1-55 岐路

チエと和田は改札前近くまできた。
一瞬、チエは情けない顔をしている。
対の次に乗車チケットのチェックをしようと改札口にきていた下車客を和田は追い抜く。その下車客は、私たちの割り込みを{ 何、何、? } とばかりに目を白黒させている。
和田はその下車客に軽く会釈をしたあと、すぐにチエに言った。
「それじゃあ、チエ、払っておいてくれ」
「えっ?」とチエはキョトンとしている。
「お金は大丈夫?」と私はチエにたたみかける。
その改札口でチェックしている駅員がキョトンとしている。
「へっ!、、、 あっ、はい」突然だったのか、チエはしどろもどろになった。
和田は駅員に向かって「彼女が二人分を払いますから」と言い終わりながら、すぐにそのまま改札を通り過ぎた。

こんなことで戸惑っているようでは用事がすまない。
対と女を見失ってしまうのだ。
駅員もチエもポカンとして和田を見送っている。
こういうときはなんとしてでも誰かが尾行を続けなければならない。
伊豆高原駅はすでに薄暗くなっていた。
前方に駅を出た対と女がゆっくりと前の広場を歩いているのが見える。
和田は適当に距離をおいて歩いている。駅だからタクシーなどに乗られると尾行に失敗する可能性がある。なぜならば田舎ほど1台しかないか、あるいは1台も待機していないことがあるものだ。見回すと数台の車が停車している。
しかし対と女はそちらのほうに向かって歩いていない。
{えっ、、どこへ}それでも少しばかりホッとはしたものの気が許せるはずがない。
夏休みが終わった季節で涼しい風が吹いている。
駅前の広場のところどころには外灯が灯っていて、遠ざかるほど暗くなっていく。
前の二人は駅前広場を横断するようにゆっくりと歩いている。
{ どこにいくつもりだろう?、、、その先は何があるのか? 何もないようだが、、? }
と和田は目を凝らしてみる。もしかするとあの二人に向かえの車が来ているかもしれないと思って、和田は神経を尖らせているのだ。
もしタクシースタンドなら普通、駅前にあるはずなのだが、彼らは駅の広場の中央付近を歩きながら遠ざかろうとしている。
その先には車の1台も見えない。広場の端のほうに向かってゆっくりと歩いている。
今のところ誰かが彼らを迎えに来てきている様子も見えない。あるいはホテルからの送迎があるかもしれない。
{ どこへ行く つもりなんだ? まさか、目的地まで歩いて行くつもり? }
この広場には前方に歩いている対と女を追尾しているだけで、まったく人っ気がない。意識して尾行している和田にとっては非常にやりにくい。が悪いことに、彼らは広場の端付近まで行くと突然、立ち止まってしまった。
これはたまらない。{ これは、、、さらにまずいことになった、、、 }
こんなところで立ち止まられるとその後ろ側から近づいていた和田としてはやりきれない。
かと言って和田一人だけ、この広場にぽつんと立ち止まっているわけにもいかないし、、、、
「う~~ん」と思わず唸った。頭がカ~ッと熱くなってくる。
{ こんな広場のど真ん中で、身を隠すところがない、、、、どうしたら?、、、、あぁ、このままだとますます対と女のところに近づいていくばかりだ。でもそこまでなんとなく自然に歩くしかない? あっ、対が和田のほうを向いている。立ち止まるのもおかしいし、不自然なこともできないし、かといって近くになって対と挨拶?する? いや~~、、、、、、だいいち対のいる付近に何があるのだろうか、なぜそこにいるのだろう。何もないように見えるぞ。そんな何もないような見えるところに対と女がいて、そんなところに和田が向かうのも不自然かもしれない。これはまずい。相手に感じられずに尾行していたつもりが、、立ち止まっている相手のところに近づいている。対と女の周りには一人っ子一人いない場所だから見失ったら怖いと思う一途で追尾してきた。尾行というのはある程度までは近づいていなければ見失う。対と女が次にどういう行動するのかまったくわからない、周りに誰もいない夕方の状況。対と女が近づいた和田を見た場合、どういうふうに見えるのだろうか?
心細くなるばかりだが、かといってここから引き返すのも不自然だし、、、、この広場のど真ん中でずっと立ち止まっているのも誰が見ても不気味だろうし???、、、、、 
それにしても彼らが立ち止まったいるところには何があるというんだろう ?
それとも何もない?、、、確かに対と女の周りには何もないように見えるし、そこに近づいている私は余計、彼らにとって怪しくなるはず、、、、いっそここで立ち止まろうか?、、、、、
どうしよう?


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