1-94 船上のパーティ

今日はこの船旅の最後の夜となるので、夕方から船長主催の立食のパーティーが開かれている。
船の中央付近にあるパティオにすでに大勢のお客様が集まっている。
船はプーケット島を出発しゆっくりとシンガポールの港へと向かっている。明日の午前にはシンガポールに到着する予定である。
カクテルやワイン、ビールさまざまなグラスを片手に軽いスナック程度をつまみながら立食パーティである。常連客はこれを楽しみに来る人も多い。互いに知らない人同士が触れ合う機会を設けている。旅の最終のパーティとなっている。
人々がごった返すほどに宴もたけなわになったころ、船長が出てきて壇上に立って挨拶をする。
「皆様、ご乗船ありがとうございます。またこのパーティにお集まりいただきありがとうございます。私は船長のジェームズと申します。皆さま、、、旅を楽しまれているでしょうか?」
船長に視線が集まり、静かなざわめきがと拍手が起きた。
「皆様、明日はいよいよ旅の最終日になります。どうか今宵を存分に楽しんでください。
のちに特別な催しものも予定しております。どうぞ皆様の大切な思い出の一つになりますように」とにこやかに挨拶を終え、お客からは拍手喝さいが起きた。
船長は壇上から降りてパティオの人々の中に入っていく。次々に周りのお客とともに写真を撮ったり、握手をしている。
階段からはきらびやかな衣装を着た踊り子たちが登場し、パティオのステージスペースで踊りだす。次々と衣装を変えた新しい踊り子たちが階上に現れて音楽に合わせて華やかに踊り歌っている。
優子と織江は、邪魔にならないように片隅で、グラスを傾けながらペナン島での出来事について話をしている。ペナン島での出来事は優子たちにとって事件の突破口になるかもしれない新しい発見だった。
「二人の幸せ研究所」のスタッフのチエが見つけだした台北のホテルでの男性のおぼろげな姿の写真、それに今度の早苗の新しいプロジェクトのパンフレットに掲載されている社長やスタッフたちの姿。そのパンフレットに掲載されている男女のスタッフの中からペナン島の子供たちの多くが「この人だよ」と指さした男がいる。この写真とパンフレットの男は見比べてみると似てはいる。だが同一人物だとは断定できない。
優子はこのことをこのパーティに来る前に「二人の幸せ研究所」の和田所長に電話で連絡をしておいた。話をしているうちに和田は、パンフレットに掲載されているスタッフたちのことについてどういう人たちなのかまだわかっていない。なので「オフィサーソフト社」の如月専務にすぐに、その男性のことを聞き出すことは今の段階ではしないほうがいいのではないかという結論に達した。もう一つはシンガポール警察に対してもこの情報を提供するのは、今は控えておこうということになった。
おそらくシンガポール警察は早苗の行動や所持品のカード類や携帯電話の情報からそれなりの調査は進めているはずなのである。いつかは情報交流するにしても、こちらでできることはこちらで進めていこうということになったのである。
パティオでは再び、船長自らマイクを持ちアナウンスを始める。
「皆様、、、ご機嫌いかがでしょうか?周りの人たちともお知り合いになりましたか?初めての人とも知らない人たちとも互いにご一緒に楽しみましょう。今宵だけのパーティです。ご遠慮する必要はありません。しかしエレガントに紳士的にお願いします。それではいよいよ、今日の特別イベントを始めましょう」
すると上下、真っ赤なドレスをまとい、宝石に包まれた40才代に見える女性が右手を踊り子の左肩に預けて、階上中央に現れた。そしてエレベーター側の螺旋階段から下りてくる。
「それではご紹介いたします。ミセス「ジュリア様」です。この方は我々の大株主です。実は本日がお誕生日なのです。今宵のひとときを皆様に感謝申し上げるとともにお祝いしたいと思います」と宣言した。
そして大判振る舞いとして、すべての参加されている皆様に記念のプレゼントがありますと言うと拍手と「おめでとう」との声援が方々であがった。
ハッピバースディツーユー、、 ハッピバースディツーユー、、 ハッピバースディツーミセス、ジュリア、、ハッピバースディツーユー、、ジュリアがゆっくりと階段を下りていくとそこはパティオ中央に大きなケーキが用意されている。
ジュリアがそのケーキの蝋燭の炎をふ~~~っと吹き消すとさらに大きな拍手が巻き起こった。人々に好みの飲み物や新しいシャンパンが振舞われる。
船長が「ミセス、ジュリア様おめでとうございます」とにこやかに言うと、ジュリアは満面の笑みを見せた。カメラのフラッシュの光がいたるところからジュリアと船長に向けて発している。
ジュリアの周りには次第に人垣から自然と行列のようなものができた。その人たちと次々に挨拶を交わしたり、写真を撮っている。ジュリアはお酒が大好きだった。人々と気軽にシャンペングラスを合わせ飲み干している。

すると優子が「あれ、、、?」と織江「、、、、、?」と顔を見合わせた。

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