1-109 Love

一年くらい前に優子と早苗と二人で池袋の居酒屋で飲んでいたとき。
隣のテーブルでは、数人の男女学生が議論をしていた。
その学生たちの中に「ミハナエリカ」という可憐な女性がいた。
お酒の勢いもあったが、学生たちの議論は至極真面目に白熱していく、、。
この世には良き人たちがいる。
その一方であからさまに嫉妬したり、いじめたり、暴力を加えたりする人たちがいる。

引きずり落そうとする。

それに加えて一部の利益や利権を望む人たちが機会をとらえて動き出す。
さまざまな多様性のある人々がおりなす世界。
どこの国でも地域でも組織でも、少数の人たちが一部の人たちを巻き込んだり扇動したりする。
平和だった人たちまでが偏見を持ってしまう。

差別してしまう。

いつのまにか紛争や戦争に巻き込まれ、互いに殺し合いまで始めてしまう。
すると憎しみの連鎖が続いてしまうことにもなる。
これらは国家間や民族間や地域間だけではなく、人と人との間でも同様なのだ、と。
そのような学生たちの議論を隣で聞いていた優子と早苗だったが、なにかしら人の哀しみに触れたような気がしていた。
そんなときミハナエリカが人の底辺に流れる孤独や愛を語ったのである。
優子と陽気に話しながらも隣の学生の話を耳にしていた早苗はふと涙がこぼれ落ちた。
自分の境遇に重ね合わせたのであろうか。
それとも、、、、。

何かを予知でもしていたのであろうか。
居酒屋の喧騒の中で早苗の様子を見た優子はしびれてしまった。
その二人の物静かな哀しさの様子に気づいたのが、ミハナエリカだった。
そしていつのまにか三人は、まるで寄り添うようにして涙が止まらずにいたのだった。
ただそれだけのことだった。
そんな早苗が、その数か月後には事件に巻き込まれて亡くなってしまった。
優子は亡くなってどこかにいる親友の早苗がシンガポールへと自分をいざなってくれているのだろうと感じていた。
何かを伝えたくて。
優子は同乗している母と幼い聾唖の男の子の席に向かった。
そして早苗の亡くなった時の手の形をして見せた。
それを見た母親は、それは「あ」と「い」だろうという。
思惟をめぐらしていると優子には感じるものがあった。
それは日頃から使っている愛という言葉とは違うような気がした。
愛は言葉だけではなかった。
知識だけでもなかった。
見た目だけでもなかった。
「愛」。
早苗は生死と共に「愛」の真実を悟ったのだ、と思う。
憎しみ、憤り、孤独、理不尽さも負の連鎖も超え、生死の真っただ中にいて生死を忘却した。
忘却してはじめて「愛」の本質を悟ることができたのに違いない。

生死を離れた。

生死を離れれば時空次元は存在しない。

時空次元の存在しない色即是空の中に、、、、

宛然として生じたのだろう。

この宛然として己に生じている「愛」は誰にも侵されることはない。

だから最後の最後に早苗は「愛」を得て救われたのだ。

「愛」を得て幸福感にいたのだ。

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1-108 尊厳ある遺書

早苗があの殺され方をしたことに犯人の早苗に対しての異常な憎しみが感じられる。
早苗は犯人と話しているうちに、犯人の行為の理不尽さに苦しんだのではないだろうか。
しかし犯人からの拘束から逃れるすべがなかったのだ。
そしてその日が迫ってきたとき、早苗は死を覚悟し腹を決めた。
早苗は後ろ側に両手まわされ手錠をかまされた。
そして体全体にロープを何重にも巻き付け締め付けられた上に、生きたまま袋に入れられた。
そして重しを付けられ、海中に沈められたのだ。
それを早苗は受け入れなければならなかった。
早苗の犯人への憎しみ憤りは、犯人よりもあったことだろう。
だが現前に迫る死を受け入れざるを得なかったのである。
ただ、人はどのような死の受け入れ方ができるというのであろうか。
優子は学生の頃、鹿児島県の知覧に行ったことがあった。
そこには知覧特攻平和会館があり、そこで特攻隊の遺書を読んだことがあった。
第二次世界大戦のさ中、1944年10月20日に最初の特攻の攻撃隊が組織され、最終は終戦日の1945年8月15日まで続いた。
特攻作戦で亡くなった隊員は1036名。
そのうちの半数近くの439名が鹿児島の知覧から飛び立った。
その手記の一部。
「1945年1月6日 比島にて戦死。亨年23歳 (神風特別攻撃隊第十九金剛隊)
お父上様、お母上様、益々御達者でお暮らしのことと存じます。幸光は闘魂いよいよ元気旺盛でまた出撃します。お正月も来ました。幸光は靖国で24歳を迎えることにしました。靖国神社の餅は大きいですからね。同封の写真は**で猛訓練時、下中尉に写していただいたのです。眼光を見てください。この拳(こぶし)を見てください。
父様、母さまは日本一の父様母様であることを信じます。お正月になったら軍服の前にたくさん御馳走をあげてください。雑煮餅が一番好きです。ストーブを囲んで幸光の思いで話しをするのも間近でせう。靖国神社ではまた甲板士官でもして大いに張り切る心算です。母上様、幸光の戦死の報を知っても決して泣いてはなりません。靖国で待っています。きっと来て下さるでせうね。本日恩賜のお酒を戴き感激の極みです。敵がすぐ前に来ました。私がやらなければ父様母様が死んでしまう。否日本国が大変なことになる。幸光は誰にも負けずきっとやります。
ニッコリ笑った顔の写真は父様とそっくりですね。母上様の写真は幸光の背中に背負っています。母様も幸光と共に御奉公だよ。何時でも側にいるよ、と云ってくださっています。母さん心強い限りです。幸雄兄、家のことは万事頼む。嘉市兄と共に弟嘉平、久平、保則君を援けて仲良くやってください。恩師に宜しく申し上げてください。十九貫の体躯、今こそ必殺轟沈の機会が飛来しました。小樽の叔父、叔母様に宜しく。中野の祖母様に宜しく。国本師顕殿、お世話を謝します。叔父さん、幸光は立派に大戦果をあげます」

人が死を現前に覚悟したらどうなるのか。
早苗は自分の魂の尊厳を自分自身に示したかったのだろうと優子は感じていた。
自分が死んだ後の遺体が発見されるか、されないかなどはどうでもいい。
犯人の名前など、もうどうでもいい。
端的に言えば犯人への憤りも憎しみさえももうどうでもいい、と。
早苗は遺書さえ書くことができなかった。
だから、ただただ早苗は自分の魂の証を最後の自分自身に示したかったのだ。
と優子は思った。
そして思い出していた。

先ほど機内のトイレに行く際の戯れていた親子の姿が、優子の瞼に浮かんだのである。
母親がニコニコしながら聾唖 ( ろうあ ) の幼い男の子に対して示していたあの手の形。
あれは早苗が残していた両手の形に似ていた。
早苗のあの両手の組み方。
、、、あれは、、、
早苗が手で残した遺書だった。

、、、のではないだろうか、、、、と。

魂を込めて自分自身に示していたのだ。
、、、その形こそ、、、

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1-107 ほとばしる涙

そして、、、優子は静かに嵐の歌を聴いている。
頭に浮かぶのは音楽から流れ湧いてくる快いイメージだった。
エンターテイメントの重要な一つは歌の内容と質なのだろうと思う。
歌い手の歌う歌が人々の心に快い響きを伝えることができなければ人は感動しない。
ふとそう考えた時に早苗の心情を重ね合わせたのである。
早苗が学生の頃から気に入ってよく話していたのは、維新のサムライ、吉田松陰のことだった。
吉田松陰は時の幕府から捕らえられ、ついには刑に処された。
その29才のころの辞世の句がある。
「身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂」
「親思ふ 心にまさる 親心 けふのおとずれ 何ときくらん」
吉田松陰の子弟にはそうそうたる人物が輩出している。

思うに早苗も同じように28才の若さだった。
早苗は、シンガポールで殺人犯人から拘束を受け、なにがしかのことをされているうちにいつしかある覚悟をしたはずだろうと思う。
シンガポールの地で、女の身でありながら、誰にも連絡ができず、一人、ある覚悟を決めた時、その心情は計り知れないものがある。
{ もし自分がそのようなことになった場合、どうするだろう? }

そう考えているうちに吉田松陰の辞世の句が浮かんだのである。
人が死を覚悟したときにどう思うだろうか。
老化ではなく、急に迫ってきた死の予告に対してである。
吉田松陰の場合は日本を愛する魂の再生と親に対する感謝だと感じられた。
しかし、早苗の場合は、、、、、その覚悟は、、、、
そう優子が考えを伸ばしていると、、、ふと浮かんだイメージがあった。
{、、、、もしかすると、、、、、、、
もしかすると、、、
犯人に対する憎しみ、、、、ではなく、、、
早苗が形作ったあの両手を組んだ形、、、、
いままではそれは犯人の名前を示したかった、、、、のではなく、、、
、、、もしかすると、、、、

他の意味のある行為だったのではないか、、、、}
しかし、そのイメージだけでは、早苗の両肘から両手先が手錠から抜け出て、早苗の全面で組まれていたことの説明が不可能に思えた。
生きているときにも死んだときにもどちらでも不可能だと思われた。
優子は早苗の事件では犯人が何かの理由で早苗の両手を組ませて、何かの時に何かの理由で早苗の両肘を切り離ししたのではないか。
それとも早苗のほうが犯人の姓名をイメージさせようと残したかったのではないかと疑っていた。
{ しかし、、、、、説明のしようがない、、、と思っていた、、、、}
たとえ死を覚悟したとしても物理的に不可能なことだった。
隣では目をつぶったままの織江が嵐の歌を聴きながら小さく口ずさんだ。
その瞬間。
優子は早苗の心情が閃いたのである。
{ あぁ、あぁ、、、何ということだろう、、、人間とはここまでできるのだろうか、、、}
静かなる慟哭の前兆だった。
優子は突然のほとばしる涙に沈んでいった。

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1-106 人生の苦しみをとぎほぐすarashi


優子と織江は日本に帰るシンガポール航空の機中の人となっている。
珍しいことだが、日本からシンガポールへと旅立つときに乗っていた幼い男の子と母親が再び日本に帰るこの飛行機に同乗していたのである。

この機中でもあの親子は楽しそうに戯れている。
ただよく見てみると男の子は「キャッ、キャッ」のような絞り出すような声を出して笑っていたが、それに応じて母親はニコニコしながら無言で何か手を使い仕草をしている。
{ あぁ、あの子はもしかすると聾唖 ( ろうあ ) の子だったんだ }
優子はその親子の様子を見やりながら、トイレから自分の席に戻って行った。
人は、ちょっとした瞬間に同じような人々と出会うことがある。
縁。
縁といものはいろいろな形態がある。
瞬間にすれ違い去っていく人たち。
再び会うことのない縁の薄い濃い人たちが人生にはたくさんある。
あの親子は二度だが見かけただけである。
相手は気づかない。

会話をしたこともない。

再び死ぬまで会うことはないだろう。
そう思えば知り合っている人たちがいかに自分の運命に関与しているのかが感じられる。
優子には、まるで早苗がシンガポールへと誘ってくれていたように感じていた。
もう会うことはない早苗だが、縁は濃かった。
どうしても早苗の死の解明と彼女の心境を感じたいと思って旅立ったのだった。
優子と織江は、日本からシンガポールへ飛び立つときも早苗の死に気持ちが沈んでいたが、こうして日本へ帰る機中の人になってもやはり悲しみは増すばかりだった。
人の運命というのは何なのだろう。
生と死はどういうことなのだろう。
人生の苦しみを解きほぐすことばどのようにすればいいのか。
二人はリクライニングを倒して目をつぶっている。
そして日本から持ってきたジャニーズの嵐の歌をヘッドホンで聞いている。
嵐の歌には人生を明らかにする突破口のようなものがあるように見受けられる。
早苗は嵐の明るい歌、美しい歌が大好きだった。
嵐は嵐ファンを楽しませ勇気づける。
人々は好きになる。
だから世界中の多くの嵐ファン同士も仲が良い。
嵐とそのエンタテイメントに携わった人々に「ありがとう」と言っておきたい。
もしかすると早苗は今も優子と織江と共に一緒に嵐の歌を聞いていてくれているのかもしれない。
優子と織江は新型インフルエンザの検疫での結果は陰性だった。
豪華客船ピュアプリンセス号から解放された二人は、その足でシンガポール警察に向かった。
早苗の事件担当の陳警部は言葉少なだったが、二人からの事件の情報提供に喜んだ。
ミセス、ジュリア ( 張、ジュリア ) の死で、それに関してもシンガポールの警察も動くことになる。
事故死なのか他殺なのか。
ジュリアの夫である王紅東はピュアプリンセス号がシンガポール港に到着すると乗船してきた。
船が到着する前に妻の不幸の知らせを受けたのだろう。
ジュリアの両親も駆けつけることだろう。
それにしてもミセス、ジュリアの死には驚きだった。
それにいつも同行していたあの男。
太り気味で170cmほどで眼鏡をかけた40代後半の神経質そうなあの男の名前は李光洙 ( リーガンス )ということが日本のオフィサーソフト社の如月専務からのメールでわかった。
早苗がジュリアと李と関係していたとすれば、早苗が勤めていた日本のオフィサーソフト社とシンガポールのDragon社の仕事に関して知り合ったに違いない。
そのことで李はシンガポールに来ていた早苗とその仕事の約束前にペナン島で会っていたはずなのに、まったく知らなかったという嘘の証言を警察にしていたのだ。
シンガポール警察にとっては新しい事実だった。
あのパティオパーティでの李が優子を見た時の表情の変化が忘れられない。
優子は初めて会ったというのに彼は優子のことを知っていたという態度だった。
どこで優子のことを知っていたのか?知っていたとしても顔を覚えていたとは。
ジュリアのほうは優子を見た時には初対面の態度だった。
しかし優子がジュリアの耳元で早苗のことを囁いたときのジュリアの態度は異様に変化した。
ジュリアと李は早苗と関係していたということになる。
どんな事情が早苗の悲惨な死に関係していたというのだろうか?
優子は亡くなった早苗が、さも一緒に嵐の歌を聴いているように身近に感じていた。

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1-105 陰性と陽性

ピュアプリンセス号はシンガポールの港マリーナ・ベイの片隅に停泊している。
ミセスジュリアはデッキの上でうつぶせの状態のままで周りに白いシートが掛けられていた。
そのまわりにはバーケードが設置されていた。
すでに防護服を着た警察官たちが死体の検分を行い、関係者は次々に呼ばれている。
船の内外で新型ウイルスについての非常事態と処置方法のアナウンスが何度も流れている。
船とシンガポールの病院側との対応によって港には臨時に設置された小さなテントを張ったデスクがいくつも供えられ、次々と客の検査をしている。
シンガポールでは新型インフルエンザはすでに早くから認識されていた。このころは迅速な診察キットも開発されてはいた。
陰性で問題ないと判断されたとしてもその検査キットを使い、連続2日間は検査をする。それで陰性で安全だと判定された者は通常のように船旅の清算をして、パスポートや荷物を貰い船を降りることができる。
もし陽性になった人たちはある区画されたところに案内されたあと市内の病院に運び込まれることになる。
船全体も消毒されることになる。当然、陽性と判断された人たちの部屋は念入りに消毒されることになる。
検査順位はおおかた船の従業員や関係者が先になる。その次にお客になるがやはりエグゼグティブからとなる。だから優子たちは朝の弁当を自分たちの部屋に持ち込んで済ませたあと、検査をしたのだ。
一回目の検査では、優子と織江は幸運にも二人とも陰性とのことだった。
「ちょっと安心したわ」
「それにしてもあの騒ぎ、、、お客よりも従業員が大騒ぎね」
「そりゃあ、そうでしょうね。初めてのことでしょうから、、でも港での新型インフルエンザの検査はずいぶん手早くしているようね。まぁ、この船の従業員もお客も大変な数なのだから、そうなのかもしれないけれどテント数も多いし、政府側が動いたのでしょうね」
「ドクターアデナウアーとかなんとかいうドイツ人も新型インフルエンザにかかっているらしいわよ。どの段階でわかったかわからないけれど、医者まで新型インフルエンザになったと発表したら、お客のパニックが想像され大騒ぎになることは目に見えていることから、船長は躊躇していたらしいわ」
「いや、私はドクターアデナウアーは陰性だったと聞いているけど?」
「うわさって、いろんなことが勝手に広まっていくということね」
世界的に新型インフルエンザの怖さが取りざたされてはいた。シンガポールでは小康状態であったから、医者や看護婦は乗船しているものの、船にはタミ●ルなどの薬は多量に用意されていなかった。
タミ●ルやリレ●ザは、一般的には安全な医薬品といわれている。ただ頻度は低いものの様々な副作用を生じることがある。
「そうね。マスコミ関係者もまわりには多く集まっている」

「それにしても、、ミセス、ジュリアの死にはびっくりしたわ」
「あの人、、パティオパーティではシャンパンをずいぶん飲んでいで元気そうだったわよね。次々に挨拶してくれるお客と乾杯したりして、、」
「警察が、ジュリアの死をどういう判断するかわからないけれど、、、」
「ジュリアという名前からして西洋風だけど、スタッフの人から聞いたら彼女も夫も香港出身の中国人らしいわ」
「そうね。夫も妻のジュリアも香港出身で香港で飲食業で次々に成功している中華の人らしい。香港だけでなくシンガポールまで足を延ばして飲食業だけでなく、いろいろな商売で成功しているためにマスコミでもたびたび登場していた二人らしいわ」
「としたら、もしかするとDragon社もその一つなのかしら?」

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1-104 世界的な利権と覇権

シンガポール厚生省(Ministry of Health, MOH)は、2009年5月26日、シンガポールで最初の新型(H1N1)インフルエンザを確認しました。
この流行が大きな問題になったのは、流行初期にメキシコにおける感染死亡率が非常に高いと報道されたからでしょうが、実際には重症急性呼吸器症候群 (SARS) のような高い死亡率ではなく世界的流行といわれるパンデミック重度指数(PSI)では、カテゴリー1程度に分類されていたのです。
新型インフルエンザと思われる人が見つかるとシンガポール厚生省 MOH ( Ministry of Health )の指定する病院付属センターに搬送されることになります。隔離場所では7日間の隔離期間を通じて、一日に2度体温検査を行い、インフルエンザの症状が現れないか確認することになっていました。症状が現れた場合は救急車によって市内にある指定病院に搬送されることになるのです。また自宅隔離命令に違反した者に対しては、1万シンガポールドルまたは6か月の禁固もしくはその両方が科せられ、再犯の場合には2万シンガポールドルの罰金または12か月の禁固もしくはその両方が科せられるようなっていました。
シンガポールの当時の人口は500万人くらい。政府は115万人分のタミフル、5万人分のリレンザを有していました。
実はこのタミフルを開発したのがアメリカの製薬会社ギリアド・サイエンシズ (GILD)でした。
1997年から2001年までの会長はドナルド・ラムズフェルドであり多量の株式を保有していました。そのラムズフェルドがアメリカの国防長官を務めていた2005年に国防総省はタミフルを備蓄するために10億ドル以上の予算を計上したのです。
実は日本も大量に買いました。
2020年から流行している新型コロナウイルスの治療薬「レムデシビル」を持っている米製薬企業でもあります。 2020年10月にFDA ( アメリカ食品医薬品局のことで、日本の厚生労働省にあたる公的機関 ) 承認を取得しています。
参考になるかどうかわかりませんが、アメリカ国防総省のDARPA(国防高等研究計画局)やDTRA(国防脅威削減局)は

2018年からコロナウィルスが人への感染に関する研究を進めていました。
そのDARPAと関係のあるアメリカのデューク大学が、実は中国の武漢大学と提携し、2018年にはデューク崑山大学まで開設していたのです。
しかし、、、、

2020年には世界のどこからか新型コロナウイルスが武漢からと報道されたようです。
それを意味するものは、、、、、

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1-103 静寂の死

ピュアプリンセス号は深夜から速度を上げ、シンガポールへと向かっている。
昨夜の騒ぎはまるで嘘のように船内は静けさを保っているが、キッチンの一部では朝の食事の支度に大わらわだった。
通常のバイキング方式ではなく、大皿にはたくさんの種類の食材を一つ一つ個別に仕分けし、お客にはそれらの中から好みのものを選んでトレイに入れてもらうセルフサービス方法に切り替えるためでもある。
昨晩は船のスタッフの若木が内々ではあるがこの船に生じている新型インフルエンザに関しての情報を優子と織江に教えてくれていた。
ただエグゼクティブのお客といっても事前に薬を提供することはできないということだった。
優子は日本から持ってきているそれなりの薬の用意はあった。
それに加えてツボや体の温め方などの対処方法を織江に教え、自分にも施して眠りについたのである。
船は潮風を受けながらいつもより早く走っている。
はてしなく広がる暗黒の空と波間の境に船側の灯が反射し静寂に一定のリズムを与えていた。
それは夜明け前だった。その刹那、小さな揺らぎがおとずれる。
その揺らぎはすぐにかき消され、船は波風をかきわけながら進んでいた。
朝、部屋のドア前を行き来する人々の足音と声で優子と織江は眠りから覚めた。
なにかしらいつもとは違うような人の行き来の感じがする。
もしかすると昨晩のことでアナウンスでもあったのであろうか。
しかし、、、、それは違っていた。
「キャーッ、、、、、」若い男女が悲鳴が聞こえてきたことから始まる。
朝早く、船の最前方のデッキ。そこにネグリジェ姿の女性が倒れていたのが発見された。
まるで首でも折れているのか肩と顔の正常な位置がずれてでもいるかのような姿でうつぶせの姿で倒れていたのである。
ピクリともしない。即死のようだった。
それを垣間見た人たちのさまざまな悲鳴が聞こえてくる。
上方を見上げるとベランダのヘリが見えた。
その即死状態の女性のまわりには人だかりができた。
「この人は、、、もしかするとミセス、ジュリア?、、、、、」す

