったというのはどういうことなのでしょうか?」
「ニュースはご覧になっていませんか?」
「僕は新聞とかテレビはあまり見ないもので、、、ニュースになったのですか?」
「実は、早苗は事件に巻き込まれたんです。それもシンガポールで、、、」
「事件に巻き込まれた?、、シンガポール?、、」宇多田は、そばにあった椅子を寄せて座った。
「どういうことでしょうか?」
「彼女はこの店を訪れた数か月後に仕事でシンガポールに行ったのです。
ですが、彼女は現地で仕事をする前の観光途中で事件に巻き込まれて亡くなったのです」
「それがニュースになったと?」
「はい、行方不明になったので、すぐにニュースにはなりませんでした。
行方不明になった約1年後にシンガポールの付近の海で発見されたのです。
しかしもうすでに白骨化していて、、、調べてみると殺人事件だったのです」
「殺人事件?」
「そうです。早苗は殺されたのです」
「、、、、」宇多田は下を向きながら両手を握りしめた。
「宇多田さん、、、何かご存じのことがあるようですね、、、?」
「、、、、、」

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1-125 浮気者と浮気相手をとっちめる

saveearthメンバーの優子、織江、詩、龍は池袋にあるリセリアホテルでの会議を終えた。
外は午後の日差しが残っているが11月の風は冷たかった。
学生時代によく通っていた喫茶店ウファが見えてくる。
ここでちょっと立ち寄ったあと居酒屋で飲む予定にしている。
ウファの扉を開ける。
「いらっしゃいませ、、、」ウェイトレスが透き通る声で招き入れてくれる。
夕方まで少し時間があるせいかお客はまばらだった。
窓際のテーブル席には他のお客がいる。
その窓際のお客を通り越して小さな公園が見えた。
公園は少しずつきれいに整備されつつある。
優子たちは静かな奥のほうのテーブルに席を求めて座った。
「何にする?」
上着を脱いだ4人はメニューの中から飲み物を注文する。
「早苗と最後にここに来たのが、2年前の夏が始まったころだろったかしら、あそこの窓際に座っているカップルのところだった。
あれから、アッという間に時間はすぎたわね」
「私も何年ぶりかなぁ、あのウェイトレスさんも知らないし、みんな変わるのもあたりまえよね」
「あの奥の方の背の高い男の人、、横顔が見える人、たしか見おぼえがあるわ」
「あぁ、、あの人、、そうね身体が大きくて特徴があったよね。
そういえば大きいわりにときどき小さくなってかしこまったりして、、、」
「そういう私たちも学生の頃から見ればだいぶ変わったはずよね。この街並みのように」
「ところで優子も生活が様変わりしたんでしょ、、、」
「私が早苗と電話しているうちにたまたま夫のことで相談したのよ。
もう二年も前の事。
それで早苗の会社が取引していた探偵会社に取り次いでくれたわけ。
「そうだったの、、、浮気調査ってこと?」
「そう、それで証拠も撮れて、いろいろ話し合うことになった。
話し合ったけど、、、その前からいろいろと問題があったのよ」
「浮気された側は大変なことだよね」
「そうね、いろいろとね」
「その探偵社からのアドバイスはあったの?」
「浮気されてる側からすれば、「浮気しているなんてとんでもない。それどころじゃない」ということが多いよね。
浮気していた相手をどうゆうふうにしてとっちめるのか、反省させてもう二度と浮気をさせないためにはどうするか、浮気相手を含めてね」
「そう簡単じゃないよね」
「大変」
「それを考えたり話するだけでも悔しいわよね」
「そう、それはそれとしてみんなのことを教えてよ、、、」
小一時間、、、話をしていると喫茶店ウファにはいつのまにかお客が増えつつあった。
「あっ、、、メールが来たわ」
それはチエから優子へのメールだった。
{今のところ、不審者は見受けられません。

