1-68 日本人の志

優子は大学時代、仲良しの女性5人で「seveearth」いう会を作った。
この5人は日本の幕末明治時代に活躍した偉人たちのことが大好だった。話をしているうちに武士の志にちなんだ会を作ろうということになったのである。1853年、横須賀、浦賀沖に来航したアメリカのペリー艦隊四隻の黒船が来航したときの幕府側の右往左往する対応に「太平のねむけをさます上喜撰 (蒸気船) たった四はいで夜もねられず」とお茶の上喜撰になぞらえて庶民は風刺狂歌を作り巷に情報を流したのである。しかし志あるサムライたちは風刺や評論をするだけでなく行動を起こす。その行動したサムライの多くは、もともと下級武士だった。土佐藩 (高知県) 出身の坂本龍馬にしてもそうだった。実家が、下級武士だったが比較的、裕福だったので何事もなければ大過なく一生を終えたはずである。しかし当時の日本が外国からの脅威を受けていると感じた彼は自分や家族のことでもないのに黙って見逃すことはできなかった。故郷を捨て脱藩という罪を犯してまで、日本の危機を救いたいという志を立てて京や江戸に上ったのである。坂本龍馬、西郷隆盛、吉田松陰、勝海舟、山岡鉄舟など、のちに有名になった人たちだけでなく無名な庶民までが尊王という大義に命を懸けていたのである。それほど日本の「王」というものが、庶民にまで尊ばれた歴史はめずらしい。当時の日本を訪れた外国人が書き記した文章を読むと、日本人の多くが豊かな表現力を持ち、道徳性が高いことに驚いているさまが感じらる。それは日本の歴史の中で培われてきたものであり、連綿として現代人に引き継がれている。現代でももし何か危急のことがあればこの日本独特の精神性が立ち上がることだろう。
優子たち5人はこの日本人の志や独特の精神世界である武士道について調べていくほどに興味が尽きなかった。武士とは闘う専門集団だと考えている人がいるが、確かに義を重んじて戦うときには勇敢に戦うものの、勝利したとしても敗者に対しておごり高ぶることはない。武士の武というのは字のごとく戦いを止めると書く。平和を守ろうとする。
「seveearth」という会のメンバーは、そのようなサムライの志を愛した。会としてはそれぞれの特技や才能や経験を活かし、将来に向けて日本だけではなく世界に向けて貢献できるものにしようと考えている。やりがいがあるもの、生きがいのあるもの、幸せの追求といってもいい。心と体と社会の研究をする。その研究を通じて人々に喜んでもらえることをする。となればお金、起業、健康、病、老後、生きがいなどに新しい事を起こす。
それには知識も経験も資金も創る必要がある。資金的には在学時にアルバイトをして貯めた1人2万円合計10万円を元手にさまざまな形で投資することにした。学生の身だから、アルバイトぐらいでは時給のお金はたかが知れていた。その貯めた10万円を投資にまわした。半年ほどは全く増えなかったが、5人で知恵を出し合い次第に手法のコツを覚え、今では会の資金としてゆうに数千万円にはなっていて紆余曲折はあるものの増え続けている。テーマの分野に5人の知恵を働かせる。その中から最も得意とする人からコツを見つけ教えてもらえば皆が応用できるのである。万が一自分たちの誰かが危急になった場合には他のメンバーが助けることもできるし、会の資金の最大20%は各自、自由に使えることとした。例えば1億円があれば2000万円までは自由に使えるのだ。
彼女たちは大学を卒業しそれぞれの仕事に就いて経験を積んでいる。それぞれの研究を重ねては情報交流をしていたのである。
seveearthメンバーの代表格は優子 (頭文字としてY)で主婦 。織江 (O) は投資関係を研究し会の資金を増やしている。詩 (U) は人口知能 (AI) 関係会社勤務。龍 (R) は医療関係、ドイツにて研究を続けている。早苗 (S) はソフトウェア関係会社勤務。それぞれの名前の頭文字をとってYOURSと言っていた。
つまりseveearthの主要メンバーはYOURSで成り立っていた。
ところが、メンバーSの早苗が行方不明になってしまった。
当然、早苗のことは他の4人のメンバーたちも早苗のことを心配しており、優子は4人のメンバーに連絡したのである。

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