1-105 陰性と陽性

ピュアプリンセス号はシンガポールの港マリーナ・ベイの片隅に停泊している。
ミセスジュリアはデッキの上でうつぶせの状態のままで周りに白いシートが掛けられていた。
そのまわりにはバーケードが設置されていた。
すでに防護服を着た警察官たちが死体の検分を行い、関係者は次々に呼ばれている。
船の内外で新型ウイルスについての非常事態と処置方法のアナウンスが何度も流れている。
船とシンガポールの病院側との対応によって港には臨時に設置された小さなテントを張ったデスクがいくつも供えられ、次々と客の検査をしている。
シンガポールでは新型インフルエンザはすでに早くから認識されていた。このころは迅速な診察キットも開発されてはいた。
陰性で問題ないと判断されたとしてもその検査キットを使い、連続2日間は検査をする。それで陰性で安全だと判定された者は通常のように船旅の清算をして、パスポートや荷物を貰い船を降りることができる。
もし陽性になった人たちはある区画されたところに案内されたあと市内の病院に運び込まれることになる。
船全体も消毒されることになる。当然、陽性と判断された人たちの部屋は念入りに消毒されることになる。
検査順位はおおかた船の従業員や関係者が先になる。その次にお客になるがやはりエグゼグティブからとなる。だから優子たちは朝の弁当を自分たちの部屋に持ち込んで済ませたあと、検査をしたのだ。
一回目の検査では、優子と織江は幸運にも二人とも陰性とのことだった。
「ちょっと安心したわ」
「それにしてもあの騒ぎ、、、お客よりも従業員が大騒ぎね」
「そりゃあ、そうでしょうね。初めてのことでしょうから、、でも港での新型インフルエンザの検査はずいぶん手早くしているようね。まぁ、この船の従業員もお客も大変な数なのだから、そうなのかもしれないけれどテント数も多いし、政府側が動いたのでしょうね」
「ドクターアデナウアーとかなんとかいうドイツ人も新型インフルエンザにかかっているらしいわよ。どの段階でわかったかわからないけれど、医者まで新型インフルエンザになったと発表したら、お客のパニックが想像され大騒ぎになることは目に見えていることから、船長は躊躇していたらしいわ」
「いや、私はドクターアデナウアーは陰性だったと聞いているけど?」
「うわさって、いろんなことが勝手に広まっていくということね」
世界的に新型インフルエンザの怖さが取りざたされてはいた。シンガポールでは小康状態であったから、医者や看護婦は乗船しているものの、船にはタミ●ルなどの薬は多量に用意されていなかった。
タミ●ルやリレ●ザは、一般的には安全な医薬品といわれている。ただ頻度は低いものの様々な副作用を生じることがある。
「そうね。マスコミ関係者もまわりには多く集まっている」

「それにしても、、ミセス、ジュリアの死にはびっくりしたわ」
「あの人、、パティオパーティではシャンパンをずいぶん飲んでいで元気そうだったわよね。次々に挨拶してくれるお客と乾杯したりして、、」
「警察が、ジュリアの死をどういう判断するかわからないけれど、、、」
「ジュリアという名前からして西洋風だけど、スタッフの人から聞いたら彼女も夫も香港出身の中国人らしいわ」
「そうね。夫も妻のジュリアも香港出身で香港で飲食業で次々に成功している中華の人らしい。香港だけでなくシンガポールまで足を延ばして飲食業だけでなく、いろいろな商売で成功しているためにマスコミでもたびたび登場していた二人らしいわ」
「としたら、もしかするとDragon社もその一つなのかしら?」

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