1-72 異常前

その中心的な役割にあったのが社長秘書の一人、若林奈美だった。奈美は新宿にある本社で社長秘書数人の中の一人として勤務していた。
社長秘書数人はプロジェクトごとに分かれることがある。いわばプロジェクトごとのメッセンジャーであり、仲介者であり、報告者であり、あるいは推進者にもなりえる権限をもつ。このようなタイプの秘書制度をもつ会社はめずらしい。このような秘書の一人に若林奈美が選ばれたのだから、彼女の非凡な才能を社長は見出していたのかもしれない。
クリーンシェア社に持ち込んだ泉純一のエアプリティ社の機器の評価がついには担当者を通じての上層部に伝わっていく。そして社長の秘書に繋がっていくのである。その結果、純一は社長秘書の一人である若林奈美と打合せをすることになる。そこからはとんとん拍子にこのプロジェクトの話が進んでいった。
クリーンシェア社の清水社長の狙いは、もっと先にもあった。
「エアドゥ」のブランドはクリーンシェア社に帰属し販売することになる。清水としてはさらに共同開発を続け、さらにいいものを市場に提供するつもりなのである。その際、製造と技術的なアフターフォローなどはエアプリティ社が担当予定なのだが、素人目にはクリーンシェア社が開発し販売しているように見える。販売を最も重視しているのが清水だった。
世の方向性は「きれい、気持ちいい、かっこいい」である。それに健康的で危険なウィルスをも焼き尽くすことになれば消費者の欲求度が高くなる。この市場そのものの広がりはさらに大きいと清水はみているのだ。
今日行われているクリーンシェア社でのミーティングには部長クラスの人間が数人出席している。もちろん若林奈美も出席している。
ミーティングでの純一の技術的な話は予定の一時間ほどで終わった。あとは顧客に対するアフターフォローのための拠点網についてだから話は比較的簡単だった。予定より早く今日のミーティングは終わり、出席していた人たちが次々にこの会議室から出て行こうとしている。その中の一人、営業担当部長の鈴木健太が純一のところに駆け寄ってきた。
、、、、、だが、、、そのとき純一に異変が生じつつあった。

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