1-20恋する人への想い


優子と早苗が先日、7年ぶりに訪れた喫茶店「ウファ」。
その帰り際の優子は「また伺います」言ってくれたのだが、店長の宇多田は不安な気持ちで過ごしてきた。その言葉を頼りに待つ身の不安とうきうきした気分はあったものの、これまでの歳月が人の言葉を疑うということを学ばせていた。宇多田にとっては劇的な先日の再会ののち、今度会える日はいつなのかと、いままでの気の遠くなるような日々を過ごしてきた7年もの経緯があったのである。しかし先ほど優子の親友、早苗が入店してきたのである。宇多田は「あっ」と心が躍った。座席に座ろうとする早苗に「お一人ですか」と尋ねてみると「ええ、優子とここで待ち合わせなんですよ」とのことだった。連日の蒸し暑い日で外は明るかったが、店内は勤務帰りのOLたちで込み始めていた。
ウェイレスが早苗の注文したコーヒーをテーブルに置いたあと宇多田は矢も立てもしておられず、ふたたび早苗に話しかけることに決めた。
早苗のほうも手持ちぶたさの様子だったから宇多田との会話を楽しんだ。話をしているうちに「宇多田さん、あなた、、もしかしたら、優子のことを好き?なんでしょ?」とカマをかけられた。宇多田にしてみれば、自分のはずかしさを見透かされたような感覚があったが、早苗の口から言って貰えて助かったようにも感じたのである。優子への想いを本人に伝える前に早苗からそう指摘されてみると、いままで秘密にしていたことに気恥ずかしさが胸を締めつけただが、それとともにうれしさがこみ上げてきたのは自分でも不思議だった。それに宇多田の頬はしだいに赤く染まっていく。いままでは告白できなかったものの、約束どおり優子が来てくれたら、今度こそチャンスを逃すわけにはいかないという気構えをもっていたのだが、目の前の早苗と話をしているうちに少しずつ変化していく。早苗が明るいあっけらかんとした性格に思えたし、宇多田は自分の想いを早苗がうまく優子に伝えてくれるかもしれないと感じたのである。もしこのあと優子がこの店に現れても宇多田は自分の想いを直接、伝えることができるかどうか、本当はそんな弱気も実は生じていたのである。
{もしかすると優子への想いを早苗に伝えればなんとかなるかもしれない}と感じ始めていた。
そして、、、思い切って早苗に話すことにしたのである。
宇多田は自分の連絡先を書き入れた名刺を早苗に渡しながら、
「はい、実はあの、、ずっと前から優子さんに恋焦がれていたんです、いままでそのことを伝えられなくていたんです」と早苗に単刀直入に言ってしまったのである。そう言い終わるといままでの心の奥の硬い塊が急に溶け出していくのを感じた。返答を待つ宇多田の心が右往左往している。
早苗は見上げながら「へぇ~っ、、」と宇多田の顔をしばし見つめ、いたずらっぽく話しかけた。
「宇多田さん、恋人はいないの?」
「も、、もちろんいません、、、」
「でも何年もっていうことじゃないんでしょう?」
「いえ、、、、」
「少しはあつたんじゃないの、、、、、」
「いえ、ないです、、、、」
「もう何年もの間、優子のことを好きだったてこと?」
「、、、、、」
「うふっ、、、宇多田さんは優子のどんなところが好きなんですか?」
「どんなところって言われても、、、」もう真っ赤になっている。
「それにしてもあの頃から、いままで?」
「はい、、、」宇多田は小学生のようにもじもじしている。
この店で働いている女の子たちは、遠くからちらちらと宇多田と早苗の様子を眺めている。
とそのとき「あつ、、、来た」早苗は小さく叫んだ。

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