1-48 問題の突破口

生きていると何がしかのことが起きる。
それを解決したり、突破したり、克服するにはさまざまな要素が必要である。
その大事な要素の一つはまずはそのことを受け入れて観察することから始まる。どこまで深く観察できるか、できているかが鍵である。たいがいのことはそのことにより重要な要素を把握して判断する。できるだけ感情に左右されたり激して行動しないことだ。
探偵社「二人の幸せ研究所」の所長兼調査の和田は、先日の調査でもあらわになった調査スタッフのチエとケンの性格に助けられることになる。
しかしその時その日には感じられないものである。人とは不思議なもので何が助けになるのかわからない。
調査現場は渋谷の道玄坂にある対象者の泉純一の会社住所になる。
渋谷駅から徒歩7~8分くらいにある道玄坂に面しているS・Tビルの702号室。このS・Tビルには100以上の会社や事務所がテナントとして入っており、会議場もいくつか併設され、地下の1階2階には駐車場があって、渋谷では比較的大きなこの建物である。
事前に前調査は終えており、今日は本調査の初日だ。
渋谷の道玄坂といえば時間帯によらず人の流れはなかなか途切れない。
人がじっと張込していても、よほどのことがないかぎり不審に思われることもないだろう。
対象者を彼らはマルタイと呼ぶから、今後は対(タイ)と呼ぶことにしよう。
預かった対の写真を見ると中肉でメガネをかけており柔和な感じがする。身長は170cmくらいの38才の男性で、社長っぽい顔に見えなくもない。
行動調査をする場合、預った顔写真などをもとにするのだが、実際とは多少違いがあるし、この建物の出入り口から出入りするサラリーマン風の男性たちは多いから、似た人も少なからずいることだろう。だから見間違えないためには、できるだけ至近距離で見極めるのが一番である。それには車の中から張り込めば自分たちの姿をさらされることは少ないから、私は張込用の車を最もいい場所に駐車させておきたいと思っていたので、スタッフのケンとチエに、この建物出入口のすぐ近くに駐車させておくようにという指示をしておいた。
和田が現場に向かっていると、会社の車が駐車しているのが遠目に見えてきた。
{ あの辺ならば対が出てくるのをキャッチしやすいことだろう }と思いながら近づいて行ったのだという。
{ しかし誰もいない、、、、? }すぐ近くまで来てみたものの、誰もいない、、、、、、
あの二人はどこかに行ってしまっている。

{ いったい何処にいるんだ? }
到着してもうしばらく時間が経っている。

{ なんていうことだ、、、、 } 
誰かがいなかったら簡単に駐車違反になってしまうかもしれない。
{ もし駐車違反になってしまったら手間取って面倒になる}

むっとした。
二人がいないかもう一度、見回す。
ケンはまだよちよち歩きの20代前半の探偵修行中で、太っていて特技?は大酒のみ?
チエはケンより調査の経験は少しだけ長いのだが、どうも独特の個性があって、この仕事がいまだに向いているのかどうかは、なんともいえない。ただどんな仕事でもそうだろうが最初の頃に{ まったくどうしようもないなぁ }と思える者でも、何かのきっかけでめきめきと上達してくることもあるのだから、二人とももう少し様子を見ているわけである。
ケンとチエは最初の頃、どちらも挨拶することに不安があった。ぶっきらぼうというか、雑というか、挨拶というのは人と気持ちよく接するための大事な出入り口であり、潤滑油みたいなものだから重要だと思っている。その挨拶が気持ちよくできるようになればしめたもので、そのさわやかさや誠実さが仕事にも表れてくるはずなのである。
聞くところによると以前よりはこの二人の挨拶も良くはなってきているとは思うのだが、、、、、
つまり仕事のほうも段々も良くなってきているのではと思っていたのだが、、、、、
張込車に乗り込んで機材のチェックをしている間にやっとケンとチエがのんびりと近づいてきた。
「相変わらず、すごい車ねぇ、、、」チエの野太い声が聞こえてくる。
「もう、とっくに買い替え時期を過ぎてると思うよ。この車」とケンの甲高い声である。
「この夏でもまだ冷房は入れないの?」
「この車は暖房だけは付いてるんだ。冷房が壊れてる?、、めったにない」
「確かにどこにでもあるオンボロ車で目立たないってことでは、言ってみれば逆の一流よねぇ、、、」
「あはは、、、いや、そろそろ限界だよ。これ以上オンボロになると余計目立っちゃうよ」
車の窓にはスモークを張ってある上に他にも工夫をしているので、外からは車の中がほとんど見えないし音もあまり漏れないのだが、外からの音はこの車内に伝わってくるようになっている。
{ 車の中にいる私を二人はまだ気づいていない }そう思いながら、耳を澄ましていたのだが、、、、

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