1-66 家族の問題

今日の夕食は君江と光男とゆむいは同じテーブルで食事をした。
二人は初めてではないのにまるでめずらしいものを見るような様子だったし、意識しているせいかちらちらと互いをうかがう感じが君江にはおかしかった。
光男は日頃から用事がなければ君江たちに話かけようとはしないから { たまにはこんな刺激が光男には必要なんだわ } と君江は思う。
しかし夕食を済ませた光男のそそくさと自分の部屋に戻って行く姿を見て { 相変わらずだねぇ } と君江はあきらめぎみである。
おとなしすぎる孫のゆむい。ひっそりと自分の部屋に引きこもっている息子の光男。調子が悪くて臥せぎみの夫の義三。嫁いでいった優子。考えてみれば誰一人として君江の話し相手になってくれる者はいないらしい。 { それでも私の話し相手になるのはせいぜい優子ぐらいかしら。結婚しても娘は娘、それに女同士だし、、、、 } と君江は思う。
久しぶりにうむいとお風呂に入ってみると、いまさらながら家族というものの絆を感じることができた。お風呂でのうむいはおとなしいのだが、今日は機嫌がいいのを感じる。ゆむいなりにはしゃいでいる様子に思わず君江は微笑んだ。つぶらな瞳でまれに見るかわいい子なのである。君江は生命のほとばしるようなゆむいに触れることで、自分が歳をとったことにも気づかされるし忘れもできる。思わず微笑みながら{ まるで自分だけは歳をとらないとでも思っていたのかしら?自分もうむいと同じように幼い時代があった。青春の一瞬の回帰とともに今の君江は不思議さを感じている。しかしこうしてゆむいとじゃれあっている自分がまるで小娘のように浮き立つ気持ちを覚えるのはなぜだろう?女同士だからだろうか? 生命をいとおしむかのようにゆむいに微笑みかける君江だった。
{ しかしそれにしてもこんな子はみたことがないわ } とゆむいの様子を見て、何となく普通の幼い子とは違うものを感じている。ゆむいに話しかけてもほとんど応答はしないが、君江のしゃべっている意味をゆむいはほとんど理解しているのがわかる。 { それにしてもなんてかわいい子だろう } と微笑みかける君江だった。
今夜の君江はうむいと一緒のベッドで寝ることを楽しみにしている。
この間、うむいを泊まらせた晩に、うむいの寝顔を見て君江は驚いた。その目じりには薄く涙の後のようなものがあったように思えた。そのときの驚きと夢でも見て涙したのかとも思った。
いまだに何故なのかはわからなかった。
うむいを寝かせたあの部屋は結婚前、優子が使っていたもので、今晩もそこで寝るようにしてある。
隣の部屋では義三がいつものように本を読んでいるのだろう。
いつもは深夜まで読んでいて、いつのまにか眠ってしまう習慣なのだ。
何かあれば呼び鈴があるし、新しい水差しも置いてきた。習慣的に水差しと本は欠かせないのだ。
別の部屋では光男がまだコンピューターと遊んでいるのだろう。
さっきお茶を持っていったとき、相変わらずパソコンとにらめっこしていた。
光男に話しかけてもありきたりの返答である。
光男は25才にもなっても将来が見えないらしい。
{ 私たちに何かあったらどうやって生活していくのだろう? } と君江は心配する。
優子は片付いたけれども光男だけが、社会から一人、取り残されているように見える。
{ 何を考えているのだろう? いったいどうしたらいいというのだろう? }
小さいときは普通の元気のいい子だったのだが、中学校のころから寡黙になっていったように思う。光男をかわいいと思って甘やかしていた私たちが悪かったのかもしれない。
夫の義三も仕事にかまけて光男の相談には乗ってくれなかった。
いつしか光男は高校に行かなくなってしまったときだけ、少し揉めただけ。
義三は「高校に行かなくても家業を継いでくれるのならいいんだよ」と言っていた。しかし君江は光男のお尻を叩いて高校を卒業させ、大学にまで行かせることにしたのである。たとえ大学は三流にしても社会の中で揉ませることが必要だと思ったのだ。
そういう流れを敷いてやれば、いろいろなことを経験せざるをえないはずだし、外に出るようになれば何かの機会にめぐりあうとも限らないのだ。
そんな考えで君江は光男をなるべく外に出るように仕向けていった。
ところが光男はいつのまにか大学そっちのけで趣味のパソコンに没頭するようになったのである。光男はパソコンでゲームをしたり、インターネットを見ることが好きらしい。そういう時代なのだろうが、部屋の中で引きこもっている光男に何かしら不安を感じる君江だった。
そこで光男に対してパソコンをする条件に大学に定期的に通うことと外でバイトをする約束をさせたのである。光男の大学のほうはパソコンと関係することがあるのか、ときどき通ってはいた。しかしバイトのほうは怪しかった。
{ いまどきの若い人はこうなのかしら? }
しばらくすると光男は黙ってバイトを辞めてきて、いつのまにか部屋に引きこもっているのだ。そうこうするうちにこんな光男でも大学を卒業できたのである、、、
やっぱり一流ではなかった。卒業しても就職活動をしたようには思えない。
ただテレビで見るような家庭内暴力になっていないのがせめてもの救いなのだが、、、、
光男がどのように自分の将来を考えているのかわからない、、、、。

どこの家庭でもそれなりに苦労はあるだろうが、君江もなかなか家族の不安が解消されないし、いまだ解決の糸口が見つからないのだ。そのうち私だってさらに体が弱っていくことだろう、、、

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