1-165 生命の輝き
外の暗闇から目を室内に移すと明るい足元が見えた。
傍にはうむいが眠っている。
再び暗闇を見つめ直すと遠く小さな星々だけが見えた。
まるで宇宙船に乗っているような感じがする。
窓から見える真空のはてしない漆黒の広がりには生命は存在しないように見受けられる。
見つめていると対処できない恐怖感が増してきて、じっとしていられなくなる。
もし暗闇に一歩でも踏み入れたとしたら、あっという間に奈落の底に落ちてしまうだろうと思えた。
人は孤独感を持ちながら本当に親身になってくれる人を探している。
悲しみや苦しみのときに助けになる人がいるだろうか。
弟の光男が高校までどういう気持ちで生活していたのか優子は多くを知らない。
鬱屈した自分から抜け出したい。
いじめや裏切りに耐えられなかったかもしれない。
自分を変えたいと望んでいたのかもしれない。
だが自分自身の不満の多くを解決できないままに、目の前にはさまざまな問題が持ち上がる。
自分がままならないのに問題が立ちはだかるのだから、立ち往生してしまう。
弱点と思われるところをつけ込まれることもある。
もう先がないように思えたかもしれない。
もし頼れる人がいないと感じていればどうすればいいのだろう。
籠りがちな人ほど誰にも相談したくないかもしれない。
それに誰かに相談しても苦しみを誰かが代わってくれることはない。
結局は自分で解決しなければならないのに解決の糸口さえも見つからないときは、再びその暗闇を見つめるしかなかった。
ただ苦しみが深ければ深いほどその暗闇の恐ろしく嫌な時間が永遠に続くものだと感じられる。
なぜこうなってしまったのだろうと悩み続ける。
たが、しばらく見つめているとある光があることに気づいた。
それは足元にあるわずかな灯りからのようだった。
それを見ると一時的にはホッとした。
そしてまた再び、あの恐ろしい外の暗闇に目を移す。
漆黒の無機質から、なぜこんなに恐怖を感じるものなのだろうかと考える。
長い時間が過ぎた。
すると暗闇の中に動きが感じられた。
目に入ってきたものがあった。
それは白と青色に彩られた丸い形の天体のようにみえた。
それは暗闇の中に光を帯びて燦然と輝き異彩を放っている。
{ なんと美しく輝かしいんだろう。これって、、}と優子は呟いた。
宇宙という暗闇の中にぽっかりと浮かんでゆったりと見えてきたのは地球のようだった。
その天体は、まるで自らの光を発しているように見えた。
宇宙という漆黒の暗闇の中で毅然と輝いている天体とのコントラストは美しかった。
その鮮やかさが、暗闇の中の唯一の生命体のように観えた。
人類が初めて宇宙旅行した際に地球を表現した言葉に嘘はなかったように思える。
{ あぁ、、生きている 〕
優子は心に灯火が灯ったように感じている。
山の中に迷って迷って、もうどうしようもなくなったとき、遠くに一軒の家の灯りを見つけたように。
しばらくすると、その巨大な天体には色の変化が現れてきた。
白と青の色彩に見えたものから、しだいにオレンジ色に変化していき、さらには真っ赤に彩られていく。
そして赤い彩りから炎が吹き出しているように見える。
優子は、その動きをじっと見つめていた。
まるで意味するかのように勢いのあるその炎は天体全体をたぎらせている。
その天体の燃え盛る炎の様子に優子のすべての意識は吸い込まれていった。
{ あぁ、、、 } と心が呟いた。
と、そのとき、、、
優子は我に返った。
優子は朝の食事をしたあと、後片付けをしないままに椅子の上で眠りこけていたのだった。
最近の眠れない日々が、まるで一気に昇華したようだった。
娘のうむいの両手は母の優子の太ももに置いており、じっと見上げている。
優子には不思議な感情が生まれていた。
あの燃えさかっていた天体の様子に優子が求めていたものがあったように感じていた。
優子の瞳は潤んでいた。
その涙が、優子を見上げているうむいの頬に落ちた。
太陽のように燃えさかっている天体の様子が何を意味していたのかは、よくはわからない。
ただわかったのは、初めて経験する感動が優子の身体を貫き充満させていることだった。
生命が感じられない漆黒の暗闇の宇宙に存在する美しく輝かしい天体。
あの天体は生命そのものだった。
しかも力強い生命力を内在させていた。
その生命のほとばしりが、天体の色彩の変化と燃えさかる炎のように観えたのだと感じた。
その炎の様子には意味があった。
メラメラと深紅に燃えさかる生命力は、優子に熱い眼差しを与えていた。
人生は無数の星々が存在する宇宙を旅しているようなものかもしれない。
その旅の途中、帰り道を見失って、いつまでも彷徨うことがあるかもしれない。
苦しみもがき、どうしようもないと思うときがあるかもしれない。
しかし、すべての悩みは解決できるようになっている。
確かに暗闇や陰影や病や死などは存在している。
しかし、あの燃え盛る生命の輝きは暗闇を照らし、陰影を無くし、生きることを明らかにしていると感じている。
まるで苦しみなどないかのように。
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