1-90 エグゼクティブのウェルカム

優子と織江は船着き場に到着すると、そのタクシー運転手に丁寧に挨拶をして別れた。
午前11時の乗船にはまだ間があった。
その船着場建物の構内に入ると長い行列がいくつか見えた。すでにたくさんの人たちが順番を待って並んでいるし、軒を連ねた土産品店などでは時間待ちの人たちが買い物をしたり軽い食事をしている。旅行者がやはり多いように見える。
約一年前、早苗はピュアプリンセス号の見栄えの良い部屋をインターネットで予約していた。
なぜその高級な広い部屋を一人で予約していたのだろうか?
誰かが合流することになっていたのであろうか、それとも一人で豪華に過ごしたかったのだろうか?
構内の様子をしばらく眺めていると並んでいないところがあって、そこに行ってみるとそこが目的のエグゼクティブの窓口だった。早苗はこのエクゼクティブの窓口を通ったに違いない。
優子たちもここに並ぶことになる。しばらくするとすぐにその出入り口から人が現れる。
チケットを見せると、「しばらくお待ちください」と言って、イヤホンマイクで話をしている。すると男性が近寄ってきた。
「お客様の中には、エグゼクティブクラスの方とジュニアースイートの方がいらっしゃいます。お客様はオーシャンビューサイドのお客様ですので、12:00からのチェックインも沢山の人が並ぶ列とは全く違うカウンターです。通る通路も違います」という。
しばらくするとクルーが現れる。
「ご予約の、、泉優子さんですね」と日本語で話しかけられた。
「村木と申します。日本人です。よろしくお願いします」
「あっ、、はい、、よろしくお願いします」
「それではパスポートを見せてくださいますか」
パスポートを見せると、「ようこそいらっしゃいました、お気兼ねなく。どうぞ、こちらへ」と案内される。

「あの、、、日本人のお客さんは結構いらっしゃるということですか?」と優子は単刀直入に聞いてみた。
「そうです、、、結構いらっしゃいますよ、、、これからこの船の旅でお困りのことがあったら何でもおっしゃってください。

いろいろとご案内いたします。お食事の予約もできますし、ツアーもいろいろあります、、、、」
「ツアー?、、、そうでしたね、、、たしか3ヵ所に船が着くんですよね」
「ええ、プーケット、タイ、インドネシア、この船はご存知のように3箇所に寄港しますから、それぞれのおもしろい体験ができるんです。詳しいことはまたあとでご案内できます」
「ありがとうございます」
話をしているうちに曲がり角を過ぎる。
そこここで客船に向かて歩いているお客にスタッフが笑顔でウェルカムの挨拶をしている。
さまざまな色とりどりの衣装で着飾ったスタッフもいる。ぬいぐるみを着たスタッフたちが子供たちと一緒に写真を撮り、風船をあげると「ウァーッ」とうれしそうに歓声を上げている。家族連れであったり、恋人同士であったり、優子たちも写真を撮られる。なんとなく気恥ずかしかったが、半強制的に写真を撮られているのである。しばらく歩いていくと乗船することになる。
「この長い廊下を歩いて行くとそのまま船のメインロビーに入っていきます。ヴァーゴ(建物と解釈)は13階建の巨大ビルの中を横へ動いて行くと考えてください。全長200メートルの中央パティオ( メインホール) には3基のエレベーターが動いています。船前方と後方にはそれぞれ3基ずつのエレベーターがあります。
こちらへどうぞ、ここがこちらがパティオです。このパティオではウエルカムドリンクが出されますが、乗船後に直接ここに入ってこられるのは、オーシャンビューサイトのお客様以上の方々のみです。
「どうぞ、、、お飲み物はいかがですか? 」と勧める。きれいに着飾った女性がたくさんのシャンペンの入ったグラスを乗せたトレイを持っている。言われるがままにシャンペングラスをもらい喉を潤す。
「こちらでは無料のいろいろな食事がございまして、有料のものもいくつかあります。人気があるものは予約をされたほうがいいものもありますので、ご遠慮なくおっしゃってください。私のほうから予約いたします」
しばらくするとそれでは、、いかがでしょうか、これからお部屋へご案内します、、、どうぞ」
狭い通路を歩いていく。
「お客様のお部屋はもう少し先で奥のほうになります」と船の先頭に向かって歩いていく。
ところどころの部屋が開けっ放しになっていた。
窓がない部屋、丸い窓がある部屋などところどころ、そこからお客が出入りしている。
「こちらはギャラリーです。壁一面にスタッフが撮ったお客の記念写真が貼ってありますように、船内にはいたるところに写真屋さんがいて、記念写真を撮ってくれます。それがこのギャラリーに張り出され、お好みのものを購入できます。


しばらく歩くと「こちらです、、、このカードで開けるようになっています」とすぐにカードを差し込んだ。
「ドアは自動でロックされますので、カードをお忘れにならないようにお願いします」
ホテルと似たような方式だった。
部屋に入ると、空調やセッティングの仕方を教えてくれる。部屋は二つに仕切られている。応接室とベッドルームになる。応接室にソファ、テレビや冷蔵庫など一通りの電化製品が備えられている。隣の部屋はベッドルームになる。そこには大きなジャグジー備え付けのバスがある。ベッドはダブル。この部屋はスィートルームだった。ベランダがついており外に出られるようになっている。ベランダ側のドアは丸い回転式のノブを両手で回転させ、まるで潜水艦のハッチを開けるようにすると開け閉めができるようになっており、ベランダに出られる。頑丈なつくりに見えた。
「なにかありましたら、24時間体制ですのでいつでもご連絡ください、、それでは失礼します」と言って、去ろうとした。
「あの、、、」
「はい、、、、」
「実は私たち、意味があってこの部屋はリザーブしたのです」
「???」

よかったら、以下のクリックをお願いします。
にほんブログ村人気ブログランキングへ

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です