1-88 深い闇

織江は優子と共にシンガポールへ向かうことを希望し、今二人とも機内にいる。
早苗と同じようなスケジュールを組んで出発は金曜日にした。

2009年10月18日(日)に現地のマンダリンホテルをチェックアウトする予定にしている。早苗の行動した一年前と同じ日に出発し可能な限り、宿泊も観光もツアーも同様に設定したのである。
早苗は2008年の10月18日(土)の午前中にシンガポールのマンダリンホテルをチェックアウトして、ホテル前に停車していたタクシーに乗って豪華客船ピュアプリンセス号の寄港地付近にて下車した。
18日(土)から21日(火)までシンガポールの港の発着で、その豪華客船の船旅を楽しんでいる。
18日(土)の午後1時から、豪華客船ピュアプリンセス号の乗客予定者は乗船を開始している。
早苗も乗船した。次の寄港地であるマレーシアのペナン島に向けて出航。
19日(日)の午前中、下船を希望する観光客はマレーシアのペナン島にて下船。早苗も下船。観光した後、観客全員がふたたび乗船する。早苗も乗船。夜、次の寄港地であるタイのプーケット島に向けて出航。
20日(月)午前中、停泊地であるプーケット島にて希望する観光客は下船することになる。
早苗は下船していない。夜間にピュアプリンセス号は、シンガポールへ向けて出航する。
21日(火)午前中、3泊4日の旅を終え、シンガポールの港ですべての乗客とともに早苗も下船している。

21日に再びマンダリンホテルに予約してあったがチェックインもキャンセルの連絡もなかった。
優子と織江は早苗のたどったスケジュールについて打ち合わせをした。
通路を隔てて左側の席ではシンガポールへと向かう日本人の男の子とその母親が仲良く戯れている。

何とはなしに幸せそうに感じられる。
機内はほぼ満席に近い状態だった。その当たり障りのないざわめきが、そろそろと疲れ気味の優子と織江の眠気を誘っている。
おおよそ5300㎞を約7時間ほどのフライト予定である。
あまり眠る時間はないだろうが、シンガポールに到着したら、いろいろと忙しくなることだろう。
優子の右隣の織江はいつのまにかかすかないびきをかきはじめた。
優子はいつものように呼吸を少しずつ深くしていき、力を抜いて瞑想に入っていく。
{ 早苗はいったいどういう気持ちになったことだろう。おそらく当初は「まさか自分が、、、」という気持ちだったのではないだろうか。相手に対してまったくの警戒心がなかったのではないだろうかと思える。
しかし自分の身に危険性が迫ってきたことを感じたその時々に、どのように相手に対して反応していったのだろうか } 瞑想の中で想像が目まぐるしく浮き出しては流れていった。
まるで何も具体的な要素がないままに暗闇の中に深い霧が立ち上っているようだ。
優子はそれを打ち払おうとしている。しかしたとえ霧が無くなっても暗闇は明けることはない。すべてが無駄なように思える。
早苗の身に危険性が増していった時のことを想像するとあまりのことに身につまされてしまう。息ができないくらい、ショッキングなことを考えては渦巻いては思考が停止してしまうのだ。
「血涙」という言葉がある。そのことを今回ほど身近に感じたことはなかった。思わず苦しいくらい顎に力が入る。
{ あぁ、私にはこれから何ができるというの。死んでしまった早苗に対していったい何が、何ができるというの? }
いつのまにか優子は深い闇の中に沈んでいった。

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