1-28 嵐のソウルコンサート会場

チエはこの公演当日、早めにフェンシング競技場に到着した。
というのは、もし早苗が嵐のソウル公演に来るとすれば、当日の朝から販売される嵐のグッズを購入するに違いないとの早苗の親友である泉優子は言っていたからである。
早苗は早めに来るだろう。チエにとってもうなずけることだった。
販売開始時間はまだ先であるが、すでに数百人のファンが売場に向けて並んでいた。
早苗がリバーサイドホテルにチェックインをしていないことから予想できないことではないれけれど、一縷の望みを託し、グッズを購入するために並んでいる一人ひとりをチェックした。いまのところ早苗の姿はない。
しばらくすると韓国人スタッフが叫びながらそばを歩いて去っていく。
チエのそばで並んでいる韓国人女性に聞いてみると、片言の日本語で「チケットを持っていない人はグッズを買えませ~~ん。購入するときにはチケットを提示してくださ~い」と韓国語で言っているらしい。
するとしだいに行列の中から「えっ、そんな馬鹿な、、、」という日本語のざわめきが立ちはじめた。日本人もかなり並んでいるのがわかった。そんな声なき声がしだいに伝染していく。
そうしていると並んでいる若い日本人男性が、台北講演でも見かけた日本人の公演スタッフに向かって、「おい、ちょっと、ちょっと、とんでもないことを言ってるよ。さっき韓国人のスタッフらしいが、何かおかしいことを言ってるぞ、チケットを持っていないとグッズを買えませんなんて、そんなアナウンスをしているぞ、本当なのか?」と怒鳴るようにして尋ねる。
その日本人スタッフは返答できないでいる。
「あんな勝手なこと言って、もしそうだとしたらそんなの最初から言えよ。いままで何時間、みんながグッズを買うためにここに並んでいると思ってるんだよ。だいいち並んでいる人に失礼じゃないか。いったいどうなっているんだ」とたたみかける。きっと恋人にでも頼まれて嵐のグッズを買いにきたのかもしれない。
「はい、、ちょっと聞いてきます、、、」と言って、日本人スタッフは急ぎ足で行ってしまった。
長い間、待たされたが、そのスタッフが戻ってきて「大丈夫です。買えるそうです」との返事。その返事にさっきの韓国人スタッフのアナウンスはいったいなんだったんだと思ったが行列していた人はほっとした様子である。嵐のチケットが手に入らず、せめてグッズだけでもと買いに来ていた人もかなりいたのであるからなおさらだった。
チエはグッズ売場の行列を中心に早苗を探していた。ふと気づいた。グッズ販売の前方斜め左のほうにバラックみたいな小さい白い建物が設置されている。ここにも少しの行列ができていたのである。
{何、あれ?もしかすると}よく見ると当日券売り場が設けられているらしい。
{そんなの知らなかった}
時間がたつにつれて続々とグッズ売り場もその当日券売り場にも行列が長くなっていたのだった。
そうこうしているうちにようやくグッズの販売が始まり、ぞろぞろと行列が動き出す。
早苗の姿はまだ見当たらない。コンサートの時間が迫っている。
するとそばで「おかあさん、こっちこっち」と日本語が聞こえてきた。
「いえ私は結構ですから、どうぞあなたたちは先に行ってください」と言っている。それに対してその若い韓国人らしき女性二人は「いいえ、大丈夫、おかあさんを席まで送ります」と何度も言い合っている。

「どうしたんですか」とチエは、その太り気味の女性に尋ねてみると「いえ、どういうふうに行ったら席まで行けるかいいかわからなくなってしまったんです。それに一緒に来た娘と、はぐれてしまって。娘の携帯電話は通じないし、もしかするともう会場の中に入っていると思うんですが、それでどうしようかと困ってうろうろしていましたら近くにいたこのお二人が、私に事情を尋ねてきましたら「私たちが席まで連れて行ってあげます」と言うのです。私は最初、断ったんです。しかしこのお二人が私を席まで送ると言って言ってきかないんです。でもこの若い韓国人の方た
ちに持っているチケットについて尋ねてみたら、この方たちの席はスタンドらしく、私の席はアリーナ席ですので、ずいぶん離れているはずなんですよ。ですから、もし私と一緒にアリーナまで行ってしまったら、この方たちは回り道して、ご自分たちのスタンド席に行かなくちゃあならなくなるでしょ。そうすると開演時間までにご自分のお席に間に合わなくなっちゃうかもしれないし、まあ、ご親切にしていただくのはありがたいのですけれど見ず知らずの私にこんなにしていただくのは申し訳ないと何度もお断りしているのです。それでも「大丈夫、大丈夫」ってこの人たち、私を案内しようとするんです。だから私、困ってるんです。韓国の人ってほんとに親切なんですけど、、、、、」とその中年の日本人女性は複雑な表情を浮かべているのだが、「オモニ、いやお母さん大丈夫、お母さん大丈夫、私たちが案内します。さぁ、一緒に行きましょう」とその韓国の若い女性たちは日本人の中年女性の手を引っ張って行ってしまったのである。
なんとなく心が温まった。
しかし、チエはそんな場合ではない、そんなことより、、、、、

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