1-57チャンス

すぐに和田はチエに電話をかける。
「おい、チエ、駅に向かって左側方向に人がいるだろう」
電話に出たチエに「もしもし」も言わずに和田は怒鳴りつけるように言葉を放つ。
「はい、、」
「わかるか?」
「、、、、、、」こんどはチエから返事が来ない
「駅を背にすると右の隅方向だ」再び怒鳴った。
「あ、、はい、あれでしょうか? 駅の角近くの二人でしょうか?」
「そうそう、お前から二人が見えるか?」
「はい、おそらく対と女だと思います。」
{ ほんとか? あ~~~よかった、、}和田は安堵した。
「そうだ、それに違いない、チエ、お前はそっちのほうで見張っていろ、
絶対見失うなよ、二方向からだと見失わないはずだ、 もし誰かが車で迎えに来られでもしたら追尾がむずかしくなるからな、、目を離すな、、わかったか?」
和田の意気込みに押されたのか、「あ、はいっ!」チエの返事のトーンもいつもより高い。
チエに指示をしながらも彼らの動きを注視して目を離さないようにした。
ここで再び見失うことは絶対にできないのだ。
ここからは遠いから、人が注視していることなど対と女は気づかないはず。
ここまできたらどうしても見逃すわけにはいかないし、
動き次第で、すぐに対応しなければならないのだ。
和田はその二人を睨みつけていた、、、
田舎のことだからタクシーはいつ来るのかわからない。
それにしても先ほど対と女がタクシースタンドに来たときにタクシーが来ていなくてほんとによかったと思う。もしタクシーに乗って行かれでもとしたらと思うとぞっとする。
後続のタクシーがないのだから、尾行はそこで万事休すになっていたはず。
、、怖い話だ。
{ よよっ、、}駅近くにたたずんでいた彼らが再び動き出したことで和田の心は震える。
しかし彼らの近くには停車している車も迎えにきている車もない様子に少しばかり安堵する。
{ あ~~よかった }しかし、、、
{ あれっ、またこっちへ歩いてくる? ということは、、、、もしそうだったら、いや~~確かに幸運、、、、、このタクシースタンドで、今度はこの私が先頭にいることになる、、、 }
彼らはだんだんとこちらに近づいてくる。さっきの危機が私の幸運に繋がっていたのだ。
{ しかしまたこっちに近づいてきている、、、私はどうする? 挨拶するわけにもいかないし、、、黙っているのもなんとなくぎごちない、、、}
とっさに私は携帯電話をかけている様子を装うことにした。
伊豆高原にあるホテルにすでに到着している友達に電話をしているふうを装うことにしたのだ。
「いや~~遅くなっちゃって、ごめん、うん、今から行くよ、うん今のところ二人でね、、、うんうん、、、タクシーがまだ来ないんで、、今待っているところ、、、はい、はい、、、うん、、、、、なるほどねぇ、」と言いながら私はまわりの様子をうかがっている。
しばらくして対と女は私の後ろのほうから近づいてきて少し離れて立った。
後ろの対と女はぽつりぽつりとしゃべっている様子である。
{ やっぱりタクシーを待つつもりなのだな、、よしよし、、、あとはうまく演技しなければ、、}
と思いながら携帯電話を耳にあてながら通話しているふうを装っている。
{ それにしてもチエはどうしたのだろう? もうここに来てよさそうなのに?
もしタクシーが来てしまったら、私一人で乗ることになるな、、早めにチエを呼ぼう、、}
あたりを見回したが、チエは近くにいない。
{ ははぁ、あれか、、あれだな、、チエは駅のところからこっちを見ているようだ、、}
暗がりに慣れた私の目はチエを確認した。
{ それにしてもチエは何をしているんだ、、私を一人にしておくつもりか? 
対象者たちはここに来ているのだから、、、もうこちらに来てもいいだろう、、、
早くこっちへ来いよ~~}と私は思いながら通話しているふうを装い続けている。
{ いい加減、チエはこっちに来ないのか }
私はしびれを切らして行動に移す。
対と女の視界に入らない隙を狙って私の片方の空いた左腕でチエと思われる人影に向かってこっちに来るようにというゼスチャアを何度か試みる。誰かと電話をしている装いをしながらである。
しかしチエの反応がないように見える。
{ 暗いから、俺のこの「来い」というゼスチャアが見えないのかぁ? }
私はもう一度、手招きするように動かしてみたのだが、どうもあいつは理解していない
ようなのだ。チエは動かない。
{ チエはこっちを見ているはずなのに~?  俺の動きが読めない? }
私は対と女の視界に入らないときにさらに私の腕と上半身を大きく動かしてみた。
今度ようやくチエが反応ある動きをしているような、、、、、
、、だが上半身というか頭の動きが少ししている、、、
{ あいつの動きは私にだいたいわかるのだから、チエも私のほうは見えるはずだ?
、、、何か、不思議そうな頭の振りのような、、、、、意味がわからないのか?、、、、
なんて奴だ、鈍感なのか?、、、、
まてよ、あちらのほうが照明がたくさんあるからこちらより明るいはずだ、、
もしかするとこちらのほうは見えにくいのかも? }
そうはいっても対と女が近くにいるからここではあまり変な動きができない。
対と女に私の動きに感じられたら、あとあとが大変なのだ。
私は対と女の様子をうかがいながら、チエにジェスチャアをしているから、悟られるはずはないと思うが、万が一ということもある。
絶対に私のこの変な動きを感じられて、印象に残ってはまずいのだ。
{ それにしてもチエも状況でわかりそうなもんだがなぁ、、、どういうゼスチャアをすればチエはわかるんだろうか?、、しょうがない、、もう一度、気持ちを込めてやってみるか? }
私はチャンスを狙い、このときとばかり今度は気持を込めながら、上半身を総動員して動かしてみた。
するとチエは両手のひらを空に向けて両腕を伸ばしている。それを何度か繰り返した。
{ わからない?ということか、、なんという鈍感な奴、、}と思った瞬間、思い出してきたことがあった。
{ もしかして?、、、、間違っている? }


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