1-43浮気の前触れ


夫の純一が妻の優子の父である尾崎義三に会社経営の相談がしたいと言い出した時には夫の意気込みを感じていた。
それに優子は大阪で純一と姑との三人で住む境遇を打破したかったこともあるし、久しぶりの東京の生活を思い出していたのだった。
{ しかし夫の思うとおりにすることが、逆に作用していたのかもしれない }と今になって思う。優子の母が父に対して接してきたよう。夫から一歩下がるようにしてフォローしてきたつもりだった。だが、かえって夫の気持ちを至らぬ方向へと緩ませていたのかもしれない。
会社員時代の夫にはそれなりに拘束性や規律性があった。
しかし今は違う。小さいながらも社長業として、不安はあるのだろうが、それなりの自由度も感じられる。現実に夫は「仕事が忙しい、、、」と言っては、しだいに遅く帰宅するようになっていったし、日を追うごとに夫婦の会話が少なくなっている。
ときにはしたたかに飲んで深夜の帰宅もよくあるようになった。
仕事といえばそれまでなのだが、昔はそんなに遅くまで飲んで帰ってくることはなかった。純一の日ごろにないいびきを掻きはじめると{やはり苦労をしているのかな?}とは思う。ただ遅く帰ってきても穏やかに眠りについてくれればいいのだが、ときに荒々しく優子を求めることがある。そんなとき拒否しようとすると決まって暴力を振るうようになってきたのである。酒というものが、こんなにも人を変えるものかと思う。
ただ仕事の付き合いで飲まざるを得ないこともを考えると { やむを得ないのかな } とは思っていた。
夫が深夜の泥酔で帰宅してくると、眠っている幼い「ゆむい」に気遣う優子だった。
ある夜、泥酔した夫をベッドに寝かせ、衣服を片付けているときにそばにあった夫の携帯電話が鳴った。
思わず優子は手にしてみるとメールのようである。夫の携帯電話をいままで触ったことはなかった。思わずどこかのボタンを押してみるとたまたまメールの内容が現れてしまった。それを何げなく読んでみると女性からのもので、まるで恋愛をしているらしい内容だったのである。
いままでは夫は浮気というものを否定していたし、優子もそれほど詮索したことはなかった。
夫の携帯電話に着信していた女性からのメールを偶然、見たあの日の翌日に、優子は夫と同じ携帯電話を購入した。その機種は販売終了寸前だった。持ち帰って説明書とにらめっこをしているうちに機械音痴だった優子はなんとか操作だけはできるようになった。この時代に携帯電話を持っていないことに「いまどきめずらしい」と会う人ごとに言われていた。こんなことでもないかぎり、手にしようと思わなかったのだが、携帯電話の操作手順を何度もくりかえしているうちに一通りの操作ができるようになった。夫の寝ている隙に夫の携帯電話のメール履歴をコピーさえできるようになった自分に少し不思議な気がした。そして夫の手帳の中身と照らし合わせてみるとその女との付き合いのおおよその見当がつけられたと思った。
夫がエアプリティ社を立上げてからは、男が仕事に没頭する一途さを感じるものがあって、静かに見守るほのかな妻としての幸せを感じていた。だが仕事だと言って外でお酒を飲む回数が増え帰りも遅くなっていったし、優子につらくあたるようになっている。それはストレスが溜まっていると思えたし、会社が大変なのかと妻として心配もしていた。
以前、夫の母である姑とともに大阪で一緒に住んでいたときにも夫の優子に対するいじめ的なものがあるにはあったが、それはある面、姑がいる手前だからかもしれないと思っていた。
ところが会社を立ち上げるために東京に移って数年たった今では、いままでと違う夫を見ているように感じている。小競り合いほどのたたく程度だったものが、今では足で蹴られることもある。
仕事のストレスなのか、なんなのか、なんとなく夫婦という絆の危うさを感じていた。
結婚前にはこんな兆候はひとつも感じなかったし、むしろ純一の性格を積極的でいながら礼儀正しい性格だと思っていた。どんなストレスがあるにしても暴力を振るう夫を理解できないでいた。
夫の暴力は自分が我慢していれば子供が大きくなるにつれて直っていくだろうくらいに思っていた。
だが、、、

以下のクリックのご協力ありがとうございます。
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です