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1-102 前夜

「はい、、」
「若木です」
「そうそう若木さんを呼んでいたのよ」優子は、立ってドアを開けた。
「失礼します。私にご用事あると、、、?」若木はお辞儀をした。マスクをしている。
「どうぞこちらへ、、、。お忙しいところすみません、、、少しの時間ですみますので、、、」
「はい、、、?」
「二人でさっきまで話をしていたんですけど、ちょっとお聞きしたいことがあります。この船の去年の航行プランのことなんです。去年の10月18日にシンガポールを出発するプランはあったでしょうか?」
「はい、ありました。ただし昨年の10月18日は土曜日ですが、、、」
「ということは10月18日のシンガポール発でペナン島とプーケット島を寄港地として22日にシンガポールに到着するものだったのでしょうか?」
「そのとおりです。日にちは同じです」
「ということはシンガポールに到着する前日の21日の夜には、パティオでのパーティは行われたのでしょうか?」
「そうです。旅の終わり前夜には何がしかのパーティはパティオで開かれます」
「ミセスジュリアの誕生日会もですか?」
「いえ、ミセス、ジュリアの誕生日会は毎年あるとはかぎりません。 たしか去年は開かれなかったのじゃないかと思います」
「なるほど、、で、昨年、愛早苗はパティオのパーティに出席はしていたのでしょうか?」
「それはわからないのです」
「と、言うと?」
「昨年のパーティでは私はお見受けしていないと思います。ただ、パーティでは多数の人々が参加されます。ですのでサービスするスタッフは参加されているお客様全員のお世話をすることになります。特定の方にサービスしたりすることは稀です」
「では愛早苗はご覧になっていないということですか、、、?」
「いえ、どちらかという記憶にないということになります。ただお一人の女性ですと多少は目立つことがあります。特に日本人女性ですと多少、ファッションも違うこともあります。それに愛さんはエグゼグディブでしたので、私としても多少の意識はあります。ですが、その当時の記憶に愛さんのお姿がないのです。だから、パーティにいらっしゃらなかったのではないかと思っています」
「私が思ったのは早苗は最初の寄港地てあるマレーシアのペナン島ではこの船から降りて観光をしています。お客は下船するときに預けておいたパスポートを受け取り、この船の出入国カードを受け取って から下船したり、再び乗船できるとお聞きしました。そうですよね?」
「その通りです」
「愛早苗はペナン島では下船し、観光した後、再び乗船している。その翌日のタイのプーケット島のときには下船していないということです。それに最終のシンガポールでは下船しているということでしたよね?」
「そのとおりです」
「しかしペナン島で、もし愛早苗が観光地で誰かと入れ替わって乗船することは可能なのではないでしょうか?」
「いえ乗船するときには、再び、じかに愛早苗さんご自身からパスポートを預かることになります。それとカードのほうも回収することになります。ですのでそういうことはないかと、、、、」
「でも可能性はありますよね?顔は認識されているのですか?」
「スタッフは観光を終えて乗船するお客からパスポートとカードを返還されるときにご本人だと思っています。
寄港地ではたくさんのお客様が下船したり乗船したりします。お買い物もお荷物もありますから多少は混雑する中で仕事をしています。それに私たちはそのように誰かが入れ替わっりすることは想定していないのです。なぜかといいますと最終的にシンガポールでご本人しか使わないパスポートをお返しすることになるのですから、、、、」
「そうですよね。本人が使うパスポートですから、最終地のシンガポールで船を降りるときに受け取りますよね。でももしその受け取ろうとする人が、目的があって入れ替わっていたとしたら?、、、、どうなります、、受け取れるものなのでしょうか?」
「そうですね、お客様が下船する清算をしてお荷物やパスポートを受け取ることになります。愛早苗さんの場合も何も問題がなく、手続きが済んだことになっています。ただおっしゃる意味は分かるような気がします。ただ他人が愛さんに入れ替わって、愛さんのお荷物やパスポートの受け取りや清算をしたという証拠がないのです」
「なるほどわかりました」
「ところで、さっき、パティオでパーティの終了後にお客が騒いでいましたが、、、たしか新型インフルエンザではないかと、、、どういう状況なのでしょうか?」
「いえ、私どもには正式に情報は流れていないのです」
「というと?」
「はい、運び込まれて女の子とそのお母さんのことは、私どもにはよくわからないのです。でも、、、、ここでの話にしていただきたいのですが、、、、実はスタッフの中でも変なうわさが広まっているです。おっしゃるように新型インフルエンザのことです。私も新型のインフルエンザが流行しているのは知っています。ただほんとにうわさだけなのですが、それが今回は少し、たちの悪いウイルスかもしれないとか言う者もいるのです。、、、それでスタッフは仕事をしている間は念のために消毒スプレーやマスクを使おうということになったのです。でもお客様があまり神経質になられるのも余計なことになりますので、アナウンスはしていないのです。どちらにしても明日朝にはシンガポールに到着しますので、ご安心できるように手配はしております」
「そうですよね。あの女の子もお母さんも心配ですよね。こちらには薬とか、マスクとか消毒液は余分にあるのですか?」
「ごめんなさい、実はお客様善全員にお渡しするようなものがないのです、てすのでマスクもここにお持ちできませんでした。ですが、明日、到着するまでは、このお部屋でできるだけおお過ごしください。明日のご朝食はバイキング方式はできないかもしれませんので、その対応に大わらわになろっております。どちらにしても早朝にはアナウンスがありますので、それれをお待ちいただくとしか私には言えません」
「それはそれは若木さんも大変ですよね。おかげさまでとてもご親切していただいておりますので助かっています。今回のことも丁寧に教えていただきありがとうございました。私たちも気を付けておとなしくしております」

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皆様良いお年を、、、さらに物語をご期待ください。
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1-101 疑惑

優子と織江は部屋に戻った。
旅の最終日である明日の朝には、この豪華客船ピュアプリンセス号はシンガポールに到着する。
その前の晩にあのような派手なパーティが開かれるとは。しかもこの船の大株主というミセス、ジュリアの誕生日会まで行われるとは思ってもいなかった。
ちょうど一年前の今日、早苗もこのパティオパーティに出席したということであろうか?
「ねぇ、優子、早苗は一年前の今日、このパティオのパーティに出席していたはずよね?」
「、、、、、、、」
「どうしたの?」
「もし、あの男とジュリアが容疑者だったら、この大勢人が集まるパティオのパーティに早苗と会うセッティングをするかしらと思ったの。それにジュリアはこの船の会社の大株主だと言っていたわよね。そんな人がそんなことをするかしらと思ったのよ」
「う~~ん、、そう言えばそうね。でも大胆不敵だったらありえるわよね」
「そうね、しかしその場合は早苗を安心させて、犯行をまったく感じさせないような計略をしたかもしれない。ただそんなことまで考える必要性があるかしら?」
「犯罪後に、たとえばシンガポール警察が何かを嗅ぎつけてきて犯罪者の身に迫った時のことを考えれば、そのときに堂々と言ってのける理由を考えていたこともあるのじゃないの、、、「この客船で互いに知り合いだったし、そんな犯罪を犯す関係性はないって。むしろ関係性は良かった」とね」
「織江は頭いいわね。それは言えるかもしれないわね。だけどそれはとてつもなく大胆不敵と言うよりもいけずうずうしいような感じがする。、、、だけど、、、、どこか変なのよね」
「何が?」
「ちょっと不自然なのよね。まず一つは早苗が日本でインターネットを通じてこの船のスィートルームを一人で予約していたこと。それは意図していたことだと思うのよね。それは早苗なのか、早苗自身が必要としていたのか、それとも誰かが指示したのか、たとえばあの男かもしれないし、、、」
「例えばあの男が早苗の愛人で指示していたとか?ということ?、、、、あの男は20日のパティオパーティに出席するときに、早苗のことはジュリアには内緒にしていたとか?そしてパーティが終わってジュリアには内緒であの男と早苗はこの部屋か違う部屋で密会をしていたとか?
あるいは堂々とジュリアに早苗を紹介していた?
それともジュリアも早苗と顔見知りだった?」
「仕事の関係があったとすればすべての人が顔見知りだったと言えるわね」
「なるほど、それにしても、あの男はどこからかこの船に乗船したはずよね?」
「そう思うわ。乗船したはず。最初のシンガポールかあるいは、、、マレーシアのペナン島?あの男の車に早苗は乗って行ったのだから、あの男はシンガポールとマレーシアを車で行き来できる。なんでペナン島で早苗を乗せる必要があったのか?しかも再び、早苗はこの船に乗船している。そのとき男はどうしていたか?」
「あの男はどこからでもこの船に乗り入れることができそうね。もしあの男が乗船していたとしたら調べればどこから乗船したか、どこの部屋にいたのか、どこで下船したかくらいはわかるはずだわ。しかしなんか厄介なことだわね。なにか訳が分からないものが蠢いているようにも感じるわ。例えばオフィサーソフト社とDragon社のプロジェクトが進んでいるということは友好だったはず。さらにより友好性を高めるために早苗を呼んだ?それだったら早苗を招待してもいいのだから、それがないのだから、その線は消えるわね」
「そうね、あのパンフレットにはDragon社の社長の肝いりで作ったものたとオフィサーソフト社は言っているように、相当力を入れたいという意思はDragon社のほうが強いようね。それにあの男が関わっている以上、内情をジュリアが知らないわけがない。しかし早苗を招待していないとなると、ただ単に早苗がこの船の観光を選んで予約していたのだから、たまたまこの機会に三人が巡り合ったということもありえるし、、、ん、、、わからない?」
「ということは仕事の関係では順調にいっていた。しかし何か隠された何か問題があったか、その問題は公にできなかった。会社関係で処理できないことがあった?あるいは会社関係ではない別の問題を抱えていたということ?」

「、、、、いったい、あれほどのことを、、なぜ?」
「どちらにしても明日からだわ、とにかくシンガポールに到着してから、、、だわ、」
「というと、、、」
「そろそろ警察に、、、、」
そのとき、、、コンコン、コンコン、、、、、、ドアにノックが入った。

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1-100 ウイルス変異特効薬

「私が診たところ、やはり新型インフルエンザだと思われます。ここでは可能なかぎり治療を施します。

明日、シンガポールに到着しますので、入院させて精密に検査を行い、対処するということで母親の了解を得ました。ドクターアデナウアーも同意見です」
「新型インフルエンザはとても怖いものだと聞いているわ、この船には薬はあるの?そんな呑気なことでいいの?」
「薬は沢山はありませんが常備はしています。その薬についてはドクターアデナウアーがよくご存じだとのことです」と言って医者はドクターアデナウアーを促す。
「ミセス、ジュリア、あの女の子を診た限りでは、熱が急激に上がって、手足に少し痙攣を起こしています。あのように急激に変化しているのは、あまり見たことがありません。確かに非常に危険性があります。ここのドクターは甘く見ているようです」
「私はその子にくしゃみをかけられたのよ!!」と突然、ヒステリックな声をジュリアは出した。
ドクターアデナウアーは冷静に制するように話を続ける。
「新型インフルエンザについてのわが国での研究では、そのための特効薬を用意しています。その一つがここに常備されているタミ●ルというものです。認可されております。アメリカからヨーロッパの各国、日本、中国までたくさんの国から要請があり、広く輸出できるようになりました。私も間接的に関わっていますので存じております。幸いにもこの船には少しの量ですがそのタミ●ルが備えられているとのことで嬉しく思います。私はタミ●ルだけではなく、もっと強力な薬を開発しようとしているのです。ウイルスというのは変異を起こすことがよくあります。その変異を遂げているウイルスが、さらに変化をして今後とも発生することが予想されているのです。それはどこから、いつ発生するのかわかりません。甘く見てはいけないのです。そのために危険なウイルスについてヨーロッパやアジアなどに行って情報を収集しているのです」
「そのタミ●ルとかなんとかいうお薬をすぐに私に用意して頂戴!!」
「いえ、ミセス、ジュリア、新型インフルエンザに罹っていなれば、その薬はいらないのです」
「でも心配だから、私のを多めに用意して、すぐに。ドクターアデナウアーお願い、私をまず検査して!!それから、私のここにいるこの男性も至急、検査をお願いします」
「わかりました。しかしここは他国であり、私はこの船の医者ではありませんので、業務としての許可が必要になりますし、、、」
「ドクターアデナウアー、おっしゃる意味はよくわかります。船長、ちゃんと報酬は払ってください。緊急なのですから、充分にね。なんなら私からもお支払いします。それと文書での許可証を出してあげてください」
そばで聞いていた船長は「了解しました。ドクターアデナウアーよろしくお願いいたします。ただ問題は、新型インフルエンザのための十分な検査がこの船ではできないことです。ですので夜も遅いのですが、緊急性を考えて、これからシンガポールでの受け入れてくれる病院側と打ち合わせを行います。ドクターアデナウアーのアドバイスをいただきながら、うちの医者で検査ができるのかどうか?それともし検査ができたとして、お客に陽性が出た場合の薬、たとえば今お話にあったタミ●ルが十分に足りるのかどうかをお聞きしたいと思います」
「薬の量は十分とは言えないと思います。それと私どもではこのような新型インフルエンザやウイルスというものについては未経験であり、詳しく検査することはできません。あくまでも症状やレントゲンなどの状況から判断する程度です」
「とすれば、この船を予定より早くシンガポールへ向かわせることにしましょう」と皆の意見が一致した。
そして、その部屋にはミセスジュリアとドクターアデナウアーだけが残った。
ドクターアデナウアーは防具服になり、ジュリアの検査が行われた。
その結果、、、ジュリアは陽性だった。
「あぁ、あの女の子が私の顔にくしゃみをしたのよ。それに違いないわ。あれから、だんだん調子が悪くなっているんです」
「ミセス、ジュリア、私も薬は持ち合わせています。新薬もあります。しかしこの新薬のほうはお使いにはなれません。まだ臨床の途中で許可を得ていないものなのです。ですので、まず私の持っているタミ●ルを少しお分けしておきましょう。ですが内緒ですよ」
「いや、ぜひその新薬のほうもほしいわ。お金はいくらでも出します。絶対に内密にします。なんとかして」
「いや、、、それは、、、、」

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1-99 新型インフルエンザとウイルスの変異

そのスタッフは、そのスィートルームのドアを叩いた。
「誰だ!」と部屋から聞こえる。

「スタッフです」
「ちょっと待って、、、あなた、医務室に入った?」ドアに向かってジュリアが怒鳴る。
「いいえ、、、」
「じゃあ、いいわ、入れて」とジュリアはその男に指示をする。
「失礼します」そのスタッフは部屋に入った。
「どうなっている?」ジュリアの横に立っているその男がそのスタッフに問いただす。
「ようやくドクターアデナウアーが見つかり、今は医務室で患者を診察をしているそうです」
「で、、、その結果は?」
「いえ、まだ診察をされているそうです」
「ここの医者は何と言っているんだ?」
「まだよくわからないと、、、ただ普通の風邪ではないと、、、」
「深刻なわけだな。レントゲン設備もあるだろう、、、それでもわからないというのか?」
「はい、、、、」

「もしその診察が終わってもすぐにその状況を船内にアナウンスするな。ドクターアデナウアーとここの医者にこの部屋に来ていただくようにしろ。その前に船長も」
「だめよ、、何を言っているの?、、ここじゃだめ、、、別の部屋にして、、危険だわ、、、、、
、あなたそんな無神経な、、、、、たとえ医者でも危ないわ、、、こちらが感染するかもしれないんだから、、、」
「わかりました、、別室が用意できましたら、お呼びします」とそのスタッフは言ったが、

「私の言っている意味、あなた、、、わかっているの?」
「?、、、、」
「それから私を呼ぶのよ。もちろん先生方も消毒をしているとは思うけど、、、部屋も消毒をして。わかった? それと、すぐに船長にここに来るようにと連絡して、、、、、わかったの?」
「はい、、」
「たいしたことはないと思うが、念のためにお客から質問がきても余計なことは言うな。そのことを医者も看護婦もスタッフみんなにもきつく言っておけ。憶測とうわさが広がると大変なことになる。そうなるとお前たちも大変な目に合うからな。わかったな?」
「私たちと船長と医者たちと話し合った後に、指示をするから」

「ちょっと待て、、それからその患者の母親にはちゃんと伝えておけ。この船の医者がしっかり看病するから心配しないでくださいと。それに船はシンガポールへと向かっている。明日、シンガポールに着けば、さらにしっかりした医療態勢があるから、ご心配いりませんと。わかってるな?」
「わかりました」そのスタッフは言い置き、そそくさとジュリアの部屋を出ていった。

2009年の春から、新型インフルエンザが世界的流行(Pandemic 2009HINI)となった。
一説には豚の間で流行していた豚インフルエンザとされ、その豚から人に直接感染し、それから新型ウイルスとして人の間で広まったとされている。
この流行が大きな問題になったのは流行初期にメキシコの感染死亡率が非常に高いと報道されたからである。実際には重症急性呼吸器症候群(SARS)のような高い死亡率ではない。
SARSは2002年11月から 2003年7月にかけて、中華人民共和国南部を中心にして、広東省や香港では8093人が感染し、37か国で774人が死亡した。
以前から専門家の間では、変異変化するウイルスの危険性がたびたびテレビマスコミを通じ警告されていたのである。

スタッフが去った後、ジュリアの部屋では話が続いている。

「もう酔いがさめちゃったわ、少し寒くなったわ。部屋を少し暖めて、、、。それにしても、あの女、、 どういう女なの?」
「、、、、、、、」
「もう一人は、、、連れ?、、、それとも他人?」

「わかりません。おそらく連れだと思います」
「あの女の写真はありますが、もう一人のはありません」

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1-98 かすかな兆候

それは小さな出来事から始まった。いや始まっていた。
パティオのその場所の人ごみの中に小さな隙間ができていた。
そこに小さな女の子がうずくまっている。
自分の子供がうずくまっていることに気づいた母親が背中から心配そうに声をかけたのだった。
その周りには何事だろうと言い出す人々が集まる。その中から人の好さそうな人が現れて母親に事情を聴いている。
「いえ、今朝から咳が出て調子が悪いとは思っていましたが、ここまでとは、、、」
すると女の子が少し痙攣しているように見えた。
「おい、様子がおかしいぞ。なんだろう?早く医者を呼んだほうがいい」と言い出す。
その頃にはうずくまった女の子を抱き上げた母を中心にして、人々の小さな輪ができていた。

さっきまでのパーティでのざわめきが急に静かになっていた。
ジュリアもその男もなにか様子がわからないうちに、スタッフから説明を受け、パーティの中止を受け控室へと引き下がって行った。
その女の子は母親に抱かれながら火照った顔をしてときどき咳をしている。
周りの人々が見守ってくれていることに安心感はあるものの母親は心配そうに医者を待っていたのである。
しばらくするとようやく医者と看護婦が現れた。
医者は子供の様子をうかがうと、すぐに看護婦に熱を測らせる。じっと手足にさわりながら様子を見ていたが、熱さましなどを飲ませることを躊躇した。普通の風邪のような症状ではないように思えたのである。
「とにかく医務室に運ぼう」と医者は指示をした。
看護婦は母親から譲り受け、その子を抱きあげた。医者と母親と共にその場を去った。
他のスタッフが「あまりたいしたことではないとは思われますが、念のためにカクテルラウンジに切り替えます」と言い、いままでのパティオパーティの終わりを告げた。
そのパティオにいた人たちは少しずつ去っていく。
優子たちは、まだパティオ内で立ち話を続けていた。
「早苗たちの日本のオフィサーソフト社とシンガポールのDragon社の間に合同プロジェクトが進んでいたという話は早苗からも聞いていたわ。しかしどのような内容なのかはよくわからない。あのパンフレットには「画期的な医療プロジェクト始動」と書いてあって内容は書いてない。なにか宣伝のほうが先行しているようにもみえるわね。宣伝したかったようにも見える」
「だから、あのパンフレットはDragon社が作ったようなのよ。そこの社長の肝いりで。ただしオフィサーソフト社の了解はとっていたとは聞いている」
そこにパティオに何人かのスタッフが現れた。
「すみません。ここにドクターアデナウアーはおられませんか」と何度か声を出す。
誰かが「どうしたんだ」と一人のスタッフに問いただすと「いえ、ただドクターが見つからないので探しに来ただけです」と言う。
「ドクターはさっき子供を連れて医務室に行っただろう」と言うと、「いえ、探しているのは違うドクターです」と答えた。
すると他のところから「それはおそらくここのお客だった人だよ。アメリカから来たドクターでミセス、ジュリアと長話をした人だよ。アメリカの権威あるドクターで、たしか新型インフルエンザだとか特殊なウィルスの研究をしている医者だとかなんとか言っていたよ」と言う。
「でも何故、そのドクター何とかという人を探しているんだ?」とスタッフに問いただす。
「私たちにはよくわかりません。ただ至急探してくれとの指示なので、探しておりますけれど、ドクターアデナウアーはお部屋におられないのです。ですので探しているのです」
すると「そんなに至急ならば船内でアナウンスすればいいじゃないか」と声がかかる。

すると「それはそうなんですが、、、、」と言い淀んでいると、、、、
「おいおい、、、もしかすると大変なことになっているんじゃないか?」
「おい、君、ちゃんと説明してくれ」と何人かがスタッフに詰め寄ってきた。
「すみません。私たちはまったくわからないのです」と答えているうちに、、、
「あっ、はい、、、わかりました。すぐに行きます」とスタッフの一人がイヤホンマイクを使って受け答えをしたのである。

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1-97 心顔

パティオでのパーティは続いている。お酒もだいぶ入っているので奏でられる音楽も踊りも人々のパーティを楽しむ笑い声や話し声でかき消されている。子供たちもそここに走り回っている。
ジュリアはなんとなく表情が冴えないように見受けられた。しかし自分の誕生日を祝ってくれる人々の列はまだ残っている。隣の男もまだ用意されているプレゼントを次々に一人一人に渡している。
子供連れの夫婦の際には、母親がそれまで歩いていた女の子を抱き上げてジュリアと顔を合わせるようにして話をしている。ジュリアはその女の子に対して笑みを絶やさなかった。
「ありがとう、、ありがとう、、今日はよく来てくれましたね。来年もどうぞ楽しみにしててね」と言って、かわいい女の子の左頬をジュリアのグローブ越しの右人差し指でつつくように触れた。するといままで少しむずかしそうにして母親に抱かれていた女の子は、ふと「ク、シュン、、」とくしゃみをした。
「あらあら、もう遅いから、早く温まって寝ようね」とジュリアが言うと母親が「まぁ、お気遣いありがとうございます」といって、夫婦とその子供分それぞれのプレゼントを隣のその男から貰っていた。次々にお客は続いている。しかしだいぶ並んでいる人々の数は少なくなってはいる。
優子と織江はパーティが行われているパティオの片隅で二人の様子を見守りながら話をしている。
「どうだった?織江」
「完全におかしい、あの二人」
「ビデオは撮れた?」
「もちろん、、自信はないけど、、大方は大丈夫だとは思うけど、、、、」
「でも優子、ジュリアに何と言ってたの、、、?」
「ふふふふ、、、、」
「むしろ私のほうがびっくりした。最初、優子を見た時のあの男の反応の速さ。、、それはジュリアに話しかける前だった。私たちのことは知らないはずなのに、、、なぜ?、、、、、しかもジュリアのほうは優子の顔を見ても最初、何も感じていなかった。ジュリアの顔の表情と態度が変わっていったのは優子と話をしていく途中からよ。あの男とジュリアの表情の違いに時間差が確かにあった。それに優子が話をしていくうちにみるみるジュリアの顔の表情が変わっていったわ、、、」
「ジュリアとあの男はもともと私たちのことは全く見たことも聞いたこともないはず、、、しかも、、、」
「しかも、、、」
「しかも、早苗のことは、もし知っていても他人事のはずだったのにね」
「!」
「、、、、、、」
そう二人が話をしているとパティオの一部で異変が起こりつつあった。
人々の中に小さな波が生じていた。

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1-96 誕生日のお祝い

「織江、、、もう少し離れて、、、そう、そのぐらいの距離をおいてて、、」
「わかった、、、」
優子と織江の後方にも次々にジュリアへと挨拶しようとする人々が列をつくっている。中には子供を連れた夫婦もいる。
ジュリアはドクターアデナウアーと話をしていたが、次に続く客たちのざわめきに気づいた。あまり一人のお客に長く話はできないような雰囲気になっている。この行列に押せ押せの力が加わっている。ジュリアとの挨拶は短い時間で終えなければならない状況になっているのだ。
近づくほどジュリアの朱色と紫に彩られたドレスと胸元には金とダイヤモンドに彩られた宝石がまぶしい。両手のグローブも朱色で合わせている。しかし化粧はそれほど濃くなく東洋人らしく目鼻立ちのさわやかを見せている。決して美人ではないが、どこか気の強そうな感じがする。しかしお客にはにこやかな、ときに笑いを醸し出しながら接している。

