1-5 嵐のアリーナ席

 
オフィサー社を出た愛早苗の両親と泉優子をJR池袋駅に下ろし、和田とチエは探偵社事務所に戻った。和田はスタッフを集めようとしたが、出払っていてチエのほかは由比しかい。
「これは匂いがするなぁ」と所長の和田がつぶやいた。
「私もなんとなくそう思います」とチエは大きくうなずいた。
「早苗さんの携帯電話が普通になっていることがまず第一だ」
「部屋のほう、警察は、不審さはないと言っていたということでしたよね」
「いや、事件性がないと思っているからだろう。確かに整理整頓されてはいるからね」
「警察は現実的に何かが起きないと動かないんだわ」
「でもいったいどこにいるというのでしょうか早苗さん?もし誘拐ならば、誰かからのアクションがあってもいいでしょうに。

それともシンガポールで、まさかどこかの国の人間が秘密裏に日本人を誘拐?」
「とにかく私は急いでシンガポールへ飛ぶことにする。もしかするとこの件は少しやっかい
になるかもしれないから宇多田さんに協力してもらうことにしようと思う。私が東京に帰ってきたら、相談することにしよう。

どちらにしても急いで監視カメラの録画をチェックしておかなければならないし、部屋の埃のほうも明日から開始することにしよう。その調査はチエと由比でやってくれ」
「それで和田さん、、、私ちょっと気になることがあるんです」とそばのチエは言い出した。
「私、嵐のファンだからじゃないけど、あの早苗さんの文面が頭から離れないんです」
「文面って?」
「早苗さんが優子さんへ当てた手紙のことです」
「それがとうした?」
「いえ、ちょつと気になったのは、早苗さんは嵐の台北公演をアリーナ席で見たって言ってましたよね」
「そうだね」
「優子さんのお話だと早苗さんは嵐の会員で、今回の海外公演だとジャニーズの主催するオフィシャルツアーというものがあるんですけど、それに申し込んだけど抽選に外れたそうです。私も外れたのでわかるのですが、そうなると彼女の場合も自力でチケットを手に入れたはずですが、台湾でチケットを融通してくれる友人でもいないかぎり、簡単には手に入らないと思うのです。だとすれば、手に入れる方法で思いつくのはオークションか何か?
、、、でも嵐のアリーナ席ってけっこう高いのです」
「どのくらいの金額で買えるの」
「席によりけりで値段は一概に言えませんけど、私の場合はスタンド席でしたが、給料が吹っ飛んじゃいました」
「えっ?お給料を全部、、、、?」とスタッフの横にいる由比が思わず口を出した。
「なによ由比、こんなときにおふざけはやめて。とにかくあの早苗さんの手紙では台北でアリーナ席のいいところで観たということだったし、次のソウルや上海のアリーナ席のチケットもスムーズに手に入るように聞こえるの。でもこれはと思うアリーナのいい席というのは簡単には手に入らないはずだし、たとえばオークションとかなると相当、高くなるはずなんです」
「それはそれなりに金額を覚悟するということかい?」
「お金のことはそうなんですけど、そう意味でなくて早苗さんのあの手紙のニュアンスでは、もしかするとオークションでの購入じゃなかったのかもしれないと思ったんです。他に手に入れられるルートが見つかったのじゃないかと、、、」
「ほう、、ジャニーズがチケットを販売する場合、国内と国外とでは違うらしいね?」
「国内では嵐の会員対象。海外では現地の人が対象らしいけど、私も詳しくは知らないんです」
「そのへんも調べる必要があるかなぁ?ただチエは今度の嵐のソウル公演が迫っているけどチケットのほうはとれそうなの?」
「はい、なんとか」
「それで調査料金のこともあるから、ソウルの調査はチエ1人で大丈夫?」
「なんとかやってみます」
「ほんとに大丈夫?」と由比がチエの顔を覗き込む。
「由比、あんたはよくちゃちばっかり入れるのね。それより所長、それともう1つの疑問が、、」

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