1-127 記憶 memory

「それに、、宇多田さん、、、どうして私と早苗の名前をご存じなんですか?」
「それは、、、愛さんとお話ししているうちに話の中に尾崎さんのお名前が出たので、、、、」
「そうですか?、、、」
「いえ、特別に尾崎さんのことを話していたわけではなくて、、最初は学生の頃によくこの店にいらしていた人たちのことをなつかしくお話しているうちにお名前が出たのです」
「この店の雰囲気は昔とあまり変わっていないから、店に入ると学生の頃と変わらない自分を感じたような不思議な感覚にもなりますものね」
「宇多田さんは早苗とその日、お酒を飲んだっておっしゃいましたが、早苗にしては行動的だと思いました。彼女そういう性格だったかしら?、、、ね」
「きっと宇多田さんとお話して気持ちがやわらいだのでしょうね」
「宇多田さんには失礼ないいかたかもしれないのですけど、私が早苗と会う約束をしていながら、私が急に予定が入ったので、変更してしまったのです」
「私は、愛さんが、あのテーブル席にお一人になられたので、私も懐かしくなって声をかけたのです。
お話ししているうちにこの近くの居酒屋に感じのいいところができたので、よかったらご案内しましょうかと軽い気持ちでお誘いしたのです」
「で、居酒屋で飲んでいるときにいかがでした?早苗の様子は?」
「とっても感じのいい女性だなと思いました。
初めてお話しするのに、私の愚痴話もよく聞いていただきました。
愛さんは愚痴っぽい話は一切されませんで、むしろ今の仕事がおもしろいとおっしゃってました。
そして仕事だけでなく、余った時間にいくつかのテーマを決めて研究していることがあるとおっしゃっていました。
それがやりがいのあることなので、毎日が楽しいと言って目が輝いていました」
「それはなによりです。
そうですか、、目が輝やいていましたか、、、」
「愛さんはとても親切な方のように見受けられましたし、人に恨みをかうようなことはないと思える人でした。
ですので誰かに殺されるなんて考えられません。
その事件はどのくらい解明されているのですか?」
「約2年前、早苗が行方不明ということで日本の警察に届けはしましたが、何か調査をしているというような感じがしませんでした。
それでご両親はシンガポールに行って現地の領事館や警察に申し入れをしたのです。
ただ現地の警察でも当初、積極的に動くことはなかったようです。
しかし早苗の遺体が海から引き揚げられたことで、ようやく現地でも日本でもニュースになったんです」
「宇多田さんは早苗と話をされていて、何か感じることはなかったですか?」
「いえ、特に、、、なかったように思います。
とにかく時間があるとご自分の小さいノートパソコンを出して何か打ち込んでいらっした印象があります。
私の愚痴話までもが参考になるとおっしゃって、そのノートパソコンに何か打ち込まれていました。

ほんとに仕事熱心なかただなぁという感じがしました」
「お差支えなければ具体的にどんなお話しされたのですか?」
「私の恋愛話というか、失恋の話が多かったです。

相談に乗ってもらったんです」
「早苗は宇多田さんのお話に興味をもったということですか?」
「はい、いや、、、私の場合は、ある人をもう長い間、好きだったのですが、会ったりお話しする機会がなかったものですから、なかなか感じてもらえずに片思いがずっと続いているのです。
その感情とか気持ちの起伏がとても参考になるとおっしゃっては書き入れておられました。それに、、、、、」
「それに、、、?」
「いままで愛さんと連絡がとれず困っていたのです」
「いつからですか?」
「私は愛さんと連絡を取ろうとしていたのですが、実は連絡先は聞いていなかったのです。

それでまさか愛さんがそのような状況になっていたとは思いもよりませんでした。
今、そのお話を聞いてびっくりしました。
実は早苗さんの忘れ物があるのです」
「えっ!!、、、忘れ物??」
宇多田は黒い財布出して、中から小さい物を取り出した。
「それって、、メモリー、、、じゃないの」
「そうだと思います。僕はパソコンは使いませんのでよくわからなかったのです。
これは愛さんが使われていたものでお忘れになったものですので、私は愛さんが、この店にいつ来られても渡せるように持っていたのです」
優子、織江、詩、龍はそのメモリーステックを見つめている。
「それは貴重なお話です。
よく持っていてくださいました。
私たちが受け取って早苗のご両親にお渡ししてもいいでしょうか?」
「もちろんです」と宇多田はそのメモリーステックをそばにいる優子に手渡した。
「誰かパソコン持ってる?」
「うん、持ってるよ」と詩と龍はノートパソコンをバッグの中から取り出そうとする。
「中身を見ていいかしら、ご両親にお渡しする前に、、、」
「優子は早苗のご両親に早苗の件は任せられているのだから当然のことだと思いますよ」
詩は優子からそのメモリーを預かり、自分の小さいノートパソコンを起動させ、USBに差し込んだ。
ツ、ッ、ツ、ッ、ッ、、、、

よかったら、以下のクリック応援お願いします。
にほんブログ村人気ブログランキングへ

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です