その左横では、あの男がジュリアのお客と挨拶が終わったときに、プレゼントを手渡ししているのだ。
優子の前の男女は若い夫婦だった。地元の人らしく、何度も何度も「おめでとうございます、おめでとございます、ミセス、ジュリア」と言い、「今年も新しい催し物があって楽しかったですよ。来年もお会いできますように、また伺えますように」と言うとジュリアは満面の笑みを見せ握手をした。隣の男も「ありがとうございます」とにこやかにプレゼントを夫婦それぞれに渡している。
優子の番になった。
「お誕生日、おめでとうございます。ミセスジュリア。私、初めてこの船に乗せてもらいましたが、たいへん楽しいひとときになりました」というと、ジュリアは「それはそれはよかったわ。ありがとうございます。どちらから来られたのですか?」とにこやかに尋ねてきた。
優子は小声で返答した。ジュリアは優子の声が聞こえなかったので、少し戸惑って聞こえないそぶりを見せる。
優子は口元に右手を当ててジュリアのほうに向けるようにした。するとジュリアは優子の口元のほうに耳を傾けたのである。
今度の優子はジュリアの耳元で「、、、、、、、、」と言葉を発した。
隣のその男は優子の素振りを普通のお客と思って何の気なしに見ていたのだが、すぐに表情が変わっていく。
優子にはジュリアと話をしながら、男の表情の変化をおぼろげながら見えている。

織江は優子の隣にいて、ジュリアと隣のその男の両方の表情をじっと見続けている。
ジュリアは「えっ、アイ、サナエ、、、といいながら目を見張り、そして「私は知らない。何も知らない」と思わず語気を強めた。
優子は「、、、、、、、」と言うと、ジュリアは「知らない、その人のこと、私は何も知らない。まったく知らない」どさらに怒鳴った。
すると優子はにこやかにして「、、、、、、、」と耳元で話すとジュリアは「、、、、」を発しない。
そして優子は「今日は楽しいひとときをありがとうございました。またお会いできますように」
と言った。手を差し出しても優子の差し出した手に気づかず握手しようとしなかった。隣の男を凝視すると、さすがに男はプレゼントを差し出した。目をそらした。
織江は他のお客と同じように誕生日のお祝いを言い、一通りの挨拶をした。しかしジュリアを見ると眼は上目方向で宙を彷徨っている。「おめどうございます」と言っても返事ができないでいる。隣の男のほうは下方に顔を向けてまるで歯噛みするように考え込んでしまっている。しかし織江がじっと待っているとジュリアは握手をして隣の男はプレゼントを差し出した。
後続に並んでいるお客はそれぞれのお祝いを言いながら動き出した。

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1-95 嘘

「気づいた?織江」
「うん、あれねっ、、、あの男、、、」
ジュリアのそばには正装した中年の男性が控えている。ジュリアが笑顔を振りまいて周りのお客たちと話したり、一緒に写真を撮ったりしている。その男はジュリアを隣でサポートかときには通訳でもしているようにも見える。
「ペナン島の子供たちがパンフレットでこの人って指さした男、、、あれは、、オフィサーソフト社とDragon社との合同プロジェクト用のパンフレットだったわ、たしか、、Dragon社側に載っていた男性よ。つまり早苗とシンガポールで仕事の打ち合わせを予定していた人、、Dragon社の担当者ってことよね?」
「おそらくね、あのパンフレットの男に違いないわ。しかしなぜここに?」
「ということは、ジュリアはDragon社の社長か上司っていうこと?それとも?」
「去年(2008年)の10月19日、早苗はマレーシアのペナン島でこの男と会っていた。あの男の運転する車に早苗は乗って行ったのを子供たちは見ていた」
「ということは10月19日にペナン島で早苗とDragon社のあの男は会っていたはずなのにそのことを警察にも誰にも話をしていない。
22日にDragon社との約束時間に早苗が現れなかった。しかし連絡もつかないと言っていた。それにDradon社側は早苗のシンガポールでの行動はまったく知らなかったと言っていた、、、」
「織江、、、ちょっと、、、」と優子は顔を寄せた。
ジュリアはある老年の男性の前になると立ち止まった。
その老年の男性はジュリアに丁寧に「お誕生日、おめでとうございます」と挨拶をしたあと、自分の名前がアデナウアーで、アメリカから゜来た医者であることを名乗った。
隣には友達であり新聞記者でもある男が、そのドクターアデナウワーについてジュリアに紹介した。
ドクターアデナウアーはこの度、東南アジアに流行の兆しのある新型のインフルエンザとウイルスの調査を行ってきて、その調査も無事を終えたというのである。ここで帰りに短いバカンスを楽しんだあとにアメリカに帰国し、ドクターが開発を進めている画期的な新型インフルエンザとウイルス対応の新薬について製薬会社と契約をする手筈になっていることを紹介する。その新聞記者はアジアに来る前までのヨーロッパ各地の医師会における説明
会を行った新聞記事の切れ端を見せた。
ジュリアは非常に神経質なたちだった。一人っ子で幼いころから大切に育てられていたということもあったが、特に病気については敏感すぎるほどだった。常にどこに行くにもいろいろな薬や消毒薬やサプリメントなどを携行している。
ジュリアは「ぜひ帰国を延ばしていただいて、私の家に招待させてほしい」と英語で言うと、その旨をジュリアの隣でサポートしている男に再度、言わせたほどである。
しかし微笑んでいたドクターアデナウアーはスケジュールがいっぱいとの理由で丁寧に即座に断った。
「織江、、それじゃあ、、、あの列に並ぼう、、、手筈通りに、、、、」
「OK、、、集中、、、集中、、」
ジュリアに向かっている行列に優子と織江は並んだ。

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1-94 船上のパーティ

今日はこの船旅の最後の夜となるので、夕方から船長主催の立食のパーティーが開かれている。
船の中央付近にあるパティオにすでに大勢のお客様が集まっている。
船はプーケット島を出発しゆっくりとシンガポールの港へと向かっている。明日の午前にはシンガポールに到着する予定である。
カクテルやワイン、ビールさまざまなグラスを片手に軽いスナック程度をつまみながら立食パーティである。常連客はこれを楽しみに来る人も多い。互いに知らない人同士が触れ合う機会を設けている。旅の最終のパーティとなっている。
人々がごった返すほどに宴もたけなわになったころ、船長が出てきて壇上に立って挨拶をする。
「皆様、ご乗船ありがとうございます。またこのパーティにお集まりいただきありがとうございます。私は船長のジェームズと申します。皆さま、、、旅を楽しまれているでしょうか?」
船長に視線が集まり、静かなざわめきがと拍手が起きた。
「皆様、明日はいよいよ旅の最終日になります。どうか今宵を存分に楽しんでください。
のちに特別な催しものも予定しております。どうぞ皆様の大切な思い出の一つになりますように」とにこやかに挨拶を終え、お客からは拍手喝さいが起きた。
船長は壇上から降りてパティオの人々の中に入っていく。次々に周りのお客とともに写真を撮ったり、握手をしている。
階段からはきらびやかな衣装を着た踊り子たちが登場し、パティオのステージスペースで踊りだす。次々と衣装を変えた新しい踊り子たちが階上に現れて音楽に合わせて華やかに踊り歌っている。
優子と織江は、邪魔にならないように片隅で、グラスを傾けながらペナン島での出来事について話をしている。ペナン島での出来事は優子たちにとって事件の突破口になるかもしれない新しい発見だった。
「二人の幸せ研究所」のスタッフのチエが見つけだした台北のホテルでの男性のおぼろげな姿の写真、それに今度の早苗の新しいプロジェクトのパンフレットに掲載されている社長やスタッフたちの姿。そのパンフレットに掲載されている男女のスタッフの中からペナン島の子供たちの多くが「この人だよ」と指さした男がいる。この写真とパンフレットの男は見比べてみると似てはいる。だが同一人物だとは断定できない。
優子はこのことをこのパーティに来る前に「二人の幸せ研究所」の和田所長に電話で連絡をしておいた。話をしているうちに和田は、パンフレットに掲載されているスタッフたちのことについてどういう人たちなのかまだわかっていない。なので「オフィサーソフト社」の如月専務にすぐに、その男性のことを聞き出すことは今の段階ではしないほうがいいのではないかという結論に達した。もう一つはシンガポール警察に対してもこの情報を提供するのは、今は控えておこうということになった。
おそらくシンガポール警察は早苗の行動や所持品のカード類や携帯電話の情報からそれなりの調査は進めているはずなのである。いつかは情報交流するにしても、こちらでできることはこちらで進めていこうということになったのである。
パティオでは再び、船長自らマイクを持ちアナウンスを始める。
「皆様、、、ご機嫌いかがでしょうか?周りの人たちともお知り合いになりましたか?初めての人とも知らない人たちとも互いにご一緒に楽しみましょう。今宵だけのパーティです。ご遠慮する必要はありません。しかしエレガントに紳士的にお願いします。それではいよいよ、今日の特別イベントを始めましょう」
すると上下、真っ赤なドレスをまとい、宝石に包まれた40才代に見える女性が右手を踊り子の左肩に預けて、階上中央に現れた。そしてエレベーター側の螺旋階段から下りてくる。
「それではご紹介いたします。ミセス「ジュリア様」です。この方は我々の大株主です。実は本日がお誕生日なのです。今宵のひとときを皆様に感謝申し上げるとともにお祝いしたいと思います」と宣言した。
そして大判振る舞いとして、すべての参加されている皆様に記念のプレゼントがありますと言うと拍手と「おめでとう」との声援が方々であがった。
ハッピバースディツーユー、、 ハッピバースディツーユー、、 ハッピバースディツーミセス、ジュリア、、ハッピバースディツーユー、、ジュリアがゆっくりと階段を下りていくとそこはパティオ中央に大きなケーキが用意されている。
ジュリアがそのケーキの蝋燭の炎をふ~~~っと吹き消すとさらに大きな拍手が巻き起こった。人々に好みの飲み物や新しいシャンパンが振舞われる。
船長が「ミセス、ジュリア様おめでとうございます」とにこやかに言うと、ジュリアは満面の笑みを見せた。カメラのフラッシュの光がいたるところからジュリアと船長に向けて発している。
ジュリアの周りには次第に人垣から自然と行列のようなものができた。その人たちと次々に挨拶を交わしたり、写真を撮っている。ジュリアはお酒が大好きだった。人々と気軽にシャンペングラスを合わせ飲み干している。

すると優子が「あれ、、、?」と織江「、、、、、?」と顔を見合わせた。

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1-93 シンガポールからペナン島へ

シンガポールの港を出発した翌日、最初の寄港地マレーシアのペナン島に入港した。
午後、食事を済ませると観光客は客船からテンダーボートという小船に乗り込んだ。

ペナン島の岸まで次々とお客を移送する。海はおせいじにもきれいではない。優子たちは数分もするとペナン島に到着した。
岸辺ではそこここに客引きやタクシーの運転手たちで込み合っている。
早苗もこの小船に乗り、この岸に到着したはず。だとしたら誰かが覚えているかもしれない。
優子と織江は二組の写真を胸に下げている。一組は早苗の顔と全身。もう一組は台北のホテルで嵐の動画を撮っていた男性の顔と全身である。これはオフィサーソフト社が早苗が優子に送ったDVDビデオの中にかすかに映っていた男性を加工編集して、できるだけ鮮明に浮かび上がらせようとしたものだった。だからやはりおぼろげな写真である。
優子と織江はうだるような暑い陽射しの中、客引きするペナン島の人たちに早苗の写真を見せようとしたのだが、ちらりと見て商売にならないとみるやすぐに他の観光客に声をかけていく。岸辺に停まっていたタクシーや車の数はみるみるお客を乗せて去っていく。岸辺には写真を撮る観光客たちだけになってしまった。
ペナン島の日差しは肌を刺すような強さがある。じりじりとする暑さの前で海の波間に漂っているいるかのようになってしまっていた。
さきほどまで岸辺にはテンダーボートが停まってはいたのだが、いつのまにか走り去っていた。
そろそろ日陰に入ろうかと見渡していると近くで数人の子供たちが遊んでいる。
近づくと人なつっこい表情で優子たちを見つめている。
優子はバッグから飴を取り出し、一人ひとりにあげると、はにかむような様子から子供たちに笑顔がこぼれた。
次第に子供たちが集まってきて優子たちを取り囲むようにしながら笑い転げてしゃべっている。
そしてその中の女の子の一人が優子の胸に下げている写真を不思議そうに見ていたが、おもむろに手を引っ張った。
その子供についていく先には坊主頭のぽっちゃりした男の子が、この岸辺でみやげ物の売り込みをしていたのだろうか、手にはお土産品みたいなものを持って立っている。
優子が近づくと案の定、みやげ物を優子に見せた。引っ張って行った女の子が一言二言しゃべると、その男の子は優子の胸に掲げている写真をじっと見つめている。それももつかの間、今度は男の子が優子の手を引っ張っていく。優子と織江は誘われるようについて行くと雑貨屋のような店先で優子の手を離した。そして扉を開け放してあるその雑貨店の店内へと入っていく。
優子たちはその男の子に続いて入っていくと外とはあまりかわらない暑さだった。
日差しがない分、ましなような気がする。
ぞろぞろとついてきた子供たちが、その雑貨店の店先で遊び始めた。
店内にはきらびやかなスカーフや衣装や観光土産が所狭しと積み上げれらている。
店内奥でうなだれて座っている母親に話しかけていた娘が、向かってきた男の子を見つけるとしかりつけていたが、男の子が一言二言を話すと、出入り口に入ってくる優子たちをじっと見た。しばらく男の子と娘は話をしていたが、男の子の手を払いのけ、無愛想な顔で近づいてきた。優子と織江は所在無さに陳列されている品物を見ていた。
娘は距離をおいて優子たちの様子を見ているのだが、話しかけてくる様子がない。すると男の子が近づいてきて写真を見せろというしぐさする。優子はもしかするとと思い、その娘に近づき写真を娘に見せると少し驚いた様子になった。しかしふとそ知らぬ風になった。
優子はとっさに何か買うことにした。優子がスカーフ、織江がみやげ物のようなものを選んで、目の前に差し出すと雰囲気が穏やかになった。
言われたとおりにお金を出しておつりはいらないというと、娘は写真を見せろと片言の英語でしゃべる。
「この人見たことがあるよ、、、、、、」という。
その言葉に優子は娘を凝視した。
「この女の人、日本人でしょ?」
「そうです、、この女性を探しに来たのです」
「この人、小さい人ででしょ、、、この店でスカーフを買ってくれたよ、柄が気に入ったといってくれてね」
「そう、それでどうしてたの」
「買った後、その店先の日陰で子供たちとしばらく遊んでいたよ。それで、その先に停車した車が来たらしく、すぐにその車に乗っていっちゃった。その車の周りには子供たちが戯れて興味深そうにしていたら、運転席に乗っていた男がどこか迷惑そうにしてた。それであんたと同じように弟や友達が飴をもらうことでそこを離れることにしたんだ。弟がその飴を私へもくれたよ、日本の飴だったよね。とてもおいしかった」
「本当にこの人でしたか?」と優子は胸を躍らせた。
「そう、背の小さい人。日本人の女の人は最近、大きい人が多いけどこの人、私よりちょっと大きいくらいの背だったね。顔は写真のようにとてもかわいい人だったから覚えているよ。笑うと大きな声で笑うから印象に残っているんだよ。ああいう人、好きだよ」
「車ってタクシーのことですか?」
「いいや、ここらへんでは見かけない立派な車だったよ。紺色の車。あの運転手はやっぱり日本人?」優子と織江は顔を見合わせた。
「それで、その男性はどんな感じの人でしたか?」
「ここからじゃあよく見えなかったけれど、ここいらじゃぁ見かけない小太りの男のようだった。
背はあんたぐらいだったと思うよ。弟に聞いてご覧。そのとき目の前で車に乗り込んだんだから、珍しくきれいなピカピカの車だったし、それまで遊んでいた子供たちがよく見ていたはずだよ」言いながら、男の子を呼びにいった。男の子は店先で遊んでいたらしく、男の子と子供たちを店内に引き入れる。
「その女の人、ちっちゃなリュックを背負ってて、、おじさんの車に乗って行っちゃつたって言ってるよ」
「どんな人だった」と優子は子供たちに英語で問いかけるが、みんなきょとんとしている。
英語はわからないらしい。娘は片言がかわる。通訳をしてくれる。
「顔はこんな感じ、、」と一人の小さな子が両手で変なゆがみと表情をつくると、子供たちみんなが声を合わせて大笑いをした。
優子は胸に下げている男のほうの写真を子供たちに見せる。それを見て指をさす子供たちもいる。うんうんとうなずく子供もいる。わからないという仕草をする子もいる。

優子はバッグの中から書類を探し出しパンフレットを取り出した。
「もしかするとこの中にいる?、、、、、」
子供たちはみんなその一人の男を指差してうなずいた。

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1-92 Maria 

早苗が一年前、予約したこのスィートルームの部屋の船体での位置関係は最前方にあり、しかも操舵室の上方になる。
部屋は二つに仕切られている。その一つはリビングルームで冷蔵庫などテレビなどが設置してある。もう一つはダブルベッドとバスの設備がある。こちらにはベランダに出られるドアがある。そのドアには潜水艦のハッチのように取っ手の部分に車のハンドルのようなものがある。それを回転させることによってドアの開け閉めしてができ、ベランダ側に出られるこだわった仕組みになっている。
優子はベランダに出てみた。出て下方を覗いてみると船の操舵室の一角が覗けた。
10月の日本は肌寒い時期ではあるが、このシンガポール付近は亜熱帯地域であり、強めの日差しを帯びた風が包み込むように流れ去っていく。ベランダから眺める風景は爽快だった。早苗もこのベランダには出てきたに違いない。ベランダの幅は余裕がありリクライニングチェアが二つあった。
ピュアプリンセス号はすでにシンガポール港を出港し、ゆっくりとマレーシアのペナン島へと向かっていた。

優子が潮風を受けているとリビングルームにいた織江からの呼ぶ声が聞こえた。
「いらしたわよ」
ドアを開けるとチャーミングな制服姿の若い女性がはにかみながら立っている。
「失礼します。村木から申し受けてまいりました。愛さんのことでお話しが、、、、、、、、私、当時、愛さんを担当させていただいた若木と申します」
「はじめまして、泉と申します」
「はじめまして、須天と申します」
「お忙しいところ、すみません。私たち事件で亡くなった愛早苗の友達です。
この度の愛さんの不幸でご家族は大変なショックを受けられました。私たちも打ちひしがれていました。けれどなんとか事件の真相の一つでも見つけたいと願い、何かできることはないかと話をしておりましたところ、一度、現地に行ってみようということになりました。ご家族にはご了解をしていただいてこちらに来ることになったのです。
スケジュールの関係もありますが、できるだけ当時の愛さんの日時に合わせて行動をしてみようと思ったのです。ですので若木さんが早苗のお世話をしていただいたというので、そのときの彼女の様子を聞かせていただきたいと思ったのです」
「それはそうですよね。本当にお気の毒にと思っていました。どんなご事情があったのかわかりませんんが、警察には愛さんのご様子はどうだったのかとか、この部屋がスィートルームですので、本当に彼女がこの部屋に一人でいたのかとか、いろいろと尋ねられましたが、何が事件の手がかりになるようなのかさえわかりませんけれども私たちの知っていることはすべて話したつもりです。といのはお客様のプライベートのことになりますので直接的なことはまったく知らないのです。例えばお部屋の中のことはわかりませんし、かりにチェックアウトの際にはお掃除が入りますけれども掃除の係はこの部屋にお一人で宿泊していたのか、それとも複数の人間が出入りしたり宿泊したりしたのかはなどはまったく関心がなく働いています。ですので何か事件性のあるような様子は感じられなかったというのです」
「そうですよねぇ。それでここの旅の寄港地には彼女は何か所、観光したのでしょうか?その際には若木さんはお世話したのでしょうか?」
「はい、翌日の朝食をバイキングでとられた後にマレーシアのペナン島で下船して、しばらく観光されたのちに後、お戻りになっています。翌々日の寄港地であるタイのプーケット島では同じようにバイキングで朝食はとられていますが、観光はしておられません。下船されていないのです」
「早苗はこの船旅の体験は初めてなのかと思いますが、そんな感じはしませんでしたか?」
「そうですね。その点はそう思います。たしか事前にタイのプーケット島についてのマッサージのことを私に尋ねられました。しかし予約はされませんでした。そうですよね。せっかくプーケット島に来られたのですから、下船しないほうがおかしいかもしれません」
「ということは彼女はタイのプーケット島で下船することを楽しみにしていたのに下船しなかったことになりますよね?」
「そうですね。記録にはそのようになっています」
「乗船とか下船の仕方はどうなっているのですか?」
「乗船手続きのとき、お客様ほ皆様、パスポートを預けて頂きます。下船を希望される方は、そのための出入カードとご自分のパスポートが渡されますので、そのカードを通しての出入が確認されるのです。カードがなければ下船はできません」
「ということはカードさえあればそれができるということですか?」
「厳密に言えばそういうことになります。それとともに他国なので何かありましたらパスポートが必要になります。乗船のときに再びパスポートを預けていただくシステムです。それに何か買い物なとをしようとすればお金も必要になります。ご存じかもしれませんが、こちらのお店は現金でやりとりをすることがほとんどです。もちろん日本円や米ドルは歓迎されるようですが」
「最終日のシンガポールで下船することになりますが、それは早苗は確認されているのでしょうか?」
「はい。確認されています」

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1-91 日本人クルー

優子は単刀直入に申し出たほうがいいと思った。
クルーの村木が日本人ではあるし、忠実に仕事をこなしていると見えたからである。
「あの、、、この部屋は約1年前、愛早苗という日本人女性が泊まったことがあると思うんですけれど、、、」
「、、、、愛早苗さん、、愛さん、、もしかすると、、、、、、亡くなられた、、、」
「そうです。私たちも特別に早苗のご両親と一緒にご遺体のある安置所に参りました。私たちは幼馴染なんです。事件はまだ闇のままです。私達は少しでもその真相を知りたくて、、、」
「そうでしたか、、それはそれはご愁傷様でした。もうあれからだいぶ経ちますよね、、、確かに愛早苗さんはこの部屋に泊まっていらっしゃいました。日本人女性があのような事件に巻き込まれたのには本当に驚きました」
「早苗とはお話されましたか?」
「いえ、私はお話ししたことはありません。当時、私が担当したのではありませんが、うちの女性スタッフがそのとき担当しておりました。もっとも誰が誰を担当すると前もって決められていたわけではないのですが、お客様の多くは、最初に担当したスタッフが後々もお世話することが多いのです。ですので、実は私は一度もお話をしたことはないのです。うちの女性スタッフは確かにお話をしたそうです」
「そうですか。なにかお聞きになっていらっしゃいますか?」
「私たちも事件の後、気になってその女性スタッフに愛さんのことについて尋ねたことがあります。愛さんはお一人でこの船のスィートルームを予約されていました。女性がお一人で楽し
まれる方は少ないのですが、団体さんの中ではよくあることです。女性一人でツインルームやダブルベッドのあるお部屋を予約される方はおられますが、スィートルームということになるとあ
る程度、限られてきますから。やはり、こういう船で旅を楽しむということになるとお友達とかご夫婦とか、団体さんとかでいらっしゃることがほとんどなので、愛さんのような予約の仕方は珍しかったのです」
「やはりそうですよねぇ、、、」
「そうですね。でも私たちがお客様のプライベートに関わることはありませんので、愛さんが船内でのイベントや観光を楽しまれるときに何か必要なご依頼のあるときにしかお手伝いはできませんでした」
「スタッフやクルーの方に早苗から何か質問や依頼はあつたのでしょうか?」
「ところが、ほとんど記憶にないくらい、それはなかったようです。食事も多くは自由に無料でできますし、有料のところも現金を所持していなくても気軽に食べられます。映画もカジノなども同様にお一人で楽しめます。それにスィートルームですといろいろな設備が整っておりますので、あっという間に時間が過ぎ去っていくと思います。ですので愛さんは観光もされていますし、
船内でも楽しんでおられたのではないでしょうか」
「たいへんな数のお客様ですものね、よほどのことがない限り、彼女が印象に残ることはないでしょうね」
「そうですね、その担当した女性スタッフを呼んでおきましょうか。今日も勤務しておりますから、何時ごろがよろしいでしょうか?」
「お忙しいでしょうけれど、できれば早くお話をお聞きしたいわ」
「そうですよね、、、すぐにとはむずかしいでしょうけれど、できるだけ早くと伝えておきます」
「こちらの日本人スタッフの皆さんはあの事件についてどんな話をされていたのですか?」
「私たちには、ニュースでしか知らないのです。というのはニュースでは海中から引き揚げられた他殺死体が、しばらくの間、それが誰なのかわからなかったのです。ところが警察が調査したところ、その被害者が日本人女性の愛さんだったことが判明したのです。私たちはこの船に泊まっていらした女性だとわかった時の驚きを覚えています。事件当初、警察がこの船にやって来て、私たちや女性スタッフにもいろいろと尋ねていきました。けれど、誰も何かしら事件に関係するようなことは知らなかったように聞いています。でもせっかく来られたのですから具体的にはその女性スタッフにも聞いてみてください。
それにしても愛さんはさぞ無念だったろうとみんなで話をしていたのです。何か事件に関することを私たちが少しでも知っていればよかったのですけれど、、、、、」
「私たちも藁をもつかむ気持ちで、こちらに来てみたのですが、、、、そうですよね、、、」
「でも本当に悲惨な事件でしたよね、、、この船には何人かの日本人クルーが働いていて他人事とは思えません。私たちにとっても怖い話です。それにしてもいまだに犯人がわからないというのですから、腹立たしいですよね」

