隻手の音

1-156 隻手の音
思いもかけぬことだった。
早苗は妊娠していたことを優子は予想もしていなかった。
早苗はクルーザーの中で何日も異国人に詰問されていたことだろう。
罵倒され、侮辱されたことだろう。
、、手錠をかけられ、、、孤独の中にいたはずである、、、、
早苗の行動が筒抜だったはず、、、
しかも罠をかけられていたとは、、知る由もない。
誰も助けに来てくれないただなかにいた、、、
暗闇の中には風と波音だけが聞こえていたかもしれない。
不安と恐怖が早苗を襲っていたのだ、、、、
恐怖は目に映るものだけではない、、、、
目に映らない恐怖もある、、、、
それとは別の恐怖もある。
人に対する不信、人への恐怖、、、
それらが恐ろしいまでの憎しみに昇華する、、、

互いの憎しみが交錯する。
人が人ではなくなっていく、、、
しかし早苗は守っていたものがあった。

だがすべてが殺されるかもしれないと感じたとき、早苗は、、、
、、、、、、、
優子は自分の身体を支えていた両手のひらを硬く握りしめた。
流れ落ちる涙が、目の前のまな板にある切り刻んだ野菜の上に落ちていく。
、、、、、、、
、、、、、、、、、、
優子は、ふと我に返った。
、、、、、、涙をぬぐう、、、
うむいは、まだダイニングテーブルでスプーンを使っておかゆを食べている。
「うむい、まだ食べてるの?」

優子は少し苛立った様子で声をかけた。
うむいは、いつものようにぐちゃぐちゃと口を尖らせたりしながらゆっくりと食べている。
「早く食べなさい、、、」

語気を強める。
「、、、、、」
「返事は?」

と優子は怒気を強める。
「、、、、、」
「うむい、いつまでぐずぐずしているの、早く食べなさい!」
いつもとは違って優子はいきり立って近づいった。
優子は座って食べているうむいの向かいに立って、うむいの持っているスプーンを取り上げた。
うむいはきょとんとした顔で母の優子を見上げる。
優子はうむいを睨みつけた。
優子はうむいの御飯茶碗に残っているおかゆをスプーンですくい、やおら、うむいの口にねじ込もうとする。
うむいは変な顔をしながらもおかゆを呑み込む。
それを見た優子はスプーンでおかゆをすくって、もう一度うむいの顔に近づける。
うむいの顔にスプーンを近づけようとしたその刹那、、、、
うむいは右手のひらを優子の顔前に縦に突き向けた。
{、、、うっ、、、} 

一瞬のうちに優子の身体が固まる。

その眼前に迫ってくるその手を優子は見つめている。

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