大丈夫かと思います}
{了解}
「さっき、チエさんか申し出てくれたのよ。もしかすると尾行がついているかもしれないと、、、以前、私と早苗が尾行されたり撮影されていた可能性が高いということだったから、、、。
今のところ、そんな不審人物はいないようだとの連絡メールだったのよ。
さてともう少ししたら、支度して久しぶりに居酒屋へいきましょうか?」
、、、、、、、、
「あのう、、、、、」

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1-124 香港とシンガポールでの起業

シンガポールでは、、、、


豪華客船ピュアプリンセス号での張、ジュリア ( ミセスジュリア )の死亡事故の検視が行われた。
それと客船での新型インフルエンザウイルスについても対応に追われていた。
シンガポールの港に帰航した客船の事でもあり、緊急で人員が派遣されたためか、比較的対応は早かった。
二度、陰性になったお客や船の関係者は次々と船から降りて解放されることになる。
李ガンスも検査されたが陰性だった。
張、ジュリアの死について関係者としての事情を尋ねられたが、結果的に被疑者ではないと判断され解放されたのだった。
ドクターアデナウアーも事情は尋ねられたが、特別なことはないと判断されたためにアメリカに帰国することになった。
その後、張ジュリアの遺体はシンガポール市内の病院で詳しく調べられることになった。
防護服を着た警察官は客船の船長および医療関係者などから事情を尋ねていく。
それによると新型インフルエンザに関してはどこが発生源かはまったく予想がつかなかった。
子供なのかそれともその子供を抱えていた母親なのか、それとも他からなのか、親子ともどちらとも検査してみると陽性だった。
すでに2人だけでなく、船内では数人の陽性者が見つかり、すぐに市内の病院に搬送されている。
各メディアでの取り上げ方が熱を帯びていく。
新型インフルエンザやウイルスの話だけでなく、飛ぶ鳥を落とすようないきおいのある女性起業家、張ジュリアのショッキングな死はシンガポール人の話題をさらっていた。
そうなると噂が噂を呼び、人々の間では憶測が独り歩きをする。
そしてその日、。。。。。
シンガポール警察車両はプライベートクルーザーがいくつも停泊している港の付近を走っていたのだ。
朝早くとはいえ日差しは強かった。
走り去る車両から見えるカフェ店では、朝のゆったりとした時間を過ごす老夫婦の姿も見え隠れしていた。
警察車両はセントーサ島セントーサコーブの高級住宅地のとある目的地へと向かっていた。


妻の張、ジュリアとその夫である王紅東は香港を拠点としただけでなく、シンガポールまで商売の域を広げていった。
香港では飲食業が主であったが、シンガポールではさまざまな業種を変えて起業している。
張、ジュリアは商売の才があった。
彼女が作る飲食店の店づくりには特徴があった。
女性で素人であり神経質であったがゆえに場所を選ばず、女性が安心して入れるような清潔な店づくりに専念していた。
店で出される料理の値段は決して安いのではない。
自分も食べられるような安心感のあるおいしい食べ物を提供するという至極、単純ではあるが見過ごされそうなところに着目していたのである。
彼女の神経質さが、そして素人さが、店づくりが一部メディアに取り上げられたことをきっかけにインターネットでおいしいと噂が広がっていったのである。
実は、その味の要素に和食の特徴が盛り込まれていた。
店づくりだけでなく、食べ物の味付けに秘密があったのである。
彼女は日本にもたびたび旅をしていた。
特に日本の食べ物や和食のとりこになった。
寿司や刺身やてんぷらの店は香港にはたくさんできている。
だが日本を旅していると香港にあるそれらの店はだいぶ日本の食べ物の趣も味も違う。
一方、香港にある本物の日本レストランはあるにはあるが非常に高い感じがしていた。
香港人には高い感じがせずに本格的な和食の味付けのレストランがあまりないというのが、彼女の着目した点であった。
その味付けや料理の値段の付け方や清潔感が人々から高評価され、店は各地域へとどんどん広がっていったのである。
そのサポートをしていたのか夫の王紅東だった。
香港での成功を受けた2人は香港だけでなくシンガポールまで進出していったのである。
シンガポールと香港の物価は相当の差があると感じられる。
シンガポールでは食べ物や店づくりについては香港と同様な趣旨で進出できたのだが、仕事をしているうちに様々な業種で新しい発見をしていったのである。
そのシンガポールで拠点として彼らが住んでいた地域こそが、セントーサ島セントーサコーブなのだった。
その車両の一つには陳警部も乗っていた。