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1-90 エグゼクティブのウェルカム

優子と織江は船着き場に到着すると、そのタクシー運転手に丁寧に挨拶をして別れた。
午前11時の乗船にはまだ間があった。
その船着場建物の構内に入ると長い行列がいくつか見えた。すでにたくさんの人たちが順番を待って並んでいるし、軒を連ねた土産品店などでは時間待ちの人たちが買い物をしたり軽い食事をしている。旅行者がやはり多いように見える。
約一年前、早苗はピュアプリンセス号の見栄えの良い部屋をインターネットで予約していた。
なぜその高級な広い部屋を一人で予約していたのだろうか?
誰かが合流することになっていたのであろうか、それとも一人で豪華に過ごしたかったのだろうか?
構内の様子をしばらく眺めていると並んでいないところがあって、そこに行ってみるとそこが目的のエグゼクティブの窓口だった。早苗はこのエクゼクティブの窓口を通ったに違いない。
優子たちもここに並ぶことになる。しばらくするとすぐにその出入り口から人が現れる。
チケットを見せると、「しばらくお待ちください」と言って、イヤホンマイクで話をしている。すると男性が近寄ってきた。
「お客様の中には、エグゼクティブクラスの方とジュニアースイートの方がいらっしゃいます。お客様はオーシャンビューサイドのお客様ですので、12:00からのチェックインも沢山の人が並ぶ列とは全く違うカウンターです。通る通路も違います」という。
しばらくするとクルーが現れる。
「ご予約の、、泉優子さんですね」と日本語で話しかけられた。
「村木と申します。日本人です。よろしくお願いします」
「あっ、、はい、、よろしくお願いします」
「それではパスポートを見せてくださいますか」
パスポートを見せると、「ようこそいらっしゃいました、お気兼ねなく。どうぞ、こちらへ」と案内される。

「あの、、、日本人のお客さんは結構いらっしゃるということですか?」と優子は単刀直入に聞いてみた。
「そうです、、、結構いらっしゃいますよ、、、これからこの船の旅でお困りのことがあったら何でもおっしゃってください。

いろいろとご案内いたします。お食事の予約もできますし、ツアーもいろいろあります、、、、」
「ツアー?、、、そうでしたね、、、たしか3ヵ所に船が着くんですよね」
「ええ、プーケット、タイ、インドネシア、この船はご存知のように3箇所に寄港しますから、それぞれのおもしろい体験ができるんです。詳しいことはまたあとでご案内できます」
「ありがとうございます」
話をしているうちに曲がり角を過ぎる。
そこここで客船に向かて歩いているお客にスタッフが笑顔でウェルカムの挨拶をしている。
さまざまな色とりどりの衣装で着飾ったスタッフもいる。ぬいぐるみを着たスタッフたちが子供たちと一緒に写真を撮り、風船をあげると「ウァーッ」とうれしそうに歓声を上げている。家族連れであったり、恋人同士であったり、優子たちも写真を撮られる。なんとなく気恥ずかしかったが、半強制的に写真を撮られているのである。しばらく歩いていくと乗船することになる。
「この長い廊下を歩いて行くとそのまま船のメインロビーに入っていきます。ヴァーゴ(建物と解釈)は13階建の巨大ビルの中を横へ動いて行くと考えてください。全長200メートルの中央パティオ( メインホール) には3基のエレベーターが動いています。船前方と後方にはそれぞれ3基ずつのエレベーターがあります。
こちらへどうぞ、ここがこちらがパティオです。このパティオではウエルカムドリンクが出されますが、乗船後に直接ここに入ってこられるのは、オーシャンビューサイトのお客様以上の方々のみです。
「どうぞ、、、お飲み物はいかがですか? 」と勧める。きれいに着飾った女性がたくさんのシャンペンの入ったグラスを乗せたトレイを持っている。言われるがままにシャンペングラスをもらい喉を潤す。
「こちらでは無料のいろいろな食事がございまして、有料のものもいくつかあります。人気があるものは予約をされたほうがいいものもありますので、ご遠慮なくおっしゃってください。私のほうから予約いたします」
しばらくするとそれでは、、いかがでしょうか、これからお部屋へご案内します、、、どうぞ」
狭い通路を歩いていく。
「お客様のお部屋はもう少し先で奥のほうになります」と船の先頭に向かって歩いていく。
ところどころの部屋が開けっ放しになっていた。
窓がない部屋、丸い窓がある部屋などところどころ、そこからお客が出入りしている。
「こちらはギャラリーです。壁一面にスタッフが撮ったお客の記念写真が貼ってありますように、船内にはいたるところに写真屋さんがいて、記念写真を撮ってくれます。それがこのギャラリーに張り出され、お好みのものを購入できます。


しばらく歩くと「こちらです、、、このカードで開けるようになっています」とすぐにカードを差し込んだ。
「ドアは自動でロックされますので、カードをお忘れにならないようにお願いします」
ホテルと似たような方式だった。
部屋に入ると、空調やセッティングの仕方を教えてくれる。部屋は二つに仕切られている。応接室とベッドルームになる。応接室にソファ、テレビや冷蔵庫など一通りの電化製品が備えられている。隣の部屋はベッドルームになる。そこには大きなジャグジー備え付けのバスがある。ベッドはダブル。この部屋はスィートルームだった。ベランダがついており外に出られるようになっている。ベランダ側のドアは丸い回転式のノブを両手で回転させ、まるで潜水艦のハッチを開けるようにすると開け閉めができるようになっており、ベランダに出られる。頑丈なつくりに見えた。
「なにかありましたら、24時間体制ですのでいつでもご連絡ください、、それでは失礼します」と言って、去ろうとした。
「あの、、、」
「はい、、、、」
「実は私たち、意味があってこの部屋はリザーブしたのです」
「???」

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1-89 豪華客船の女旅

早苗がシンガポールで宿泊していたマンダリンホテルはいつものように早苗の勤務する会社関係が使う日本の旅行社を通じてシングルを予約していた。
繁華街から離れたそのマンダリンホテルは日本流に言うとビジネスホテルを少しだけ高級感を持たせたような感じがするホテルだった。出入りする人たちを見るとやはり旅行者が多い。ホテルマンたちに声をかけても宿泊者のことにはあまり関心を持たずに仕事をしているように感じる。
約1年前、早苗がこのホテルをチェックアウトして観光客船ピュアプリンセス号の発着乗り場のある付近まで乗せたタクシーの運転手を探してみたがあいにく居なかった。
ホテルに待機している他の運転手に聞いてみると「その運転手なら明日はここに来るだろう」という。優子が「その運転手にぜひ話を聞きたいし、明日から自分たちも同じピュアプリンセス号に乗る」ことを告げると不思議そうな顔を一瞬したが、すぐに好意的な顔になって、その早苗を乗せた運転手に伝えておくよと言ってくれた。
そして「あの日本人の娘は亡くなっていたんだって?もう1年も前のことなんてあっという間だね。あれはなんかすっきりしない事件で、最初マスコミも騒いでいたけどすぐにその後の二ュースが途切れてしまった。だからその後のことはみんなよく知らないんだ」と言う。
優子と織江はシンガポールは始めてであるが、英語は片言ぐらいは話せる。
翌日、優子と織江はホテルをチェックアウトした。
その運転手は確かにホテルのドア前でうろうろしていた。白髪の短い頭の小太りの男性で、優しそうな感じを漂わせている。
あの運転手は、以前シンガポール警察から何度も尋ねられていることだろう。
優子と織江はホテルの出入り口でうろうろしているその運転手のところに急ぎ足で向かう。
目があうと運転手もにこやかにしてくれ、優子と織江は深々と頭を下げた。
日本人のこうした行動は自然なものだが、現地の運転手にとっては新鮮に感じられるのだろう。特に日本女性の持つ柔らかい仕草に運転手は驚きの様子を見せた。
「あのクルーズは結構、人気があるんですよ、、、海外からも来るし、おいらの娘も乗ったことがあるんだよ、、、、白髪頭をなでながら運転手がバックミラーごしにしゃべり始めた。お客さん、友達?」
「えぇ、そうです、、幼友達なんです。、、、、あの豪華客船の観光をして、その後にその殺された女性のことを詳しく知りたくて来たんです、、、」
「一年前ぐらいになるよね。あの娘さん、、、私が乗せたんだ。だけと実はあまり印象に残っていないんですよ。タクシーに乗せて港で降ろしたというだけのことでほとんどしゃべらなかった。あなたたちに何か参考になるものがあればいいのだけれど、俺は何も知らないんだ」
「はい、、、」
「それにあのニュースは最初、マスコミが騒いで取り上げたけれどその後にどうなっていたのかその詳しくニュースを流していないんですよ。当初は警察もマスコミも俺に詳しく話を聞かせてくれといってきたあと、まるでタクシーが事件の案内役をしていたかのようなニュースの流れ方をしたもんだから、私たちにも印象に残っているし、当時、タクシー仲間でも話題になっていたんだよ。俺にとっては乗せた客だから、しばらくして海中から引き揚げられたっていう気の毒な話を聞いたけど、その後もどうなったのか気にはなっていたんですよ」
「そうなんです。けれど、私たち殺された女性の幼馴染で、いつもいつもその事件のことが気になって気になって頭から離れない。どうしてそういうことになったのか知りたくて来てしまったんです。
でも私たちも女同士の旅で海外旅行は慣れないものですから少し怖いんです。それに彼女、袋に入れられて海に投げ込まれたって言うので、なんてひどいことをする人がいるのかと憤りを抑えられないんです。でも何か船に乗ることも怖くなっているのです。だって周りが海なんですもの、何か起きたら、私は泳げないし、それにあんな事件がシンガポールで起きるなんて日本人は考えもしないし、まさか私たちもと思うと一人ではこれません。
でもなんとかして事件の真相を知りたいんです」
「そう、、あれは悲惨な事件だったよね。さるぐつわされて、ぐるぐる巻きにされ、その上、袋に入れて、またその上からロープで縛り、重石をつけて海に捨てたなんて、前代未聞だよ、
そんなこと一人じゃできねぇ話さ。こりゃあ、複数人の犯罪だってみんな言ってるよ、、まるで日本のやくざの抗争の果てみたいなやりかただな、、、だって生きたまま、放り投げられたって話じゃないか、、、恐ろしい話さ、それに犯人がまったくわからないってんだから、、、でもね、、このクルーズは人気はあまりおとろえないんだよ、、なんてったって、地元の人たちには安く出してるし、食事はうまいって話で、リピートする人も結構いるんだよ。、うちの親戚なんか何回も行ってて、俺も誘われてるんだよ、、、でも心配することはねぇよ、、あの殺された女性は、何事もなく下船したって話だから」

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1-88 深い闇

織江は優子と共にシンガポールへ向かうことを希望し、今二人とも機内にいる。
早苗と同じようなスケジュールを組んで出発は金曜日にした。

2009年10月18日(日)に現地のマンダリンホテルをチェックアウトする予定にしている。早苗の行動した一年前と同じ日に出発し可能な限り、宿泊も観光もツアーも同様に設定したのである。
早苗は2008年の10月18日(土)の午前中にシンガポールのマンダリンホテルをチェックアウトして、ホテル前に停車していたタクシーに乗って豪華客船ピュアプリンセス号の寄港地付近にて下車した。
18日(土)から21日(火)までシンガポールの港の発着で、その豪華客船の船旅を楽しんでいる。
18日(土)の午後1時から、豪華客船ピュアプリンセス号の乗客予定者は乗船を開始している。
早苗も乗船した。次の寄港地であるマレーシアのペナン島に向けて出航。
19日(日)の午前中、下船を希望する観光客はマレーシアのペナン島にて下船。早苗も下船。観光した後、観客全員がふたたび乗船する。早苗も乗船。夜、次の寄港地であるタイのプーケット島に向けて出航。
20日(月)午前中、停泊地であるプーケット島にて希望する観光客は下船することになる。
早苗は下船していない。夜間にピュアプリンセス号は、シンガポールへ向けて出航する。
21日(火)午前中、3泊4日の旅を終え、シンガポールの港ですべての乗客とともに早苗も下船している。

21日に再びマンダリンホテルに予約してあったがチェックインもキャンセルの連絡もなかった。
優子と織江は早苗のたどったスケジュールについて打ち合わせをした。
通路を隔てて左側の席ではシンガポールへと向かう日本人の男の子とその母親が仲良く戯れている。

何とはなしに幸せそうに感じられる。
機内はほぼ満席に近い状態だった。その当たり障りのないざわめきが、そろそろと疲れ気味の優子と織江の眠気を誘っている。
おおよそ5300㎞を約7時間ほどのフライト予定である。
あまり眠る時間はないだろうが、シンガポールに到着したら、いろいろと忙しくなることだろう。
優子の右隣の織江はいつのまにかかすかないびきをかきはじめた。
優子はいつものように呼吸を少しずつ深くしていき、力を抜いて瞑想に入っていく。
{ 早苗はいったいどういう気持ちになったことだろう。おそらく当初は「まさか自分が、、、」という気持ちだったのではないだろうか。相手に対してまったくの警戒心がなかったのではないだろうかと思える。
しかし自分の身に危険性が迫ってきたことを感じたその時々に、どのように相手に対して反応していったのだろうか } 瞑想の中で想像が目まぐるしく浮き出しては流れていった。
まるで何も具体的な要素がないままに暗闇の中に深い霧が立ち上っているようだ。
優子はそれを打ち払おうとしている。しかしたとえ霧が無くなっても暗闇は明けることはない。すべてが無駄なように思える。
早苗の身に危険性が増していった時のことを想像するとあまりのことに身につまされてしまう。息ができないくらい、ショッキングなことを考えては渦巻いては思考が停止してしまうのだ。
「血涙」という言葉がある。そのことを今回ほど身近に感じたことはなかった。思わず苦しいくらい顎に力が入る。
{ あぁ、私にはこれから何ができるというの。死んでしまった早苗に対していったい何が、何ができるというの? }
いつのまにか優子は深い闇の中に沈んでいった。

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1-87 痕跡からの推理

「私は近々シンガポールに行こうと思います。早苗が行ったと思われるところに」
「賛成。お願いします」
「ただ今後のことだけど警察や何かで犯人が判明したとしても私たちがかたき討ちということはしないつもりよ。憎しみからの仕返しは憎しみの連鎖になる。こういうことはしない。
ただし可能な限りなんらかの方法をとりたいと思う」
「どんな方法?」
「わからないわ」
「優子のことだから、冷静沈着のわりに激しいものがあるのじゃないかな。さっき私たちが早苗のかたき討ちをしたいと言ったけど、早苗は相手を殺したいほどの憎んだはずだわ。
でも早苗の性格からしても私たちにそれを望んではいないと思う」
「あの早苗の手の組み方は犯人を示そうとしたのじゃないかと思うのよ」
「私もそう思うけど、そんなことをするのは不可能ということだったわよね。本人が必死になったとしても短い時間に手錠から両手を抜いて組むなんて不可能だわ。しかも肘から手先までなのだから、まるで自分の力で手錠から手が抜けないから、自らの力で肘から引きちぎるようにするなんて、まったくありえない。しかも両手。いかに必死になったとしてもそんなことは不可能。だとしたらやはり犯人が早苗の肘を切断して組み合わせたとでもいうの?これもなんの意味があるというの?、、、、、やるとしたら完全な精神異常だわ」
「いや殺人は精神異常よ」
「可能性がないとも言えない」
「でも犯人が早苗の両肘を切断したとしたら、切断面になんらかのかすかでも証拠が残るはずなのに両肘になんら痕跡がないと警察と解剖は言っている。それを信用すれば、切断もありえないことになる。それに両肩から両肘までの骨は体の側面から後部の方向に向いていた。と言っていた。本当なのか?遺体を引き上げる時に動いたのじゃないか?そのときに肘から先も動いた?それでもそうしたらあの手の組み方も崩れているはずだけど崩れていない。、、しかも両肘や両手だから。もし引き上げる時や運ぶときに遺体の骨の位置が多少崩れたとしたらどちらか一方に傾くことになると思える。しかし実際は、両肩から両肘までが体の両側面から両後方へと同じように向かっていると言っているし、、?、、、」
「しかも生きたまま海中に沈めている。だとしたら必死にもがいたはず。しかしその激しく動いた痕跡そのものがない」
「その肺の部分に残っていたものは肺ではなく、おぼれ死ぬ間際に吸い込んだ海水に含まれるプランクトンによって何日もかけて形成され、すでに肺が無くなってしまって、それにとってかわられた物だと判明した。だとしたらやはり溺死するときに息を吸おうとしたはずだと解剖は言っている。
つまり早苗は生きたまま海中に投げ込まれたはずなのにもかかわらず、息は吸おうとしたが、必死にもがかずにして、溺れ死んだということになる。生体反応として呼吸していたことは認めているはずだから、何か薬か何かを作用させて昏睡状態にでもさせないとそういうことができないはず」
「しかし矛盾がある。両肩から両肘までが体の両側面から両後方にそれぞれ向いていたなんて、しかもそこからさも切断されてでもいるかのように距離をおいて両肘から両手先まで体の前方付近であのような両手の組み方の形になっている。手錠にかけられていたはずなのに手錠から抜けて手の部分が組まれている。しかし両肘の部分は引きちぎられたり切断されているような形跡が骨の形や位置からありえないとも言っている」
「つまり両手だけ、最初から手錠から抜けていた?」
「薬を飲まされて意識不明にされたのちに手錠から外された両手を体の前で組まされて、そのあとに幾重にもロープを体中に巻き付けられて、両足のほうは足枷をされ、そして袋に入れて、重しを付けて海中に投げ込まれた。しかしそれでは両肘の部分が切り離されているようになっていることの説明ができない。まさか死んだ後に魚が両肘の部分を、、、してしまって、、、、そしていつの間にか両肘の部分が離れた。、、、とでも、、、?、、、」
「どちらにしても何か意味のある手の組み方に違いないわ。犯人がそうさせたのか、それとも早苗の意志でそうしたのか?、、、それとも、、、、」

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1-86 超極小生命体の研究

「しかしそれは夢であって、たとえば遠くに見える太陽や月を手に取るようにするぐらい難しいとも早苗は言っていた。
優子から提案やアドバイスがあって手始めてみても、何も知らないことから始めなければならなかった。いったいどこから手を付けていったらいいのか見当がつかない。
いままでの超極小生命体の研究で病だけでなくウイルスの病原菌の固有振動数を見つけ、それを共鳴増幅させてついには破壊する方法だった。だけどこれをやれば製薬会社も医師会の存在意義がなくなると恐れるだろう。本当は見方さえ変えれば逆にさらに大きくなるチャンスだととらえることができるのに小さな考えで現在を維持しようとする。新しい考えを恐れることになる。だからそんな方法はあたかも知らないかのようにマスコミや政府や権力者を誘導することだろう。
それにこの発想方法はまるで未来の戦争の武器になりえるような気がする。目的に狙いをつけて、ある特殊な電波やレーダーやそれに代わるものを新しく開発できれば、狙いをつけた操作する殺人を行うことさえできる可能性が出てくる。つまり無人で目的とする人や物を知らぬ間に破壊することができることになる。とすれば新しい殺人や戦争の仕方になりえる。こんな危険性のあることがまかり通れば、市民の生活を守るべき社会の権力者や野望をもった人間が平和のためと称して日常を取り締まることなど形だけのものになってくる可能性さえ秘めている。
そんな恐ろしい話が夢物語だったらいいよねってそんな話を早苗としていたわ。
そして「私たちが研究しようとしているのは破壊ではなく平和につながるものを創ろうとしている。確かに病やウイルスである病原菌を無くして病や障害を無くしていこうというのは当然にしてもそのアプローチの仕方をもっと人間性のある方法はないだろうかと探ろうとしているの」って。「だからこそ先の方法よりもはるかに難しい。もしかしたら私の死ぬまでに何一つ見いだすことができないかもしれない」と。
「私は早苗に言っていたの。あまり先走りしないでじっくりとみんなで考えていきましょうと。だって必要に応じていろいろな要素が必要になることだろうから。とね」
「仕事の話はそのぐらいにしてもこの早苗の事件はそういうことじゃないように思えるの。まさに人間関係。何かの手違いで早苗が殺されたとはどうしても思えない。仕事関係で殺されるなんてありえない話じゃないの。普通の会社員がしている範囲でしかないように思うけど。つまり私たちがまったく知らない、聞かされていない状況が早苗に迫っていた。しかし早苗は呑気にシンガポールで船旅を楽しんでいた。そんな感じだから、突然の事件のようにも見える。まさか旅行をしていた日本人女性を狙ったということもありえると思うわ。それにしても残忍すぎる」
「海外で日本人旅行者が狙われる。というのはよく聞く話で、とくに一人で旅行している女性はそういう危険性が大きいでしょうね」
「日本でも安全とは言えないけれど海外ではまったく予想もしない危険性があるかもしれない。油断していると安心安全といわれているシンガポールでさえ危ない」

