1-111 幸せへの道

それは優子にとって思わぬことだった。早苗が辿った心の軌跡を追憶することは、事件の真相を追求する以上に優子を考えさせた。早苗が悲惨な死を迎えたことに目を奪われて、その事件の真相だけを考えていた優子たちだった。しかし全く考え …

1-110 違和感

嵐の歌を聴いているうちにいつのまにか眠り込んでいた織江は目を覚ました。隣を見るとあの気丈な優子が目を閉じ、ときに小刻みに震えている。一筋の涙が見えた。織江は前を向きなおし再び目を閉じた。嵐の歌を消した。織江にしても早苗の …

1-109 Love

一年くらい前に優子と早苗と二人で池袋の居酒屋で飲んでいたとき。隣のテーブルでは、数人の男女学生が議論をしていた。その学生たちの中に「ミハナエリカ」という可憐な女性がいた。お酒の勢いもあったが、学生たちの議論は至極真面目に …

1-108 尊厳ある遺書

早苗があの殺され方をしたことに犯人の早苗に対しての異常な憎しみが感じられる。早苗は犯人と話しているうちに、犯人の行為の理不尽さに苦しんだのではないだろうか。しかし犯人からの拘束から逃れるすべがなかったのだ。そしてその日が …

1-107 ほとばしる涙

そして、、、優子は静かに嵐の歌を聴いている。頭に浮かぶのは音楽から流れ湧いてくる快いイメージだった。エンターテイメントの重要な一つは歌の内容と質なのだろうと思う。歌い手の歌う歌が人々の心に快い響きを伝えることができなけれ …

1-106 人生の苦しみをとぎほぐすarashi

優子と織江は日本に帰るシンガポール航空の機中の人となっている。珍しいことだが、日本からシンガポールへと旅立つときに乗っていた幼い男の子と母親が再び日本に帰るこの飛行機に同乗していたのである。 この機中でもあの親子は楽しそ …

1-105 陰性と陽性

ピュアプリンセス号はシンガポールの港マリーナ・ベイの片隅に停泊している。ミセスジュリアはデッキの上でうつぶせの状態のままで周りに白いシートが掛けられていた。そのまわりにはバーケードが設置されていた。すでに防護服を着た警察 …

1-104 世界的な利権と覇権

シンガポール厚生省(Ministry of Health, MOH)は、2009年5月26日、シンガポールで最初の新型(H1N1)インフルエンザを確認しました。この流行が大きな問題になったのは、流行初期にメキシコにおける …

1-103 静寂の死

ピュアプリンセス号は深夜から速度を上げ、シンガポールへと向かっている。昨夜の騒ぎはまるで嘘のように船内は静けさを保っているが、キッチンの一部では朝の食事の支度に大わらわだった。通常のバイキング方式ではなく、大皿にはたくさ …