1-35 結婚のとき

{ 今日は何時に帰るのだろうか?、、、、 }それでもそんな淡い期待をしている自分に気づく。
{ 私たち夫婦がこんなにギクシャクし始めたのは、、、、 }
「結婚と恋愛とは違う」とはよく聞くことで、恋愛している熱い二人にはまわりからの忠告の言葉は頭に残らない。優子もそうだった。
恋愛している二人に邪魔になるものはいらない。
母の心配する言葉も { 昔と考え方が違う } うわごとのように聞いていた。
恋愛中は互いを確かめるように口喧嘩もし、仲直りもし、甘酸っぱい気持ちにもなり、互いを見つめ合う二人の世界だった。
互いに相手のことを誰よりも知っているはずだと思い込むものである。
恋する相手が遠くにいることで、それに会えない時間が長くなればなるほど思いがつのるし、密やかな夢想の時間にも変えてしまうのだった。
その美貌ゆえ優子に言い寄ってくる男たちは多かったのだが、そのような男たちには冷静に対処していたつもりだった。
純一もそういう一人ではあったが、しかし優子の心が揺れ動いていた。純一が仕事の関係で大阪から出張してくることがたびたびだったのであるが、縁というものは不思議なもので、ある日から彼のひたむきさにほのかな恋心を感じてくる優子だった。
純一は優子の美貌と視線に釘付けになった。
どちらかというと二人とも恋については奥手のほうだったのだが、二人が知り合って結婚するまでさほど時間がかからなかったのである。
結婚後の二人は夫、純一の母、美佐子の住む大阪の実家に同居することになった。
住みなれた東京から大阪に移り住むことになる優子が違和感を持たずにいたのは、夫のほうに住むというのは世の中の慣例であったし、そういうものだと納得していたのだ。
結婚前の純一は母親の美佐子と一緒に大阪に住んでいて、近所には弟の正也がすでに結婚し生活を営んでいた。
姑になる美佐子は若くして夫を交通事故で亡くしていた。再婚もせず二人の息子の純一と正也を女手ひとつで育ててきた。
優子は美佐子との同居はたいして苦もないと思えた。
というのは結婚前に美佐子のところに挨拶に行ったとき、大阪特有の気さくさではあろうがその気配りに友好的なものを感じていた。初めて訪れた優子に一緒に住もうねと言ってくれたのだから、これなら楽しくやっていけそうに思えたのである。
それに優子としては住みなれた東京のしがらみから離れて大阪に住むのもまた悪くないかなと思うようになっていったのである。
しかし、、、
結婚後、同居していると姑の美佐子の態度がしだいに変化していった。
優子の夫になった純一が自宅にいるときといないときでは美佐子の態度が変わることに優子は気づくようになっていく。最初のころはこんなものなのだろうと思っていた。
しかし月日が経つうちにどんどん姑の態度がエスカレートしていった。
夫は結婚前と同じように母と接しているように見える、あるいは微妙な違いを気づかないふりをしているのかもしれない。というよりも夫自身も美佐子に似たところがあって、人に対する繊細さがあまりないのではと優子は思う。気を使わないというよりも自分中心的すぎるように思える。
美佐子は優子を押しのけるようにして純一の世話をしたがる。食事作りだけではなく、風呂の世話などをしようとする。優子はそれぐらいなら全く構わないと思う。それどころか手間が省けて歓迎するくらいだ。妻の立場と姑の立場から嫁姑の戦いをする人たちも多いと聞く。
しかし優子は少し違っていた。 { お母さんなのだから、]息子を産み育ててきた。息子が大人になって結婚したとしても母の気持ちとしては世話をしたくなるだろう。結婚したからといつて母親と息子の関係は変わりがないのだから。だから夫婦関係を壊すようなことがなければ姑が結婚したあとの息子の世話をするのにまったく構わない。それどころか夫の世話をしてくれるなら手間が省けてちょうどよい。こんなところで嫁姑の間でごたごたしたくもない } 優子はそう考えていたのである。
そう意味では普通の人と少し変わっているかもしれない。
ただ優子としては姑の美佐子が自分のものと純一の洗濯物を一緒に洗濯機を使って洗うのはいいが、洗濯物の中から、優子のものだけ取り出されて放置されることになる。優子は自分の洗濯物と姑のものとを一緒に洗濯してほしくない。しかし優子の洗濯物を執拗に触るのには困ってしまう。想像しただけでいや~な気持ちになってしまうのだ。
{ 私が前もって分けておけばいいか、、}と優子は思うのだか、自分のいない間にタンスの中も探られている痕跡があった。
それとなく美佐子に注意を促がしてみても止めようとはしないようだった。
それどころか美佐子は優子に向かって「嫁はいいわねぇ、、、三食昼寝つきで、、、遊んでいられるんですもの、、、」と厭味を言うようになっていた。
また追い討ちをかけるように最近は「子供はどう?まだなの、、おかしいわねえ、、」と催促するようになった。その「おかしいわねぇ、、」という声音が意味深なのだった。
こんな毎日を過ごしている優子はある程度の寛容さとあきらめがなければ生活ができないのだなぁと思う。
できれば姑と喧嘩などしたくないのだから自分なりに感情を自制するようにしている。
だけどマヨネーズを使った後のそのチューブの口に付着した残りかすを指と舌で舐める姑のしぐさは耐えられそうにない、、、。
そんな日々の姑のことを純一に話してみるもののほとんど相手にしてくれない。
あまり言うと夫は露骨な顔をして、逆切れすることさえある。
それどころか純一は母親の前で「やっぱり母親は無償の愛だなあ」と言うこともあるのだ。
そんな息子のつぶやきが母親の耳に入れば喜ぶはずである。
美佐子はますます優子にあてつけるように純一にサービスをしようとする。
{ ちょっと行きすぎかなぁ、、こんな生活、、あぁ、なんか嫌になってきたなぁ、、、、、、、}
そんなある日、夫は優子に相談したいことがあると言い出した。

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