1-60 半月

1-60 夜空のたもと
遠く前方に停車しているタクシーのほうからそのエンジン音の強弱が伝わってくる。
{ あのタクシーはユーターンをしているのだろう。ということは対と女はそのタクシーから降りたはず }
やがて前方のタクシーがこちらに向かってくるのが見える。
「運転者さん、そろそろエンジンをかけてください」
運転手は止めていたエンジンを再始動させる。
和田は完全に閉めずにしておいた車のドアをバタンと閉めた。
「よし、それじゃあ、そのまま動かしてください」
「はい」私たちの乗ったタクシーとユーターンして向かってくるタクシーとはこの細い道ですれ違う。
すれ違いざま見ていると確かにそのタクシーには運転手だけだった。
「運転手さん、ここでいいです」
「成功しましたかな?」と運転手は私のほうへ振り向いて微笑んだ。
「ありがとうございました、おかげさまで助かりました、、、それでね、運転手さん、相談なんですが、今の尾行のことは内緒にしてくれませんか。実はまだこれからこの調査がしばらく続きますので、噂が広まるとまずいんです。またお願いするかもしれませんので」とにこりとする。
「わかりますよ。大変ですね」
「すいませんねぇ」私はそう言いながらタクシー代金に少し加えてチップを含んだお金を握らせた。
運転手に挨拶をしてタクシーから降りた。タクシーはもと来た道へと戻っていく。
まわりは暗い林に包まれており、私は対と女が降り立ったとところに向かって歩く。
しばらく歩くと林が途切れてペンションの看板がいくつか見えてきた。
{ どこだろうな? チエは大丈夫だったかな? }
近づいていくと三軒あまりのペンションがあり、その先の一段の高みのほうに数件のペンションがあるようだった。
{ そういえば対がコンビで見ていたあの旅行雑誌に載っていたうちの一つかもしれんな、、、、、対と女が選ぶとすればどのペンションだろうか? }と思っているうちにじゃりじゃりと足音が近づいてきた。
暗がりから現れてきたのはやはりチエだった。 
「二人はチェックインを済ませました。〔ソリエ〕というペンションです」薄い紙のパンフレットをチエは差し出した。 
「怪しまれなかったか?」
「大丈夫です」
{ よしよし、、}
このペンション「ソリエ」の住所をケンに連絡することにしたのだが、不思議なことにこのパンフレットには住所の記載はあるものの番地が書いてない。  
{ こんなところにケンは来れるかなぁ、、しかも夜に、、} 
ケンが運転している車はナビゲーションが付いていない車である。 
今頃、ケンはあのおんぼろ車で高速を飛ばしてこちらに向かっている。
「急がないでいい、安全運転でこちらに来い」 
「わかりました」と元気のいい声を出してはいたが、ほんとにここがわかるかどうか、、、 
気長に待つよりほかはないだろう。{ まあ、ケンのお手並み拝見ということか、、、}
ケンが到着する前にそのペンション「ソリエ」を調べておくことにした。
行ってみると二階建ての大きなペンションである。周りは林に囲まれ、両隣にはもう少し小ぶりなペンションが建っている。周りの木々や建物の出入り口にはクリスマスでもないのに豆電球がいっぱい点じており、あでやかな感じを醸し出している。出入り口から15mほどのところに別棟で屋根つきの露天風呂がある。近づいてみると「貸し切り専用」という小さな掲示板が掛けてあり、そこに天然温泉だという証明書も掲示してある。  
夜中の0時でクローズだが毎朝7時から入浴可とのことで、今は誰も入ってない様子。 
伊豆高原の晩夏は夜風がひんやりとするくらいだから、こんなところに来れば { のんびりと露天風呂につかれれる、、、 }と誰しも思うことだろう。 
「あっ、誰か出てきました」チエが突然、囁いた。 

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