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1-85 人のためになるものを提供したい

「袋詰めして海中に沈めたという点だと言っていた。海中に沈めるとたとえ重しを乗せて沈めたとしても時間が経つと遺体からガスが出て浮上しようとするらしいの。たから発覚の恐れがある。もしそうだとしたらプロはあまり使わない方法だとは言っていた」
「それにしても早苗は何をしたっていうの?」
「仕事の関係はどうなってる?」
「以前、優子が提案した超極生命体の研究は早苗が中心にみんなで続けている。彼女、興味が湧くと邁進するのよ」
「龍と詩は協力してくれていたわよね」
「そう私は今、フランクフルトの先生のもとでその超極小生命体ではないけれど長寿に関して研究しているの。一昔前、超極小生命体が発見され、研究を続けていた少数の人たちによって、さまざまな重病患者の病原菌の持つ周波数を破壊することなどで病気を治すことをしていた。薬がいらなくなるどころか医者もあまりいらなくなる可能性があると危惧した時の権力者や製薬会社や医師会や他の利権を持つ人たちが政府側と密着して警察権力だけでなくマスコミまで影響を与えてことごとくその研究したり実践している人たちを潰してきたの。これは困った人たちの解決と利益を阻害するものだった。というより市民の敵ともいえる行為だった。しかし民衆のうち身近に感じない人は事の重大性に気づかなかった。その多くの市民が知らないうちに権力が使われる。それらの圧力があまりに大きいことが分かっているので、うちの先生も慎重になっているの。だから表面上は「長寿の研究」ということにしているのよ。ところが早苗の超極小生命体の研究について、そのさわりを先生に話してみたのよ。そうしたら先生が目を輝かして早苗の発想がまったく新しいアプローチだというの。昔から西洋的な発想での研究は進んでいるのだけれど、そういう東洋的というか日本人の発想で研究をしている人がいることに驚いていたわ。しかも普通の民間人だというとそれはそれは驚いていたわ。先生は、ぜひフランクフルトにご招待したいと言っていたのよ。その早苗が研究している超極小生命体に関する研究の発想のもともとは優子にあったのは知っているけれど、そんなことは誰にも教えていない」
「早苗は私のほうへは「コンピューターソフトや人工知能プログラムを使ってその超極小生命体の一個一個の追跡とコントロールする仕組みを考えてほしい」という早苗からの依頼だったわ。通常の顕微鏡では見ることのできないその無限に存在する微小生命体を一個一個、追跡したいというのだから無謀だと思えることなのよ。その発想はまったくの素人だからできるのかもしれないわね」
「そういえば超極小生命体の病原菌になるものに的を絞って破壊するために外部に機器を設けるか、それとも内に何かを設けるかの方法を考えているとは電話では言っていたわ。いままでの西洋人だけでなく日本人の研究者や企業の多くは外部の機器を使う方法をとっている。それはお金に直結するからなの。つまりノーベル賞もそういうことよ。お金になりそうでなければ背後で企業とつながっているノーベル賞はとれないようになりつつある。ごめん、話は脱線したけど、とにかく学者や企業は一般的に周波数をコントロールし検査をしたり病原菌そのものの固有振動数である周波数を使って破壊させる方法でそれぞれの病を根絶しようとする。早苗はそうではなく内部的に対処するにはどうすればよいかをまず考えるべきだと言っていた。その選択肢の中に自然にあるもので鍵になりレセプターになるえるものを探していたわ。そのことのために最新のAIやコンピューターを使って探すのが早いかもしれないと言っていた。それだけでなく超極小生命体の一個一個の動きと変化を追跡できないかといのが一つのテーマだった。追跡が可能になればどういうときにどういう変化になりえるかが予測できるようになる。それがわかればコントロールする道が開けてくる。優子は無限に存在する目に見えない超極小生命体の一つ一つが頭脳を持つているだけではなく意志がある。そしてその意志は変えられるというのが持論だったよね。なぜそういうことが言えるのか、今でも私たちにはわからない。でもそのテーマの先には誰も成し遂げていない人類の夢、、、、、につながっているというのはわかる気がするの。そしてさらにその先には偉大な宗教者たちの成し遂げていたこと、、、運命を変えていく、、、、、への道が開けることになるということだったよね」
「それらは最初のころは少数の人たちにしか理解できないかもしれない。しかし人類がもっとも必要としているもの。それは希望になるものだわ。人々の争いがなくなるはず。人類が求めているものを提供したい。そういう夢を私たち普通の民間人が現実にするんだという志を早苗と共に熱く語っていたのよ」

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1-84 原因究明

「集まってもらったテーマは、今後の大事な方針についてです。
その方針についての中には当然、早苗の事件も含まれます。
私たちが現在、知り得る早苗に関するものでは情報が少ないと思います。
いままでの情報は①嵐の台北でのコンサート会場に向かうときの動画を撮った男性の画像解析情報、②早苗の部屋から紛失しと思われるノートパソコン。③シンガポール海域から引き揚げられた早苗の遺体からの情報ぐらいしかないと思います。私的には、シンガポール警察が「しばらく内密に調査を続行したい」という意味がとおりいっぺんの言葉なのかどうか、なぜ「内密」と言う言葉を使ったのか、意味があるとすれば今後の推移をみていなければなりません。
これらの情報から何が浮かび上がるのかのみんなの意見をお聞きしたしたいと思います」
「優子は冷静沈着。私は、はっきり言って怒り心頭です。仇討ちをしたい。ただこれだけ」
「私もそうです。会の資金をこれから今まで以上に増やします。そのかわりにそのすべてを使っていいとさえ思います。足りなければ私のお金も出します」
「龍は?」
「私ももちろんみんなと同意見です。必ず犯人を突き止めたい。気になっているのはなぜ、あのような殺され方をされなければならなかったのかということよ。まず真相究明が大事よ。そのうえでかたき討ちをするべきだと思う」
「そうですね。行き当たりばったりに殺人を起こす人もまれにいますけれど、早苗の場合は違うと思います。あのように幾重にも体中をロープで縛られ、後ろ手が固定された手錠にかまされ、足枷をされた上で生きたまま袋に入れられ、海中に沈められるなんて人間のかけらもないような行為を誰がなしえるでしょうか?これには憎しみが充満していると感じるのです。ここには人間性が感じられない。あんなことができるのは精神の異常性がなければできないと思うのよ。一面では冷静さを持ちながらも精神異常をきたしている人間の行為ではないかとも思えます。それに一人の行為ではなく複数の人間の行為だと感じるのです。とすればある程度冷静さを持った人間と精神異常さをもった人間の共謀行為ではないかと」
「陸上で袋詰めまで行い車に乗せ、どこかの小さな港で小舟に乗せ換えて海中のどこかに沈めた。あるいは船の留まっていた港まで早苗を連れ出し油断させて舟に乗せたあと、その船の中で袋詰めにし海中に沈めたと考えるのが自然じゃないかと思うわ。であれば確かに一人の行為ではむずかしいはず」
「行為そのものに憎しみがあるとすれば早苗に関する人間関係になる。通り魔は除外してもよさそうね」
「早苗は憎まれる性格ではない。かわいいし律儀だし優しいし」
「そんな早苗に憎しみのある敵対する人間がシンガポールにいるとは考えられない。だってそんなにシンガポールとは行き来していないはず。たしか早苗は仕事の約束前までに観光船かなんかに乗って観光をしたとか言ってたくらいだから、それほどの人間関係があるとは思えない」
「早苗が2008年の10月18日、シンガポールのマンダリンホテルをチェックアウトしたあとに豪華客船ピュアプリンセス号の3泊4日のクルーズで観光したでしょ。シンガポールの港を出発して各地を観光したあとに再びシンガポールに戻ってくるというクルーズ。あれってなんか普通に観光を楽しんでいるって感じがする。あのとき早苗は本当に一人だったのかしら?それともその船で誰かと会っていたとか?なんか気になるわね」
「早苗はいつ殺されたというの。わかっているの?」
「警察の話だとはっきりと特定できないというのが結論なのよ。シンガポールは年中高温多湿だし、海水温度もも28°~30°以上になるけれど海域や流れによって多少の違いが出てくるという話だった。だから人体の骸骨化は比較的早い」
「それに、、、警察の話だと、なにかしら素人っぽい犯行ではないかとも言っていた」
「どいういうこと、、、?」

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1-83 saveearthのメンバー

愛早苗の父の啓介は埼玉でコンビニエンスストアを経営している。
母の恵子は結婚後ほどなくして良太と早苗を産んだ。
両親はこれといった趣味がなく、たまの温泉旅行が楽しみで、老後のお金を貯めるのが趣味みたいなものになっていた。子供たちには、自分たちができなかった分、できればいい教育を受けさせたいという気持ちでだった。
早苗はいわゆる一流大学を卒業した。そのまま就職をしたのだから親を安心させた。
兄の良太は何度か職を変え心配させてはいたが、結局は実家のコンビニを手伝うことになったのだから少しは親を安堵させたのだろう。しばらくしていい人ができたと言って年上の桂由美という女性を連れてきた。結果的にはできちゃった婚でその後、しばらくする
と男の子が生まれた。啓介と恵子にとって初孫になる。とうとうおばあちゃんになった恵子がその初孫の世話をするときには、良太の妻になった由美がコンビニを手伝うこともある。
早苗は兄に男の子が生まれる頃には「東京に一人で住みたい」と言い出した。
両親は早苗の一人暮らしを心配し「埼玉から東京都心までそれほどの時間はかからないのだから」と引きとめてはみたものの、早苗のほうは「やっぱり仕事先までは足の便が悪いし、夜遅いと疲れるし翌日の仕事に差し支える」と言われれば、娘の一人住まいに納得せざるをえなかった。それでも親としては近いのだから、時間を見つけては実家に来るようにと言って了解した。
早苗としては兄の妻の由美とはあまり気が合わないので、時機をみて実家を出ようと心ひそかに決めていたのである。
由美は水商売をしていたという。一見、しまりやで主婦らしく立ち振る舞うかと思えるときもあるにはあるが早苗には雑な女に見えた。パチンコが好きらしく、結婚生活に慣れてくるとコンビニエンスストアの仕事をせずに用事ができたと言っては赤ん坊を姑の恵子に預けて車でいそいそと出かけていく。
そんな様子が露見して、早苗は「由美さんのことは、先が思いやられる」と両親に意見を言ってはみた。親もそのことはわかっていて「まぁ子供もできて忙しい時もある。今どきの若い人は気晴らしも必要なのかもしれないね。私たちはこれから年老いていく一方だから、少しずつこのコンビニを本格的に手伝ってもらわなければならないからねぇ。今のうちかな」と言われれば強くは言い出せない早苗だった。
そんな家族の様子を見て早苗は一度、実家を出たくなった訳である。それで東京の勤務先近くのマンションで一人暮らしをしていたのだった。
成田空港周辺にはいくつかホテルがある。
その中で比較的こぎれいなホテルにsaveearthのメンバーが集まった。
seveearthメンバーの女性たち、その代表格の優子で主婦 。織江は投資関係が得意で会の資金を増やしている。詩は人口知能 (AI) 関係の会社勤務。龍は医療関係が得意でドイツのフランクフルトにて研究を続けている。龍以外は東京に住んでいる。

龍はこの日、フランクフルトから駆けつけた。夏のヨーロッパでは夏樹休暇の時期でもあり、ドイツではUrlaub(ウアラップ)やFerienと称しており、人々は一カ月前後の休暇を取ることがよくある)
メンバーが集まったのは当然、愛早苗のことについてである。
このスイートウォーターホテルの広い一室にメンバーは集まった。
久しぶりの旧交を温め、一同は早苗のことで涙した。
優子はそのあと口火を切った。

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1-82 安心と安全とは

愛早苗は28才だった。あまりにも若すぎた。
人は大事がなければ老衰か、多くは病をもって死を迎えることだろう。
事故はあるにはあるが、まさか事件に巻き込まれることなど想像がつかない。
それに愛早苗のように他国でこのようなことになるのは考えられないことだろう。
「何故?」
愛早苗の父母と探偵社の和田および優子は、シンガポールの警察側から事情を聴かれた。
そしてシンガポール側は「この事件は特異性がありますので、もう一、二カ月をめどに内密に調査を続けさせてほしいという提案だった。それについては今回の事件に関わる手続きやそれらの通訳費用まで、それから遺体の帰国などについてもすべてシンガポール側が受け持ちます」とのことだった。
それにつけては早苗のご両親は、この事件の衝撃があまりにも大きく、しばらく返答に困っていたが、帰らぬ人となった娘にとってなんらかのことをしたいと切に願った。この事件の真相を判明させるためには、シンガポール側の提案を受け入れたのである。
シンガポールからの帰国の機内では早苗の父母はほとんど無言だった。
和田と優子は持ち寄る早苗の情報を交換するに至った。
和田からは早苗が嵐の台北での宿泊ホテルからコンサート会場に出向く際に撮った動画についての情報、つまり嵐の動向を映っていると思われる男性の画像解析などを進めていることだった。その解析などが済み次第、すぐに早苗のご両親と優子に連絡をするという。
優子からは親友の愛早苗がこのような状況になることに思いあたることがないこと。互いに同じ大学で知り合い、卒業後も仲良くしていたことなどの話をした。
早苗のような律儀な女性が、他国でしかもシンガポールのような安全安心と思われるような地域で事故死ではなく殺されたのである。しかも尋常の方法ではない。
シンガポールの街中では縦横無尽に監視カメラが設置されているという。
しかし周辺海域についてはそれほどではないという。
警察側によれば、問題がクローズアップされるかもしれないとのことだったが、そんなことを言われても優子たちにとって白々しく聞こえる話だった。ただシンガポールの警察がどのような調査力があるのかわからないが、何とかして真相を解明してもらうしかない。
しかし優子は帰国したら自分たちで何ができるのかを探りたい。まったくこの事件の結果だけしかわからない今の状況から何ができるのかを。結果という点があるのならばどこかに突破口が続いているはず。
今のところ探偵社の和田がその男の画像解析が済むのと台北での調査結果を待つしかないと思う優子だった。
矢も立っておられず優子は帰国してすぐに仲間を呼び寄せることになった。

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1-81 世界に一つもない事例

ここはシンガポール某大学法医学部特別教室にて現地の監察医が説明をし、その都度、通訳官が日本語に通訳をしている。そばには検視官、警察官が同席している。
日本からは行方不明だった愛早苗の父、愛啓介と母、恵子とともに探偵社の和田、早苗の親友である泉優子がその話を聞いている。
「先ほどご覧いただきましたようにご遺体はすでに白骨化しております。約一カ月前に発見されました。
ご遺体は重しを取り付けた麻袋の中に入れられており海中に沈んでおりました。
当初、シンガポール警察のデーターベースなどに該当する人はいませんでした。裸体のために身元が分からず途方に暮れておりましたところが、日本人である愛早苗さんのDNA鑑定のもので一致となったのです」と区切り、一呼吸おいて監察医は続けた。
「ご遺族におかれましては大変ショッキングなこととお察し申し上げます。私どもとしましては事実をそのままに申し上げることをご了承ください。先ほど警察側がご案内、ご説明しました通り、シンガポール海域付近には大雑把に分けると深さのある大型の船が通行する水域と小型の船しか通れない比較的浅瀬の水域とがあります。ご遺体は比較的浅瀬の海域であるシンガポール沖のラッフルズ・ショール付近で見つかりました。この付近を航行していたクルーザーがロープの一片が漂っていることを見つけたのをきっかけにしてご遺体を発見するに至ったのです。重しを設けた麻袋を引き上げまして、麻袋の解放口を開きますとすでに人体が白骨化しておりました。ご遺体は裸であったようで衣服が見当たりませんでした。それに幾重にもロープが巻き付けられていた様子がうかがえました。そして人体で言えば背中側の腰付近に手錠が、その幾重にも巻き付けられたロープに固定されておりました。足には足枷がありました。ですので被害者はロープで幾重にも縛られた上、手錠を後ろ手でかけられて固定されたまま、いわば身動きができない状態で麻袋に入れられ重しを付けられて海中に沈められたものと思います。調べていくうちに肺のあった部分に肺の形をした塊が二つ存在しておりました。その部分の周りの骨を丁寧に外し調べましたところ、肺に流入したと思われる海中のプランクトンなどによりできたものであり、肺そのものではないと判明いたしました。溺れるときには呼吸したいがために急激に肺に海水を吸い込むのです。その後、肺の部分に流入した海水のプランクトンの作用によりこの塊になったことを示しています。つまりそのことにより生きたままこの女性は海中に沈められたと推定されるのです」
啓介と恵子、和田と優子、誰しもうなだれたまま言葉がないままに聴いている。
「、、、ただ、、、疑問点が二つあるのです。
一つは手錠の輪の中には両腕がないことです。足枷には足の部分がありました。
どういうことかと申しますと両肩から両肘の関節部分までがご遺体の側面から後ろ側の方向にありました。しかしその先の両肘関節部分から指先までが人体の前側にあったのです。
つまりこのご遺体の両手はそれぞれ両肩から両肘関節まで体の側面ないし後ろ側の方向にあり、そこから少し離れたところに肘関節から手先までのものが人体の前方向に向かっているのです。
被害者が生きたまま海中に沈められている途中の短い時間内に手錠から両手を抜き出すことは不可能です。
それとも被害者が生きたまま肘から切断されて、殺人者が被害者の人体の前で組ましたのではないかとも考えました。しかしその行為はあまりにも不自然のような気がします。調べてみても関節が切断された様子も形跡もまったくありません。
身体には幾重にもロープを巻き付けた上に後ろ側の腰付近にはそのロープに取り付けて固定されていた鍵のかかった手錠がありました。しかしその手錠の輪の部分の中に手首どころか手の部分がないのです。それとも最初から手錠から外されていたとでもいうのでしょうか?足枷には足の部分があるのです。
手錠だけ使わず手や腕を自由にさせていたとは思えません。もしそうであれば足枷を手で取ったはずだと思います。しかしその形跡はありません。
これはいったいどういうことでしょう?
こんな事例は世界に一つもありません。
もう一つの疑問はこの肘から離れて前方で組まれている両手の組み方です。
これは被害者の意志によるものなのか、それとも加害者がしたことなのか、それとも偶然なのかまったく不明です。
ご覧になったように右手の平を上向きにして右手親指だけを外側に開き、他の右手人差し指、右手中指、右手薬指の三本を内側に折り曲げてグーのような形にしています。残りの右手小指は、もう一方にある左手の平を下向きにしたその左手親指と絡ませてつなげているように見えます。左手の左手人差し指と左手中指、左手薬指は内側に折り曲げてグーのような形になっています。残りの左手小指は外側に伸ばしているようです。つまり仰向けに向けた右手の小指と下向きに向けた左手の親指とを絡ませて両手をつなぐようにしています。その両手の人差し指、中指、薬指ともそれぞれ内側に折り曲げてグーの形にしているのです。そして右手親指と左手小指はそれぞれがどちらも外側に伸ばしているのです。
これらは我々の想像を超えたところに被害者あるいは殺人者の意図したところがあるのかもしれません。
現在、これはと思う世界各国の関係者に問い合わせているのですが、この様子を見て反応してくれるところがあまりありません。
連絡をいただいたところがありますが、この事件の内容がありえないことだというのです。何かの間違いではないのかと。あるいは被害者の両肘は最初から切り離されていたのではないかというのです。それをどこかで見落としているのではないかと疑われている始末でして、、、、、」

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1-80 ゼロベースの心

 
娘の早苗の行方が分からなくなってもう一年近くなる。
早々に父の愛啓介は探偵社の和田とともにシンガポールへ赴き、シンガポールの警察に早苗の行方不明の調査を依頼していた。和田はいつでもDNA鑑定に使用できるように早苗に関する物を提出していた。現地のシンガポール警察は早苗の行方が分からなくなって日が浅いこともあったが、領事館を通じての依頼なので受理してくれたのである。
多民族国家であるシンガポールは日本の交番制度を取り入れた治安のいい国だと言われている。
初代首相はリー・クアンユー ( Lee Kuan Yew 漢字表記、中国語; 李光耀、日本語読み;り こうよう 1923年9月16日生~2015年3月23日)。1965年8月9日にマレーシア議会はマレーシアの州としてシンガポールとの関係を断ち切る決議をし独立国家としてシンガポールが成立した。天然資源だけでなく人材の乏しさなど取り組まなければならないことが山積していた。多民族国家であり、さまざまな軋轢や苦労は常に付きまとう。複数の人間同士の利害得失、民族間の考え方など多様なごたごたや交渉事はたくさんあったはずだろうが、その弱々しかった国を現代の立派な国家像までに育て上げたのはリークアンユー自身のビジョンや力量それに呼応する人物たちの努力と行動力がなければこのような姿は成し遂げられない。
日本も明治期にはたくさんの紛争があったにも関わらず、勤王という旗印のもとに従うシステムは初代の神武天皇のころから目指してきたものではないかと考えられる。何か緊急のことがあったときにゼロベースの民族の中心となる象徴が古き時代から「天皇」が考察された。その神事が民衆の繁栄の象徴として古代から連綿として現代まで続いてこれたのには脅威さえ感じられる。他国では何か紛争があると勢力によって政治が変わっていく。すでに王そのものが殺されたり、権力者にとってかわられたりしている。支配者がいいときには良いが悪い政治の時には民衆にとって大変なことになる。ところが日本は天皇という形のない動かしがたい象徴があるためにたとえ織田信長が政治を行っても天皇の位に乗り換えることができなかった。むしろそれを利用することしか考えられなかった。それら武士の生き残るための全国的な勢力争いを終結させ結果的に平和を取り戻すことができたのは徳川家康だった。いろいろな議論はあるにせよ、第二次世界大戦前後にはゼロベースであるべき天皇は「神」として政治利用された部分が多くあることだろう。古代、その天皇のシステムを考え、遠い将来を見通せた人物たちによっていくつかの仕組みが組み込まれている。一例で言えば伊勢神宮の建築物を20年ごとに同じものを壊しては作り直すことを現代まで続けてきたことは職人を育て常に技術を風化しないように天皇の神事などを慣習化させてきた。一事が万事、遠大な計画のもとに思考され実行され連綿として続けられていることは不思議さえ感じられる。ハードソフト両面で重要なシステムの中心を保ってきた神事そのものを体現することが皇室なのだろうと考えられる。
その要旨は人の心と身体の活かし方によく似ている。
健康な生活をしたいと思えば心を平和で安定させ体のバランスを健康的に保つようでなければならない。
免疫力とか生命力といわれるものは常にそれを保とうとする力が無意識に働いている。
それがなんらかの危険な状態に陥りそうな場合、意識が作用し深層無意識を動かすことがありえる。
一例になるかどうかわからないが坂本龍馬の志と行動をみればよく分かる。
人間の細胞一つ一つは志を持てばその希望を考慮しながら行動する。つまりどんな病になったとしても志やビジョンや希望があり自分を信じる力があればおのずから立ちはだかるものがあったとしてもそれを乗り越えようと働くのである。坂本龍馬の場合は日本を助けたいという志と行動だった。
たとえ龍馬のように志半ばで暗殺されたとしてもそれに続く命を厭わぬ細胞たちは黙ってはいない。ビジョンが明確でさえあればそれに参加する細胞の頭脳が計画を立て活動しているのである。
よってたとえ人は生活に苦しみに倒れそうになっても病で死にそうになってもくじけてはいけない。よこしまな考えがない志で行動すれば立ちはだかる壁は乗り越えられる。いじめや悪口や嫉妬や意地悪をする人も因果応報の結果になる。
寿命が来るときには来る。死んだ細胞は生き返らないにしても「生きる」という本質さえ了解すれば周りには必ず助ける勢いのある細胞たちが控えている感じることができる。そして我ではない「無」という心の動きさえあれば、大きな作用が働きだすことだろう。
どこの国も良い点悪い点は常にある。いい評判も悪い評判もある。
リークアンユーは国家建設と国民の生活に人生を捧げ庶民に愛された人物である。
今でもシンガポールの街中で人々と話をしてみるとリークアンユーの話はよく出てくる。
日本には何度か立ち寄っているが、日本人の生活スタイルに流れる精神性がどのように活用されているかを考察し、自国の状況に合わせて取り入れようとする姿勢は変わらなかった。

日本の交番のシステムも取り入れている。ただ職業警察官は日本が30万人ともいわれるのに対してシンガポールでは4万人くらいである。しかし路上を含めた街中には監視カメラが縦横に設置してある。常に先進的な思考を取り入れようとした。その結果、おそらく国民一人当たりの生産性は日本より高く、犯罪発生率は低いと思われる。リークアンユー亡き後もその姿勢は受け継がれているようである。
そのシンガポールの国内治安を業とする警察から現地の日本大使館を通じて、愛啓介に連絡が来たというのだった。
それが娘で行方不明である早苗のDNA鑑定と一致したという連絡だった。

