1-95 嘘

「気づいた?織江」
「うん、あれねっ、、、あの男、、、」
ジュリアのそばには正装した中年の男性が控えている。ジュリアが笑顔を振りまいて周りのお客たちと話したり、一緒に写真を撮ったりしている。その男はジュリアを隣でサポートかときには通訳でもしているようにも見える。
「ペナン島の子供たちがパンフレットでこの人って指さした男、、、あれは、、オフィサーソフト社とDragon社との合同プロジェクト用のパンフレットだったわ、たしか、、Dragon社側に載っていた男性よ。つまり早苗とシンガポールで仕事の打ち合わせを予定していた人、、Dragon社の担当者ってことよね?」
「おそらくね、あのパンフレットの男に違いないわ。しかしなぜここに?」
「ということは、ジュリアはDragon社の社長か上司っていうこと?それとも?」
「去年(2008年)の10月19日、早苗はマレーシアのペナン島でこの男と会っていた。あの男の運転する車に早苗は乗って行ったのを子供たちは見ていた」
「ということは10月19日にペナン島で早苗とDragon社のあの男は会っていたはずなのにそのことを警察にも誰にも話をしていない。
22日にDragon社との約束時間に早苗が現れなかった。しかし連絡もつかないと言っていた。それにDradon社側は早苗のシンガポールでの行動はまったく知らなかったと言っていた、、、」
「織江、、、ちょっと、、、」と優子は顔を寄せた。
ジュリアはある老年の男性の前になると立ち止まった。
その老年の男性はジュリアに丁寧に「お誕生日、おめでとうございます」と挨拶をしたあと、自分の名前がアデナウアーで、アメリカから来た医者であることを名乗った。
隣には友達であり新聞記者でもある男が、そのドクターアデナウワーについてジュリアに紹介した。
ドクターアデナウアーはこの度、東南アジアに流行の兆しのある新型のインフルエンザとウイルスの調査を行ってきて、その調査も無事を終えたというのである。ここで帰りに短いバカンスを楽しんだあとにアメリカに帰国し、ドクターが開発を進めている画期的な新型インフルエンザとウイルス対応の新薬について製薬会社と契約をする手筈になっていることを紹介する。その新聞記者はアジアに来る前までのヨーロッパ各地の医師会における説明
会を行った新聞記事の切れ端を見せた。
ジュリアは非常に神経質なたちだった。一人っ子で幼いころから大切に育てられていたということもあったが、特に病気については敏感すぎるほどだった。常にどこに行くにもいろいろな薬や消毒薬やサプリメントなどを携行している。
ジュリアは「ぜひ帰国を延ばしていただいて、私の家に招待させてほしい」と英語で言うと、その旨をジュリアの隣でサポートしている男に再度、言わせたほどである。
しかし微笑んでいたドクターアデナウアーはスケジュールがいっぱいとの理由で丁寧に即座に断った。
「織江、、それじゃあ、、、あの列に並ぼう、、、手筈通りに、、、、」
「OK、、、集中、、、集中、、」
ジュリアに向かっている行列に優子と織江は並んだ。

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