1-37 転機

、、、その方法、、、、、
義三は経営していた印刷会社をたたむと同時に所有していた不動産を売却することにしたのである。昭和の高度成長時代に勧められるままに土地や購入していたマンションが、いくつかあった。そのいくつかの不動産を売却することでお金を作ることにしたのである。
バブルがはじけて数年しているものの場所がいいものなら、いまだ買い手がつく。世間で日本の不動産神話が崩れたという声が聞こえるものの、まだまだ頼りになるものだと実感することになった。それによって従業員の退職金や未払い金、さらに純一への投資資金をつくることができたのだった。
商売していればおのずと担保をつけ銀行からお金を借りることもあるものだから、義三もこの際、担保をつけ銀行から借りていた未払い金をその部屋も処分して返せたのだから、ほっと安堵をした。
それにお金の一部を娘婿へ投資することを考えてみれば、楽しみにもなってくる。
義三は自分の住んでいるところと少しばかりのマンションを残すことで、テナントさんさえ借りてくれてさえいれば、その家賃収入ですぐに生活に困るということはないだろうと思った。それよりも心配していたのは会社を閉めることへの従業員の反動だった。ところがその不安を感じないほど反発はあまりなかったのだから、胸をなでおろすことになった。
{ 幸運といえるだろう、、、 }と義三は思った。
巷では会社や店の倒産が多く見られ、マスコミでも「倒産」という言葉に慣れっこになっていたのだろうか。社員は{ このご時世なのだから何がしかのお金さえ貰えれば }という気持ちになってくれたのかもしれない。 
充分だとはいいがたいが、それなりの資金を義三は純一に提供することができた。
義三にとって投資というよりも純一夫婦に預けたという感覚ではあった。
娘の優子のためにもなることであり、いい機会だろうと義三は思ったのである。
一方、その頃、、、優子は変調が生じていた、、、、
変調、、、、優子は身ごもっていた。
心のどこかに姑の美佐子と別居することを望むようになっていて、、、、、
そのころ、、、夫、純一によって持ち込まれた独立の話。
独立して東京に拠点をもちたいという夫の言葉に優子の心は動いた。
{ もしこの時期に身ごもったことを姑の美佐子に知られたら、、、、東京への移転を反対されるかもしれない、、、、}
一方、姑の美佐子は、、、、、、
息子の見つけてきた優子がこの大坂に嫁いでくることになったころ。
最初、きれいなお嫁さんが来たという印象だった。
しかし、そうもいつておられなくなった。
年代の違いがあるものの同性が同居するということがしだいに違和感を生じるものだということを美佐子はあらためて知ることになる。
女の奥底に眠る心情を無造作になで触られたような感覚がときにあったのである。それは我慢できないといういうものではなく、かといって無視するほどあたりさわりのないものではない。忘れかけていた女の感情がふつふつと湧き上がるのだった。
美佐子は昔から悪い女ではなかった。むしろ気立てのよい女のほうだったと思われる。
しかし、優子が同居してしばらくするとしだいに温かみのある気持ちが捻じ曲がるような感覚をもつことがあった。
もちろん生活には嫌なことばかりでなく、むしろひさびさに女同士の楽しみ方もあったのだから、うれしい日々もあった。
しかし生活というものはしだいに微妙なずれを生じるものである。
若い人には若い人なりの考えはある。大阪と東京の生活観もあることだろう。
近所や知り合いとの接し方なども優子なりに慣れてくれることだろうと思った。
たが、小さな気がかりがしだいに大きな感情のすれ違いになっていく。
美佐子にすれば優子は日々の食費にお金をかけすぎていると思うし、優子は賞味期限が切れたものなら、まだ食べられるはずなのにすぐに捨ててしまうのが気になる。それにどこが汚いのかわからないが「汚い、汚い」という呟きが聞こえてくる。
優子が美佐子の話をどこか上の空で聞くようなことはちょくちょくある。
自分の息子の嫁なのだから、頭では仲良くしなければと思い、それなりに接しようとしてきたつもりだったのだが、、、、、
これが他人で、同居しないでお付き合い程度ならばうまくいくのだろう。
しかしひとたび身内となれば違う。
{ 傍目に仲良くしているように見える嫁姑でも、よほどのことがないかぎり心が通じているとはいえない }と美佐子は思う。
それでもこのごろでは、優子が子供を産んでくれれば、家族の絆のかたちが変わってくるかもしれないと一縷の望みを持っていた美佐子だった。
しかし美佐子は優子の変調に気づかなかったのである。
そのころ、、、、

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