1-76 例外

優子は二つ折りにした座布団を敷き、お尻の後方半分くらいを乗せ、半跏趺坐(はんかふざ)の足組をした。前方に倒していた上半身を静かに垂直方向に起こしてゆく。
腰椎下部をぐっと前に出すようにして左右に揺らしながら天と地の中に身体を安定させる。
呼吸を整える。
時間にして30分ほど日課にしている。
まだ家人は静かに寝ている。


夫の帰りは遅く、それに加えて一週間の半分くらいは出張するようになっている。
ただ自宅にいるときの夫は朝食を食べてから出かけていくというのが習慣なので、むしろそれを用意しないと大変なことになる。たとえ夫が不機嫌なままの朝を迎えても、朝食をともにして送り出すことにしている。優子は味付けには自信がある。夫はどちらかというと和食党なのでお茶や味噌汁は欠かせない。いつものようにほぼ決まった時間に夫は朝食を摂り始めるから用意しておかなければならない。そして優子は夫の世話をしながら同じようにテーブルについて食事をする。もともと会話が少ないから、食べる時間は短い。案の定、今日も新聞を読みながら純一は朝食を平らげた。
そして何事もなかったように純一は出かけていった。
優子にとって純一が会社に出かけたあとの静かな時間を心待ちにしている。優子はうむいの世話をすることで気が休まる。夫が出かけたあとの朝のテレビニュースが自然と優子の耳に入ってくる。やっと気持ちが落ち着く時間帯なのだ。
女性ニュースキャスターは親が子供を虐待しているニュースを声高にしゃべっている。CMをはさんだ後、スマトラ付近で小さな地震が続いていて大きな地震の予感をにおわせるような報道が流れ市民の不安が増しているそうだ。その次のニュースでは娘が親を毒殺しようとしたとの報道を始めている。 { 娘が自分の親を毒殺しようとするなんて } 優子は食い入るようにテレビ画面を見つめている。以前、毒入りカレー事件やトリカブトだとか、砒素だとか、、いろいろな毒薬に関する事件を耳にすることはあった。世の中には毒物がたくさんあることは優子も知っている。それにそれらを利用した世界中の毒殺事件というもの、あるいは国家によるもののほとんどが発覚しているし、それらは現代の科学技術では解剖や検視をすれば証拠が挙がってしまうものなのである。
しかしほんの限られたプロフェショナルだけが知っている。
{ 、、、、、、解剖をしても検視をしても確たる証拠がなく、つまり発覚しない、、、、、、}
それはあることが縁で知った。
優子はどちらの方向へも行くことができる。
夫、純一の仕事は軌道に乗り始めたようである。あるプロジェクトが進んでいるらしいとの調査結果をもらっている。
優子はその後の夫の浮気相手との動向を知りたいという女の部分を感じてはいた。

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