1-130 10年越しの恋

「あのう、、、」と傍で座っている宇多田が心配そうに声を出した。
「すみません、そのニュースって、どこから来たのですか?」
「えぇ、、知り合いからですけど」
「お知り合い?現地のお知り合いということですか?」
「私たちもこれはどこからの情報なのかよくわかっていないんです。
だけど確かな情報だとは思っているのです」と優子は織江と龍の顔を見る。
詩はいまだに自分のノートパソコンを操作して早苗の収集していた情報を読んでいる。
「あのう、、できれば私も愛早苗さんを殺した犯人のことを知りたいんですが、どうしたらいいでしょうか?」
「そういえば早苗がシンガポールへ行く数カ月前に飲んだ仲ですものね。
それにありがたいことに早苗が忘れていったこのメモリーを保管していただいていたのですから、私どもとしても宇多田さんにご連絡したいと思います。みんないいよね?」
「もちろん、もちろん」
「ありがとうございます」と宇多田は言って、自分の名前と携帯電話のメールを優子に伝えた。
電話番号は以前すでに渡してあったが、念のためにそれも渡した。
宇多田は優子の名前と電話番号とメールを貰ったのである。
宇多田はほのかな嬉しさが込み上げた。
宇多田は愛早苗が2年前に殺されていたことを先ほど知らされてショックだった。
あれほど明るく気のいい女性の身にどんなことが起きていたのか呑み込めないでいた。
しかもその早苗を殺した犯人が2年越しにシンガポールでは明らかになったというのである。

それを恋い焦がれていた優子から聞かされたのである。
何が何やらわからない状態でいた。
先ほど優子から貰ったメモ用紙には携帯電話番号とメールとそれに泉優子と書いてあった。
とすれば学生の頃の名前の尾崎優子が今では泉優子に変わっているのであるから、早苗が優子は結婚していると言っていたのは本当だったのだ。
約10年以上前、喫茶店ウファでアルバイトしていた宇多田は、入店してきた優子に一目ぼれしたのだった。
その後も優子はときどき仲間と共にこの店に訪れ、半ば常連客のようになっていた。
しかしいつしか来なくなっていた。
その理由を知って宇多田は驚愕する。
優子は大学を卒業していたのだった。
当然、この店には顔を出さなくなっていた。
学生が卒業するなんてことは、当たり前のことを想像できていなかった宇多田だった。
それから10年もの間、苦しんだ。

しかし連絡先を知らない宇多田はいつかはこの店に優子が訪れるはずだという不確かなはずであるが、一縷の望みを抱いてこの店で働いていたのだった。
しかし確かにその日は来たのである。
その日、それは約2年前、早苗と優子はこの店で待ち合わせしていたのだった。
しかしあの日、早苗と待ち合わせしていた優子は来たかと思う矢先に「用事ができた」と言って、早苗を残してこの店から出ていった。
店に居残った早苗に宇多田はなんとかして優子のことを聞き出したいと思った。
そして早苗と話をしているうちに居酒屋に行くことになったのだった。
早苗は宇多田の優子への想いをはじめて知った。
早苗によって宇多田は優子が結婚していたことを知らされた。
そのことを知った宇多田の心情は酒で紛らわせるほど簡単ではなかった。
早苗にしては宇多田の相談にのるというよりも彼のほとばしる心情を聞かされるだけしかなかったのである。
遅くなるまで一緒に酒を飲んだ。
そして何とはなしに二人は近くのシティホテルに泊まることになったのだった。
あれから、、、

よかったら、以下のクリックをお願いします。

にほんブログ村 ⇔ 人気ブログランキングへ

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です