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1-79 謎 

探偵社「二人の幸せ研究所」の和田は愛早苗の父の愛啓介と親友の泉優子に電話連絡をした。
ジャニーズの嵐を誰かが撮った動画の中の男についての報告と心当たりがあるかどうかについてである。
それとともに愛啓介には明日、探偵社のスタッフを台北に行かせ調査することを提案した。
誰もその謎の男については知らなかった。

白いシャツに黒っぽいズボンを履いているようだ。まさかこの台北のホテルのスタッフとは思えない。関係者が単独でそのようなことはできないはずだ。
ホテル側に頼まれたのなら納得はいく。
それにしてもカメラも画質がたいしたことがない。専門家とも思えない。
嵐が乗り込んだミニワゴンが出発する一瞬に車体に反射したその謎の男をチエは見抜いた。
この謎の男はいったい誰なのか?
チエとケンのほうはオフィサーソフト社に出向いて如月専務とソフト開発技術者の責任者に会って相談してきた。あの謎の男の映っている部分の画像処理のことと、この男がオフィサーソフト社の関係者かどうか、あるいは心当たりがあるかどうかを探るためである。
ここでは内密にしておくことが前提だった。
如月専務によると「早苗さんのプライベートについてはまったくわかりません。社内に嵐のファンはいるとは思いますけれど、早苗さんとの関係はまったくわからないのです。それに台北まで一緒にいっていたということはよほど仲良しでないと行かないですよね。それほどの仲の良い男性が社内にいるとは考えにくいですね。しかしわからないようにそれとなく聞いてみます」ということだった。
明日の早く、チエは台北に行くことになった。
あの嵐の動画が撮られた日から一年近くも経ってはいる。
チエとしては { ジャニーズ関係者は喋ることはないだろうが、台北のホテル関係者はなんらかのことを知っているもしれない。周りにいたたくさんの嵐ファンの中からコンタクトをとることは難しいだろう。SNSや何かで問い合わせをしてみようかな? }
和田とチエとケンは探偵社の全員を集めてミーティングを行う。
「早苗さんを見つけ出して救うきっかけになるだろう。やるぞ!!」と和田ははっぱをかけた。
そのとき電話が鳴った、、、、。

それは驚きの内容だった。

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1-78 静かなる池に小石を投げ入れてみる

 
ここは探偵社「二人の幸せ研究所」である。
「これです」とチエは切り出した。
百聞は一見にしかず。
問題の部分は話すよりも上司の和田にはyoutubeにあるshotennokiを見せたほうが早いのだ。
「、、、どれ?、、、、」
ジャニーズの嵐が朝、台北の宿泊していたあのホテルから出てミニワゴン車に乗り込んでコンサート会場に出発する様子をチエは何度か再生させている。
「もう少しすると、、、見えてきます、、、、そう!!このシーン、、これです。この男です」
「う~~ん、、なるほど、、男のようだな、、、撮っているようだ、、手に持っているのはカメラのようだな、、、」
「そうです。しかも嵐の日本人スタッフからも台北のこのホテル従業員からもこの男がカメラで撮っているところを制止されていないように見えるのです。かといって周りの嵐のファンの女性たちが嵐の出入りにカメラを向けているような気配がないのです。つまりビデオカメラや携帯のカメラを嵐の動向に向ければ、関係者から阻止されることは目に見えている。少なくとも禁止されている雰囲気があるはずだと思うのです。ところがこの男はすべての人々の前で堂々とこの動画を撮っている。この男は肩肘をどこかに置いて、嵐の出入りと乗車した車の動きを撮っているように見えなくもない。これって、、、、、」
「よく見つけたな、、我々はまったく考えもしていなかった、、、チエ、大きな手柄だ。よく見つけたな、、、。この前から気づかされたけど、お前の直感のするどさと聞こえない声を聴きだす能力、それと図々しさは天下一品だな、、、」
「褒められているのか、けなされているのか私、わかりません」
「愛早苗さんのご両親には報告しておくから、明日にでも台北に飛ぶ予定にしてくれ。現場に行ってこの真相を探ってきてくれ」
「わかりました」チエも和田もケンも紅潮している。
「ケンはこの動画をもっと精密に見えるように編集してほしい。顔がわかるようになるか?」
「はい。この状態だと映っているこの男の顔がはっきりとわかるようにするのは難しいとは思いますが、取引先のオフィサーソフト社へ行って画像処理について相談してみます」
「いや、和田さん、オフィサーソフト社は早苗さんの勤務先ですよ。とすれば万が一ですけど、万が一ですけれど誰かが知っていることがあるか、あるいは関係している可能性があるかもしれないから、今のところ内密にしておいたほうがいいのではと思うんですけど?」
「チエ、お前は戦略家だな?確かにその可能性もないとは言えない。私もそうよぎったけれど、その逆を考えているのだ。あそことは昔からの取引先だ。うちとしては現在、我々のアイデアをオフィサーソフト社にソフト開発委託しているものがある。それもだいぶ進行しているようだ。そんな取引関係だからここからがうちとしては大事だと考えているんだ。そこでだ、チエお前もケンと同行して先方の如月専務や技術者と会って反応を感じてきてくれ。今回のこの早苗さんの件の情報や作業内容を内密にしておいてくれと頼んでおくんだ、いいか?そうなればどうなるか、、、、、わかるか?」
「、、、わかりました」とチエとケンは頷いてはみたもののはっきりとはわかっていない。
「静かな池にポツンと小石を投げ入れたらどうなるか見てみよう」

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1-77 動き出すlove so seeet

輝いたのは鏡でも太陽でもなくて 君だと気付いたときから
あの涙ぐむ雲のずっと上には微笑む月 Love Story またひとつ

傷ついた夢は 昨日の彼方へ
空に響け 愛の歌

思い出ずっと ずっと忘れない空 ふたりが離れていっても
こんな好きな人に 出会う季節二度とない
光ってもっと最高のLady きっとそっと想い届く
信じることがすべて Love so sweet

そこからいつも見えるようにこの手を空に向け 広がる君との思い出
あの頑なで意地っ張りな僕を変えた君の手 Love Story 歩き出す

、、、、、、、、、、、、、、、

思い出ずっと ずっと追いかけた夢 ふたりが遠くへ行っても
どんな辛い夜も くじけそうな誓いでも
笑ってもっと最後のLady きっとそっと願い届く
明けない夜はないよ Love so sweet

伝えきれない愛しさは
花になって 街に降って
どこにいても君を”ここ”に感じてる

、、、、、、、、、、、、、、

その日、チエは早起きをしてLove so sweetを口ずさみながら、片づけをしている。
探偵社の多くは浮気調査で、昨日も浮気現場をビデオ撮ることができたので一段落した。
今日は休みの日なのだ。
昨晩は家飲みで一人飲んでいたら疲れが出たのか早めに寝てしまった。
そのせいか、今朝は久しぶりに早く起きたのだ。
調査していてもどうしても結果の出ない調査もある。
嵐の歌を歌っているうちにあの愛早苗の行方不明の件が気になってくる。嵐のファンだというし。
{ そもそもなぜ、愛早苗さんは行方不明なったのか、理由がわからない。しかしどこかに理由があるはずだ。あれほど嵐のツアーを楽しみにしていて、台北、ソウル、上海のツアーを制覇するとおっしゃっていたほど。何があったというのだ。台湾の台北ではビデオを撮って親友の泉優子さんに郵送している。優子さんはたしか機械音痴なことは早苗さんは当然、知っていたから、ああいう方法で録画したものを優子さんに見せたくて送付したのだわ。律儀な早苗さんが、いまだに行方不明でなんの手がかりがない。
どこにいるの?
なぜあの日、あの動画が撮れたのだろう?
あの台北のあのホテルに泊まっていたのは偶然なのだろうか?}
歌っているうちに疑問点が次々に湧き出てくる。気になって気になって仕方がないチエだった。
{ そうだ、、、、もう一度、あのyoutubeの動画shotennokiを見てみよう } と思い立った。
youtubeの嵐が台北のホテルから出てくるシーンを見ていると画質は良くない。
{ ホテルのスタッフはカメラで嵐のメンバーがホテルから出て車に乗り込むシーンを撮っている人に対して何のサジェスチョンもしていない。
あれほど周囲に気を配りながら嵐のメンバーの行動や出入りを秘密裏にし周囲を監視している日本人スタッフやホテルマンたちが、このビデオカメラか何かを向けている人に対してあまり気にしていないように見える。不思議?何故?このカメラは隠しカメラ?それにしてもこの動画の最後のほうには現地の女性らしき人が、このビデオを撮っているカメラに向けて目線を送っているところがあってそれで終了している。ということは堂々と撮っていたということになる。しかし周りの現地にいて出入りを見ていた女性ファンたちはビデオカメラや携帯電話で嵐のこのシーンを撮っている様子がないようにも見える。もし嵐のファンが事前にカメラを嵐の出そうな出入口に向けて撮ろうとしていたらスタッフから禁止されたはずだろうことは想像できる。まさか関係者やホテルのスタッフが撮っているとは思えない。しかしなぜこの動画を撮っている人は、このホテルマンや嵐の日本人スタッフから注意されなかったの?
嵐の出入りから車に乗り込むシーンのでを至近距離で撮ることができたのはいったい誰? 、、、とすると、、、もしかして、、、、早苗さんじゃ、、、ない?}
チエは何度もshotennokiを再生しているうちにさらに疑問点が次々に浮かんできた。
チエの性格なのか打ち込むと集中する。何度も何度も再生した。
「あっ、これは、、、見えた。見えた、これだ!!、、、、、」とつい大声を出したのだった。

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1-76 例外

優子は二つ折りにした座布団を敷き、お尻の後方半分くらいを乗せ、半跏趺坐(はんかふざ)の足組をした。前方に倒していた上半身を静かに垂直方向に起こしてゆく。
腰椎下部をぐっと前に出すようにして左右に揺らしながら天と地の中に身体を安定させる。
呼吸を整える。
時間にして30分ほど日課にしている。
まだ家人は静かに寝ている。


夫の帰りは遅く、それに加えて一週間の半分くらいは出張するようになっている。
ただ自宅にいるときの夫は朝食を食べてから出かけていくというのが習慣なので、むしろそれを用意しないと大変なことになる。たとえ夫が不機嫌なままの朝を迎えても、朝食をともにして送り出すことにしている。優子は味付けには自信がある。夫はどちらかというと和食党なのでお茶や味噌汁は欠かせない。いつものようにほぼ決まった時間に夫は朝食を摂り始めるから用意しておかなければならない。そして優子は夫の世話をしながら同じようにテーブルについて食事をする。もともと会話が少ないから、食べる時間は短い。案の定、今日も新聞を読みながら純一は朝食を平らげた。
そして何事もなかったように純一は出かけていった。
優子にとって純一が会社に出かけたあとの静かな時間を心待ちにしている。優子はうむいの世話をすることで気が休まる。夫が出かけたあとの朝のテレビニュースが自然と優子の耳に入ってくる。やっと気持ちが落ち着く時間帯なのだ。
女性ニュースキャスターは親が子供を虐待しているニュースを声高にしゃべっている。CMをはさんだ後、スマトラ付近で小さな地震が続いていて大きな地震の予感をにおわせるような報道が流れ市民の不安が増しているそうだ。その次のニュースでは娘が親を毒殺しようとしたとの報道を始めている。 { 娘が自分の親を毒殺しようとするなんて } 優子は食い入るようにテレビ画面を見つめている。以前、毒入りカレー事件やトリカブトだとか、砒素だとか、、いろいろな毒薬に関する事件を耳にすることはあった。世の中には毒物がたくさんあることは優子も知っている。それにそれらを利用した世界中の毒殺事件というもの、あるいは国家によるもののほとんどが発覚しているし、それらは現代の科学技術では解剖や検視をすれば証拠が挙がってしまうものなのである。
しかしほんの限られたプロフェショナルだけが知っている。
{ 、、、、、、解剖をしても検視をしても確たる証拠がなく、つまり発覚しない、、、、、、}
それはあることが縁で知った。
優子はどちらの方向へも行くことができる。
夫、純一の仕事は軌道に乗り始めたようである。あるプロジェクトが進んでいるらしいとの調査結果をもらっている。
優子はその後の夫の浮気相手との動向を知りたいという女の部分を感じてはいた。

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1-75 野望

幼き頃から大きな病気なったことはなく健康だと思っていた純一。
しかし最近の身体の調子が何が何だかわからないでいる。いつものようになんともない状態がほとんどなのたが突然、少しずつおかしくなってくる。そしてついには立っていられずどこかに横にならないといられない。しかしある程度、短時間で何事もないようになる。{ いままでのものは何だったんだ } と思わせる。普段と同じように食欲はあるし、睡眠は少ないほうだが寝つきは悪くない。運動はほとんどしないまでもそれは昔と同じだ。だからストレスなのかなとも思える。
どちらにしてもいろんな医者に診せてもどの医者もはっきりしない返答だから始末が悪い。こんなことでくよくよしてもいられないのだ。
大理石調のバスルームから戻った奈美を見ながら、タバコに火をつけ、かすかに流れ行く紫煙の行く末を眺めていた。
{ 、、ふふふっ、、、、}純一は思い出し笑いをする。
ふぅ~っと漂うタバコの煙の跡にさらに息を吹きかけた。
大阪梅田にあるホテルオークタワーの上層階の部屋に二人はいる。
高層のこのホテルの部屋からは夜の梅田の街が180度の展望で見渡せる。
「契約が無事終わってほっとしたわ、、投資したかいがあったというものだわ、、」と奈美は街並みを眺めながら呟いた。
エアプリティ社とクリーンシェア社との「エアドウ」のプロジェクト契約は完了し、クリーンシェア社から純一のエアプリティ社の銀行口座へは高額の契約金が振り込まれた。
いよいよこの空気清浄機「エアドウ」が来月から本格的に動き出す。
するとその売り上げに応じてロイヤルティが次々と純一の会社銀行口座に入金されることになるのだ。
「お前には金はまわせられるが、、もう少し待て、、、」そう言いながら純一はシャンペングラスを一口で飲み干した。
今回の商品を開発するヒントは純一の勤めていた元の会社にあった。
技術畑の純一は空気清浄機の開発研究の主軸メンバーの予備所員として手助けをしていた。その商品開発の主軸になる研究開発所員たちが毎日、改良に改良を加えて、何度も何度も失敗しては改善し開発していく姿を横で見ながらうらやましいと思っていた、そばで見ていた純一は { こうしたらいいのになぁ } と思うことがたくさんあったが、そのエリートの開発部からは一定の距離をおいている立場の自分としては黙していた。しかし次第に会社内での派閥間の波にもまれ、上司とか同僚とかの人間関係にもうんざりしていた時期がおとずれる。
そのころ、純一は自分なりに考えたアイデアを特許庁に提出することにしたのである。お金がたくさんあるわけではないので特許手続き書類も自分で作成し特許庁に提出した。特許は提出しただけでは許可はすぐに下りない。審査請求をして数年かかったが、忘れていたころにようやく特許許可になったのだった。そのころ勤務先では「早期退職者募集」という通達が発表された。心が動いたのである。
純一はあのときの感慨深いものが脳裏をよぎっている。
しかしこのチャンスに油断は禁物である。

契約金が振り込まれ、実際に販売開始になってもそれはそれなりにいろいろな問題が起きることだろう。
もしかするとライバル会社やマスコミの密偵がうろつきまわっているかもしれない。
人間の情報漏れやいたずらなうわさは小さな会社にとって痛手になる可能性もある。
念のために東京から離れて二人、会う事にしたのはそういう意味があったのである。
純一と奈美は日にちと時間を違え新幹線で大阪に到着した。
純一はJR大阪駅から遠く離れてないオークタワーホテルに架空名で予約しておいた。
今夜と明日いっぱい楽しんで東京に戻る予定にしている。
{ 今日は充分に楽しもう }シャンペンの泡がそれぞれの喉を刺激しながら通り過ぎていく。
純一は飲み干した二つのシャンペングラスを窓際のスペースに置いた。
それぞれに四角い氷をひとつずつ入れる。
二つのシャンペングラスを両手で軽く抑え静かに回転させていく。
四角い氷がシャンペングラスのふちを冷やしながらくるくる回っている。
しばらく回転させたあと氷を捨て、ボトル二本目のシャンペンをそのグラスに注ぎ込む。
バスローブ姿の奈美を背後から抱きしめながら、シャンペングラスの一つを奈美に手渡す。
奈美はシャンペングラスをかざす。
「、、、まぁ時間が必要だ、、、、、、」と言う純一の言葉が終わらないうちに奈美の持つグラスからシャンパンがしたたり落ちた。

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1-74 パニック障害

純一はいくつかの病院で診てもらった。しかし納得がいくような返事がもらえていない。
調べてもらうといくつかの臓器の機能は年相応には弱っているらしい。ところが特に異常なところはみられないという。別の医者は「そうですねぇ、、ストレスかもしれませんねぇ、、」と言う。精神科にまわされたときは「、、、ん、、、メタボリックロームのような可能性もあるし、あるいはどちらかというとパニック障害かもしれないねぇ、、、」などと言っている。純一には聞きなれない病名で、それにその可能性と言われても純一にはピンとこない。
パニック障害というのは精神疾患の一つらしいから { 俺も精神疾患になった?そんなばかな } と言葉を失いそうになった。

それにしても検査の数値的なものは出ているのだろうから、はっきりと病名を断定してもらわないとと思う。医者自ら、首をかしげているのだ。
結局、その医者はパニック障害だろうということに落ち着いた。それには精神状態が大きく作用するという医者の説明だけでは、純一としては病の原因がわからないでいるのと同じようなものだ。
ついでに紹介を受けて心療内科にも診てもらうことになった。その結果、抗うつ剤を示しながら「この治療薬の結果が出るまでは十日から一ヶ月以上はかかりますし、しばらく様子を見て続けてください、、パニック障害は発作が生じても死ぬことはありませんから」と言ってその医者は飲み薬を出した。その後、純一は言われたとおり飲み薬を続けてはいるが、どうしても的を得ていない気がしている。
{ ほんとにこの薬を飲んでいていいのだろうか? どうせ医者にしても学術論文に出ていないような症状はそれに近い症状にあてはめて病名を考えるのだろう } と思う。
「発作が生じても死ぬことはありません」という医者の無責任のような言葉でもすがるより他はない。他に原因がわからなければストレスというのも一理あるが、当の純一はそんなことではないと感じていた。
ただ何度か襲ってくる症状への不安がさらに純一を悩ませている、、、、

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1-73 初めての異常

{ 、、、なっ、、、}純一は自分に異常を感じ始めている。

いままでにないものを感じている。
{、、どうしたんだ、、、}すでに背中と両脇に冷や汗が出始めていた。それでも自分の資料を片付けているふうを装っている。その純一にクリーンシェア社の営業担当部長の鈴木健太がづかづかと近づいてきた。
「泉社長!! やっと動き出しますね、、、感慨深いですねぇ、、時間がかかりましたものねぇ、ここまでくるのに、、社長っ、

うちの営業はみんなこのプロジェクトに期待しているんですよ。なんてったって業界初の新製品ですからね。力が入りますよ。

それにこれは、、すごい商品ですよ、、、売れますよ。絶対に」
「ありがとうございます。、、これからですよ、、、確かに製品には自信がありますし、、クオリティも実証済みです、、大いに頑張りましょう、、それでと、ごめんなさい、ちょっとまだ打合せが若林さんとありますので、、、、鈴木さんとはこんど詳しく打合せをしたいこともありますので、、、どうでしょう。そのときにでも、、、、」と努めてにこやかに応えたのである。
「わかりました、それじゃあ、楽しみにしてますよ、一杯やりながらということにしましょうよ、ねっ、社長!!」と満面に笑みを残しながら離れていった。
純一は片手をテーブルについて立っていた。背広の中の肉体には支えるために力が入っている。
すぐさま奈美に目配せをする。
近寄ってきた奈美に純一は小声で一言、話しかける。奈美は何か驚いた様子で、会議室のドアを閉めに行く。すでにこの会議室には奈美と純一だけになっていた。
戻ってきて「どうしたの?、、、、」純一に話しかけた。
「うん、、なんでもないんだが、、ちょっと最近疲れ気味でね、、、、少し休ませてくれ、、、、疲れが出ると体が、、、、、

ちょっと横になれるところはないだろうか?、、、」
「上に個室の休憩室があるから、そこに行く? 誰も来ないわよ、内側から鍵も掛けられるし」
「うん、そうしたい、、、」
純一は自分の打ち震える身をようやく動かした。重く感じる鞄を奈美に持ってもらいたかったが、そう言い出せない。奈美の肩も借りたくなかった。
自分の鞄を持ち、奈美のあとに従ってゆっくりと歩いていく。
「どのくらい歩く?」と奈美に尋ねるのがやっとだった。

「エレベーターで上がって少しだけど、、、大丈夫?、、、」奈美は顔を斜めにして見つめている。
「、、、、、」純一は返事もしたくない。
{ 苦しい、、、}次第に痛みの波が体中を襲ってきつつある。
意識ははっきりとある。{ 呼吸はできるのだが、、、、、、、何故だ }奈美の歩みの速度にもついて行けそうになかったが、純一は力を振り絞った。こんなところで倒れるわけにはいかないのだ。
奈美に案内された休憩室には幸い誰もいなかった。ソファに倒れ込んだ純一を奈美はそばで心配そうに見ている。
{ どうなったんだ?、、どうしたんだ、、、俺の体は、、 }純一は休憩室の天井を見つめた。

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1-72 異常前

その中心的な役割にあったのが社長秘書の一人、若林奈美だった。奈美は新宿にある本社で社長秘書数人の中の一人として勤務していた。
社長秘書数人はプロジェクトごとに分かれることがある。いわばプロジェクトごとのメッセンジャーであり、仲介者であり、報告者であり、あるいは推進者にもなりえる権限をもつ。このようなタイプの秘書制度をもつ会社はめずらしい。このような秘書の一人に若林奈美が選ばれたのだから、彼女の非凡な才能を社長は見出していたのかもしれない。
クリーンシェア社に持ち込んだ泉純一のエアプリティ社の機器の評価がついには担当者を通じての上層部に伝わっていく。そして社長の秘書に繋がっていくのである。その結果、純一は社長秘書の一人である若林奈美と打合せをすることになる。そこからはとんとん拍子にこのプロジェクトの話が進んでいった。
クリーンシェア社の清水社長の狙いは、もっと先にもあった。
「エアドゥ」のブランドはクリーンシェア社に帰属し販売することになる。清水としてはさらに共同開発を続け、さらにいいものを市場に提供するつもりなのである。その際、製造と技術的なアフターフォローなどはエアプリティ社が担当予定なのだが、素人目にはクリーンシェア社が開発し販売しているように見える。販売を最も重視しているのが清水だった。
世の方向性は「きれい、気持ちいい、かっこいい」である。それに健康的で危険なウィルスをも焼き尽くすことになれば消費者の欲求度が高くなる。この市場そのものの広がりはさらに大きいと清水はみているのだ。
今日行われているクリーンシェア社でのミーティングには部長クラスの人間が数人出席している。もちろん若林奈美も出席している。
ミーティングでの純一の技術的な話は予定の一時間ほどで終わった。あとは顧客に対するアフターフォローのための拠点網についてだから話は比較的簡単だった。予定より早く今日のミーティングは終わり、出席していた人たちが次々にこの会議室から出て行こうとしている。その中の一人、営業担当部長の鈴木健太が純一のところに駆け寄ってきた。
、、、、、だが、、、そのとき純一に異変が生じつつあった。

