1-62 人の特殊能力

横を向いたまま応えるチエが急に大人びたように見える。
「はあ、そういう考え方もあるんだねぇ、、、チエ、ケンは今、どの辺を走っているかメールで尋ねてみてくれ」
「はい、、」チエは携帯を出して得意のメールを打ち始める。
夜の暗さの中に携帯の液晶の明るさが反射してチエの横顔が変化する。
さらに冷たくなっていく夜風がチエの髪のほつれ毛を揺らしている。
{、、怖~~い~女、、、}
チエは携帯でメールを打ち続けている。
相変わらずの早打ちをしながら呟くように言った。
「二人とも風呂からあがって着替えはじめてるみたいですよ」
「えっ」
{ 何、メールしながら、、チエには何かが聞こえてる?ということ }
和田には何も聞こえなかった。
{ どうもチエというのは普通じゃない。それとも女性というのはそういうところがあるのかぁ?
メールをしながら耳は違うところを聞いていたということか?いや、それともたまたま聞こえたのだろうか?だいいちあんな遠くだから、聞こえたとしてもかすかなはずだろう? }
和田が露天風呂のほうに向って耳をそばだててみたものの露天風呂の方から話し声や音は、まったく漏れ聞こえないのだが、、、、私の耳が悪いのかな? それとも彼女には特殊能力がある?}
すると遠くのほうで、今度はかすかであるが「ガチャッ、、ガチャツ」と音が聞こえてきた。
{ あっ、ほんとに出てきた、、、}
和田はあわててビデオカメラのスイッチを入れた。
チエは早々にメールを打ち終え、すでにビデオ撮りをしていたのである。
和田のビデオカメラの暗視液晶画面に対と女の浴衣姿が映し出された。
対と女はゆったりと夜空を見上げ、しばらく会話を交わしたあとペンションの中に入っていく。
{ それにしても彼らはどこの部屋なんだろう }
この方角からではすべての部屋は見えない。
「ケンちゃんからメールがきました」
「何て?」
「もうそろそろ着くとのことです」
「え、本当か? 着くと言うのは高速道路を降りたということだろう? この辺は林の中にある建物で番地がわからないのに近くまで来ているということか?」
「、、、、」チエからすぐに返事がない。
「近くにいるみたいです」
いつのまにか夜は更けていた。
和田は泊まる所も考えなければならないと気づいた。
「チエ、三人の部屋が空いているかどうか、どこかペンションに聞いてきてくれ。
できれば値段も交渉してみてくれ、両隣のペンションに聞いてみるから」
「行ってきます」と言ってチエは対と女の泊まっているペンションに向った。
「おいおい、、チエ、あそこのペンションは今回やめておこう」
チエは後ろを振り向いて「シーッ」というジェスチャーである。
そして「さっきの設置したものを取りに行かないと、、、」とささやくように言う。
「何、、えっ、、、そうか、、、わかった、わかった、、」
{ そうそう、そうだった、、露天風呂のところに設置しておいた録音機器のことを忘れていた }。
設置した機器が、誰かに見つかるはずもないだろうが、用が済んだものは早めに回収しておくほうがいいに決まっている。
どちらにしても対と女が露天風呂で、いちゃついたようなものだろうから、そんな趣味もないし、せいぜい参考程度と思っていた。浮気の証拠であればいままでに取り終えた動画だけで充分だからだ。

いつもクリックありがとうございます。
にほんブログ村人気ブログランキングへ

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です