1-8 輝き

 
「あの、、、、いらっしゃいませ、、、、たしか優子さんでしたよね」と宇多田は二人を前にして絞りだすような声を出した。
「あら、」と優子と早苗はキョトンとして宇多田の顔をまじまじと見上げたのだった。
その優子の愛らしい眼差しに宇多田は「いえあの、、、あの、、、」と答えにならない返事をし「いえ、以前、学生でいらしたころ、皆さんでいらっしゃっていたときのことを思い出したので、声をかけてみようと思ったのです。あのころ、ちょくちょくこの店をご利用いただいてましたから、、懐かしくなってしまって」
「まあ覚えていただいていたんですか、ありがとうございます。そうですよね。 もうあれから、ずいぶんになりますものね。その節はいろいろとお世話になりました」と優子は軽く、お辞儀をした。優子の向かいに座っている早苗も軽く頭を下げ宇多田を見つめた。
宇多田は優子のそのなつかしい声を聞いて本当にめまいをしそうになった。
優子の向かいに座っている早苗のことは目に入らない。そんな様子を感じた早苗がクスクスと笑い出し、「そういえば、思い出したわ。背の高い感じのいい人がいるなぁと思っていたんですよ。あれからずっとここで、、、、」と早苗は優子と顔を見合わせながら言った。
宇多田は「えっ、思い出していただけましたか? あのころはあまり、お話する機会がなかったものですから。こちらのほうには、よくいらっしゃるのですか?」と思い切って聞いてみたのである。
「そうですね。あれからあまり機会がなかったのですけれど、今日はこちらのほうに用事がありまして、それにこの店が懐かしくなって、、」
「ありがとうございます。またこちらにいらっしゃるご予定はあるのですか?」ともう次回のことを切り出してしまったのである。
「えぇ、そうですね。また近々、用事がありますので、伺うと思います」
「本当ですか?」宇多田は大きな声を出し、まるで子供のような返答だった。あまりの単刀直入さについ優子も微笑みながら答えた。「それにしてもここはいつも感じのいいお店ですよね」との返事にどう応えていいかわからず宇多田は照れに照れてその場を去ってしまった。
ひとしきり話をしたあと優子は「場所を変えようか」といい、早苗は軽くうなずいてすぐに支度にとりかかる。
じっと店の片隅でそれとなく様子を見つめていた宇多田はその様子に動転したが、とにかくレジに急いだ。
レジでは請求書を差し出した優子に「またお待ちしています」と宇多田は声をかけた。
「えぇ、、」との優子の片言の返事に宇多田は「あっ、はあ、、、」と答えにならない返事をしたが、「ちょっと待ってください」と懐をまさぐるようにして名刺を取り出し、急いでその裏に携帯番号を殴り書きしたあと、「どうぞ、、、」と言いながら、優子の目の前に突き出した。
宇多田は真っ赤になっている。
そばの早苗は「いただいたら、、、、」との声に優子は素直に従った。
「本当にまたいらっしゃいますか」との宇多田の問いに「えぇ近々、また伺うと思います」と優子が言ってくれたのである。
宇多田はその言葉に幸せをかみしめたのだった。
そして「本当ですか?」とさらにもう一度、念をおす宇多田に、早苗はそばで笑った。
「えぇ、、それでは、さようなら」言い、二人は店を出る。
蒸し暑い外はムッとする熱気が襲ってきた。宇多田もあとを追うように外に出る。
優子と早苗は「また来ますね」と言って振り返りながら手を振った。
その言葉に感動し、宇多田は二人の帰って行く後ろ姿をいつまでも見つめていた。
{もしかしたら時が味方し、天に通じたのかもしれない}宇多田は思った。
{ 優子さん、、、}と何度も呟きながら、、、

消え入りそうな  張り裂けそうな想いのたけ  

過ぎ去った日々が とてつもなく 長かった

僕の心の奥に灯していた あなたをいつまでも探していた  

あの輝きを見つけたとき 僕は生きる意味を感じた 

胸がつんときて 思いのたけが舞い上がる

いてくれるだけでいい  ただそばにいてほしい

すさんでいた僕の心 願い続ければ叶うことを知った 

輝きは私のもとへ  いつかは帰ってくる 

色とりどりの夏の日 もう行かないでくれ 

もう行かないでおくれ 

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