1-132 医者と毒物

saveearthの打ち合わせの後はメンバーと久しぶりに居酒屋で痛飲した。
その翌々日、優子は5才になる娘の「ゆむい」を連れて九州に住む坂東医師のもとを訪れていた。
坂東医師と優子との縁はもうずいぶん昔のことだった。
女学生時代のとある日、優子が特に用事もなく歩いていると小さな医院の看板を見た。
別にその医院を誰かに教えられていたわけではない。
その頃の優子は、異様な苦しみを身体に感じることがあったが何が原因なのかわからないでいた。
体に力が入らず、不快な状態が続いていたのだ。
そのためにいくつかの病院を受診していた。
しかし医師の答えは優子の納得したものではなかった。
その証拠に処方された薬も治療も効果がなかったのだ。
それどころかさらに気分が悪くなったことがたびたびあった。
ある医者は「学校で何かあったのかな?」とまで優子の生活を尋ねようとするのだった。
そんな医者たちの診療を経験して、名声や建物の立派さはあてにはならないと優子は悟った。
この身体の苦しみを解き放ってくれる人がいるのなら誰でもいいと願うようになった。
そしてその日、偶然、通りかかった「坂東内科」の門をくぐってみたのだ。
一軒家風の門は古ぼけていて、受付に中年の看護婦さんが一人いるだけだった。
内装も古いのだが、小さなその待合室には何人かの患者がいたので少しは安心した。
案の定、長く待たされたあと、ようやく優子は診断を受けることになった。
小太りのいかつい顔をした中年の医者は優子の様子を診て尋常でないことを見抜いた。
すぐに検査をしようということになった。
「検査結果は翌々日には出ます」と言う。
「その時にお母さんと一緒にいらっしゃい。
すぐにどうこうじゃないけれど、このままほっておくと大変なことになるでしょうからね」と言うのだった。
さらに「内臓のどこか悪いところはあるようですが、まだ他にも問題の箇所があるかもしれないから、検査結果を待ちましょう」と言った。
翌々日、母とともにその医院に行ってみると果たして検査結果が出ていた。
ある臓器の状態が悪くなっているという。
これが優子と坂東医師との縁の始まりだった。
優子は坂東医師の指示するままに通院してみた。
そうしたところ疑心暗鬼だった優子の症状が薄皮を剥ぐように良くなっていった。
しかもこの医者の特徴は、「この症状はこうすれば何日で治ります」というのである。
言われるがままに治療を続けていると、前々日くらいまでは変わらない症状が、その指定した前日くらいから変化してくるのが不思議だった。
いかつい顔の坂東医師は意外にも丁寧だったし優しくしてくれた。
優子は毎日のように坂東医院に通ううちに坂東医師はいろいろな病気のことや自分が研究していることまで話をしてくれるまでなった。
それに食生活はずいぶん研究したようだった。
昔から伝わる食べ合わせの良くない例には科学的に根拠のあるものが多いという。
「○○の刺身と○○。◇□ と□◇。◇◇と☆☆など食べ合わせると体に良くないものや
調子が悪くなったり、癌を引き起こす可能性のあるものも結構あるんだよ」と教えてくれる。
世間一般に知っているものもあったが優子には初めて聞くような組み合わせもあった。
優子にしてみると坂東が何故、このような話をしたがるのかわからなかった。
教えられる優子自身も坂東の話を興味深く大学ノートに書き綴っていたのである。
坂東医師は「毒」について独自の研究もしていた。
ちまたに起きる毒殺事件では検体解剖など精密に検査をされるとさまざまなことがわかるという。
「優子ちゃん、機会があったら「X」を「Y」に入れてごらん、、それを飲んだら、人はどんなことになるか、死にはしないから、、大丈夫だから試してご覧、、、ふふふっっ、、」とそんなときはいたずらっぽく笑うのだった。
「私の研究は歴史と自然から学んだものだし、自分自身で実体験したものもある、、、
世に言う毒物研究家はたくさんいるけれど、ここまで研究した者はそういないだろう、、、」
と坂東は言っていた。
あれから、、、、、何年経ったというのだろう。
いつしか坂東医師は東京を離れ、九州に移っていた。
ここは熊本県玉名市のとある地、雲取川のほとり。
そこは草むしりをほとんどしていないような小さな畑とその隣にはたくさんの鉢植えで囲まれた何の造作もしていない古めかしい木造平屋建ての一軒家だった。
「坂東先生、娘のうむいのことなんですけど。お医者様からは自閉症ではないかと疑われておりまして、、、」と優子はいままでの経過を話していた。
ゆむいは優子の隣の椅子に座って静かにしている。
坂東は優子の隣にちょこんと座っているうむいをじっと見つめた。

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