1-111 幸せへの道

それは優子にとって思わぬことだった。
早苗が辿った心の軌跡を追憶することは、事件の真相を追求する以上に優子を考えさせた。
早苗が悲惨な死を迎えたことに目を奪われて、その事件の真相だけを考えていた優子たちだった。
しかし全く考えもしなかったことが、早苗の心の中で起きていたのだった。
人が肉体上に起こせることには限りがある。
けれども人間が成し遂げられる心の作用は想像を超えていると思う。
早苗が悟ったと思われる状況を考えたとき、優子は、自分自身が映し出されたのである。
{ あぁ、なんていう自分だったのだろう、、、、、
、、、こんなことでいままで私は生きてきたんだ。
自分が幸せになりたいと思っていたことはいったい何だったのだろう。
こんなずるい甘い考えで、本当の幸せになれるなんてなれるわけがない。
このまま自分を省みずに死んでいくはずだったのだ。
人間は誰でも理由があって生まれてきたのだとは思っていた。
けれども真剣に考えもしていなかった。
形だけの生活で座禅をしたり瞑想をしていたように思う。
自分に甘すぎていた。
そんな自分だから、テレビやマスコミでお金持ちの様子を見ると嫉妬したこともよくあった。
嫌なことをされると悔しくなって、その相手と敵対したり。
誰かが他人の悪口を言っているときには、自分も加わったこともある。
姑にも嫌な言葉を言ったこともあるし睨みつけたこともあった。
夫にも侮蔑の言葉を投げつけたこともあった。
何も言わないでも夫婦なのだから、それぐらいわかることだろうと思っては、夫が自分の思い通りにいかないと苛立ったりしたこともあった。
夫婦での優しい会話が少なるはずだった }
考えれば考えるほど嫌な自分が蘇ってくる優子だった。
{ あぁ、、、なんていう私だったのだろう、、、、}

人は災害や事故や事件に遭遇する。 

もう、立ち上がれないと絶望するかもしれない。

しかし、人は立ち上がることができる。

すべては繋がっている。
早苗の事件は確かに悲惨で不幸だった。

しかし早苗の死は示唆している。 

人の心は不可思議なものに繋がっている。

命の根源へと繋がっている。


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