1-18 天界の光


早苗はそのままじっとしている。一滴、瞳からこぼれた。うつむき加減の頬からあごの先端に向って涙が伝ってはこぼれ落ちはじめ、頬に伝っては流れるさまは細い川のようになっていく。
そんな様子の早苗に気づいた優子もなにかしら痺れるようなたたずまいを見せた。
居酒屋特有のざわめきの中で二人は静かだった。
隣で議論していた男子学生の一人がそんな早苗と優子の様子に気づいた。
「えっ、どうしたっていう」しばらくすると幾人かの学生たちにも伝わり、早苗と優子の様子を隣のテーブルからちらちらと窺いはじめた。
学生たちがちらちらと気にしはじめたことに気づいた優子は「なんでもないのよ、思い出話をしていただけなの」と片手を振りながら、隣の学生たちにわずかに応えられたのだが、涙が止まらずにいる。
「すみません、もしかして私たち、何か気に障るようなことを言いましたでしょうか?」と女学生の一人が優子と早苗に声をかけた。早苗は「いや、違うのよ、、、、、なんでもないの」とやっと答え、一呼吸おいて「、、、、ただ、、、あなたの「愛」という言葉に、、」と呟いた。
「えっ、、、、、」と言って、早苗と優子を見つめていた女学生は身じろぎできずにいる。
しかし、しばらくするとその女学生も自分の顔を両手で覆ってしまった。
混雑する店内には沈黙する小さな場が生じている。まわりで見ている学生たちはなぜ三人が涙しているのかわからず、きょとんとしている。
人は人の心情のどこかに触れることがある。たとえそれが互いに知らない人たちであるにせよ。見ず知らずの女学生が優子と早苗のそばで泣きはじめたのである。その三人の溢れ出す涙は互いの接点を感じあいながら、それぞれの哀しみの中にいるのかもしれない。
「ごめんなさい、、私、そんなつもりじゃなくて、、、」とその女学生は声を詰まらせながら優子と早苗に向かって呟いた。
「おい、どうしたんだよ」と隣席の学生がその女学生に声をかける。
優子は立ち上がりざま「ごめんね、お邪魔しちゃって。もう9時すぎたわ、そろそろ帰りましょうか?」と優子は早苗を促した。女学生は顔を手で覆ったまま「いやいや」するように顔を振る。この三人の様子を見つめるまわりのお客の目は増えていった。
優子と早苗はレジに向かった。二人のあとを追うようにその女学生もついて来る。
そして泣きじゃくりながら早苗の背中越しに話しかけた。
「ごめんなさい、、、、、、何か思い出せさてしまって、、、」
「いいえ、、あなたの言葉が、、私に伝わってきたのよ、、人の哀しみと優しさに触れた感じがしたの、それが私にとって、とても大切なことだと思ったの、むしろ嬉しかったの。ごめんね」
「いいえ、、、私も、なぜだかたまらなく切なくなってしまったんです、、、ごめんなさい、、、」
その女学生は頭をちょこんと下げた。優子にはその女学生のしぐさがかわいらしく見えた。
早苗はそばにいて、ハンカチで目頭を押さえている。
レジで優子は勘定を支払った。レジ係の女性はおつりとレシートを優子に渡しながら、ちらりと見上げたがすぐに目をそらした。
三人を乗せたエレベーターは地上に降りていく。
少しは落ち着きを取り戻したものの、三人ともまだ涙がとまらない。
ときに思うようにいかない人生、それぞれの哀しさを感じている三人は接点を求めて交錯させていた。
地上に到着したエレベーターのドアがサーッと開き、生暖かい夜風が三人を迎え入れる。
「ありがとう、、、あなた、、、学生さん?」優子は尋ねる。
「ええ、、、、演劇を勉強しています」あふれ出る涙を拭きながら、その女学生はようやく応えられた。
「やっぱりね、私もそう思ったの」少し微笑みながら優子は言った。
「はぁ、、、、、、」
「失礼ですけど、、お名前は?」
「ミハナって言います、ミハナエリカと申します」
「まあ、素敵なお名前ね、、、私は泉優子、こちらは愛早苗さん、またご縁があったらお会いしましょうね」
「ぁ、はい、、、、」
「それじゃあ、、、ね、 さようなら、、、」
「、、、、」
エリカは両手で顔を覆いながらうなずいた。
早苗もまたハンカチで目頭を押さえながら、女学生に別れを告げた。
二人は何度か振り返っては女学生に手を振った。
{ さようなら、、、かわいい人、、}優子は心の中で呟いた。

地上では人々を照らすほど 天空の星々を見えにくくする

杖を頼りにさまよう子供たち  笑い顔が失せている

冷たい道端に一粒の食い物らしきものを探す日々、、、

権力と物欲の争いに巻き込まれ、嫉妬と強奪、暴力が心をも蝕む

人が人を疑い 組織的暗闇へと引きずり込まれる

よき人の口はふさがれ苦悶の日々をおくることになる

時は立ち止まり希望が立ち消え、欲望が渦巻いている

苦しみと暗闇がさらに深く広がっていく  

良き人はもうなすすべがなく、絶望のどん底にたつ。

その現実をあるがままに見ているとき 天界は動きだ

す。

天空から舞い降りる者がいる。 

光は光との絆があるように。

輝く星たちは使命をもって良き人の心にあらわれる。

その閉ざされようとする心に光をともすために。

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