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1-71 戦略

泉純一と浮気相手である若林奈美はクリーンシェア社で繋がっていたことが判明した。
「二人の幸せ研究所」では平行して純一の銀行関連についての割り出し調査も行おうとしている。
調べていくと純一の仕事についてはあるプロジェクトが進んでいた。
純一が経営するエアプリティ社と清掃関係の中堅会社のクリーンシェア社との契約の期日が迫っていることがわかってきたのだ。
最近の純一はそのプロジェクトについての技術的なアフターフォローをどうするかというミーティングのためにクリーンシェア社に呼ばれることが多いらしい。エアプリティ社が技術的な提案をし、クリーンシェア社が世に送り出す新製品「エアドゥ」は確かに画期的な商品らしい。
いままでの空気清浄機の多くは空気の汚れを集塵するためにフィルターを使う。しかしこの新製品はフィルターを使用せず、空気の汚れを電子エネルギーで焼き尽くして小さくなってしまうから基本的に長期間の集塵をする必要がない。重要なことは、室内の空気の汚れを取り去る清浄効果であるが、いままでの大手電器会社の販売しているものよりも数段あることが実証済みだった。そのクオリティだけでなく、埃だけでなくホルムアルデヒドなど多種の有害物質及び外部からのウィルスまで除去する能力が高いことが特徴だった。さらに発生するマイナスイオンは癒しの効果を醸し出し、肌に最適な湿度コントロールすることが可能だった。女性の間で話題になることだろう。換気機能も設置可能なのである。従来機器より最も小さく駆動部分がないかあるいは小さいので電気代が数分の一になり、フィルターの交換も要らないのでランニングコストが大幅に安くなる。そんないいことずくめの「エアドゥ」だから、価格も安く設定できるので特に家計を牛耳る主婦層や独身女性をターゲットにする商品になるという。この製品が市場に出れば、いままでの市場を席捲することになるだろうとエアプリティ社の社長である純一は自信満々だった。市場を席捲すれば、販売量が多くなり製造コストをさらに安くすることができるのだ。追随してくるであろうライバル会社を蹴落とすことができるプランだった。
純一の狙いはこれだけではなく、このプロジェクトを足がかりにしてエアプリティ社を大きく飛躍させることにあった。
{ 俺は織田信長になる。絶対に成功してみせる }純一はクリーンシェア社の担当者との会議を重ねるたびに自信を得ていた。
自分の会社はまだまだ小さい。しかし特許をもった技術力がある。それに比べればクリーンシェア社はこれからの企業であり販売力があるがこと空気清浄機については素人同然なのだ。
{ 名声などどうでもいい、実質をとればいいんだ } と純一は思った。
思い起こせば純一がクリーンシェア社にこのプロジェクトの提携を持ちかけるまでにはそれ相応の時間がかかったし、資金も必要だった。やはり技術的な裏づけがないならば、門前払いになる話なのである。時間をかけ何度も何度も試作品を作っては壊し、壊しては改良し、テストを繰り返しながら、やっとここまで辿り着いたのだ。もしかすると最初、対応してくれたクリーンシェア社の担当者が空気清浄機について素人だったからよかったのかもしれない。その後にも何度も持ち込まれてくるたびにその機能や効果がさらに向上し、その実証を見せつけられればクリーンシェア社は純一の話になびくほかはないのだ。純一の技術的なデーターの提示と実証の繰り返しの結果、クリーンシェア社の社長である清水を動かすまでになった。小さいエアプリティ社を経営する泉純一社長の野望、そして大手に上り詰めようとするクリーンシェア社の清水社長の考える世界戦略が合致したのだ。
そして、、、、そのかみ合わせとして重要な役割をした者が、、いた、 、、、、、

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1-70 生き物の怖さ


その日、探偵社「二つの幸せ研究所」の和田は依頼者の泉優子に二回目の調査結果について説明している。
夫の泉純一の浮気相手は若林奈美という。どこかしらエクゾチックな顔だちの27歳である。東京都中野区に一人住まいだった。勤め先は日本で有数の清掃関係の会社でクリーンシェア社という。この会社は全国に営業所がある。本社は新宿にあり、その本社で若林奈美は勤めていることも判明した。
結果説明を終えた後にうつむき加減の優子は
「、、実は夫からの生活費が少なくなってきたのです」
「えっ、生活費は奥さんが管理されているんじゃないんですか?」
「いえ、夫が以前、大阪で会社勤務をしていたときは夫の口座に会社から給料が振り込まれていましたが私が管理をしていました。でも今では夫が、会社を東京で起こした後は自分で管理するようになったんです。毎月の生活費は貰っているんですが、その額が以前より少なくなっているのです」
「ほう、、、で、そのご主人の管理するお金がどうなっているかを知りたいということですね?」
「はい、以前は私が通帳も管理していたんですが、いつの頃からか夫は自分で管理するようになりました。それに以前より秘密主義になったみたいで、、」
「わかりました、ご依頼のとおりこの若林奈美という女性については調査続行中ですが、その銀行関係の割り出しも可能な限りですがやってみましょう」
「お願いします」とほっとしたような印象の優子だった。
しばらくぶりに見る依頼者の泉優子は心なしか、以前より痩せたようである。着ている洋服も黒を基調とした上下だったせいなのかもしれない。品のよさと凛とした雰囲気はあるもののなんとなく元気がないように感じられた。もちろん夫の浮気のせいで大変な気苦労があるのだろう。
夫婦となって東京に住んで娘も生まれている。しかし夫に女ができたのである。
優子が探偵社を去ったあと「少し痩せられたみたいですね」とスタッフのチエは言い出した。
「そうだね、、、」
「浮気をされる側はかわいそう、、、、哀しみと怒りが込み上げてくるんだわ」
「でも泉さんはなんとなくそれを感じさせない人だね、、、、」
「、、、女の微妙な気持って、、そう簡単じゃないはずですよ、、、、私の友だちなんか大変だったんだから、、、、」とチエは声を落として言った。
「、、、ふ~ん、、、女の微妙な気持ちね、、、男もそうだしね。それはそうだろうなぁ、、、でも、もし女の人がいつか離婚というふうに決めたら、そのときからスパッと気持ちを切り替えられるんだろう?」
「そりゃあ、そうですね。そこまでいったらね、、そういう人もいるけれどそれまでが大変ですよ、、、、、諦めたら早いと思いますけれど、それまでがね、そりゃあ大変、、、それに女は怖い生き物なんですよ、、、男にはわからないかもしれません、、、、」
「、、、怖い生き物、、、女は囲い込みの感性をもっているしね、、、」
「、、、囲い込みの感性?」
「うん、、母性からなんだろうけどね、、、女の人は自分の持つバッグ類が好きだろう?、、、その中にいろんな物を入れて持ち歩いているだろう ? それにいろんなバッグや袋をいくつもほしがる、、、あれはおそらく子供をもつ女としての感性がそうさせているような気がするよ、、何かのときのためにいろんなものを手元に用意をしておきたいという意識なんだろうね、、、昔は食べ物とか飲み物とか、、、とにかく必要なものをね、、、、、用心深い女の人ほどいくつもバッグをほしがると思うよ、、、、中身も自然と多くなる、、、だから、持っているバッグや中身を見ればその人の性格さえわかるというしね、、、でもそれに対して男はねぇ、、、、外で動きまわるのには身軽なのがいいから、持つとしても荷物を最小限にしたくなる、、、、、まぁ、その点から言えば持ち物を見ればその男の性格も推定できるということでけどね、、、それに女の人は自分が生んだ子を必死で守ろうとする、、、家を守ろうとするだろうし持ち物を大事にする、、、その延長線上として持ち物を入れるバッグについても神経をつかうのだろうね、、まぁ、チエみたいな例外はあるけどね」
「まぁ、失礼だわ、、、私も女ですっ!それにしても、、、」
「いや、、、まぁ、でも男はあれだな、、どちらかというと男のほうが未練がましい気がするね。別れたあとはいつまでもグスグスしてるのは男だし、思い出しては悔やんでしまう、、、、」
「、、それは失恋したときの男の人の話でしょ?、、、、別れを言い出されたほうが未練が残るっていうのは男も女も同じと思うけど、、、言い出されたほうが女の場合は、、、、そうね、、、それはそれは大変ですよ、、、誰かに奪い取られたと思うかもしれないし、、、、それでなくても、、、女の執着って怖いものがありますよ、、、まぁ、、、、別れを決めてしまったら、女は次のことを考えてますけどね、、、、」
「なるほどね、、、」
「ストーカーの方が女としては怖いわ」
「、、、、、、女のストーカーも増えるかもね、、、」
「トンチンカンなお話しね?、、、でそんなことより、、、それより、さつきの優子さんは、、、、?」
「うん、、、もう引き返せないだろうし、離婚を考えているという話だったね」
「なんか優子さんホントかわいそうになっちゃつたわ、、少しやつれていらしたし、、、まったく男ってどうしようもないわ、、、最後はお金の話で落ち着くのでしょうけれど、、、、、ねぇ、思うんですけど裁判所でのあんな離婚相場の金額じゃ、割に合わないと思いますよ。女を馬鹿にしている金額だわ、、、女がいくら強くなったと言ったって、まだまだ社会的に弱い立場なんですからね。うちがやる以上、相手側からその何倍はとらなくちゃあ、、、、、財産分与、慰謝料、子供がいれば養育費なんか、、、、ほとんどの人が通り相場の金額かそれ以下で泣き寝入りしているんだから、、、、、ホントはそんなものじゃあ、気持ちがすまないはずよ、、、、、、裏切られたほうとしては、、、、それにいままでの無駄にした時間は取り戻せないのですもの、、、、男は歳をとってもいいかもしれないけど、、、女は旬というもんがあるんです」

「そうだね。離婚時に落ち着く金額は確かに安く感じるかもしれないね。特に年を取るほど身につまされる。残された側が女性で子供もいたら、裁判所が提示した金額に双方が納得したとしてもその後に毎月の安定したお金が入ってくるかはわからないこともある。都合ができて相手が支払われないことも起こりえるしね。逆に残された側が男の場合は違った意味で苦しむよね。どちらにしても今までのやり方では弱い。だからうちとしてはうちのやり方を依頼者には提案しているんだ。甘く見ていた相手側は高く払うことになるだろう。まぁ必要以外は裁判所も弁護士も通す必要もないだろうしね、、、」

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1-69 seveearth 

「seveearth」という会の要旨内容はこうである。
魂は現世及び霊界を通じて永遠に生きて紆余曲折はあるものの成長を続ける。
霊界は魂の故郷である。
人は魂 ( 心 ) の成長のためにこの世に生まれ、この世では死するまで肉体を活用し修行をしている。
人類の有史以来、偉大な人たちは人の苦しみを救うために陰に陽に行動している。
しかし偉大な人物に気づくことは少ないものである。一例としてキリストは結果的に磔にされた。しかしその偉大さに気づいていた少数の人たちによって、キリストの意志や真意などを伝えようと現代まで引き継がれている。しかし時代を経る中でその偉大さを悪用したりする者も出てくる。まるで自分たちが仏陀やキリストなどの精神を引き継いでいるかのように見せかけている者や組織もあることだろう。また古いしきたりからの束縛や弊害が多くの苦しむ人たちを生み出していることが世界にいくつかあることだろう。
世には、さまざまな高い志を持つ者もいるし、ゆがめた生活しながら死んでしまう人もいる。あるいは悪意を持って、自己欲のために他人を引きずり降ろそうと狙っている人もいることだろう。しかしすべての人間は長い目で見れば、いつしか気づきを得て善を志向するようになる。しかし気の遠くなるような長いときが必要になるだろう。また一人、敢然として誰にも知られずに黙々と貢献している人たちもいる。
この会では力を合わせ、自分たちでできることで貢献したいというのが会の要旨である。
しかし行動が大きくなればなるほど、それに対して摩擦や対抗する力が働くことだろう。
「seveearth」では、サムライの志を学びながら力を溜めておく必要がある。会のメンバーはそれぞれの得意を生かして成長することが大事なのだった。
優子は心と体の作用。自然の物を活用する研究を担当。織江は資金や投資担当。および個人が生まれてから老後に独り身になっても不安のない生活資金の維持管理及び死ぬ前後までどう活用するかの研究。詩は未来における人工知能開発などの担当。龍は病の新しい治療研究の担当。ドイツにて研究している。早苗はソフトウェア開発担当。
たとえばリーダー格の優子は心の変化が肉体にどう及ぼすか、および武士道の研究を続けている。それらは龍の人体の極小生命体の研究にも関わることでもあり、それに合わせて早苗や詩の将来のコンピューターやソフトウェアなどの技術を開発していけば、思いもよらぬ発展の可能性を秘めているである。

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1-68 日本人の志

優子は大学時代、仲良しの女性5人で「seveearth」いう会を作った。
この5人は日本の幕末明治時代に活躍した偉人たちのことが大好だった。話をしているうちに武士の志にちなんだ会を作ろうということになったのである。1853年、横須賀、浦賀沖に来航したアメリカのペリー艦隊四隻の黒船が来航したときの幕府側の右往左往する対応に「太平のねむけをさます上喜撰 (蒸気船) たった四はいで夜もねられず」とお茶の上喜撰になぞらえて庶民は風刺狂歌を作り巷に情報を流したのである。しかし志あるサムライたちは風刺や評論をするだけでなく行動を起こす。その行動したサムライの多くは、もともと下級武士だった。土佐藩 (高知県) 出身の坂本龍馬にしてもそうだった。実家が、下級武士だったが比較的、裕福だったので何事もなければ大過なく一生を終えたはずである。しかし当時の日本が外国からの脅威を受けていると感じた彼は自分や家族のことでもないのに黙って見逃すことはできなかった。故郷を捨て脱藩という罪を犯してまで、日本の危機を救いたいという志を立てて京や江戸に上ったのである。坂本龍馬、西郷隆盛、吉田松陰、勝海舟、山岡鉄舟など、のちに有名になった人たちだけでなく無名な庶民までが尊王という大義に命を懸けていたのである。それほど日本の「王」というものが、庶民にまで尊ばれた歴史はめずらしい。当時の日本を訪れた外国人が書き記した文章を読むと、日本人の多くが豊かな表現力を持ち、道徳性が高いことに驚いているさまが感じらる。それは日本の歴史の中で培われてきたものであり、連綿として現代人に引き継がれている。現代でももし何か危急のことがあればこの日本独特の精神性が立ち上がることだろう。
優子たち5人はこの日本人の志や独特の精神世界である武士道について調べていくほどに興味が尽きなかった。武士とは闘う専門集団だと考えている人がいるが、確かに義を重んじて戦うときには勇敢に戦うものの、勝利したとしても敗者に対しておごり高ぶることはない。武士の武というのは字のごとく戦いを止めると書く。平和を守ろうとする。
「seveearth」という会のメンバーは、そのようなサムライの志を愛した。会としてはそれぞれの特技や才能や経験を活かし、将来に向けて日本だけではなく世界に向けて貢献できるものにしようと考えている。やりがいがあるもの、生きがいのあるもの、幸せの追求といってもいい。心と体と社会の研究をする。その研究を通じて人々に喜んでもらえることをする。となればお金、起業、健康、病、老後、生きがいなどに新しい事を起こす。
それには知識も経験も資金も創る必要がある。資金的には在学時にアルバイトをして貯めた1人2万円合計10万円を元手にさまざまな形で投資することにした。学生の身だから、アルバイトぐらいでは時給のお金はたかが知れていた。その貯めた10万円を投資にまわした。半年ほどは全く増えなかったが、5人で知恵を出し合い次第に手法のコツを覚え、今では会の資金としてゆうに数千万円にはなっていて紆余曲折はあるものの増え続けている。テーマの分野に5人の知恵を働かせる。その中から最も得意とする人からコツを見つけ教えてもらえば皆が応用できるのである。万が一自分たちの誰かが危急になった場合には他のメンバーが助けることもできるし、会の資金の最大20%は各自、自由に使えることとした。例えば1億円があれば2000万円までは自由に使えるのだ。
彼女たちは大学を卒業しそれぞれの仕事に就いて経験を積んでいる。それぞれの研究を重ねては情報交流をしていたのである。
seveearthメンバーの代表格は優子 (頭文字としてY)で主婦 。織江 (O) は投資関係を研究し会の資金を増やしている。詩 (U) は人口知能 (AI) 関係会社勤務。龍 (R) は医療関係、ドイツにて研究を続けている。早苗 (S) はソフトウェア関係会社勤務。それぞれの名前の頭文字をとってYOURSと言っていた。
つまりseveearthの主要メンバーはYOURSで成り立っていた。
ところが、メンバーSの早苗が行方不明になってしまった。
当然、早苗のことは他の4人のメンバーたちも早苗のことを心配しており、優子は4人のメンバーに連絡したのである。

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1-67 老後


人は身体のそこここが思うようにならないようになると歳を重ねていると気づくものである。
自分たち夫婦が若いころ・・・・それは戦後復興期の経済は右肩上がりの波が続いた。
君江は君江なりに夫の経営する印刷会社の仕事を手伝い、家族の世話もして二人の子供を育ててきた。
しかし二度のオイルショック以降はそれなりの頑張りがなければ生き残れないと君江でさえ感じていた。経済の波や取引先の倒産などさまざまな問題が聞こえてくる。
バブル前後のときは土地の買収を仕掛けられたり、さまざまな経験もしてきた。
「苦労、苦労はなにいとわねど苦労しがいのあるように」という川柳を思い出す。
時代は変わっても人間の願いは変わらない。やはりお金は生活の大前提となる。
子供たちにはそんなお金の気苦労をなるべく見せないようにしてきたつもりだった。
嫁に行った優子とその夫の純一は、結婚当初は実家がある大阪に姑と住んでいたが、東京で独立する時期には孫のゆむいは東京で生まれ、今はもう3才になっている。
純一の会社「エアプリティ」も独立して3年くらいになる。創業ということで当初、資金繰りも大変で、義三に創業資金の一部を借りたこともあってほそぼそと経営を続けていたが、最近は景気のいい話が進んでいるように聞いている。もし純一が言うように東京本社だけでなく全国に支店を作れるようになるのならたいしたものだと思う。ただその場合は優子たちは姑の住んでいる大阪の実家へ再び戻ることになるかもしれない。
東京で生活している娘夫婦にはできるだけのことはしてやりたいと義三と君江は話をすることがある。会社が伸び盛りならばまだいいが、いいことばかりが経営ではないということは夫の義三が日頃から言っていたのだった。
君江にとっては年相応の痛みなどはあるが大病になっていない。夫の義三は神経質なこともあるが、なにかあれば医者に駆けつけいくつかの薬をもらい飲んでいる。

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1-66 家族の問題

今日の夕食は君江と光男とゆむいは同じテーブルで食事をした。
二人は初めてではないのにまるでめずらしいものを見るような様子だったし、意識しているせいかちらちらと互いをうかがう感じが君江にはおかしかった。
光男は日頃から用事がなければ君江たちに話かけようとはしないから { たまにはこんな刺激が光男には必要なんだわ } と君江は思う。
しかし夕食を済ませた光男のそそくさと自分の部屋に戻って行く姿を見て { 相変わらずだねぇ } と君江はあきらめぎみである。
おとなしすぎる孫のゆむい。ひっそりと自分の部屋に引きこもっている息子の光男。調子が悪くて臥せぎみの夫の義三。嫁いでいった優子。考えてみれば誰一人として君江の話し相手になってくれる者はいないらしい。 { それでも私の話し相手になるのはせいぜい優子ぐらいかしら。結婚しても娘は娘、それに女同士だし、、、、 } と君江は思う。
久しぶりにうむいとお風呂に入ってみると、いまさらながら家族というものの絆を感じることができた。お風呂でのうむいはおとなしいのだが、今日は機嫌がいいのを感じる。ゆむいなりにはしゃいでいる様子に思わず君江は微笑んだ。つぶらな瞳でまれに見るかわいい子なのである。君江は生命のほとばしるようなゆむいに触れることで、自分が歳をとったことにも気づかされるし忘れもできる。思わず微笑みながら{ まるで自分だけは歳をとらないとでも思っていたのかしら?自分もうむいと同じように幼い時代があった。青春の一瞬の回帰とともに今の君江は不思議さを感じている。しかしこうしてゆむいとじゃれあっている自分がまるで小娘のように浮き立つ気持ちを覚えるのはなぜだろう?女同士だからだろうか? 生命をいとおしむかのようにゆむいに微笑みかける君江だった。
{ しかしそれにしてもこんな子はみたことがないわ } とゆむいの様子を見て、何となく普通の幼い子とは違うものを感じている。ゆむいに話しかけてもほとんど応答はしないが、君江のしゃべっている意味をゆむいはほとんど理解しているのがわかる。 { それにしてもなんてかわいい子だろう } と微笑みかける君江だった。
今夜の君江はうむいと一緒のベッドで寝ることを楽しみにしている。
この間、うむいを泊まらせた晩に、うむいの寝顔を見て君江は驚いた。その目じりには薄く涙の後のようなものがあったように思えた。そのときの驚きと夢でも見て涙したのかとも思った。
いまだに何故なのかはわからなかった。
うむいを寝かせたあの部屋は結婚前、優子が使っていたもので、今晩もそこで寝るようにしてある。
隣の部屋では義三がいつものように本を読んでいるのだろう。
いつもは深夜まで読んでいて、いつのまにか眠ってしまう習慣なのだ。
何かあれば呼び鈴があるし、新しい水差しも置いてきた。習慣的に水差しと本は欠かせないのだ。
別の部屋では光男がまだコンピューターと遊んでいるのだろう。
さっきお茶を持っていったとき、相変わらずパソコンとにらめっこしていた。
光男に話しかけてもありきたりの返答である。
光男は25才にもなっても将来が見えないらしい。
{ 私たちに何かあったらどうやって生活していくのだろう? } と君江は心配する。
優子は片付いたけれども光男だけが、社会から一人、取り残されているように見える。
{ 何を考えているのだろう? いったいどうしたらいいというのだろう? }
小さいときは普通の元気のいい子だったのだが、中学校のころから寡黙になっていったように思う。光男をかわいいと思って甘やかしていた私たちが悪かったのかもしれない。
夫の義三も仕事にかまけて光男の相談には乗ってくれなかった。
いつしか光男は高校に行かなくなってしまったときだけ、少し揉めただけ。
義三は「高校に行かなくても家業を継いでくれるのならいいんだよ」と言っていた。しかし君江は光男のお尻を叩いて高校を卒業させ、大学にまで行かせることにしたのである。たとえ大学は三流にしても社会の中で揉ませることが必要だと思ったのだ。
そういう流れを敷いてやれば、いろいろなことを経験せざるをえないはずだし、外に出るようになれば何かの機会にめぐりあうとも限らないのだ。
そんな考えで君江は光男をなるべく外に出るように仕向けていった。
ところが光男はいつのまにか大学そっちのけで趣味のパソコンに没頭するようになったのである。光男はパソコンでゲームをしたり、インターネットを見ることが好きらしい。そういう時代なのだろうが、部屋の中で引きこもっている光男に何かしら不安を感じる君江だった。
そこで光男に対してパソコンをする条件に大学に定期的に通うことと外でバイトをする約束をさせたのである。光男の大学のほうはパソコンと関係することがあるのか、ときどき通ってはいた。しかしバイトのほうは怪しかった。
{ いまどきの若い人はこうなのかしら? }
しばらくすると光男は黙ってバイトを辞めてきて、いつのまにか部屋に引きこもっているのだ。そうこうするうちにこんな光男でも大学を卒業できたのである、、、
やっぱり一流ではなかった。卒業しても就職活動をしたようには思えない。
ただテレビで見るような家庭内暴力になっていないのがせめてもの救いなのだが、、、、
光男がどのように自分の将来を考えているのかわからない、、、、。

