1-109 Love

一年くらい前に優子と早苗と二人で池袋の居酒屋で飲んでいたとき。
隣のテーブルでは、数人の男女学生が議論をしていた。
その学生たちの中に「ミハナエリカ」という可憐な女性がいた。
お酒の勢いもあったが、学生たちの議論は至極真面目に白熱していく、、。
この世には良き人たちがいる。
その一方であからさまに嫉妬したり、いじめたり、暴力を加えたりする人たちがいる。

引きずり落そうとする。

それに加えて一部の利益や利権を望む人たちが機会をとらえて動き出す。
さまざまな多様性のある人々がおりなす世界。
どこの国でも地域でも組織でも、少数の人たちが一部の人たちを巻き込んだり扇動したりする。
平和だった人たちまでが偏見を持ってしまう。

差別してしまう。

いつのまにか紛争や戦争に巻き込まれ、互いに殺し合いまで始めてしまう。
すると憎しみの連鎖が続いてしまうことにもなる。
これらは国家間や民族間や地域間だけではなく、人と人との間でも同様なのだ、と。
そのような学生たちの議論を隣で聞いていた優子と早苗だったが、なにかしら人の哀しみに触れたような気がしていた。
そんなときミハナエリカが人の底辺に流れる孤独や愛を語ったのである。
優子と陽気に話しながらも隣の学生の話を耳にしていた早苗はふと涙がこぼれ落ちた。
自分の境遇に重ね合わせたのであろうか。
それとも、、、、。

何かを予知でもしていたのであろうか。
居酒屋の喧騒の中で早苗の様子を見た優子はしびれてしまった。
その二人の物静かな哀しさの様子に気づいたのが、ミハナエリカだった。
そしていつのまにか三人は、まるで寄り添うようにして涙が止まらずにいたのだった。
ただそれだけのことだった。
そんな早苗が、その数か月後には事件に巻き込まれて亡くなってしまった。
優子は亡くなってどこかにいる親友の早苗がシンガポールへと自分をいざなってくれているのだろうと感じていた。
何かを伝えたくて。
優子は同乗している母と幼い聾唖の男の子の席に向かった。
そして早苗の亡くなった時の手の形をして見せた。
それを見た母親は、それは「あ」と「い」だろうという。
思惟をめぐらしていると優子には感じるものがあった。
それは日頃から使っている愛という言葉とは違うような気がした。
愛は言葉だけではなかった。
知識だけでもなかった。
見た目だけでもなかった。
「愛」
早苗は生死と共に「愛」の真実を悟ったのだ、と思う。
憎しみ、憤り、孤独、理不尽さも負の連鎖も超え、生死の真っただ中にいながらにして生死を忘却した。
忘却してはじめて「愛」の本質を悟ることができたのに違いない。

忘却して生死を離れた。

生死を離れれば時空次元はない。

それは「愛」の存在だった。

最後の最後に早苗は「愛」を得て救われたのだ。

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