1-75 野望

幼き頃から大きな病気なったことはなく健康だと思っていた純一。
しかし最近の身体の調子が何が何だかわからないでいる。いつものようになんともない状態がほとんどなのたが突然、少しずつおかしくなってくる。そしてついには立っていられずどこかに横にならないといられない。しかしある程度、短時間で何事もないようになる。{ いままでのものは何だったんだ } と思わせる。普段と同じように食欲はあるし、睡眠は少ないほうだが寝つきは悪くない。運動はほとんどしないまでもそれは昔と同じだ。だからストレスなのかなとも思える。
どちらにしてもいろんな医者に診せてもどの医者もはっきりしない返答だから始末が悪い。こんなことでくよくよしてもいられないのだ。
大理石調のバスルームから戻った奈美を見ながら、タバコに火をつけ、かすかに流れ行く紫煙の行く末を眺めていた。
{ 、、ふふふっ、、、、}純一は思い出し笑いをする。
ふぅ~っと漂うタバコの煙の跡にさらに息を吹きかけた。
大阪梅田にあるホテルオークタワーの上層階の部屋に二人はいる。
高層のこのホテルの部屋からは夜の梅田の街が180度の展望で見渡せる。
「契約が無事終わってほっとしたわ、、投資したかいがあったというものだわ、、」と奈美は街並みを眺めながら呟いた。
エアプリティ社とクリーンシェア社との「エアドウ」のプロジェクト契約は完了し、クリーンシェア社から純一のエアプリティ社の銀行口座へは高額の契約金が振り込まれた。
いよいよこの空気清浄機「エアドウ」が来月から本格的に動き出す。
するとその売り上げに応じてロイヤルティが次々と純一の会社銀行口座に入金されることになるのだ。
「お前には金はまわせられるが、、もう少し待て、、、」そう言いながら純一はシャンペングラスを一口で飲み干した。
今回の商品を開発するヒントは純一の勤めていた元の会社にあった。
技術畑の純一は空気清浄機の開発研究の主軸メンバーの予備所員として手助けをしていた。その商品開発の主軸になる研究開発所員たちが毎日、改良に改良を加えて、何度も何度も失敗しては改善し開発していく姿を横で見ながらうらやましいと思っていた、そばで見ていた純一は { こうしたらいいのになぁ } と思うことがたくさんあったが、そのエリートの開発部からは一定の距離をおいている立場の自分としては黙していた。しかし次第に会社内での派閥間の波にもまれ、上司とか同僚とかの人間関係にもうんざりしていた時期がおとずれる。
そのころ、純一は自分なりに考えたアイデアを特許庁に提出することにしたのである。お金がたくさんあるわけではないので特許手続き書類も自分で作成し特許庁に提出した。特許は提出しただけでは許可はすぐに下りない。審査請求をして数年かかったが、忘れていたころにようやく特許許可になったのだった。そのころ勤務先では「早期退職者募集」という通達が発表された。心が動いたのである。
純一はあのときの感慨深いものが脳裏をよぎっている。
しかしこのチャンスに油断は禁物である。

契約金が振り込まれ、実際に販売開始になってもそれはそれなりにいろいろな問題が起きることだろう。
もしかするとライバル会社やマスコミの密偵がうろつきまわっているかもしれない。
人間の情報漏れやいたずらなうわさは小さな会社にとって痛手になる可能性もある。
念のために東京から離れて二人、会う事にしたのはそういう意味があったのである。
純一と奈美は日にちと時間を違え新幹線で大阪に到着した。
純一はJR大阪駅から遠く離れてないオークタワーホテルに架空名で予約しておいた。
今夜と明日いっぱい楽しんで東京に戻る予定にしている。
{ 今日は充分に楽しもう }シャンペンの泡がそれぞれの喉を刺激しながら通り過ぎていく。
純一は飲み干した二つのシャンペングラスを窓際のスペースに置いた。
それぞれに四角い氷をひとつずつ入れる。
二つのシャンペングラスを両手で軽く抑え静かに回転させていく。
四角い氷がシャンペングラスのふちを冷やしながらくるくる回っている。
しばらく回転させたあと氷を捨て、ボトル二本目のシャンペンをそのグラスに注ぎ込む。
バスローブ姿の奈美を背後から抱きしめながら、シャンペングラスの一つを奈美に手渡す。
奈美はシャンペングラスをかざす。
「、、、まぁ時間が必要だ、、、、、、」と言う純一の言葉が終わらないうちに奈美の持つグラスからシャンパンがしたたり落ちた。

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