1-82 安心と安全とは

愛早苗は28才だった。あまりにも若すぎた。
人は大事がなければ老衰か、多くは病をもって死を迎えることだろう。
事故はあるにはあるが、まさか事件に巻き込まれることなど想像がつかない。
それに愛早苗のように他国でこのようなことになるのは考えられないことだろう。
「何故?」
愛早苗の父母と探偵社の和田および優子は、シンガポールの警察側から事情を聴かれた。
そしてシンガポール側は「この事件は特異性がありますので、もう一、二カ月をめどに内密に調査を続けさせてほしいという提案だった。それについては今回の事件に関わる手続きやそれらの通訳費用まで、それから遺体の帰国などについてもすべてシンガポール側が受け持ちます」とのことだった。
それにつけては早苗のご両親は、この事件の衝撃があまりにも大きく、しばらく返答に困っていたが、帰らぬ人となった娘にとってなんらかのことをしたいと切に願った。この事件の真相を判明させるためには、シンガポール側の提案を受け入れたのである。
シンガポールからの帰国の機内では早苗の父母はほとんど無言だった。
和田と優子は持ち寄る早苗の情報を交換するに至った。
和田からは早苗が嵐の台北での宿泊ホテルからコンサート会場に出向く際に撮った動画についての情報、つまり嵐の動向を映っていると思われる男性の画像解析などを進めていることだった。その解析などが済み次第、すぐに早苗のご両親と優子に連絡をするという。
優子からは親友の愛早苗がこのような状況になることに思いあたることがないこと。互いに同じ大学で知り合い、卒業後も仲良くしていたことなどの話をした。
早苗のような律儀な女性が、他国でしかもシンガポールのような安全安心と思われるような地域で事故死ではなく殺されたのである。しかも尋常の方法ではない。
シンガポールの街中では縦横無尽に監視カメラが設置されているという。
しかし周辺海域についてはそれほどではないという。
警察側によれば、問題がクローズアップされるかもしれないとのことだったが、そんなことを言われても優子たちにとって白々しく聞こえる話だった。ただシンガポールの警察がどのような調査力があるのかわからないが、何とかして真相を解明してもらうしかない。
しかし優子は帰国したら自分たちで何ができるのかを探りたい。まったくこの事件の結果だけしかわからない今の状況から何ができるのかを。結果という点があるのならばどこかに突破口が続いているはず。
今のところ探偵社の和田がその男の画像解析が済むのと台北での調査結果を待つしかないと思う優子だった。
矢も立っておられず優子は帰国してすぐに仲間を呼び寄せることになった。

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