1-21 嵐の海外ツアー


早苗はウファに入店してきた優子に手を振った。
宇多田はすれ違いに優子に会釈をしながら早苗のテーブルから遠ざかった。
優子は「あ~、暑いわね、今日も、、、」と言いながら早苗の向かい側に立ち「それでね、今日は悪いんだけど少し早めに帰ることにするわ。あの調査結果がでたのよ。帰って資料を見ようと思うの」
「わかった。でも少しの間、お茶ぐらいいいじゃない?」
「そうね、、すみませんトマトジュースをお願いします」と優子は通りがかったウェイトレスに注文した。
「で思わしくない結果が出たってことね」
「そう、、、」
「困ったわね、、、」
「それであなたのほう、嵐のコンサートの予定は決まったらしいわね」
「そうなのよ。でもそんな話をしてもしようがないわね。こんなときに」
「うぅん、大丈夫、少し話してよ」
2008年8月下旬に突然、ジャニーズ事務所は、嵐の台北、ソウル、上海でコンサートを開催するという発表をした。そして嵐の会員からオフィシャルツアーの参加希望者を募り、その抽選が9月中旬という短さであり、10月上旬には最初の台湾の台北コンサートを開催するというのだから、まさに早業だった。それに台北、ソウル、上海公演までの日にちが、あまりないのが頭痛の種だった。
「まずはオフィシャルツアーに選ばれるかよねぇ、、」と優子が水を向けると。
「やっぱり嵐の会員数はうなぎのぼりに増えているらしいわ」と早苗は応えた。
「半端な数ではないから。2年前の嵐の海外ツアーとはまったく違うということね。そのころの海外ツアーに申し込んだ人のほとんどがオフィシャルツアーに参加OKだったらしいけど、、」
「そうなのよ。ツアーの人たちには現地での嵐主催の集いも開かれて握手なんかもできたらしいのよ」
「だけど今回は難しいということ?」
「もしかするとおいしくないかも?」
「それでも何か楽しいことが待っている?」
「でしようね。古いファンを大切にするって聞いたことがあるしね。ツアーに参加すると何がしかの楽しみがあるし、、」
「それもツアー当選したらの話ね」
「そう、ツアーに外れた場合、他でチケットを手にいれなければならないし、航空券とホテルの手配もしなければならないけれど日にちがあまりないのよ」
「そうね、悪いけど私のほうは行くかどうか明日までに返事をするわ」
「うん、わかった。無理しないでね」
しばらくの間、宇多田はそんな早苗と優子の様子を遠くから眺めていたのだが、用事をしているうちに優子だけが店を出て行くその後ろ姿を見てしまったのでうろたえた。
宇多田は急なことでどうしたらいいのかわからなくなった。早苗は座ったまま携帯電話を操作している。宇多田にとっては今日の優子の行動は想定外のことだった。たとえこの場で宇多田が直接、優子に想いを伝えることはできなくても、もしかしたら早苗が宇多田のために何かと気を使ってくれると思っていたのだった。しかし優子がいなくなった今、気をもんだ宇多田は早苗に尋ねてみると優子は急用ができて先に帰ってしまったというのだった。それならば、宇多田はこの機会に早苗に伝えておきたいことがあった。早苗のほうは先週までの忙しい日々が一段落していたし、今日このあと優子との予定を入れいたのが、急に帰ってしまったので、宇多田の外での待ち合わせの申し出に「いいですよ」と軽い気持ちで了解をした。

早苗は宇多田との約束をして先に喫茶店ウファを出た。
宇多田は喫茶店ウファでの仕事を早めに切り上げ、後のことをスタッフに手配したあと店を出た。待ち合わせの場所に向かう。約束の場所は池袋駅近くの居酒屋にしていた。もうすでに夜になっていたし、喫茶店というよりも居酒屋で軽い食事でもと宇多田は早苗を誘ったのである。宇多田が店に入ると早苗はまだ来ていなかったが、駅近くのこともあり、帰宅前に一杯やろうというビジネスマンやOLがぞくぞくと入ってきつつあった。
宇多田が席に着き、注文をしていると早苗が入ってきた。宇多田は待ちかねたようにすっくと立ち上がり、早苗に軽く会釈をすることで迎え入れた。
「すみません。時間をつくっていただいて」
「いいぇ、ちょうどいい機会かもしれませんよね」
「あ、はい。もう少し話をさせていただきたいと思いまして」
「宇多田さんのお話を聞かせていただいてびっくりしましたわ」
「はぁ、、、」
「でも今日は優子にあなたのことを話すことはできなかったんですよ」
まずはテーブルに置かれたビールで乾杯をすることにした。
しかしこのあと衝撃的なことを聞くことになる。

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