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1-123 サムライ魂とお金


「すみません、、、お話の途中ですみません。
、、あのう、、、提案があるのですが、、、」

とチエは手を上げた。
そして優子のそばまで行くと耳打ちをする。
優子は一瞬、チエを見つめたが「わかりました」と言って、今度は優子がチエに耳打ちをした。
チエはすぐに自分の席に戻って携帯電話でメールを打ち始める。
「さて、そういうわけで私たちは今後とも早苗に関する情報が入り次第、調査を続けたいと思っています。
また早苗が進めていたプロジェクトは彼女の意志でもあるし、今後の私たちにとっても大事なことになります。
ですので、これからはみんなと相談しながら事を進めたいと思っています。いかがでしょうか?」
パチ、パチ、パチ、パチ、
「それから他のメンバーのそれぞれのプロジェクトも進めていきましょう。
それについてはやはり先立つものはお金です。
これからは今以上のお金が必要になることでしょう。
ですので今後とも織江を中心にしてみんなで知恵を出し合いながら資金を作りたいと思います。、、、、どう織江?」
「私はsaveearthのお金を創出することに専念していますが、会のみんなのお金ですから、いつでもわかるようにしています。
会の創立時にはメンバーがそれぞれ2万円を持ち寄った合計10万円を使って〇〇に投資しました。
その投資したお金10万円がどんどんなくなっていき、もうだめかなと思う時期もありましたがその後、盛り返してとうとう10万円以上の利益を産みだすことができました。
結果的に皆さんが投資したそれぞれの2万円は全額お返しできただけでなく、余剰金ができたわけです。
こんどはその余剰金を使って再投資を行い、現在のように資金が増えているのです。
このように会を作った頃にみんなで出し合った当初は、なかなか投資というものやそのやり方がわからず心細いくらいにお金がなくなりそうにもなったことがありましたが、見事に盛り返しました。
ですので余剰金から生み出しているものですから、現在の会のお金は、皆さんからの直接のお金を使わずしてお金を儲けていることになります。
その意味では現在のリスクはゼロということも言えます。
現在、会には〇〇〇〇万円くらいが貯まっています。
これは皆さんのお金です。
そのうちの1/4はメンバーそれぞれが自由に使うためのお金として保管しています。
ですので連絡して下されば、そのときにそれぞれが使用可能な金額をいつでもご希望の口座に振り込みできます。
残りの1/4は会の運営や必要経費に充てることになります。
残りの1/4は研究や開発資金などとして、いつでも使えるように保管していきます。
最後の1/4はさらに資金創出するためのさらなる投資資金として使っていきます。
ですので投資や資金や経費などは動いていますので、会のお金は当然、変動していきます。
ところが、去年のアメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻から始まった世界経済の落ち込みは、日本にも大きく影響をおよぼし転げ落ちていったのです。
100年に1度とも「金融資本主義の運命の1日」とも言われているくらいに重要な出来事でもありました。
私はこのようなときにはできるだけ様子を見ることにしました。
恐いですからね。
それでも大きな経済変動から1年以上も経っておりますので少しずつ、明るさもでてくるものと思っています。
投資についての勝ち負けや失敗や成功などは当たり前のことだと思っています。

