1-103 静寂の死

ピュアプリンセス号は深夜から速度を上げ、シンガポールへと向かっている。
昨夜の騒ぎはまるで嘘のように船内は静けさを保っているが、キッチンの一部では朝の食事の支度に大わらわだった。
通常のバイキング方式ではなく、大皿にはたくさんの種類の食材を一つ一つ個別に仕分けし、お客にはそれらの中から好みのものを選んでトレイに入れてもらうセルフサービス方法に切り替えるためでもある。
昨晩は船のスタッフの若木が内々ではあるがこの船に生じている新型インフルエンザに関しての情報を優子と織江に教えてくれていた。
ただエグゼクティブのお客といっても事前に薬を提供することはできないということだった。
優子は日本から持ってきているそれなりの薬の用意はあった。
それに加えてツボや体の温め方などの対処方法を織江に教え、自分にも施して眠りについたのである。
船は潮風を受けながらいつもより早く走っている。
はてしなく広がる暗黒の空と波間の境に船側の灯が反射し静寂に一定のリズムを与えていた。
それは夜明け前だった。その刹那、小さな揺らぎがおとずれる。
その揺らぎはすぐにかき消され、船は波風をかきわけながら進んでいた。
朝、部屋のドア前を行き来する人々の足音と声で優子と織江は眠りから覚めた。
なにかしらいつもとは違うような人の行き来の感じがする。
もしかすると昨晩のことでアナウンスでもあったのであろうか。
しかし、、、、それは違っていた。
「キャーッ、、、、、」若い男女が悲鳴が聞こえてきたことから始まる。
朝早く、船の最前方のデッキ。そこにネグリジェ姿の女性が倒れていたのが発見された。
まるで首でも折れているのか肩と顔の正常な位置がずれてでもいるかのような姿でうつぶせの姿で倒れていたのである。
ピクリともしない。即死のようだった。
それを垣間見た人たちのさまざまな悲鳴が聞こえてくる。
上方を見上げるとベランダのヘリが見えた。
その即死状態の女性のまわりには人だかりができた。
「この人は、、、もしかするとミセス、ジュリア?、、、、、」す

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