1-31 埃の調査

チエは口惜しそうな顔をし、ソウルでの早苗の形跡は見つからなかったと報告した。
「そうか、わかった。それで由比、、君のほうの早苗の自宅マンションのほうばどうっだった?」
「あ、はい興味深いものがでました。監視カメラの画像では10月17日の朝早く、彼女がスーツケースを引っぱって自宅を出ていく様子が映っていました。これがそうです」
と言って写真を見せた。ハンドバッグを乗せ黒っぽいスーツケースを引っ張る小柄な早苗がマンションを出て行く様子が写されている。
「それで机の埃の調査の件なのですが、彼女は10月15日に机を拭いたと思われます。ところが、その机の上に置いていたと思われる何か四角いもの、バッグかB5サイズほどのパソコンくらいの大きさのものが10月21日ごろには無くなっているようです」
「それはどうしてわかった?」
「これが机の埃の数値データの変化を計算した結果です」と由比は和田に書類を差し出す。
「なるほど、しかし10月21日に彼女はシンガポールにいたはずだな?」
「そうです。彼女は現地のマンダリンホテルに再度のチェックインを予定していた日です」
「彼女はその日、シンガポールで豪華客船ピュアプリンセス号の船旅を終えて下船し、そのあとで、そのマンダリンホテルにチェックインする予定だったのだが、チェックインしていないし、キャンセルもされていないことがわかっています。しかもその日に彼女の自宅マンションの机の上から何かが無くなっている?」
「、、、ということになりますよね。他のものはまだわかりませんが」
「でその日の前後のマンションの監視カメラのほうはどうだった?」
「残念ながら、怪しい人物は映っていないようです。しかし、、」
「しかし、、、?」
「しかし、あのマンションには少しばかり欠陥が、、、」
「それは非常口の階段の出入り口のことだろう?」
「お分かりになっていたのですか?」
「あのマンションはオートロックになってはいるが完全に機能していない」
「そうです。ちょっと工夫すれば非常階段に通じるフェンスを乗り越える事ができる。しかもそこには監視カメラが設置されていませんよね」
「この君の調べたデータからみると彼女が机を拭いた日が10月15日で、10月21日ごろにパソコンくらいの大きさのものが、机の上から無くなっている。その10月21日に彼女は
シンガポールに滞在しているはず、、とすれば、、、」
「10月21日に早苗のマンションのこの部屋に誰かが入ってノートパソコンらしきものを持っていったということですか?」
「うん、可能性が高い。早苗本人は10月21日にピュアプリンセス号の船旅から、シンガポールの港で下船したばかりのはず。ただその日に市内にあるマンダリンホテルを予約していたはずだがチェックインしていなかったところがひっかかるよな?」
「まさかとは思いますが、早苗が21日の船旅を終えた足でシンガポールから日本へ帰って、その翌日の22日のDragon社とのアポイントの時間までにシンガポールまで、とんぼ返りするなんて、まるでサスペンス映画みたいなこと考えられませんよね?いや待てよ、早苗はなんらかの理由で日本に帰ってしまってシンガポールには再び行かなかった?しかしDragon社とのアポイントをキャンセルをしていない、日本の勤務先であるオフィサーソフト社にも連絡報告をしていないということは早苗の性格からして考えられない」
「理由がわからないし、だいいちそんなとんぼ返りすることは時間的に可能なのか?」
「もしかすると自宅マンションに置いてあるノートパソコンの中に重要なデータがあって、それをシンガポールまで持っていくのをうっかり忘れたとしたら、シンガポールでは仕事にならない。そんなみっともないことは勤務先にもDragon社にも知られたくない。とすれば急遽、日本に帰ってデーターを持ってすぐにシンガポールへ向かう?ことも考えられる。10月22日から始まるDragon社との仕事に間に合わせることができる?」
「そのことを豪華客船の旅の途中にでも思い出したというのか?」
「う~~ん?」
「それと早苗のマンションの監視カメラの録画には10月17日の朝早く、彼女がスーツケースを引っぱって自宅を出ていく様子だけが映っていた。他には映っていない」
「そうかなるほど。つまり彼女は帰国はしていない?しかし自宅マンションには戻らず帰国していたことはありえる。事実として21日に予約してあったマンダリンホテルにチェックインしていないことがわかっている」
「ピュアプリンセス号の船旅が終わって船から下りたあと、シンガポールにいた彼女はいったいどこに行ったというのでしょうか?」

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