今後も大きな変動は必ずあると思います。
そのためにも手法の工夫に磨きをかけて利益の増大に挑戦していきたいと思います。
みんなが助け合い、力を合わせれば失敗があっても成功すると思います。
よろしくお願いします」
「織江、ありがとう。
お金についてはとても重要です。
人の身体で言えば血液です。
環境や循環を良くし血液自体をきれいにしましょう。
会の趣旨である人のためになるような無理のないお金の生み出し方、気持ちの良い使い方をしたいと思っています。
ただし理想や机上の論議をしているだけでは現実に合わないことはよくあることです。
学生の頃、皆さんともにこのsaveearthを作る際によく話し合いました。
私たちのこれからやろうとしていることは、生きがいのある、やりがいのある、成長が大いに見込める、夢のある事、人が不便に思っていることを解消すること、そしてもっとも大事なことは人のためになること、幸せへとつながっていることを行うのです。
仕事を通じて、人が笑顔になれる事を目指していきたいと思います。
早苗は志の途中で亡くなりました。
彼女が愛した幕末維新のサムライたち、そして尊敬していた吉田松陰は事の途中で亡くなりました。坂本龍馬にしてもしかりです。
彼らの事の処し方は未来に向かっての未知数を不安と思っていない。
人のためになる、国のためにもなる、将来性があること、よって苦しくとも明るく希望をもって行動していることにつきます。
早苗がそのような真のサムライたちと同様な生き様、死にざまをしたのだと私は思います。
憎しみや苦しみを克服することは、たいへんだったろうと思います。
そうしていながらも彼女は危急の生死の真っただ中にいて、生死から超越した。
そして「愛」の本質を悟ることはできたのだと私は信じています。
真のサムライのように生死の真っただ中にいて生死を忘れ、恨むこと、憎むことから離れて、もっとも大事な「愛」を悟ることができた。
いやそれしか方法がなかったとも言えるかもしれません。
最後の最後に早苗は「愛」を得て救われたのだと思います。
信じられないでしょうが幸福感に満たされていたのだと私は思っています」

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1-122 極小生命体の研究

「なるほどねぇ、、そういう面から考えると早苗のその方面の研究がどこまで進んでいたのかということなるわね。
早苗が持っていた自宅用ととシンガポールに持って行ったノートパソコンが盗まれたというのだから。
おそらくのその中には仕事や研究していた情報が入っていたはずだわ」
「たしか詩はAIの仕事だし、龍は長寿の研究しているのよね。
で早苗とは連絡を取りあっていたはずよね?」
「私はフランクフルトで先生の助手をしながら研究をしているけれどあくまでも長寿の研究を主流にしているの。
早苗とは連絡を取り合っていたけど、優子と早苗がそこまで話をしていたことに驚いたわ。
確かに二人の話の中には重要な要素が含まれていると感じるわ」
「私のほうはAIを使って極小生命体の動きを察知するにはどうしたらいいかを探ってほしいと早苗からは言われていました。
しかし考えてみればこれはこれは大変なことなのよね。
極小生命体だから小さい。
細胞の中の細胞のようにあまりにも小さすぎる。
現代の科学技術でもってしてもそれを詳しく見たいのなら特殊な装置が必要になるでしょう。
ところが早苗の依頼はその極小生命体の一つ一つの動きをAIの力を使って探ってほしいというのだから驚きだったわ。
何をいっているか、何のことだか私の想像を超えていたのよ。
それに私はそんなことを探ったとしてもそれが何になるのかと疑ったわ。
でも今の優子と早苗のお話を聞いていると果然、未来が見えてくるように感じるわ」
「どいうこと?」
「それは●●●につながっているということなのかしら?優子?」
「当然、そういうことになるでしょうね」
「それがこの研究で明らかになるということ?」
「さまざまな可能性につながっている広がっているということよ」
「日本の少数の素人の民間人が、もしかしてその先駆けとなるとでもいうの??」
「そんなことは考えてもいない」
「市場規模は天文学的な金額になるかもね」
「わくわくするわ」
「少なくともスーパーマーケットで安売りを探す必要はなくなるということになるわね」
「いや、関連することに携わるだけでも莫大な利益が見込めることになる?」
「だからこそ大変な圧力や危険が待ち受けているかもしれない。
いや巨大な敵がたくさんいるに違いないわ」
「しかし味方もたくさんいるに違いない」
「だけど、まだ研究の段階で早苗がそんな危険にあったとはどうしても思えない、、、、」
「あのう、、、、」とチエが手を上げた。

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