1-70 生き物の怖さ


その日、探偵社「二つの幸せ研究所」の和田は依頼者の泉優子に二回目の調査結果について説明している。
夫の泉純一の浮気相手は若林奈美という。どこかしらエクゾチックな顔だちの27歳である。東京都中野区に一人住まいだった。勤め先は日本で有数の清掃関係の会社でクリーンシェア社という。この会社は全国に営業所がある。本社は新宿にあり、その本社で若林奈美は勤めていることも判明した。
結果説明を終えた後にうつむき加減の優子は
「、、実は夫からの生活費が少なくなってきたのです」
「えっ、生活費は奥さんが管理されているんじゃないんですか?」
「いえ、夫が以前、大阪で会社勤務をしていたときは夫の口座に会社から給料が振り込まれていましたが私が管理をしていました。でも今では夫が、会社を東京で起こした後は自分で管理するようになったんです。毎月の生活費は貰っているんですが、その額が以前より少なくなっているのです」
「ほう、、、で、そのご主人の管理するお金がどうなっているかを知りたいということですね?」
「はい、以前は私が通帳も管理していたんですが、いつの頃からか夫は自分で管理するようになりました。それに以前より秘密主義になったみたいで、、」
「わかりました、ご依頼のとおりこの若林奈美という女性については調査続行中ですが、その銀行関係の割り出しも可能な限りですがやってみましょう」
「お願いします」とほっとしたような印象の優子だった。
しばらくぶりに見る依頼者の泉優子は心なしか、以前より痩せたようである。着ている洋服も黒を基調とした上下だったせいなのかもしれない。品のよさと凛とした雰囲気はあるもののなんとなく元気がないように感じられた。もちろん夫の浮気のせいで大変な気苦労があるのだろう。
夫婦となって東京に住んで娘も生まれている。しかし夫に女ができたのである。
優子が探偵社を去ったあと「少し痩せられたみたいですね」とスタッフのチエは言い出した。
「そうだね、、、」
「浮気をされる側はかわいそう、、、、哀しみと怒りが込み上げてくるんだわ」
「でも泉さんはなんとなくそれを感じさせない人だね、、、、」
「、、、女の微妙な気持って、、そう簡単じゃないはずですよ、、、、私の友だちなんか大変だったんだから、、、、」とチエは声を落として言った。
「、、、ふ~ん、、、女の微妙な気持ちね、、、男もそうだしね。それはそうだろうなぁ、、、でも、もし女の人がいつか離婚というふうに決めたら、そのときからスパッと気持ちを切り替えられるんだろう?」
「そりゃあ、そうですね。そこまでいったらね、、そういう人もいるけれどそれまでが大変ですよ、、、、、諦めたら早いと思いますけれど、それまでがね、そりゃあ大変、、、それに女は怖い生き物なんですよ、、、男にはわからないかもしれません、、、、」
「、、、怖い生き物、、、女は囲い込みの感性をもっているしね、、、」
「、、、囲い込みの感性?」
「うん、、母性からなんだろうけどね、、、女の人は自分の持つバッグ類が好きだろう?、、、その中にいろんな物を入れて持ち歩いているだろう ? それにいろんなバッグや袋をいくつもほしがる、、、あれはおそらく子供をもつ女としての感性がそうさせているような気がするよ、、何かのときのためにいろんなものを手元に用意をしておきたいという意識なんだろうね、、、昔は食べ物とか飲み物とか、、、とにかく必要なものをね、、、、、用心深い女の人ほどいくつもバッグをほしがると思うよ、、、、中身も自然と多くなる、、、だから、持っているバッグや中身を見ればその人の性格さえわかるというしね、、、でもそれに対して男はねぇ、、、、外で動きまわるのには身軽なのがいいから、持つとしても荷物を最小限にしたくなる、、、、、まぁ、その点から言えば持ち物を見ればその男の性格も推定できるということでけどね、、、それに女の人は自分が生んだ子を必死で守ろうとする、、、家を守ろうとするだろうし持ち物を大事にする、、、その延長線上として持ち物を入れるバッグについても神経をつかうのだろうね、、まぁ、チエみたいな例外はあるけどね」
「まぁ、失礼だわ、、、私も女ですっ!それにしても、、、」
「いや、、、まぁ、でも男はあれだな、、どちらかというと男のほうが未練がましい気がするね。別れたあとはいつまでもグスグスしてるのは男だし、思い出しては悔やんでしまう、、、、」
「、、それは失恋したときの男の人の話でしょ?、、、、別れを言い出されたほうが未練が残るっていうのは男も女も同じと思うけど、、、言い出されたほうが女の場合は、、、、そうね、、、それはそれは大変ですよ、、、誰かに奪い取られたと思うかもしれないし、、、、それでなくても、、、女の執着って怖いものがありますよ、、、まぁ、、、、別れを決めてしまったら、女は次のことを考えてますけどね、、、、」
「なるほどね、、、」
「ストーカーの方が女としては怖いわ」
「、、、、、、女のストーカーも増えるかもね、、、」
「トンチンカンなお話しね?、、、でそんなことより、、、それより、さつきの優子さんは、、、、?」
「うん、、、もう引き返せないだろうし、離婚を考えているという話だったね」
「なんか優子さんホントかわいそうになっちゃつたわ、、少しやつれていらしたし、、、まったく男ってどうしようもないわ、、、最後はお金の話で落ち着くのでしょうけれど、、、、、ねぇ、思うんですけど裁判所でのあんな離婚相場の金額じゃ、割に合わないと思いますよ。女を馬鹿にしている金額だわ、、、女がいくら強くなったと言ったって、まだまだ社会的に弱い立場なんですからね。うちがやる以上、相手側からその何倍はとらなくちゃあ、、、、、財産分与、慰謝料、子供がいれば養育費なんか、、、、ほとんどの人が通り相場の金額かそれ以下で泣き寝入りしているんだから、、、、、ホントはそんなものじゃあ、気持ちがすまないはずよ、、、、、、裏切られたほうとしては、、、、それにいままでの無駄にした時間は取り戻せないのですもの、、、、男は歳をとってもいいかもしれないけど、、、女は旬というもんがあるんです」

「そうだね。離婚時に落ち着く金額は確かに安く感じるかもしれないね。特に年を取るほど身につまされる。残された側が女性で子供もいたら、裁判所が提示した金額に双方が納得したとしてもその後に毎月の安定したお金が入ってくるかはわからないこともある。都合ができて相手が支払われないことも起こりえるしね。逆に残された側が男の場合は違った意味で苦しむよね。どちらにしても今までのやり方では弱い。だからうちとしてはうちのやり方を依頼者には提案しているんだ。甘く見ていた相手側は高く払うことになるだろう。まぁ必要以外は裁判所も弁護士も通す必要もないだろうしね、、、」

よかったら、クリックをお願いします。
にほんブログ村 ⇔ 人気ブログランキングへ

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です