1-135 意念 

坂東は優子からのアドバイスを得て最新式の携帯電話に買い替えた。
坂東はどちらかというと優子と同じく機械音痴だった。
だから最新式の携帯電話にすれば、これで優子との連絡がよりスムーズにいくと単純に考えたのである。
坂東の妻とは死別したことで、この田舎に移って気ままに研究を続けているのである。
坂東は優子と娘のうむいを車に乗せて駅まで送っていくことにした。
その途中の伊倉南北神社に三人は立ち寄っている。
この神社は少し昔より寂れた感じがするが、南北を道路を隔て繋げた歴史ある神社だった。
寒い季節ながら濃い緑に包まれている。
坂東は優子とゆむいを伴ってこの神社にお参りすることにしたのだ。
南神社で、ゆむいはお参りする作法を母のお祈りする姿を見ながら見様見真似をして見せた。
その様子に「よくできたわね」と優子はうむいに向かってほほ笑んだ。
「さあ、それでは北の方の神社にも行きましょう」と坂東は促した。
北の神社は少し重層な感じがする。
三人はお参りを済ませた。
うむいは優子たちから少し離れたところにいて、あるものに見入っていた。

「それであの薬(A)は使ってみたかい?」と坂東は優子に尋ねた。
「えぇ、」
「使ったのだろう?」
「はい、確かに効いたようです。
私自身も試してみましたよ」
「日本には昔から高度で多種多様な技術が多くの分野にある。
私は古の技術からヒントを得てそれに工夫を加えて新しいものを作っている。
以前、優子さんに渡したあの薬は時間の経過で変化するようにしたものだ。
大変な時間がかかったし失敗続きでもあったが、ようやく変化することをコントロールする道筋が見えたのだ。
不可能と思えたこともやればできるものなんだねぇ。
これは対象とする者に(A)を飲ませると、異常な苦しみが生じてくる。
すると不安が増してくるが、実際の結果はそうではない。
薬の量と相手の状況が関係するが、ある一定時間(例えば投薬から約24時間ほど)が過ぎると薬の成分が消えてなくなるというものだ。
それと同時にその人の抱えている病がおおかた治っているか治ろうとしているのだ。

ただ病のすべてではない。病によっては対応できないこともある。
こんなユニークな薬になるとは思わなかった。
投薬してから24時間過ぎるとその薬の痕跡が消滅してしまうというのが特徴だ。
どんな精密な検査をしても解剖して調べても(A)を薬の成分を発見することはできないだろう。
だから、いろいろな場面を想定できるのだ。
使い方によってはいろいろ考えられる」
「先生のおっしゃるように試しに(A)を飲んでみると { 大きな病になってしまったのではないか 、このままだと死んでしまうに違いない } と思うくらい体が辛くなります。不安でいっぱいになってしまいましたね。
本当にこんな状態から病気が治るのかしらと疑いました」
坂東にはまだ話さなかったが、実は優子は夫にもこの薬(A)を試してみたことがあった。
続けて坂東は言う。
「それと今回、その延長線上で開発した薬(B)がある。それがこれだ」と坂東は背広のポケットから小さな紙袋を取り出した。
紙袋を開けるとその中から無色透明に近い小さな玉を一つ取り出した。
「これは先ほどの薬を飲ませたあとに必要に応じて使えるものだ。
先ほどの薬(A)を飲むと次第に苦しみだすが、この薬(B)を飲むとすばやく、その苦しみがなくなってくるから不思議だ。
今後、何かのことがあればこれも使えるよ。これを持っていきなさい」
「ありがとうございます。それで先生、、、早苗のことなんですけど、、、」
と坂東と優子は北の神社の境内で話を続けている。

一方、うむいは、シーンと静まり返った境内の隅に置いてある石で作られたいくつかの坊主のような人形を見つめていた。
すると、、、、
「汝、わかってきましたか?」
どこからか感じる声がうむいの心に響いてくる。
姿形は見えない。
「いえ、まだです」とうむいは意念で応える。
「それがわからなければ、そちらに行っている意味がないのだ。
しっかり学びなさい」
「でもどうしてそのことが必要なのですか?」
「必要なのだ」
「わかりました」とうむいは答えた。
うむいにとって、生きていることにわずらわしさを感じていた。
この世の生活が面倒に感じているのである。
あの世での生活は自由気ままで好きなことがてきる楽しい世界だった。
この世に生まれてくるとは、、、思いもしなかった。
だが久しぶりに聞こえる懐かしい声に嬉しさが込み上げてきたのだった。

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