1-93 シンガポールからペナン島へ

シンガポールの港を出発した翌日、最初の寄港地マレーシアのペナン島に入港した。
午後、食事を済ませると観光客は客船からテンダーボートという小船に乗り込んだ。

ペナン島の岸まで次々とお客を移送する。海はおせいじにもきれいではない。優子たちは数分もするとペナン島に到着した。
岸辺ではそこここに客引きやタクシーの運転手たちで込み合っている。
早苗もこの小船に乗り、この岸に到着したはず。だとしたら誰かが覚えているかもしれない。
優子と織江は二組の写真を胸に下げている。一組は早苗の顔と全身。もう一組は台北のホテルで嵐の動画を撮っていた男性の顔と全身である。これはオフィサーソフト社が早苗が優子に送ったDVDビデオの中にかすかに映っていた男性を加工編集して、できるだけ鮮明に浮かび上がらせようとしたものだった。だからやはりおぼろげな写真である。
優子と織江はうだるような暑い陽射しの中、客引きするペナン島の人たちに早苗の写真を見せようとしたのだが、ちらりと見て商売にならないとみるやすぐに他の観光客に声をかけていく。岸辺に停まっていたタクシーや車の数はみるみるお客を乗せて去っていく。岸辺には写真を撮る観光客たちだけになってしまった。
ペナン島の日差しは肌を刺すような強さがある。じりじりとする暑さの前で海の波間に漂っているいるかのようになってしまっていた。
さきほどまで岸辺にはテンダーボートが停まってはいたのだが、いつのまにか走り去っていた。
そろそろ日陰に入ろうかと見渡していると近くで数人の子供たちが遊んでいる。
近づくと人なつっこい表情で優子たちを見つめている。
優子はバッグから飴を取り出し、一人ひとりにあげると、はにかむような様子から子供たちに笑顔がこぼれた。
次第に子供たちが集まってきて優子たちを取り囲むようにしながら笑い転げてしゃべっている。
そしてその中の女の子の一人が優子の胸に下げている写真を不思議そうに見ていたが、おもむろに手を引っ張った。
その子供についていく先には坊主頭のぽっちゃりした男の子が、この岸辺でみやげ物の売り込みをしていたのだろうか、手にはお土産品みたいなものを持って立っている。
優子が近づくと案の定、みやげ物を優子に見せた。引っ張って行った女の子が一言二言しゃべると、その男の子は優子の胸に掲げている写真をじっと見つめている。それももつかの間、今度は男の子が優子の手を引っ張っていく。優子と織江は誘われるようについて行くと雑貨屋のような店先で優子の手を離した。そして扉を開け放してあるその雑貨店の店内へと入っていく。
優子たちはその男の子に続いて入っていくと外とはあまりかわらない暑さだった。
日差しがない分、ましなような気がする。
ぞろぞろとついてきた子供たちが、その雑貨店の店先で遊び始めた。
店内にはきらびやかなスカーフや衣装や観光土産が所狭しと積み上げれらている。
店内奥でうなだれて座っている母親に話しかけていた娘が、向かってきた男の子を見つけるとしかりつけていたが、男の子が一言二言を話すと、出入り口に入ってくる優子たちをじっと見た。しばらく男の子と娘は話をしていたが、男の子の手を払いのけ、無愛想な顔で近づいてきた。優子と織江は所在無さに陳列されている品物を見ていた。
娘は距離をおいて優子たちの様子を見ているのだが、話しかけてくる様子がない。すると男の子が近づいてきて写真を見せろというしぐさする。優子はもしかするとと思い、その娘に近づき写真を娘に見せると少し驚いた様子になった。しかしふとそ知らぬ風になった。
優子はとっさに何か買うことにした。優子がスカーフ、織江がみやげ物のようなものを選んで、目の前に差し出すと雰囲気が穏やかになった。
言われたとおりにお金を出しておつりはいらないというと、娘は写真を見せろと片言の英語でしゃべる。
「この人見たことがあるよ、、、、、、」という。
その言葉に優子は娘を凝視した。
「この女の人、日本人でしょ?」
「そうです、、この女性を探しに来たのです」
「この人、小さい人ででしょ、、、この店でスカーフを買ってくれたよ、柄が気に入ったといってくれてね」
「そう、それでどうしてたの」
「買った後、その店先の日陰で子供たちとしばらく遊んでいたよ。それで、その先に停車した車が来たらしく、すぐにその車に乗っていっちゃった。その車の周りには子供たちが戯れて興味深そうにしていたら、運転席に乗っていた男がどこか迷惑そうにしてた。それであんたと同じように弟や友達が飴をもらうことでそこを離れることにしたんだ。弟がその飴を私へもくれたよ、日本の飴だったよね。とてもおいしかった」
「本当にこの人でしたか?」と優子は胸を躍らせた。
「そう、背の小さい人。日本人の女の人は最近、大きい人が多いけどこの人、私よりちょっと大きいくらいの背だったね。顔は写真のようにとてもかわいい人だったから覚えているよ。笑うと大きな声で笑うから印象に残っているんだよ。ああいう人、好きだよ」
「車ってタクシーのことですか?」
「いいや、ここらへんでは見かけない立派な車だったよ。紺色の車。あの運転手はやっぱり日本人?」優子と織江は顔を見合わせた。
「それで、その男性はどんな感じの人でしたか?」
「ここからじゃあよく見えなかったけれど、ここいらじゃぁ見かけない小太りの男のようだった。
背はあんたぐらいだったと思うよ。弟に聞いてご覧。そのとき目の前で車に乗り込んだんだから、珍しくきれいなピカピカの車だったし、それまで遊んでいた子供たちがよく見ていたはずだよ」言いながら、男の子を呼びにいった。男の子は店先で遊んでいたらしく、男の子と子供たちを店内に引き入れる。
「その女の人、ちっちゃなリュックを背負ってて、、おじさんの車に乗って行っちゃつたって言ってるよ」
「どんな人だった」と優子は子供たちに英語で問いかけるが、みんなきょとんとしている。
英語はわからないらしい。娘は片言がかわる。通訳をしてくれる。
「顔はこんな感じ、、」と一人の小さな子が両手で変なゆがみと表情をつくると、子供たちみんなが声を合わせて大笑いをした。
優子は胸に下げている男のほうの写真を子供たちに見せる。それを見て指をさす子供たちもいる。うんうんとうなずく子供もいる。わからないという仕草をする子もいる。

優子はバッグの中から書類を探し出しパンフレットを取り出した。
「もしかするとこの中にいる?、、、、、」
子供たちはみんなその一人の男を指差してうなずいた。

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