龍の泪

1-146 龍の泪
うむいは犬や猫が怖い。
幸いにおばあちゃんちには動物はいない。
この前、街中を母に連れられて歩いていると犬を連れた親子がこちらに歩いているのにびっくりした。
急いで母を引っ張って道をそれたのだ。
それにこの世にはあの世にない天気の変化がある。
今日は天気がいいと思っていたのに曇り空になったり、ときに雨になったことがある。
そんなとき、遠くから大きな音がしたのにはもっとびっくりした。
思わず体が縮こまったら、母が「あれは雷といってね、心配はしなくていいんだよ」と言ってくれた。
あとで、おばあちゃんに聞いてみると
「雷というのは怖いもんなんだよ。
雷の音が聞こえたらすぐに家に帰りなさい。

家から出てはだめよ。
雷に当たったら死んでしまうからね」と教えてくれたのだ。
母とおばあちゃんの話のどちらを信じるかは決まっている。
それに雷に当たったら死ぬ前にとても痛いはずだから。
そんな日は絶対外に出るものかと決めていた、うむいだった。
それに犬猫のこともおばあちゃんに尋ねたら、
「ペットはおとなしいと思うけど、やっぱり獣は獣だからねぇ。
急に噛みついたりすることもあるから気をつけなければならないよ。
それにお腹がすいていたり、怒ったりして急に噛みついてくるかもしれないからねぇ。
うむいはまだ小さいのだからそんなときは危ないんだよ。
噛まれたら病気になって死んでしまうんだからね」と教えてくれた。
やつぱりおばあちゃんの話が本当だと思う。
動物は確かに何をするかわからないような顔をしている。
それに四つ足なのだ。

人間は二つの足しかないのだから、うむいは逃げようとしても逃げられるものでないぐらいのことはわかる。
だから動物たちがいるようなところには絶対行かないことだし、見かけたらすぐに逃げることだと決めていた。
、、、ところが、、、
その人は、、、

この森のところで、昼夜を徹して修行しているのが見える。
それに何日も続けていることが、うむいにはわかる。
しかし昼間はいいとしても夜の暗闇は恐ろしいはずなのに何故そんなことができるのだろうかと、うむいは思っていた。
それに森の中には、いろいろな獣がうろうろとしているのだ。
深夜になるとさまざまな空腹を抱えた恐ろしい獣たちが、森の中で蠢いているのが見える。
{危ない、あの人の近くにいろいろな獣たちが動いている}

しばらくすると獣たちが動き出した。
低い姿勢になって、そろそろとその人のほうに近づいていく。
その獣のまわりにいる他の獣たちもぞろぞろと近づいていく。
{あぁ、、このままだとあの人は獣たちに食い殺されてしまう。早く逃げて!!}

うむいは恐怖心でいっぱいになった。
だがその人はまったく気づいていない。
だから逃げようとはせず、そのまま座したままなのだ。
{あぁ、、もう、逃げられない}うむいは見たくなかった。
獣たちはとうとうその人のすぐ近くまで来てしまった。
{もう終わりだ。誰か助けて、、}苦しくなったうむいは、その人を見つめることしかできなかった。

恐くて助けることができないのだ。
、、、、
しかしその人はそれでもそのままの姿勢でいる。

目をつぶっているから気づかないのかもしれない。
すると獣たちはその人を見つめながらその周りをぐるぐるとゆっくり回り始めたのだ。
{一斉にとびかかろうとしている!!!、もう逃げられない}その様子にうむいは怖さが最高潮になり思わず目をつぶった。
、、、しかし、、、
いつまでたっても獣たちはとびかかろうとしなかった。
何故なのかわからない。
{どうしてなのだろう❓、、}
獣たちはその人に近づいてクンクンと匂いを嗅ぐしぐさをしていたが、噛みつこうとはしなかった。
そうこうしているうちに獣たちがその場から立ち去って行ったのには、さらに驚いた。
{理由はわからないけれど助かった!}とうむいは思わず胸をなでおろした。
ところが今度は急に強い風が吹き、雨が降ってきたのだ。
獣たちはこの雨を予感して、この場を立ち去ったのだろうかとも思った。
ビュン、ビュンと風がさらに強く吹き始めている様子である。
夜空に暗雲が立ち込めてきて、とうとうものすごく強い雨が降り出してきた。
しばらくすると「ガガ~~ン、、」と大きな雷音が遠くから響いてきた。
{あっ、、雷だ}
雨足が強くなり、雷の音もさらに大きくなり数も増えている。
ガガ~ン、ガガ~ン、、ガガ~~ン、ガガ~~ン、雷が近づいているのがわかる。
{あの人のところに雷が落ちたら、今度は完全に死んでしまう}
ところがその人は雨が降っても風が強くても座していることを止めようとしない。
{いつまであんなことをされているのだろう?
早く立ち去らないと本当に雷が落ちてしまう}
うむいは気が気でない。
ガガ~~ン、するとすぐそばで大きな雷が落ちてきた。
今度は間違いなくその人のところに落ちてしまう。
その雷の音と雨と風の強さが恐ろしかった。

うむいはベッドの中で自分にかけてある掛け布団をじっと強く握りしめた。
とうとう、その時がきた。

あぁ、、雷が落ちてきた。

ガガ~~ン!!!
その人の頭のところに雷光が落ちていくさまがスローモーションのように見えた。
{あっっっっ、危ない!、死ぬ!!}、、、、、
、、、、とその時。

その人の周りを巨大な恐ろしい鬼のような顔と兜のような頭をした大きな長い尾ひれのある龍が激しいうねりを見せながら現れ、その人のまわりを動き回っているのがスローモーションのように見えた。
龍は一匹だけではない。
一匹はその人の周りをぐるぐると激しくまわっている。

もう一匹はうねるように上下にも斜めにも激しく動き回っている。
うむいはその様子をじっと見つめていた。
{あの人をこの龍たちが守っている}のが感じられた。

あんな怖そうな大きな龍が、あの人のまわりをぐるぐると泳ぐように動いている。
それを見つめていると、うむいは震えが止まらなくなった。
暗闇の中、激しい雨風と稲光の中で、その人のまわりを恐ろしい顔をして動き回っている龍たちの姿だった。

しかしそのうちに、うむいに向かっているかのように見えてきたから一瞬、目をつぶった。

再び、目を開けるとさらに巨大に見えてきたから、うむいの身体は縮こまった。

「あっ、、」と、うむいの時が止まっていた。

あぁっ、、、、、、

その龍の瞳から涙のひとしずくが落ちたのを観た。

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