どこの家庭でもそれなりに苦労はあるだろうが、君江もなかなか家族の不安が解消されないし、いまだ解決の糸口が見つからないのだ。そのうち私だってさらに体が弱っていくことだろう、、、

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1-65波打つ生命力


昨晩、娘の優子が孫のゆむいを「一晩、預かってね」連れてきた。
{ 見た目には普通に見えるんだけど、、、 }とゆむいの様子を見て君江は思う。
夕食を終え、ゆむいは窓際にある鉢植えの花々のそばで絵本を見ている。
{ やっぱり女の子だねぇ、 }ゆむいを横目で見ながら、君江は薬と水をお盆に載せて立った。
隣の部屋のドアを開けるとベッドの中で夫の義三が目をつぶって横になっている。
天井の明かりは消してある。枕辺のスタンドはつけたままだから、眠りに入ろうとはしていないのだろう。
「さあ、お薬よ。」と君江はやさしく声をかけた。君江はベッドテーブルを引き寄せて、そのお盆を載せる。ベッドの中の義三は薄目を開けながら、君江に反応する。「今日はどう、おいしくなかったの?」と君江は明るい声で話しかける。
義三は自分で創業した印刷会社を廃業してしまった。その後、読書や書道のほかにこれといった趣味がないので自宅からあまり外に出ない。義三はもともと口数の少ないほうであったが、年とともにさらに少なくなった。それでもわがままぶりは昔より強くなった気がする。夫が働いているうちは自宅に帰るのは毎日遅かったが、今は違う。働いていてくれているときには「亭主元気で留守がいい」とばかりにふざけているときもあったが、朝からあまり外に出ない夫を見ていると何かほかにも趣味を見つけてでかけてもいいのになぁと思う。
仕事を辞めてから少し、頭痛がよくあるようになってきたので近くの医者に診てもらった。
医者の言うには「いつもより血圧が高めになっているのでもう少し強めのお薬を出しておきましょう。様子を見てください」とのことだった。義三は心配性なのか医者の言うままにいつくかの薬を飲んでいる。
妻の君江も年を感じ始めている。お互いに年なのだろうと思う。昔からあった首や肩のこりがよりひどくなってきたようにも感じている。元気のいい若いときはあっという間に過ぎ去ってしまう。若い頃は親を見て年をとるってこんなものかなぁと思っていた自分が、あっという間にもうこんな年代になってしまっていることに驚く。年をとっていけばそれなりに精神的に成長をするものだろう思っていたのだが、若いころに比べてもあまり変化がないように思うのは不思議な気がする君江だった。
そんな君江に若い頃に口ずさんでいた歌がテレビから聞こえてくる。テレビでリバイバルされているうちはまだ自分たちのような視聴者が少なからず世間にいるということになるのだろうが、それも年々少なくなることだろう。しかし若くても老年でも年を重ねるのは変わらないのだから、これからも楽しみというものを少しでも見つけていかなくちゃあと思う。身体が動くうちは「旅行でもしたいわね」と義三に明るく話しかけることがある。今日もそんな話しかけをしてみたのだが、義三はそのことには返事はせず「光男は?、、」と25歳になる息子の名前を言う。
「相変わらず、なかなか自分の部屋から出ませんよ。パソコンでしょ、、、」
「、、どうしたもんかなぁ、、、、」と義三は呟いた。
「はい、どうぞ、はい、、、」君江は義三に水の入ったグラスを渡している。素直に薬を飲み終わった後、夫は「テレビを点けろ」とばかり目で合図をして{ さらにわがままになったのかなぁ、、} と君江は思う。そばのリモコンをとり、スイッチをオンにして夫に渡す。夫はリモコンを受け取り、テレビのほうに顔を向けようとしたとき、君江の後方に立っているゆむいに気づいた。「あら、ゆむいちゃん」君江はゆむいを見て声をかけた。
ゆむいは義三のほうをじっと見ている。「こっちおいで」と君江が促してもゆむいはじっと
見つめたままである。義三もじっとゆむいのことを見つめている。君江はゆむいを抱きかかえるようにして義三のそばに寄せた。
「ゆむいはいつ来たんだ?」と義三はゆむいに話しかける。そして腕を差し出しながら、ゆむいの腕に触れようとする。ゆむいは不思議と尻込みをしなかった。しかしいつもの無感動的な表情は変わらない。義三は左手でゆむいの左手をゆっくりとさすりはじめる。さすっている夫の義三の表情がみるみる明るく変わっていく。
そして上半身をさらに起こしながら、ゆむいの腕から頭に触れようとする。その刹那、ゆむいはさっと尻込みした。「おっ、」と義三は小さく呟く。
「大丈夫よ」君江は優しい声とともにゆむいを後ろから抱きしめる。
君江は小さな体の微妙な振動を感じている。
ゆむいの波打つ生命力をいつまでも感じていたいと思った。

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1-64 交渉の結果 

「ルルルルルルル、、、ルルルルルル、、、はい、もしもし、、、あぁ、、そう、、、そうわかった。それでケンちゃんはどっちがいい? 今日、泊まるところなんだけど温泉じゃなくてもいい?
 あ、そう、わかった。お任せでいいの? うん、わかった、、、所長、ケンちゃん、もうそこまで来ているそうです、、、、それにまた所長の携帯、鳴らしても出てくれないってケンちゃんブウブウ言ってますよ」
「あれっ、、、そう、、、、」和田はチエとその女主人もから少し離れるようにしてケンに電話をかける。
「それで私たち会社で泊まることになりますので領収書は出して貰えますよね?」
とチエは再び女主人に尋ねている。
「はい、領収書はもちろん大丈夫です。 、、、、」
「どうします?、、、お値段のほう?、、」
「わかりました。もう遅いですし、、、じゃあ特別ですよ、、4500円朝食付きでいいですよ」
とあきらめぎみの顔である。
「そうですか、わかりました。 所長、それじゃあ、今後のこともあるしここに決めますか?
気に入ったわ、、、ここ、、」
{「今後のこと」って?}と思いながらも「あぁ、いいよ」と私は歩調を合わせるようにした。
「それじゃあ、ここに決めます。朝食つき、税金その他込々で4500円」とチエは勢いがよい。
「へっ、、税金もろもろ込み?」と女主人は顔が少しゆがむ。
「もちろんです。いまはそうなっているでしょう? 価格表示って」
「、、、、いやぁ、恐れ入りました。お嬢さんにはかないません、、、 
もうしようがないですよねぇ、、、、、」と女主人はそう言いながら私に悲しそうな顔を向けた。
{ なんと言っていいかわからない }私は黙って見つめあうことぐらいしかできない。
するとチエは「駐車場はありますよね」とさらにたたみみかける。
「大丈夫です、、、、大丈夫です。空いているところにどうぞ入れてください、、 
ここに鍵、置いておきますから、どうぞご自由にお使いください」
と言いながら女主人は、私に三つの鍵を渡し、逃げるようにして階段に向かう。
そして聞こえるような聞こえないような声でぶつぶつと呟きながら、階段を下りていってしまった。
チェックインするときは普通、宿泊の受付カードか何かに泊まる人の名前とか住所とかを書かなければならないけれど、、、この後、あの女ご主人は何も言ってくれないし、それでいいのかな?
まぁ、これほど印象に残ればそれも必要ないのかもしれない。
「所長、どこの部屋がいいですか?」
「この部屋でいいよ」
「じゃあ、私は隣にします。2階のほうが見晴らしがいいし、、、ということはケンちゃんは1階ですね」チエは私を巻き込んで部屋割まで決めている。
車の音がする。ケンが到着したようである。チエは階下に下りて行った。
1階には誰もいないし、出てこない。
「ちょつと出ま~~す」とチエが奥のほうに声をかける。
「ふはぁ~~~~い」と奥のほうから、さっきの女主人の返事が聞こえてくる。
奥から聞こえてきたその声音は何か情けないようで勢いがまったくない、、、、、、
チエは外に出た。
ケンが車の中からにこっと笑っているように見えた。
手招きして車を誘導し、ペンションの青空駐車場に入れる。
このペンションの外の敷地内にはこじんまりとした小さな一軒家みたいな造りの露天風呂があることをケンに説明する。
「へぇ、なんか隠れ家的な露天風呂でいいですねぇ」ケンが言った。
露天風呂は自分の部屋の鍵で露天風呂のドアは出入りできるようになっていて、その入口に掛けてある札を裏返しにすれば「使用中」という表示になるのだ。内側からは鍵がかけられるようになっている。久しぶりに露天風呂に入れるかも。
「明日、対と女がペンションを出るところの証拠撮りをするが、それを二人に任せるぞ。、、、東京方面も逆方向も始発電車は5時くらいからだからな、必ず撮れ。行き先が東京だったら、それで今回は終了となる。もし何か変な動きがあったら、いつでも連絡をしてくれ、、いいな?」と任せられた二人はうなずいている。
{ 二人ともあまり眠る時間がないけど、まあ、ここはしょうがないな、、 }と思いながらケンとチエを見比べた。
チェックアウトは午前11時なのだが、対と女がいつ出発するのかわからない。
念には念を入れておかなければならないし、絶好の機会を逃してはならない。

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1-63 交渉

和田はケンに連絡をしてみることにした。
「どうだ、ケン、今どこだ?」
「ついさっき伊豆高原に着きました。そちらの場所を探しています」
「そうか、どうしてもわからなくなったら連絡くれ」
{ やっぱり、先ほどまでのケンは伊豆高原に到着していなかったのだ。チエもいい加減なものだ }そう思いながら和田はペンション「ソリエ」の左隣のペンションに向った。このペンションで対応してくれた女性に尋ねてみると部屋は空いていたが空室はツインになるという。
できればシングル的な部屋を三つほどほしい。
値段が1人13000円か、そんなものなのか?、、、。
部屋の値段を値切ろうとしてみたが、その女性は無愛想な顔で相手にしてくれなかった。
{ こんな夜中に部屋の空きを尋ねている不審人物と思われた? }
次に右隣のペンションに向って歩いているときにチエが戻ってきた。
「この後ろ側のペンションは部屋が空いているそうです」
「いくら?」
「1人朝食付き税別7000円でいいということでしたけど」
「へぇ~なんと安いじゃないか? そ、、それ、、、いいね」
「でもあそこのペンションより、目の前のペンションが立派だし、聞いてみましょうよ」
そこで、チエとともにこの右隣のペンションに入ってみることにした。
入口は小さいが凝っていて小綺麗なつくりである。中には誰もいない。
受付の呼び鈴を鳴らすとぽっちゃりとした中年の女主人らしい人が奥から出てきた。
{ 値切るのはむずかしそうだな? }
カップルと思ったのだろう、女主人はにこやかにはしている。
早速、交渉してみると値引きして1泊1人7500円朝食付きならOkとのことである。
{ チエと同伴だったから値引き交渉に応じてくれたのかな? }
と納得していたら、横からチエがひじでつつくようにして口を出してきた。
「あの~~もう少し、安くなりませんか?この近所のほら、〇〇とかいうペンションは
3人で3部屋だったら1人5000円でいいと言われたんですけど?」
「食事つきで?」
「えぇ、、ダブルとツインの部屋でしたよ、、もうそろそろ私たちどちらかに泊まるところを決めたいんです、、それでこちらではいかかでしょうか?」
チエにしたら普段より丁寧な語尾の使い方である。
チエは一見、かわいい顔でおとなしそうに見えるし、名前からして穏やかそうなのだが、、
「そうですかぁ、うちではむずかしぃですねぇ、、」
そう言いながらペンションの女性オーナー人は目をはずしながら「それに、、あそこのお風呂は「沸かし」ですけどうちは天然ですしねぇ、、、」
「私たちは明日早いし、、眠れればいいんです、、、それに実は私、、、こちらのほうが気に入ってるですけどねぇ、、」とチエが言い始めたのだ。
「お上手ですねぇ、、、、、東京から、、、それじゃあ、、思い切って同じくらいにしましょうか、、、、」
「そうですか、、、、、できれば部屋を見せてもらっていいですか?」とチエは女主人の顔を覗き込む。
{ えっ、部屋を見るの? この際どこだっていいんだけど、、、、}と和田は思った。
「どうぞ、部屋は空いていますので、、、ちょっと待っててください。」と言って、女主人は奥から鍵を取り出してきた。二階の空いている二つの部屋がそれぞれツインで一階の一つがダブルの部屋という。
三つともそれぞれ個性的な内装の小奇麗な部屋だった。
{ 天然温泉、これで5000円? 東京じゃ味わえないな }と私はほくそ笑んだ。
三部屋を見終わったチエは「さっきの部屋少し臭ったわ」とどちらに聞こえるともなく一言呟く。
「えっ、そんなことはないと思いますけど、、、、」
「、、、それにここも少しタバコの匂いがきついわ、、、あぁ、いやだ~、、、奥様、、、、、、もう少し値段、負かりませんか?」
「それはちょっと、、、、、、」と女主人はポーカーフェイスである。
「部長は温泉好きだからいいけど、私はどっちでもいいんです。今度、伊豆高原に友達みんなで来るのを計画してたから、それならやっぱり感じのいいところにしようとと思ってるのよ。
それにインターネットではすぐに広まるしね、、、」とチエはタメ口ながら部長の和田へ話しかけてくる。
{、、、、、、、}
「どうです4500円、朝食付きで? もう遅いし、、、私たちもどっちかに決めなきゃならないし、、、、、」
「4500円?、、、それはちょっと、、、」
「それに、ねぇ、部長、今回のここのお仕事一泊とは限らないんでしょう?」
「うん、それは、、、まだ、、、、、」と私は答えながら、{ 急にこちらに振られても、、、、この~~~}と言葉を選ぼうとしていたのだが、、、
そこにチエの携帯電話が鳴り出した。

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1-62 人の特殊能力

横を向いたまま応えるチエが急に大人びたように見える。
「はあ、そういう考え方もあるんだねぇ、、、チエ、ケンは今、どの辺を走っているかメールで尋ねてみてくれ」
「はい、、」チエは携帯を出して得意のメールを打ち始める。
夜の暗さの中に携帯の液晶の明るさが反射してチエの横顔が変化する。
さらに冷たくなっていく夜風がチエの髪のほつれ毛を揺らしている。
{、、怖~~い~女、、、}
チエは携帯でメールを打ち続けている。
相変わらずの早打ちをしながら呟くように言った。
「二人とも風呂からあがって着替えはじめてるみたいですよ」
「えっ」
{ 何、メールしながら、、チエには何かが聞こえてる?ということ }
和田には何も聞こえなかった。
{ どうもチエというのは普通じゃない。それとも女性というのはそういうところがあるのかぁ?
メールをしながら耳は違うところを聞いていたということか?いや、それともたまたま聞こえたのだろうか?だいいちあんな遠くだから、聞こえたとしてもかすかなはずだろう? }
和田が露天風呂のほうに向って耳をそばだててみたものの露天風呂の方から話し声や音は、まったく漏れ聞こえないのだが、、、、私の耳が悪いのかな? それとも彼女には特殊能力がある?}
すると遠くのほうで、今度はかすかであるが「ガチャッ、、ガチャツ」と音が聞こえてきた。
{ あっ、ほんとに出てきた、、、}
和田はあわててビデオカメラのスイッチを入れた。
チエは早々にメールを打ち終え、すでにビデオ撮りをしていたのである。
和田のビデオカメラの暗視液晶画面に対と女の浴衣姿が映し出された。
対と女はゆったりと夜空を見上げ、しばらく会話を交わしたあとペンションの中に入っていく。
{ それにしても彼らはどこの部屋なんだろう }
この方角からではすべての部屋は見えない。
「ケンちゃんからメールがきました」
「何て?」
「もうそろそろ着くとのことです」
「え、本当か? 着くと言うのは高速道路を降りたということだろう? この辺は林の中にある建物で番地がわからないのに近くまで来ているということか?」
「、、、、」チエからすぐに返事がない。
「近くにいるみたいです」
いつのまにか夜は更けていた。
和田は泊まる所も考えなければならないと気づいた。
「チエ、三人の部屋が空いているかどうか、どこかペンションに聞いてきてくれ。
できれば値段も交渉してみてくれ、両隣のペンションに聞いてみるから」
「行ってきます」と言ってチエは対と女の泊まっているペンションに向った。
「おいおい、、チエ、あそこのペンションは今回やめておこう」
チエは後ろを振り向いて「シーッ」というジェスチャーである。
そして「さっきの設置したものを取りに行かないと、、、」とささやくように言う。
「何、、えっ、、、そうか、、、わかった、わかった、、」
{ そうそう、そうだった、、露天風呂のところに設置しておいた録音機器のことを忘れていた }。
設置した機器が、誰かに見つかるはずもないだろうが、用が済んだものは早めに回収しておくほうがいいに決まっている。
どちらにしても対と女が露天風呂で、いちゃついたようなものだろうから、そんな趣味もないし、せいぜい参考程度と思っていた。浮気の証拠であればいままでに取り終えた動画だけで充分だからだ。

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1-61 死んでもらいます。

浴衣に着替えた二人が下駄の歯を敷いてある砂利をぎしり、ぎしりときしませながら、ペンション「ソリエ」の出入り口から出てきた。 
「おい、あれは対と女だぞ。 どうだ、そうだろ?」 
「あ~、そうです、そうです」 
和田は早速ビデオカメラを構える。隣のチエも遅ればせながら同様にそのスイッチを入れている。
対と女は露天風呂までをゆっくりと歩いたあとその扉の鍵を対が開ける間、女は空を見上げながら黙って待っている。 
まわりは暗いが絶好のビデオチャンスだ。大事な証拠のひとつになる。 
女は露天風呂の前で「きれい、きれい、」夜空を見上げ唐突に叫びながら、対の肩に手を回したのだが、対はそれに返答もせず誘うように露天風呂へと女を促した。
露天風呂は屋根は設置してあるものの、その屋根の四方から夜空がのぞけるような形であった。
形のはっきりとした星々がまばらに広がり都会にない夜空を醸し出している。
星空と露天風呂、そしてかすかに舞い上がる風が肌をよぎる。
薄暗い灯りと夜空から漏れてくる光が二つの裸体を柔らかく反射しその影をなまめかしくする。かすかに草ぶきの香りを含んだ立ち上る湯煙は重なり合いながら舞い、踊るようにして上昇していく。
足音を忍ばせてその露天風呂の建物近くまで行ってみることにした。
聞こえる、聞こえる、比較的はっきりと対と女の話声が聞こえてくる。
{ いちゃついている、、、}この露天風呂の建物自体が密閉されていないのがわかる。
まわりが静かすぎるから、露天風呂内の二人の会話が外に筒抜けなのだ。
和田はチエのところに戻って、録音の指示をする。
「周りに注意しろよ」暗黙の指示をする。
チエはうなずいて、機材を設置しに向かった。
元の張り込み位置に戻ると「かなりいちゃついていましたね、、うまく音、録れそうです」とチエは言う。
「気分も開放的なんだろうな、酒もだいぶ入っているし」
「あんないちゃついているのを依頼者が聴きかれたら大変ですよね、、それに、、、、、
ねえ、あとでゆっくりHしょうね、、、、うふふっ、あっ、いやだー」な~んて女のほうが言ってましたよ。
確かに周りが静かなので、意外と聞こえるのである。
「まったく、、、」
チエのなぜか生き生きした表情に見えた。
澄み渡る気の中で夜空の輝きを仰ぎ見ていると、「さっき背中の流しっこしていたようですよ」とチエは小さい声で言う。
「まったくなぁ、、いい気なもんだなぁ、しかも平日だしなぁ、
対は家を出るとき、奥さんに何て言ってきたんだろう?」
「そうですよね、、いやぁ~ねぇ、、」
「お前ならどうする? 夫の浮気を知ったら」
「死んでもらいます」
「えっ? 何?」
「え、、私が妻なら許しませんから」
「死んでもらいます?、、って言わなかった?」
「はぁ、言いましたけど」
「どういうこと?」
「自分でするのは嫌ですから」

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1-60 半月

1-60 夜空のたもと
遠く前方に停車しているタクシーのほうからそのエンジン音の強弱が伝わってくる。
{ あのタクシーはユーターンをしているのだろう。ということは対と女はそのタクシーから降りたはず }
やがて前方のタクシーがこちらに向かってくるのが見える。
「運転者さん、そろそろエンジンをかけてください」
運転手は止めていたエンジンを再始動させる。
和田は完全に閉めずにしておいた車のドアをバタンと閉めた。
「よし、それじゃあ、そのまま動かしてください」
「はい」私たちの乗ったタクシーとユーターンして向かってくるタクシーとはこの細い道ですれ違う。
すれ違いざま見ていると確かにそのタクシーには運転手だけだった。
「運転手さん、ここでいいです」
「成功しましたかな?」と運転手は私のほうへ振り向いて微笑んだ。
「ありがとうございました、おかげさまで助かりました、、、それでね、運転手さん、相談なんですが、今の尾行のことは内緒にしてくれませんか。実はまだこれからこの調査がしばらく続きますので、噂が広まるとまずいんです。またお願いするかもしれませんので」とにこりとする。
「わかりますよ。大変ですね」
「すいませんねぇ」私はそう言いながらタクシー代金に少し加えてチップを含んだお金を握らせた。
運転手に挨拶をしてタクシーから降りた。タクシーはもと来た道へと戻っていく。
まわりは暗い林に包まれており、私は対と女が降り立ったとところに向かって歩く。
しばらく歩くと林が途切れてペンションの看板がいくつか見えてきた。
{ どこだろうな? チエは大丈夫だったかな? }
近づいていくと三軒あまりのペンションがあり、その先の一段の高みのほうに数件のペンションがあるようだった。
{ そういえば対がコンビで見ていたあの旅行雑誌に載っていたうちの一つかもしれんな、、、、、対と女が選ぶとすればどのペンションだろうか? }と思っているうちにじゃりじゃりと足音が近づいてきた。
暗がりから現れてきたのはやはりチエだった。 
「二人はチェックインを済ませました。〔ソリエ〕というペンションです」薄い紙のパンフレットをチエは差し出した。 
「怪しまれなかったか?」
「大丈夫です」
{ よしよし、、}
このペンション「ソリエ」の住所をケンに連絡することにしたのだが、不思議なことにこのパンフレットには住所の記載はあるものの番地が書いてない。  
{ こんなところにケンは来れるかなぁ、、しかも夜に、、} 
ケンが運転している車はナビゲーションが付いていない車である。 
今頃、ケンはあのおんぼろ車で高速を飛ばしてこちらに向かっている。
「急がないでいい、安全運転でこちらに来い」 
「わかりました」と元気のいい声を出してはいたが、ほんとにここがわかるかどうか、、、 
気長に待つよりほかはないだろう。{ まあ、ケンのお手並み拝見ということか、、、}
ケンが到着する前にそのペンション「ソリエ」を調べておくことにした。
行ってみると二階建ての大きなペンションである。周りは林に囲まれ、両隣にはもう少し小ぶりなペンションが建っている。周りの木々や建物の出入り口にはクリスマスでもないのに豆電球がいっぱい点じており、あでやかな感じを醸し出している。出入り口から15mほどのところに別棟で屋根つきの露天風呂がある。近づいてみると「貸し切り専用」という小さな掲示板が掛けてあり、そこに天然温泉だという証明書も掲示してある。  
夜中の0時でクローズだが毎朝7時から入浴可とのことで、今は誰も入ってない様子。 
伊豆高原の晩夏は夜風がひんやりとするくらいだから、こんなところに来れば { のんびりと露天風呂につかれれる、、、 }と誰しも思うことだろう。 
「あっ、誰か出てきました」チエが突然、囁いた。 

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