1-53 緊張

心のどこかで諦め、いや諦めたくないという気持ちが錯綜しているさなか垣間見えた。{ あっ、あれ? }それはほんの瞬間だった。
{ あっ、いたっ、、あれだっ、}希望のともし火が{ ぽっ! }と灯ったのだ。
{ それっ! }っとばかり近づいていく。
{ やっぱり対だ、あ~~よかった、、}よく見える位置まで近づく。
やっとそこで安堵したのもつかの間、今度は対が突然、後ろを振り向いたではないか。
 { うっ、、、}一瞬にして、つまり和田のいる方向を振り向いたのだ。
和田の身体が凍りつく。あまりに突然だったので対と目が合ってしまって身動きできない瞬間があった。
{ まずい、目を合わせちゃ }と和田はすぐに目をそらそうとする。習慣ではある。そして体を動かした。
よそ見をするようにして対の視線のコースを外れながら歩いて行く。こういうときに最も大事なことは相手の目と合わせ続けず、かつ自然と動いている状況をつくることが大事だ。
{ さっき突然、振り向いたのは、、まさか警戒している? いや違うだろう、、それにしても何のために振り向いたのか? しかし今度は、このまま対とすれ違うように通り過ぎたまま距離をおくとまた見失う恐れがあるからまずいし、かといって対を変に見続けるのはやりにくい、また見失ったら困るぞ }といろんな思いが駆けめぐっていく。
和田はうまくタイミングを計って近くの雑貨店に入った。
雑貨店の中から、ちらりちらりと対を見ていると対は人々の通っているその通りの片隅に立ち止まり、メールを始めているではないか。
そしてメールが終わった対は、すたすたと歩いて近くのコンビニエンスに入ってしまった。
{ うむっ、、、!} 和田の携帯電話が振動している。見てみるとチエが品川駅に到着しそうだとのメールである。{ やれやれ、やっとか来たか } こんなときには返信メールをしている余裕がないから電話でチエに指示をすることにした。
そうこうしているうちに対がようやくコンビニから出てきたのだが、ビールなどを買い込んだようで、ビニール袋を二つぶら下げて出てきた。
その後ろには、肩先までの髪の女性 (今後はこの女性を「女」と称することにする)が続いている。
{ なるほど、ここで二人は待ち合わせをしていたのか、、、ふ~ん、、}
対と女は寄り添うようにして品川駅構内を歩いていく。
そして東海道線のホームヘと降りていく。
{ それにしてもチエはまだか、、、、ったく }和田はチエに再び電話してみる。
和田の指示に「わかりました」ってチエは応えた。
{ 「わかりました!」って、チエが電話を切るときの返事は小気味いいのだが、、、、、ほんとうにここの場所わかっているのか? ここに間に合わなかったらどうしてやろうか、、、、? }
しばらくするとチエがホームで待っている和田のところに小走りでくるのが見えた。
{ やれやれ、間に合った }
チエは「すいませ~ん」と小声でささやきながら近づいてきた。
「ほら、あそこに見えるだろう、、あの男、、、、あのビニール袋を持った男だ。、その隣に女がいる、、あれだ、わかるか? 
「あ、あれですね、、、」チエは獲物を狙うかのようにじっと先の二人を見つめる。
「今のうちに撮っておけ」
チエはバッグに隠し装着しているビデオカメラを対と女に向けて撮り始めた。
あちらはまったくこちらを意識していない。
「よかったな、、、、、間に合って」
「、、、、、」チエは返答せず撮っている。ホームには帰宅ラッシュなのか人の動きが激しい。
私たちがビデオで撮っていてもまわりはまったく関心を持たれない。
このホームに電車が到着するとのアナウンスが流れる。
{ さてと、、打ち合わせをするか }とチエを見るとまだ対と女を撮っている。
「おい、チエ、もういいよ」と和田は声をかける。
ちょうどそのとき電車が入ってきた。下りの電車がホームに近づいてくると同時に私はチエと打ち合わせを始めた。
「いいか、この人ごみぐらいだから隣の車両からでも見えるだろう、あの二人が車両に乗り込んだら、お前はすぐに隣の車両に入れ、、そして対と女がどこに立つのか、座るのかを見極めろ、、そこがまず大事だ」チエは少し緊張したような表情で、私の話にうなずく。
チエの耳が心なしか赤くなっているようだ。
{ 変なところで色っぽい、、}

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