1-137 光り輝き

ふと、うむいはその白衣の王の頭の斜め後ろ側に白く輝くものが見えた。
その輝く塊は何だろうと見つめていると、その光り輝きはしだいに拡大されてきたように観えた。
しかも無数の黄金白色を織り交ぜたその輝きは、無数の粒子の光線のようでもあるし、その強さは無限へと続いているように感じられた。
その輝きの中に瞳が一瞬に観えたように感じられた。
その途端、その瞳から光の粒が飛び放たれ、うむいの瞳に飛び込んできたのである。
その瞬間、うむいは驚きとともに思考が停止し息が止まっていた。
するとすぐに感動が体中に沸き起こってきたのである。
「ぐっぐっくっ、っっっ、、、」とうむいの喉から嗚咽が発せられる。
しだいに体を折り曲げなければいられぬような感情が襲い掛かってきた。
いてもたってもいられぬ、言い知れぬ高ぶりが沸き起こり、涙が溢れだした。
あの瞳から放たれた不思議な光はうむいの瞳を通じて体中を駆け巡っている。
それから、、、どのくらい経ったというのだろうか。

「なんだ、こいつ」と声が聞こえてきた。
うむいがふと目を開けると何人かの子供たちが、のぞき込むようにして見つめている。
「泣いているみたいだぞ」
続けて「おいっ!泣き虫が目を覚ましたぞ」とうむいを指をさしながら、身体の大きい男の子が叫んだ。
その男の子のまわりの子供たちは誘われるようにせせら笑った。
そのざわめきに静けさを邪魔されたためか「ぅん、もうっ!!」とその男の子をうむいは睨みつけた。
するとうむいのその目に驚いた男の子は踵を返すと自分の母親が座っている方へと向かって一目散に走っていく。
ところが自分の母親の目前まで来た途端、けつまずいて頭から転んでしまったのである。
すぐにその男の子は泣き出してしまった。
優子はそんな騒ぎの様子に目を覚ましてしまっていた。
その男の子が走り去りながら転んだのも泣き出しているのも見た。
優子はうむいを向きながら「あなたね、」と呟いた。
うむいはプイッと横を向いて素知らぬ顔になった。
そのとき、る~、る~、る~、る~と優子の携帯電話が振動する。
チエからの電話だった。

車両外に出る。

「もしもし、、、、」
{優子さんですか、、、チエです}
「あっどうも、先日はありがとうございました」
{お世話様です。実は連絡したいことがありまして、、、}
「はい、何でしょう?」
{あの~、、早苗さんの件でシンガポール警察のその後の動きなのですが、、、
実はミセス、ジュリアと王紅東宅に調査に入った陳警部はですね、早苗さんの殺害犯人をミセスジュリアと李ガンスと断定したようです。
予想した通りです。
動機は王紅東と早苗さんの不倫関係のようです。
、、しかしどうもまだ解せないところがあるのです。
それはそれとして、実はこのことを日本のマスコミが嗅ぎつけておりまして、
今頃になってうるさいくらいなのです。
こういう事件の進展のようになると話題性があるのを感じたのでしょうか、
俄然、元気づくのが日本のマスコミのようで、どこでどう調べたのかわかりませんが、我々の会社まで動向を探りに来たんですよ。
ですので前もって優子さんにもお知らせしておいたほうがいいと思いまして、、}
「それはありがとうございます。気をつけます。
ということは、ミセスジュリアが亡くなった今では李ガンスを捕らえるしかありませんよね?」
{ところが優子さん。李は失踪しているらしいのです}
「えっ、失踪? でも李はシンガポール国外には出れないはずでしたよね?」
{そうです。
李は早苗さんの事件でもミセスジュリアの薬物の件でも重要参考人ですのでそのはずなのです。
ところが行方がわからないというよりも他国へと失踪したのではないかと、、、、}
「そんなことができるのですか?」
{シンガポールと周りの国々は陸続きでもあり、それに海を利用すればできないことはないとは思うのです}
「しかし国外に出るにしてもどこかの国に入国しなければならないはずですよね」
{そうなんです。
ですので李ガンスのパスポートでは国外には出られないと思いますし、他国の入出国の際に記録されるはずですが、ないのです}
「ということはもしかすると、、、、」
{残念ながらシンガポールにはインターポールの組織がないのです}
「インターポールって?」
{インターポールというのは国際刑事警察機構(ICPO)と言って、国境を越えた犯罪の捜査や捜査協力をする組織なんです。
日本はすでにあるのですが、シンガポールにはまだないのです。
優子さん、李はもうすでに国外に出ていると私は思うんです。
自分のパスポートを使わずに}
「えっ、どういうこと?」
{他人に成りすましてっていうことです}
「そんなことができるのですか?」
{優子さんはお聞きになったことがありませんか?
偽造パスポートのことを}
「はい、聞いたことはあります」
{あれですよ、あれ。私は思うんですよ。
この手口、、、どこかですでにしていたように思うんですよ}
「えっ、偽のパスポートで国外に出たということ?」
{この間、優子さんたちの会議でいろいろとお聞きしたことを思い出したのです。早苗さんが客船ピュアプリンセス号に乗って最初の寄港地であるペナン島で観光したことになっていましたよね?}
「そうです。ペナン島では、そこの現地の子供たちが早苗を見ています。
それにその地に車に乗った男が現れた。それが李ガンスなんですが、その人物が早苗をその車に乗せて行ったというのです」
{そこです。そこですよ、優子さん!}
「えっ、、、」
{そこなんです。いままで私たちは勘違いしていたのかもしれません}

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