1-136 白衣の王

東京に向かう新幹線に乗っている。
母の優子は疲れたのか、隣でスヤスヤと眠っている。
近くでは数人の子供たちがはしゃいでいる声が聞こえている。
うむいは母と同じように目をつぶってみた。
しばらくすると暗闇の中に黄色や白い星たちが流れていくのが見えた。
いくつかの星々が点滅をしている。
その意味の一つ一つがうむいにはわかった。
少なくともうむいはそれらと意思の疎通をしようとすればできる。
しかしそれらはうむいの存在を無視しているかのような動きをしている。
すると遠い、遠い過去が浮かび上がってきた。
一人の若い男が立っている。
その人はお坊さんのようでもあり、王様のようでもあった。
よく見ているとその人は古めかしい白い衣装を着ているようだ。
建物の中にいて、その王の周りには多くのかしずく人々の姿が見える。
ところがその王様が建物から出てみると、その王に向かって民衆の苦しみが波のように打ち寄せているかのように見えた。
すると出家しようとしている王の姿に変わったのである。
王の慈悲は紫色から黄色、赤と目まぐるしく色を変え、その上昇する気流の勢いはすさまじかった。
王のまわりを龍が竜巻のように渦を巻きながら動いている。
それでもその王はどうしていいかわからずにいる。
王はあの世でも王の一人だった。
あの世では自由自在に意志一つで何でもできる。
そこは素晴らしい愛の光に満ち満ちていて、すべてに影がない。
しかしこの世での王は思うようにできないことを悟っていたのだ。
肉体という束縛から逃れることができないでいるのだ。
どうしたらいいのか悩みに悩んでいる王のさまが見えた。
うむいの瞳に泪が溜まっている。
どうしようもない自分を感じていた。

よかったら、以下のクリックをお願いします。

にほんブログ村 ⇔ 人気ブログランキングへ

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です