錯綜する意図

1-153 錯綜する意図 
私もお母さんと同じ意見です。
早苗さんは男性が既婚者とわかっていたら、関係を持つことはなかったと思うのです。
王紅東は過去にいろいろな女と浮名を流しています。
しかし早苗さんは王紅東のことはよく知らなかった。
それを考えれば王紅東は「自分は独身だ」という嘘をついていた可能性があります。
だとすれば早苗さんが王紅東との関係を認めたとしても不倫のつもりではなかったし、もしそのことを知っていれば関係を持たなかったと主張したはずです。
でもミセスジュリアからすれば、それは夫と早苗さんは不倫関係だと断定したに違いありません。
ミセスジュリアは資金に余裕がありますから、夫の浮気調査として日本の早苗さんのことまで調べていた形跡があるのです。
そして浮気の証拠を撮ったのか、それとも確信めいたことを知っていたのではないかと思います。
早苗さんはマレーシアのペナン島で客船から降りて観光した際に犯人たちに拘束されてしまいました。
しかし早苗さんはその日の夕方までには客船に戻らなければならないはずです。
微妙なところですか、その日、犯人たちは早苗さんを客船に返すつもりだったのか、それとも引き続き拘束するつもりだったのかはわからないところがあります。
ただ早苗さんの替え玉を用意していたことを考えれば、場合によっては引き続き拘束することも考えていたのではないかと思います。
犯人たちは早苗さんが王紅東との関係を証言をする映像記録を残したかったことがわかります。
何かあったときには夫や誰かに見せることもできるし裁判になったとしても申し分ない。
それにもしかすると早苗さんを社会的にも追い込む事さえ可能でしょうから。
しかもこの時点では早苗さんを拘束はしたものの殺害することまでは考えていなかったと思うのです。
殺害しようとする人間の記録を残そうなんて普通は考えないでしょう。もし殺害してしまったら、むしろ証拠に残るようなことはしたくないでしょうから。
しかし結果的にはこのビデオはミセスジュリアの自宅の自分の金庫に保管されていた。
ここには何か意味があるように感じるのです」
「むつかしいことはわかりませんが、優子さんは現地に行かれましたから、よくお考えのことがあると思います。
私の娘が拘束されて苦しんでいる様子を見て悔しくてしようがありません。
犯人が娘に無理に証言させて記録に残そうとするなんて、なんて卑怯なことでしょう。
そんなことをする人間が、記録した後に娘を殺すのですか?
娘がいったい何をしたというのでしょうか?」
「早苗さんが妊娠していることをいつの時点で知ったのかは重要かもしれません」
「娘と関係とあった王とかいう人間の子供だと断定したのでしょうか」
「そうでしょうね。
早苗さんの替え玉の女性を用意して船に戻らせています。
そして客船の早苗さんの部屋に入ってすべてのものを持ち去っただけでなく、誰かを日本に行かせ、早苗さんのマンションまで侵入して盗んでいのです」
「私どもとしましては、犯人を早く捕まえてほしいと願うだけです。

本当のことを知りたい。
そして、、、、、それに、、、、」
「、、、、、」優子は恵子の話の続きを知りたかった。
「それに、、あまりにも娘が不憫でなりません」と恵子は言いながら、言葉が続かない。
優子はじっとしている。
「娘は身ごもっていることをきっと隠そうとしていたのだと思うのです。
きっと犯人たちは娘が妊娠していることは知っていないと思っていたでしょうから」
やっと絞り出すようなか細い声で言った後、母は再び泣き崩れたのだった。

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